僕たちの前途

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (338ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062180825

作品紹介・あらすじ

「下流でもなく、ホリエモンでもなく」。あるいは「草食でもなく、肉食でもなく」。若き起業家たちの生態系に飛び込んで、幸福な若者たちの「働く」意味を考える。『絶望の国の幸福な若者たち』を超える、渾身の労働社会学論考。

感想・レビュー・書評

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  •  最近、自殺した東大卒の電通社員がTwitterに残していた死ぬまでのツイートが話題になっている。

     いい大学に入って、いい会社に入る。そうすれば人生上がり。

     そんな時代は終わっている。

     すり減らされるのは一般労働者だけではなく、エリートコースでさえも使い捨ての世の中だ。

     僕たちに明るい前途は見えない。


     この本はブラック企業という言葉が定着する前、2012年初版の本だ。

     著者の近しい人は遊ぶように働く仲間がいる一方で、世の中は将来に不安を持ちながら働く人、働かない人、様々だ。

     明治時代以前からの日本人の働き方を考察している。

     この先の働き方に答えを出しているわけではない。前途が明るいとも暗いとも明言していない。

     ただ一つ、友人のネットワークが人生において重要だということは明言している。

     そうなるとやはり、どの学校に属していたかが重要になってくる。

     
     自殺した女性はTwitterで日々の激務をつぶやいていた。
     
     それゆえに労働災害認定されたわけだが、どうして自殺にまで追い込まれたのか。止まれなかったのか。止められなかったのか。

     低成長の時代は精神論になりがちだ。しかし、精神論でどうにかならないことは先の大戦で身に染みているはずだ。

     日本人はそれでも精神論にしがみつく。

     働き方、生き方、死に方、僕たちが目指す前途を考えなければ、ただ生まれてから死ぬまでのノルマを果たすだけの人生だ。

  • 前半→起業の実例と考察
    後半→起業や労働に関する日本の
    歴史を振り返り、現代の様々な状況から前途を予測する


    わかったことは以下

    起業をするには、人脈、金脈、技脈が必要

    また、一過性のものではなく継続的に発展していける技術や商品が必要

    さらに社内には気の合う(志を同じくする人、一緒にいたい人)、強いつながり持てる人を置き、社外には自分とは違う世界の人達のようにゆるいつながりを持つことが大事であること

    「会社は国家なり」という言葉がピッタリと当てはまるくらいに国は企業に社会保障を丸投げしてきた日本において、会社に入らない選択や会社を辞めるという選択は下手をすれば死を意味する
    と同時に「学校経由の就職」や「新卒一括採用」という硬直的な制度を長年保証してきたが故に起業リスクが高まり、制度や法律を、いかに整備しても起業率は上がらない(起業率の低さは豊かさの象徴で雇用機会がある程度保証されているからともいえる?→実際そうは感じない)

    さらに、不景気で会社の体力が無くなり、若者の雇用環境の悪化や貧困化が問題になる中でそれが顕在化しにくいのは「家族福祉(親が子供を食わせる)」の影響

    日本人というだけで世界的にはエリート
    ex.ビザなし渡航できる国が165カ国で世界5位、中国は41カ国


    印象に残った言葉

    東大学食の東大生の言葉

    官僚になるなんて、官僚にしかなれないガリ勉のすることですよ

  • 2012年に出版された本を今読んでみた訳だけど、この頃の日本と今の日本は大きく変わっただろうか。またこの頃に予想された日本に着実に今の日本は近づいてるのだろうか。
    サラリーマンの優越さは消えて、けど起業家にもそんなに優しくない社会であることはそのままのような気もする。
    けどいかにもなサラリーマンとして働く自分には、起業の面白さが伝わる内容だった。モチロン「面白そう」なんて言ってるほど甘くないこともわかるし、そういって踏み出せない自分の弱さも知ってるから今の自分でいるんだけれど。
    マネーリッチ、
    タイムリッチ、
    フレンドリッチ、
    マインドリッチ。

    やれる範囲でやれることはある。
    なによりも楽しく生きること。

  • お金や出世や名声ではなく、友達と楽しいことをする、を優先する価値観。合理的だけど、ほんの少しだけ寂しい気もする。

  • 起業家たちの内輪感

    学歴や能力を持つ人が、好きなことをしていたら、気づいたら、会社を立ち上げていた、というのか起業であり、「起業したい」と言っているだけの人は、中身の伴わない現実逃避

  • この人は一体どういう人なんだろうか?そんなことを漠としてテレビで眺めていたが、図書館で借りてこの本を読んでみたら案外面白かった。読み物として面白かった。

  • 自分の抱いている給与生活者=サラリーマン像っていうのは、ここ50年程度のものだってことに改めて気づかされたのは収穫かも。

    夏場でもスーツにネクタイという姿が標準になったのは1965年のことだという。欧米でも一部のホワイトカラーしか着用していないのに、ブルーカラーでも着用せざるえないというのが日本的というか、何も考えてないというか。

    因みに冷房がオフィスに導入された時期が1965年らしい。

  • 僕たちの前途

  • なんかこう、うーむ。「絶望の国の・・」の時よりもクレバーさが鼻につくという感じか・・”トランポリンがない人”たちにとっての、ないよりましな地図、というのはいかにもクレバーすぎる。一人称のタイトルだから気合が入りすぎてしまったのだろうか・・・

    ただ、読むべき点、思わず笑ってしまった点は多くあり面白い。

    [more]<blockquote>P28 松島が関わってきた様々なプロジェクトチームを振り返った時に、五人の少人数チームだろうと、100人を超える巨大チームであっても、それを動かしていたのはいつも数人だった。だから会社を立ち上げて、様々なプロジェクトに関与するときも、そのような立ち位置になろうと考えていた。


    P56 「人と人をつなぐ」ためには、その人を知っているだけでは足りない。その人たちが所属する『世界』のことを知らなくてはならないからだ。

    P174 起業しろとか競争しろとか言うくせに、「公」を大切にしろとか、失敗してもリスクを自分で負えとか、雇用を創出してほしいとか、起業家を特攻隊員とでも勘違いしているのかもしれない。起業家への過剰な期待は、フリーター問題と表裏一体でもあった。ついこの間まで雇用の調整弁として評価され「夢を追う人」の象徴でもあった「フリーター」が一転して社会不安の元凶のように描かれるようになってきたのだ。

    P251 勉強ができるからって仕事ができるわけではない。だけど仕事ができる人というのは、実は勉強もできていた場合が多い。【中略】「乗り気でないことを継続できる力」も学校の成績は担保する。多感な思春期につまらない勉強に集中できたというのは、自制心を測るバロメーターになる。仕事というのは、その多くがつまらなくて退屈なものだ。好きでもない上司の話を聞く、細かい数字とにらめっこして資料を作る、膨大な量のメールを丁寧に返す。そんな日々のルーティンワークを楽しめるかどうかという技術は、英単語や歴史用語をひたすら覚えるという作業に似ている。【中略】苅谷剛彦による「努力」に関する研究が波紋を呼んだのは、ただの学校の成績ではなくて、「努力をする能力」にも出身階層による差があることを統計的に明らかにしたのだ。

    P276 人口ボーナス期が終わると、今度は人口オーナス期が始まる。オーナスというのは「負担」という意味だ。

    P290 日本国籍を持って生まれただけで、世界的に見たらとんでもないエリートなのだ。世界中の多くの人がどんなに望んでも一生手に入れることができないようなメンバーズカードを、日本人たちは保有している。

    P304 いくつものトランポリンがあったから、僕はここにいる。そして残念ながらこの社会は誰にでもトランポリンが用意されているわけではない。</blockquote>

  • 昨年の12月に古市氏の『絶望の国の幸福な若者たち』を読んで面白かったので、最新のこの本も勢いで読んでしまいました。

    『はじめに』で、この本をどんなふうに読んだらいいか、書かれています。

    「起業に興味ない私」は「動物園を覗くかんじ」で楽しみました。

    また各章独立しているから、どの章から読んでもいいし、省くのも認めているけど、私は最初から順に読んでじゅうぶん面白かったです。

    ページ下の段に脚注があり、それも読まなくていいとありますが、ひととおり読みました。
    うしろに脚注がまとめてある本が多いけど、いままで面倒でほとんど読まないできました。
    だからこういうかたちはとてもいいと思います。ツッコミも面白いし。

    古市氏がたくさんの本を読んでそれをもとに仕上げていて、それらの本ぜんぶ読むのはとても大変なことだから、手軽にいろいろなことがたくさんわかって楽しいです。

    欲をいえば、索引がほしい。
    彼的には知っているのが常識な言葉でも、私には初めて知ることがとても多いです。
    「この言葉どういう意味だっけ」と前のほうを探すことが多いので。

    偏差値60以上が活躍できるのがこの国の現実だけど、これからも私みたいな偏差値40以下でも楽しめる本を書いてほしい、彼にはそれができると思うから。

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著者プロフィール

1985年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。2011年に若者の生態を的確に描いた『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。18年に小説『平成くん、さようなら』で芥川賞候補となる。19年『百の夜は跳ねて』で再び芥川賞候補に。著書に『奈落』『アスク・ミー・ホワイ』『ヒノマル』など。

「2023年 『僕たちの月曜日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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