おみやげと鉄道 名物で語る日本近代史

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 107
レビュー : 13
  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062181563

作品紹介・あらすじ

日本各地の駅を訪れると、饅頭や羊羹、弁当などの食品が、その土地の名物として売られている。私たちにとって当たり前のこの光景は、実は他の国ではほとんど見られない(ロンドンのターミナルで「ビッグベン当」のようなものは見あたらない)。この類い稀なる「おみやげ」という存在は、鉄道を筆頭とする「近代の装置」が、日本の歴史、文化と相互作用して生まれたものだった-。近代おみやげの誕生と発展のありさまを描き出す、本格的歴史研究。

感想・レビュー・書評

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  • <日本のおみやげ文化は近代の所産である。その鍵を握ったのは、鉄道網の整備と保存技術、そして付随する「物語」だった。>

    日本のおみやげが特異な存在であることを知ったのは、個人的には学生時代だっただろうか。
    「おみやげ」と言われて日本人がまず思い浮かべるのは、各地の地名がついたり土地の名産が原料として使われていたりする食べ物(往々にして饅頭やクッキーなどの甘い物)だろう。だがこうしたものは外国ではほとんど見られない。ボストン饅頭やパリ・サブレなどというものはない。食べ物をみやげにする事例は皆無ではないが、日本ほど多くはない。英語でsouvenirといえば、その土地を訪れた記念品として旅に行った本人が自分のために買う場合が多いようである。
    世界的に見れば特異な日本の「おみやげ」はどのように生まれたのか。鉄道をキーワードにして追ったのが本書である。

    タイトルと表紙の絵で気楽な本であるように感じられるが、資料も多く、情報には細かく注がついて出典が記載されている。ある意味、学術研究報告書のようでもある。それもそのはず、科学技術研究費の助成を受けた研究成果の一部をまとめたものなのである。
    かといって読みにくいかといえばそんなことはない。むしろ、くだけすぎないところに好感が持て、落ち着いて読める本である。

    現在、一般的に知られる「おみやげ」の起源は意外に新しい。
    江戸時代の旅には時間が掛かった。そのため、みやげものには工芸品などの非食品が多かった。食品でも乾燥した保存のきくもの。軽く・かさばらず・腐らないものである。○○餅などの食べる名物は茶店で供されるのが普通で、持ち帰るものではなかったのだ。
    この時代の名物が生まれたのは、街道沿いや寺社などだった。みやげの語源には、諸説あるようだが、本書では「宮笥(みやけ)」説が紹介されている。「笥」とは供物を入れる入れ物。神仏に供えたものを分配し、これを持ち帰ったことからきているという説である。これに土地の産物を意味する「土産」が当てられた。
    出掛けた先で買ったものを留守番のものに持ち帰る素地は日本には昔からあったと考えられるわけである。

    近代となり、鉄道網が発達していくにつれて、「おみやげ」の中身や生まれる場所に変化が現れる。峠や街道の要所としてそれまで栄えていた場所も、鉄道から外れ、人の流れが減ると、その土地の賑わいはなくなり、みやげは消失していく。代わりに栄えていくのが乗降客の多い駅の周辺である。遠くから多くの客を運び、客はみやげを買っていくという図式だ。

    ただ菓子を始めとする食品が主流となるには、もう1つの要件が満たされる必要があった。保存性である。
    明治期には羊羹のようなものでも日持ちがせず、変質や腐敗などの問題があったようである。業界が取り組むことで、材料や包材に改変が加えられ、徐々に品質が安定して維持されるようになっていく。

    近年、鉄道でなく自動車で旅行をする人も増え、また団体旅行ではなく個人旅行が増えていることにより、また「おみやげ」の様相は変わっていきそうである。「道の駅」が発展し、個性的な商品が売れる。
    それでもなお、形を変えつつ、旅先で買ったものを親しい人に配るという風習は根強く残っており、日本の「おみやげ」はさほど近いうちに姿を消すものではなさそうである。

    具体的な事例はいくつも挙げられていて、それぞれに興味深いが、個人的に一番印象深かったものを1つ紹介したい。
    岡山のきび団子である。
    日清戦争は近代日本が経験した最初の大きな対外戦争である。当時、山陽鉄道は、兵士輸送の要であった。全国から広島に兵士が集められ、宇品港から出征していった。現在でもきび団子を商う岡山・廣栄堂の初代はこの好機を見逃さなかった。桃太郎の扮装をして、広島に出向き、「日本一の吉備団子」として帰還兵士に売り込む。この戦略があたった。そもそもが、「吉備団子」には黍が不可欠なわけではない。「吉備」=「黍」の音の一致と、外敵である「鬼」を成敗するイメージの重ね合わせが当時の空気にぴたりとはまったのだ。
    桃太郎伝説は各地にあるのに、なぜ桃太郎=岡山のイメージが定着したかといえば、(控えめに言っても)日清戦争が一因であるのは間違いないだろう。

    ものが売れるには理由がある。おいしいだけではダメなのだ。土産物の場合、人の流れ+保存性、そしてとどめは土地と絡めた「物語性」なのだった。

    • yuu1960さん
      凄くよく分かりました。

      あるお父さんが吉備団子を出張から土産に持って帰ったら、子供が「ボク、オトーサンの家来にならない」と逃げたそうです。...
      凄くよく分かりました。

      あるお父さんが吉備団子を出張から土産に持って帰ったら、子供が「ボク、オトーサンの家来にならない」と逃げたそうです。
      お父さん「オイ、捕まえて食べさせろ」って、おかーさんに言ったそうです。

      これも日清戦争の影響なんですね。
      2013/04/15
    • ぽんきちさん
      yuu1960さん

      > 「ボク、オトーサンの家来にならない」
      すごい、名言です。

      子どもは正直、というところでしょうか(^^;)。
      yuu1960さん

      > 「ボク、オトーサンの家来にならない」
      すごい、名言です。

      子どもは正直、というところでしょうか(^^;)。
      2013/04/15
  • 上越新幹線で新潟に行き所用を済ませ東京に戻りそのまま羽田から高松へ、というhard day’s nightに読み終わったのは偶然。でも駅にも空港にもこれでもかっ!ってほどおみやげが溢れてかえっている日本でした。これ、日本人が食いしん坊だからの現象ではなくて、我々にとって旅が神社仏閣への参詣であり、神と人の「直会」による「おかげ」を帰宅後、自分が属するコミュニティで分かち合うためのもの、だから、と解説してくれます。そう、本書は科学研究費補助金も受けた立派な「おみやげ歴史学」とでもいうべき真面目な研究書なのでありました。だけど、ロンドンがもし日本の都市であったなら、ターミナル駅で「ビッグ弁」もしくは「ビッグベン当」が売られているだろうとか、フランスの巡礼地である聖地ルルドには「ルルドサブレ」や「ベルナデッタクッキー」などの名物菓子は見つけることが出来なかった、などところどころでお茶目を滲ませています。さらに、これまでおみやげの歴史に関する研究が進まなかったのは多くの日本史研究者が、大の酒好きだからなのでは、との推測もどこまで本気か、ニヤッとしてしまいます。肩の力抜けつつも、でも本書で語られるのは明治維新以後、近代国家になっていくための背骨としての鉄道、博覧会、そして戦争とちっちゃなちっちゃなおみやげとの関係を見事に語る論考でした。鉄道だけではなく国内線が産んだ銘菓「萩の月」「白い恋人」を超えて、いまやECでお取り寄せの時代、そこから見える動いている歴史も論じて欲しいです。

  • 日本の観光地の定番の風景と言えるおみやげ屋さんは、海外では一般的な姿とはいえない。
    そんな日本のおもやげの来歴を広範な取材と文献資料によって紐解いて、日本の近代史を読み取る一冊。
    近代以降、鉄道、博覧会、軍隊、そしてモータリゼーションや航空機等、人の移動手段の変遷によっておみやげの性格も順次変わってきた様子が読み取れる。
    最初の疑問である「何故日本人はこんなにおみやげが好きなのか?」の分析が無かったのがちょっと残念。

  • 「日本のおみやげ文化」が、鉄道をはじめとする社会装置の影響を受けてどう変化してきたのかを論じた一冊。

    「日本のおみやげは自らの旅の証を他人に配るもの、西洋のスーベニアは自分のためのメモリアル(p.15)」という”日本みやげ文化の特異性”を指摘した上で、配りやすく保存が利く「ご当地食べもの」がどのように作り広まってきたのかを豊富な史料をもとに議論している。

    移動に時間がかかった近世はそれほど「食べ物みやげ」は普遍的ではなかったこと、保存性を高める食品技術の革新や移動時間を短くする交通機関の変化で流行りのみやげが変わることetc. とにかく近代の日本みやげ文化について膨大な史料に当たって議論してる。

    吉備団子を紹介したくだりが最も印象的。保存性を高めるために、餅粉を使った「求肥」をベースにしていること、また日清戦争の出征帰り(出征基地が広島県宇品だった)の手土産として広まったこと、「敵の鬼を平らげて無事帰る」というストーリーを作るのに桃太郎伝承が使われたこと。何の気なしに選んでいるお土産にもいろんな背景があるんだ、と教えられる。

    お土産選びがもうちょっとだけ楽しくなる一冊。

  • これはかなりのヒット!!
    独自研究かどうか分かりにくい部分はあるものの、「お土産」という日本の文化について、
    その成り立ちから、今日に至るまでの経緯や歴史などを紐解いて解説してくれています。
    そもそも私自身、海外旅行経験が少ないせいもあって、「お土産」が
    日本独自の文化であることを、今まで考えたことが無かった。
    旅の思い出として自分の記憶に残る品を手に入れることは、他の国でも
    あるようだが、同行しなかった人の為に、多くは食品を買って帰るという
    文化は、海外にはあまり無いのだという。
    さらには、観光の目的地だけでなく、交通網の要所(駅など)にまで
    広範囲にお土産が売られているのは特殊だと書いてある。
    なるほどそういうものなのか…、と思ったところから歴史語りがスタート。
    (ここまでの枕部分がほんとに気持ちがいい。)

    神社に詣でた人が「おかげ」を持ってくるところを起源とし、
    「名物」が生まれ、さらには鉄道の発達とともに、
    「構内販売」ができ、日持ちの改善と移動速度の向上で発展し、
    修学旅行、博覧会、戦争など、多くの変換点を経て、
    どんな風に変わっていったかが、かなり細かく書かれている。
    (独自の考察も含まれているが、説得力はある。)

    温泉、車社会、空港から最後には"いやげ物"まで、
    やはり、「何か」をキーにして歴史を楽しむのはとっても楽しいと再実感。

    こういう本をもっと読みたいと思った。

  • 日本の「おみやげ」は、「souvenir」とはちょっと違う。それは何故か。鉄道や自動車といった輸送手段の変遷がおみやげにどう影響してきたか。おみやげカタログでも鉄道カタログでもなく、これらを下敷きに社会の変遷を見る本。安倍川餅は鉄道で売るために餅であることをやめ、求肥になった。赤福は餅であり続けようとして失敗を犯した。どちらも輸送手段と関連している。そして日本のおみやげ文化はsouvenir化しつつも、旧来のステレオタイプ的おみやげも依然強く残っているのだ。

    近年のおみやげ市場を見ると、正直な所消費者を馬鹿にしているなあ、なんていう気も起きるのだけど、歴史を紐解いてみると、それは決して近年だけではないのかなあ、なんてことを思ってしまった。
    イメージが大切だ。

  • 日本独特の文化「おみやげ」と「駅弁」。ここまで地方色豊かで、かつ食べ物が多いのは珍しいことらしい。鉄道の輸送能力の向上と戦争による人の出入りがもたらす認知度の向上など。あおして保存に対するタタカイ。考えもよらなかったお土産の進化の課程と時代に応じた変遷等々、誠に興味深く知ることができた。鉄道好きはぜひ一読を。

  • 海外出張のお土産に空港で買った饅頭持っていくと、案外外国人にも好評でした。
    外国では個人に小物を持っていく習慣はあります。お菓子類はお土産ではなく、手作りクッキーや誕生日などで皆にケーキを配るなどが一般的なようです。
    また、もちろん日本と同じく、女性社員の皆さんはお菓子持参でコーヒーブレークするようです。

  • 安倍川餅、吉備団子から、赤福、萩の月、白い恋人にいたる「おみやげ」が、明治以降の近代化の装置との関係で発展していったことをたどる一冊。
    タイトルこそ「鉄道とおみやげ」だが、戦争と軍隊、博覧会、自動車や飛行機など盛り沢山な内容。(ただ、あまりにたくさんのコンテンツを盛り込もうとしているため、記述が浅いと思われる部分もあったのは惜しい)

    鉄道建設がすすめられていた当時、建設に協力した地元有力者に駅構内での立売免許が与えられ、街道の茶店の名物だったものが地域のおみやげとして有名になっていった。その代表的なものが安倍川餅。
    日清戦争のとき、宇品港(広島)から出征するため、全国から鉄道で広島に行き来する兵士たちを向けて、彼らを鬼退治に赴く桃太郎に見立てた宣伝を行い、一地方の名物だった吉備団子が全国的に広がった黍団子。戦勝祈願に厳島神社に参拝する兵士たちが、敵を「めしとる」という語呂合わせで買い求めたことがきっかけで宮島名物になった杓子。(もみじ饅頭が宮島を代表するおみやげになったのは昭和55年以降のことらしい)
    また、伊勢の赤福は、昭和6年に大阪電気軌道(今の近鉄)が大阪から宇治山田までの急行を開通させ、大阪方面からの修学旅行客が急増し、さらに昭和38年以降にアニメCMを流すことで、子供向けに伊勢の名物=赤福というイメージを植え付けたことで飛躍的に成長したらしい。
    (「えじゃないか、えじゃないか、えーじゃないか♪」って今でも耳に残っている例のCMですね。)
    今では定番みやげの萩の月とか白い恋人は、昭和50年以降に、飛行機の機内食に採用されることで全国的に人気が高まったそう。

    いやーっ、おみやげひとつにもいろんな歴史があるもんですね。面白かった。

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著者プロフィール

1972年、和歌山県生まれ。青山学院130年史編纂室員。専攻は日本近代史。著書に『近代日本の大都市形成』(岩田書院)、共著に『「大東京」空間の政治史』『都市と娯楽』(ともに日本経済評論社)など。

「2006年 『「開発」の変容と地域文化』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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