天翔る

著者 :
  • 講談社
3.93
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感想 : 123
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  • Amazon.co.jp ・本 (410ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062182591

作品紹介・あらすじ

看護師の貴子が出会った少女、まりもは、ある事件から学校に行けなくなってしまった。貴子は少女を牧場へと誘う。そこで待ち受けていたのは風変わりな牧場主と、乗馬耐久競技(エンデュランス)という未知の世界だった-。北海道の牧場を舞台に描かれる命の輝き。底知れぬ感動をよぶ、祈りと希望の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 馬が大好きなので、描写の馬の絵を見ながら、模写してしまう。

    「札幌に住む看護婦の貴子は、学校に行けなくなった11歳の少女、まりもと知り合う。自分が通う牧場(ランチ)にまりもを誘うが、そこで待っていたのは、風変わりな牧場主と、エンデュランスという乗馬耐久競技だった。馬をいたわりながら、野山にめぐらされたルートをたどり、長距離を翔けぬける。(google booksより)」

    『天翔る』とは、神の魂や人などの霊魂が空を飛び走ること。
    それは、『神の魂』は、神の飛翔を意味するものとして、祝詞出雲国造神賀詞に、出雲臣の祖神天穂比命が国状を見に派遣された時に、「天翔国翔」して、天の下を見廻ったという意味のようだ。。『人の霊魂』は、倭建命が死後、大和からかけつけた后や御子たちが墓を作って葬ったが、倭建命の霊魂は八尋白千鳥になって、「翔天」したとある。

    主人公の岩館まりもは大好きな父親が、鳶職であったことが原因で同級生の石本博美からいじめられる。そんな中、父が事故で急死し、学校に行かなくなってしまう。そんなまりもが志渡銀二郎の営む乗馬牧場のシルバー・ランチに看護師の大沢貴子の紹介で通うことになり、馬たちとの出会いにより前向きになり、エンデュランスにまで出場するようになる。

    看護師の大沢貴子は、小学校5年生の時に、母親の何人目かの男にいたずらをされ、暴言を吐かれてから、男性に対する恐怖に悩まされるようになる。そんな貴子もまた、シルバー・ランチの馬たちに癒され、自覚はないまでも、志渡に想いをよれるまでになる。

    シルバー・ランチをら営む志渡銀二郎はもまた、10年以上前に乗馬施設で観光客相手のインストラクターとして高岡恭介と共に働いていた。信頼していた友、高岡の裏切りにより傷つき、裏切られたことに気がつかない間抜けな自分が信じられなくなり、酒浸りの日々を過ごしていた志渡を救ったのがシルバー・ランチの経営と馬たちであった。

    人生に傷ついた彼らは、馬に癒され救われる。自分らしさ、自分が生きていることを感じる。素直になれる物語であった。

    神聖なタイトルが、自分とは異なる世界で起こっているこのストーリーを透明感を与えているように感じる。

  • こういう村山作品がよみたかった。
    はじめからぐいぐい引き込まれた。
    しおりを挟んだページを開くのが
    いつも楽しみで仕方がなかった。

    馬のことはもちろん、
    エンデュランスという競技のことも知らない。
    それでも夢中になり、
    自分の五感すべてが敏感になっていった。

    競馬場で馬と出会い
    やがてエンデュランスという競技に出場するまりもの日々は
    特別感満載でもいいのにそうではない。
    寄り添いたくなる、ただの少女だ。

    自分の発した言葉を相手がどう受け止めるのか
    小学生だってその重さを自覚しなければならない。
    まりもに投げつけられた言葉に
    いっしょに痛みを感じるだけでなく、
    怒ってくれる人がいてよかった。
    まりもが人に恵まれてよかったと本当に思う。

    • だいさん
      >自分の五感すべてが敏感になっていった。

      この躍動感は、いいじゃないですか!
      >自分の五感すべてが敏感になっていった。

      この躍動感は、いいじゃないですか!
      2013/10/07
  • 限りなく5に近い4。

    父親を亡くし、不登校になった少女が馬の世界と出会い、エンデュランスという競技を通して成長していく物語。

    あまり興味がなかった題材だったが、あまりに面白くて一気に読んでしまった。何が面白いのかというと、一人一人のキャラクターがしっかりと描かれ、それぞれが魅力的だということ。

    「 あのな、まりも。父ちゃんはこれから遊園地へ行こうと思うのよ。お前、一緒に行く?」

    と娘を起こし、競馬場に連れて行った蓮司。妻に出て行かれてから男手一つ、まりもを育ててきた蓮司。誰よりも大きな笑顔でまりもを愛してくれた蓮司が死んでしまった時には作者である村山さんを憎んだりもした。それだけ蓮司は魅力溢れるキャラクターだった。そして、これから両親がいなくなったまりもはどうなるんだろう?と不安で仕方なかったが、周りの人たちに導かれ、まりもはエンデュランスに夢中になっていく。

    やがて、世界一過酷なエンデュランスライドのテヴィスカップに臨むまりも。果たして完走できるのか。

    そして、何と言ってもラストが秀逸。嬉しさと感動で鳥肌が立った。

    この物語に触れ、馬の世界を少しでも知ることができ、馬がすごく愛おしい存在になった。生きるもの全てが愛おしいのかな。飼っているわんこたちをもっともっと可愛がってあげよう。

  • エンデュランスという馬術競技を初めて知った。
    馬術競技というと馬場で行うというイメージだったが、これは外乗コースで行う長距離耐久レースだという。
    では映画『ヒダルゴ』のような、人にも馬にも過酷なレースなのかと思ったら、長距離ゆえ過酷ではあるが、馬は労わるレースであるという。
    距離にもよるが、6つの区間(レグ)を通過する間に馬の体調を獣医がチェックして、それをパスできないと次のレグは走れない。
    もし完走しても、完走後の獣医師チェックをパスしなければ失権する。
    ゴールした順位とは別にベストコンディションホース賞というのもある。

    その競技をはじめることになったまりもを中心に、まりもが牧場に通うきっかけとなった看護士の貴子、牧場主の志渡、エンデュランスという競技と普及に力を注ぐ漆原たちの話が展開される。

    父親と二人暮しのまりも。
    学校でいじめを受けはじめたのと同じ頃に父親が事故で亡くなる。
    それがきっかけで学校に通えなくなる。

    馬との触れあいで自信を得、志渡や貴子の助けで一度は学校に戻るのだが…。
    愛情を注いでくれる大人たちや理解してくれる友達がいる。
    まりも自身、恵まれた人間関係だということを頭では理解している。
    なのに二度目に学校に行けなくなったとき、まりもは常習的な自傷行為にまで及んでしまう。
    無条件な愛情・絶対的な安心感・自分を必要としてくれる存在の不在を感じているからだ。
    まりもにとってのそんな存在は父親だった。だからいくら周りに恵まれていても「自分だけが一人だ」と感じて時折父親に無性に会いたくなる。

    そんな弱さを持ちながらも、競技に対する真摯な強さ、馬との信頼関係、などをエンデュランスを通して培うまりも。
    心に傷を持っていた貴子や志渡も、まりもとともに少しずつ前に進んでいく。

    本場の大きな大会、テヴィスカップを完走したまりもの帰国後の思いがけない再会。
    父親との想い出の懐かしいある名前。
    光がいっぱい溢れるような、いろんなものが天に昇っていくような、希望を感じられるラストになっている。


    読者モニターとしてプルーフ版にて読了。

    • cecilさん
      面白そうですね〜!!最近の村山さんの作品は割と官能路線だったので、そろそろ久々に村山さんの王道のヒューマンドラマが読みたいと思っていました。...
      面白そうですね〜!!最近の村山さんの作品は割と官能路線だったので、そろそろ久々に村山さんの王道のヒューマンドラマが読みたいと思っていました。
      このレビューを読んで、エンデュランスという珍しい題材を絡めて人の心の動きを感じられそうな作品みたいで物凄く読みたくなりました。
      そういえばスポーツを絡めた話って村山由佳さんには珍しいですよね。
      発売されたら絶対に読みます!!
      2013/03/15
    • 九月猫さん
      cecilさん、こんばんはー♪
      コメントありがとうございます!

      そうなんですってね>最近の村山さんは官能路線
      村山さんの作品は少し...
      cecilさん、こんばんはー♪
      コメントありがとうございます!

      そうなんですってね>最近の村山さんは官能路線
      村山さんの作品は少ししか読んだことなかったのだけど、
      さわやかなイメージがあったのでビックリしましたよー。

      エンデュランスは村山さんもなさっているそうです。
      馬がお好きで牧場のようなおうちというのは知っていたのですが、
      自らこんな過酷な競技をなさっているとはこれまたビックリでした。

      アマゾンの発売日が当初8日だったので、8日にレビューをUPしたのですが、
      発売日遅れてるみたいですね……。
      お時間があってお好みそうなら、発売されたらぜひ読んでみてくださいね!
      その折にはcecilさんのレビュー楽しみにしてます~(´▽`)ノ
      2013/03/15
  • ページが残り少なくなっていく。
    まだだ、まだ読みたい、物語を読み続けたい。
    初めてかもしれない、終わってほしくないと感じた物語。

    北海道の牧場を舞台に描かれる少女まりもと馬との物語。
    失ってしまったまりも。
    触れることができなくなった貴子。
    捨てきることができなかった志渡。
    3人が馬とともに過去を乗り越え、未来へと翔けていく。

    物語が軽快に駆けていったり、ドンっ!と落馬してしまったり、まるで作者が読書の心の手綱を握っているかのように、物語のアップダウンを伝え、気持ちを惹き込んでいく。

    まりもが父を失くした後に初めて引き絞るように叫ぶ
    「と・・・とう、ちゃあん・・・、とう、ちゃあん」
    ぐっと鷲掴みにされた、身体全体を。

    涙を流すたびにまりもが成長していく。
    抱きしめられるたびにまりもが成長していく。
    抱きしめるたびに互いが、互いとが強くなっていく。

    乗馬耐久競技(エンデュランス)という未知の世界に踏み出すまりも。
    まりもの周りの大人たちが様々な思惑を絡めながら。

    エンジデュランスなんて知らない。
    知らないけど、緊張したり、苦しんだり、すーっと背筋が伸びたりしてくる。
    エンデュランスの先にあった気持ちが私にも移ってきた。

    そして、ラスト。
    読後感がいいってものじゃない。
    感動しました。

    お気に入りの本が並ぶ本棚にまた1冊増えます。
    ステキな感情とともに。

  • エンデュランス乗馬という競技がある。
    一言で言えば“乗馬マラソン”のようなもの。
    40〜160キロという長距離もさることながら起伏が激しくコースは過酷。
    最愛の父を亡くし祖父母と暮らす11歳の少女まりも。
    学校でイジメに遭い不登校にまで追い込まれ自分に自信を失くす。
    そんな中で馬との出会いはまりもにとっては特別で唯一の救いでもあった。
    心やさしい大人たちに見守られてエンデュランスに挑み
    健気に成長してゆくまりもについエールを送りたくなる小説。
    これはただのエンデュランスという競技のなんたるかや少女の成長物語というだけではなく
    様々なトラウマ的な過去を持つ大人たちの再生の物語でもあり
    ラストに散りばめられた言葉達がストレートに迫って来てにただただ感動した。

    【講談社様より刊行前見本頂く】

  • いわゆる 「白村山」「黒村山」と分類される村山作品
    これは私の好きな 「白村山」時代にかえったような お話!
    感受性豊かな少女・もずくが馬に出会いエンデュランスという競技に
    のめり込むことによって 父親の死や登校拒否という苦境を
    乗り越えていくストーリー。
    もずくを取り囲む人たちが温かすぎて
    電車の中で読んでるのに 涙があふれてきて困りました。

  • 村山由佳のファンという贔屓目を除いても、この作品は本当に素晴らしいと思った。
    ここ数年の著者の作品と比べても、「あぁ、まだこんなに素晴らしい作品が書ける人なんだ」と改めて村山由佳という作家の底力みたいなものを感じた。
    あらすじを読んだ時に、私はこの本にハマれるだろうかと一抹の不安があった。
    馬の話なんて(極端だけど)興味もなければ魅力のようなものがイマイチ感じられなかったから。
    でも今となっては、これはとにかく読んでみてとたくさんの人にすすめたい。
    読書中には何度かグッと来る場面もあって、これはもう読まないと分からないです。

  • 村山由佳さん待望の新作!!
    馬にまつわるストーリーなんだけど
    手に汗握る展開が続く。。。。。

    恋愛モードになりそうでそこをあえて描写していかなかったところもよかったかも。。。読者の想像の世界で幸せにさせてあげてくださいって想いが伝わってきました。。。

  • 馬に魅せられた女の子のおはなし。
    小さな身体に余るほどの悲しみや苦しさを抱えて、持て余したりもして、それでも周りの大人たちや馬との関わりで変わっていく。

    最後の最後、泣いた。

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著者プロフィール

村山由佳
1964年、東京都生まれ。立教大学卒。93年『天使の卵――エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。09年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞をトリプル受賞。『風よ あらしよ』で吉川英治文学賞受賞。著書多数。近著に『雪のなまえ』『星屑』がある。Twitter公式アカウント @yukamurayama710

「2022年 『ロマンチック・ポルノグラフィー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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