島はぼくらと

著者 :
  • 講談社
4.02
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本棚登録 : 4834
感想 : 695
  • Amazon.co.jp ・本 (338ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062183659

作品紹介・あらすじ

直木賞受賞、第一作
待望の書き下ろし長編

母と祖母の女三代で暮らす、伸びやかな少女、朱里。
美人で気が強く、どこか醒めた網元の一人娘、衣花。
父のロハスに巻き込まれ、東京から連れてこられた源樹。
熱心な演劇部員なのに、思うように練習に出られない新。

島に高校がないため、4人はフェリーで本土に通う。
「幻の脚本」の謎、未婚の母の涙、Iターン青年の後悔、
島を背負う大人たちの覚悟、そして、自らの淡い恋心。
故郷を巣立つ前に知った大切なこと――すべてが詰まった傑作書き下ろし長編。

感想・レビュー・書評

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  • 四人の高校生の青春。島で生きる人々。とても爽やかで心の奥からじんわりと感動がわいてきました。
    「生きる」ということがぎっしりつまっています。
    島の人間関係の濃さは、助け合わないと生きていけないから、すごく濃いです。
    村長、網元、Iターンの人々、主婦たちまさにいろんなひとが集まった坩堝です。そんな中を生きる4人は都会の子よりもとても大人。たくさんの人と人生を共有してるからでしょう。
    「生きる」ということはこうなんだとリアルに描かれています。

    現代、こうした体験の薄さは「孤立」を生む社会に密接に関わっていると思います。逆に島での生活は人間関係が固定化されるので上手くいかないとドツボでしょう。

    たくさんの人の中に埋もれながら揉まれていくのがよいのか。
    狭い固定化された人間関係の中で濃く生きていくのが良いのか。どちらも一長一短です。

    本作品では登場する全ての人の生き方が躍動していました。人との繋がりが生むダイナミズム。人生の中でふと立ち止まったときに読みたくなる本でした。


    • アールグレイさん
      ちゃたさん★こんばんは
      そして、初めまして
      でも、フォロワーさんだったような気がしています。Twitterとブクログの両方ですが、どうぞよろ...
      ちゃたさん★こんばんは
      そして、初めまして
      でも、フォロワーさんだったような気がしています。Twitterとブクログの両方ですが、どうぞよろしくお願いします!
      島はぼくらと、この本は私の好きな本。
      辻村深月推しです。
      今は絵本を見たりしています。ポプラ並木さん推薦の本で迫力のある絵本ですよ!
      (^_-)-☆
      2022/10/30
    • ちゃたさん
      アールグレイさん、こんばんは
      こちらこそどうぞよろしくお願いします。絵本まであったのですね!いろいろとご存じですごいです。今後ともオススメの...
      アールグレイさん、こんばんは
      こちらこそどうぞよろしくお願いします。絵本まであったのですね!いろいろとご存じですごいです。今後ともオススメの本など教えていただけると嬉しいです。
      2022/10/30
  • 昔から
    離島暮らしに憧れが
    ありました。

    四方を海に囲まれて
    のんびりと気ままな
    暮らし。

    隣近所と
    家族ぐるみのつきあい。

    潮風に吹かれながら
    夕焼けの堤防を
    友だちと歩いたり。

    そんな憧れの世界が
    臨場感たっぷりに
    描かれていて、

    体験してきたように
    満足です。

    でも、
    暮らしって
    綺麗事だけでは
    成り立たない。

    食べていかなくては
    ならないし、

    老いも病もある。

    人間関係のいざこざに
    巻き込まれることも。

    出会いや別れ
    友情や恋愛
    挫折や逃避、

    何処に暮らしても
    ドラマはあるし、

    思い悩みも
    尽きないんでしょうね。

  • 「かがみの孤城」で辻村深月の魅力にはまり、「島」と表紙のキレイなイラストに心を惹かれて読み始めました。イラストは4人の特徴を捉えていて漫画やアニメでも観たいと思ったし、ノンフィクション?と錯覚するくらい心理描写や島の環境や問題が丁寧に描かれていてストーリーに引き込まれました。

    キレイな海、空、山、温かい人々、穏やかな時間…島に抱く憧れやイメージは読んでいるとそればかりではない事にすぐに気付かされます。子供たちは本土の高校にフェリーで通い、夕方の帰りの便に合わせて部活動には参加できません。病院もない為、子育て世代お年寄り、シングルマザーには負担と不安がつきまといます。島には仕事がない、島民・子供の減少、古い因習、ドロドロした人間関係…自分の知らなかった現実を知りました。特に網元網子、村長、Iターン、テレビ出演についてはリアルさに驚きました。

    衣花が村長になっていたという所だけは非現実的だけど 笑。とても温かいストーリーで涙し、冴島に行きたくなりました。

    • シマリスさん
      おもしろそうでした。いつか読みたいです✨
      おもしろそうでした。いつか読みたいです✨
      2023/09/26
    • アンシロさん
      シマリスさん、はじめまして。
      コメントありがとうございます。ぜひ読んでみてください。島に行ってみたくなります!
      シマリスさん、はじめまして。
      コメントありがとうございます。ぜひ読んでみてください。島に行ってみたくなります!
      2023/09/26
  • カバーの絵がアニメだったので、初めは青春小説か、高校生の淡い恋愛物語的な軽い気持ちであった。
    霧崎ハイジというふざけた作家が登場している時までのストーリーの推理は、盗作作家をこの4人が退治する的な流れで終わる…であったが、後半、この推理は見事に覆えされる。

    島で暮らすという運命を生まれながらに背負っている者、背負わなければならなくなった者にとって、島の慣習という名の部屋に閉じ込められているような感覚に陥る。そしてこの部屋の中では、閉鎖社会、友情の断絶、故郷への執着、自然との戦いなどをさまざまな問題が生み出されている。しかしながらこの部屋に閉じ込められている4人は、最後にはこの部屋から出たり入ったりすることができるようになる。そんな感覚を持つことができた。

    瀬戸内海の冴島という小さな島で育った池上朱里、榧野衣花、青柳源樹、矢野新の4人は同学年の高校2年生。この4人を中心に物語は、いくつもの課題を突きつけながら展開していく。

    漁師の父親を亡くし、祖母と母と女性3人の家庭で育つ朱里、網元の一人娘である衣花、リゾート開発のため父親のロハスに巻き込まれ幼いころにIターンしてきた源樹、演劇が好きで脚本家にあこがれる新。

    島には高校がないため彼らはフェリーで本土の学校に通っている。ある日、彼らが帰宅するフェリーで霧崎ハイジという作家に出会う。霧崎は、冴島に存在するという『幻の脚本』を探すために、Iターンしてきたのだが、偽の『脚本』が見つかるとそそくさと戻ってしまう。

    この本当の『幻の脚本』が、本作終盤の忘れかけた時に、再び展開し始める。そして、この脚本は実は、過去において重大な意味を有していることがわかるのである。

    また、冴島は地元活性化のための多様な取り組みをしており、移住者を多く受け入れている。ウェブデザイナーとして、朱里の母の会社『さえじま』の通販サイトの管理をしている本木真斗もIターンしてきた。また、冴島はシングルマザーの受け入れにも積極的で元オリンピック水泳選手の多葉田蕗子も冴島で未菜を出産してきる。
    蕗子の育児から医療の問題などを考えるきっかけになる。

    そんなストーリー展開から後半、朱理の祖母の友人探しから環が出てきたり、衣花と朱里の友情であったり、地域活性デザイナーの谷川ヨシノの思い出あったりと、そしてあの『幻の脚本』も明らかになり、展開が展開を重ねるようにパタパタとそれぞれが繋がっていく。

    最後は朱里は看護師となり無医村の冴島に戻ってくるが、「島ありき」、「島から離れることができない」ということではなくて、「島とともに」という穏やかな感覚で読めるところが読んでいて気持ちがいい。

    また、本作が面白かったと感じるもう一つの理由が「スロウハイツの神様」のあの赤羽環の登場である。「スロウハイツの神様」のスピンオフ感もあり、全く予期しなかった環登場の際に、ワクワク感とドキドキ感が加わった。

  • まさに青春です。
    そして、辻村深月ファンとしてはたまらない終盤の追い込みでした。
    登場人物がややこしくなって??ってなりましたが、最後の最後で綺麗に纏まってました。若いうちは難しい自分の気持ちを伝える尊さ、感じられるかと思います。

  • この装調のデザインやタイトルからあからさまな青春物はちょっと苦手だなぁと思ってました。

    いい意味で裏切られました。
    独特の島のしきたり、親たちのしがらみ、子供達の純粋なところ…
    島に本土から人を呼び寄せる事のメリット、デメリットが読みやすい文章で暗くならず、4人の高校生の爽やかさそのままに作品になっていたと思う。

    ホント素敵な4人だった〜
    この先の彼等を読んでみたいなヽ(*´∀`)


    • aoi-soraさん
      みんみんさん、こんばんは^⁠_⁠^

      この本、何年も前から“読みたい登録”したまま未読なの。
      このレビュー読んで、絶対に読もうと思いました。...
      みんみんさん、こんばんは^⁠_⁠^

      この本、何年も前から“読みたい登録”したまま未読なの。
      このレビュー読んで、絶対に読もうと思いました。

      そして、息子さんのご結婚おめでとうございます✧⁠◝⁠(⁠⁰⁠▿⁠⁰⁠)⁠◜⁠✧
      思い出に残るクリスマスでしたね。
      2022/12/28
    • みんみんさん
      aoiさんこんばんは〜♪
      この作品良かったですよ(^^)
      ハッピーエンドなんで安心して読んでね笑
      お嫁ちゃんは可愛い子でホント幸せです♪
      aoiさんこんばんは〜♪
      この作品良かったですよ(^^)
      ハッピーエンドなんで安心して読んでね笑
      お嫁ちゃんは可愛い子でホント幸せです♪
      2022/12/28
  • 「ああ、この人はお母さんなんだなぁ」

    辻村深月さんが、新刊『島はぼくらと』のプロモーションのために出演した情報番組でのインタビューをテレビで観ていた。
    お子さんを保育園に預けてその時間を執筆に当てているのだそうだ。
    「子供がくれた時間で書かせてもらっているんです」
    そう語る彼女の声をききながら早速パソコンを立ち上げ、図書館のホームページから『島はぼくらと』をネット予約した。

    瀬戸内に浮かぶ「冴島」を舞台に、そこでの生活が池上朱里(いけがみあかり)、榧野衣花(かやのきぬか)、矢野新(やのあらた)、青柳源樹(あおやぎげんき)ら、島で四人だけの高校生の視点で語られる。

    僕は熱心な辻村ファンというわけではないが、それでも『スロウハイツの神様』で心を掴まれ、『ぼくのメジャースプーン』『凍りのくじら』と読んで、この作家を追いかけていこうと思っていた。
    なのに『名前探しの放課後』やそれ以降をぶっとばして、最新作に手を出してしまった。

    明るい。
    『島はぼくらと』は明るいのだ。
    潮の匂いがして、太陽を感じて、健康的で生気に満ちあふれている。
    もちろん、ミステリ出身の作家さんらしく物語は緻密な構成で、一見うまく回っているような島の生活に不穏分子がはいってきたり、登場人物たちも謎や秘密を抱えていたりと、「辻村節」は健在なのだが何かが違う。
    レゴブロックで精巧に構築された箱庭にキャラクター達を正確に配置し、「よーいどん!」でピタゴラスイッチのように物語が収束していく従来のカタルシスも捨て難いが、この『島はぼくらと』は人々がもっとゆるやかに繋がり、活き活きのびのびと互いに影響しあって物語を奏でているのがいい。
    サプライズや伏線の回収があったとしても、「そんなの関係ないぜ」と違う人生を生きる。そんなことだってありえるかもしれない。

    「冴島」という架空の舞台には登場人物達が一人減ろうが増えようが、いくらでも物語が湧き上がってくるような生命力が宿っている。

    いい人だとか嫌なヤツだとか、人はそんなに単純じゃない。
    スーパーヒーローのように見えても、すべてが得意なわけでもない。
    また、何も持ってないようでも、必ず突出した何かがある。
    それぞれの人が、それぞれの役割で、それぞれに適した場所で、静かに連なっていければこれ以上に幸せなことはない。

    辻村深月はこんなに素晴らしい作品を産み落とした。
    彼女は母となり、新しいステージに突入したのだ。
    僕は勝手にそう解釈している。

    • 円軌道の外さん

      お久しぶりです!

      いやぁ〜とにかく多忙で
      仕事の休みがなかなかとれないんですが、

      またまた例の病気が再発し、
      ダウンして...

      お久しぶりです!

      いやぁ〜とにかく多忙で
      仕事の休みがなかなかとれないんですが、

      またまた例の病気が再発し、
      ダウンしております(>_<)


      病気にならんと
      時間の余裕がないのもなんだかな〜って感じやけど(笑)


      そちらはどうですか?
      暑い日が連日続いてるけど
      身体壊したりしてないですか?


      そっかぁ〜
      辻村さん、お母さんなんですね(^O^)

      それにしても
      『レゴブロックで精巧に構築された箱庭にキャラクター達を正確に配置し、「よーいどん!」でピタゴラスイッチのように物語が収束していく従来のカタルシス』って
      まんまその通りですよね(笑)

      上手いこと形容するなぁ〜って
      ホンマ感心しましたよ(*^o^*)


      辻村さんの本は
      心理描写が緻密で
      物語にどっぷり浸ってしまうので
      読み終えると何も手につかなくなって
      ある意味危険なので(笑)、

      自分もまだ
      初期のものしか
      読めてない状況なんスよね〜(汗)(^_^;)


      でもこの作品は
      ホンマ読んでみたいなぁ〜♪

      新しい辻村さんの魅力を感じてみたいです(^_^)v


      2013/08/18
    • kwosaさん
      gumi-gumiさん

      こんにちは。
      リフォローありがとうございます。
      こちらこそよろしくお願いします。

      『スロウハイツの神様』いいです...
      gumi-gumiさん

      こんにちは。
      リフォローありがとうございます。
      こちらこそよろしくお願いします。

      『スロウハイツの神様』いいですよね。
      あれでどっぷりはまってしまいました。
      辻村深月さんの作品を読むのが楽しみで、がんばって追いかけていますがなかなか追いつきません。
      さて、次はどれを読もうか。
      わくわくしながら悩んでいます。
      2013/08/19
    • kwosaさん
      円軌道の外さん

      お久しぶりです!
      復活(?)でよいのでしょうか。
      こうやってコメント頂いたりレビューを拝読できるのは嬉しいのですが、お体の...
      円軌道の外さん

      お久しぶりです!
      復活(?)でよいのでしょうか。
      こうやってコメント頂いたりレビューを拝読できるのは嬉しいのですが、お体の具合が心配です。
      ご無理なさいませんように。

      こちらはおかげさまで元気でやっています。

      そうそう、辻村さんお母さんなんですよ。
      この『島はぼくらと』は、なんだか母性というか、母の強さや優しさがにじみ出ていて、過去に読んだ辻村作品とくらべると、角が取れて生命力が内側から溢れてくるような豊かさを感じるんですよね。

      先に最新作のこれを読んでしまったので、以前の胸を掻きむしられるような物語に戻れるのかが少し心配でもあります。

      でも、ぜひぜひ円軌道の外さんにも読んでほしいなぁ、って思っています。
      2013/08/19
  • ──辻村深月が帰ってきてくれた。
    「スロウハイツの神様」「名前探しの放課後」「凍りのくじら」などの彼女の生み出した初期の名作を読んで、感激し、感動した読者のもとに辻村深月が帰ってきてくれた。
    所々に散りばめられた数々の伏線を、ラストシーンが近づくにつれ、見事に回収されていく。
    その爽快感を味あわせてくれる名作の数々。
    最後は、必ずハッピーエンドで終わり、感動の涙で読者の心を虜にする彼女の講談社路線とも言うべき初期の名作群。
    その路線を受け継ぐこの作品は、また新しい名作の一つとして仲間入りするに違いない。

    物語の終盤。
    突然の、ずっと忘れていた、でもずっと会いたかった「スロウハイツ」のあの女性の突然の出現に驚き、何故かその名前を聞いた瞬間に不覚にも涙した。
    そして、思わず心の中で叫んでしまった。
    「お久しぶりです」と。

    辻村深月さんは、「最近の自分の作品を物足りなく感じていた初期の頃からのファンのために書いた」とあるインタビューで答えていたとおり、この作品は、本当に昔からのファンのために書いてくれたのだなあ、とあらためて彼女のサービス精神が嬉しかった。

    これで、最近の彼女の作品を読んでその魅力をどろどろした嫌らしさと思われている読者の方々に胸を張って大声で言うことができる。
    彼女の作品の本当の魅力は登場人物たちの思いがけない優しさなのだと。

    瀬戸内海の島に住む四人の高校生たち。
    彼、彼女を取り巻く様々なしきたりや縛り。そのなかで育まれた友情。
    父母や、祖父母の昔のエピソード。そこから現在につながる物語。
    最後も爽やかな涙がぼくの頬を伝った。
    ありがとう、辻村深月さん。
    この路線をまた書き続けてください。本当にありがとう。

  • しかし、なんと胸を打つラストだろう。
    万感の思い溢れるとはこのことだし、
    映像喚起力に優れた文章が
    容易に絵となって登場人物たちの笑顔と覚悟を読む者にイメージさせ、
    美しい島の四季折々の自然や
    潮の香り、照りつける太陽の暑さまでリアルに届けてくれる、
    この巧みな辻村マジック!


    太陽を受けきらめく、銀色のコンクリート。
    どこまでも続くエメラルドグリーンの海。
    麦わら帽子と赤いサングラス。
    オレンジ色に染まる、傾いた夏の日。
    主要キャラたちがフェリー乗り場に集まる冒頭場面だけで
    彼、彼女らがどういう人物でどういう性格なのかが瞬時に伝わってきて、
    心地良く物語の中、引き込まれていく。

    母と祖母の女三代で暮らす、
    ショートカットの心優しき高校二年生の少女、池上朱里(いけがみ・あかり)。

    網元の娘で、天然茶色のウェーブヘアにグレーの瞳を持つ美少女、榧野衣花(かやの・きぬか)。

    演劇部メガネ男子で脚本家に憧れる矢野 新(やの・あらた)。

    リゾートホテル経営者の息子で
    着崩した制服と金髪がよく似合うイケメン少年、青柳源樹(あおやぎ・げんき)。

    この島暮らしの4人の同級生たちの青春と
    島暮らしの理想と現実を徹底的にリアルに描いたストーリーです。


    瀬戸内海に浮かぶ人口三千人弱の火山の島、冴島(さえじま)がこの物語の舞台。
    中学まではあるものの、高校は島にはないため
    中学卒業と同時に誰もが
    フェリーで本土の高校に通わなければならなくて、
    卒業すれば進学や就職のために
    殆どの若者が島を出ていってしまいます。

    つまり、若者たちは自分がいつか、ここを出ていくことをみんな理解して、
    親たちも高校卒業と同時に子供との別れが待っていることを最初から分かっているし、
    覚悟しているんですよね。

    だから美しい島の描写と人懐っこい島の住民との触れ合いを描きながらも
    いつもそこかしこに別れの匂いや予感が漂っていて、
    花火を観たあとに感じる儚さや
    祭りの終わりの寂しさ、切なさを
    読みながらずっと感じていました。


    島に来る人がいれば、島を去る人がいる。

    Iターン移住者の問題、医者不足に病院不足、仕事がないこと、
    夢を抱き移住したはいいが
    島に溶けこめず本土にまた帰る人たち、
    身内を亡くし居場所がなくなる高齢者たち。
    傲慢でワンマンな村長と保守的な
    古くからの島の住民。
    気が合う男同士が「兄弟」の杯を交わし助け合う、昔からの島の風習。

    僕自身、年を取ってリタイアしたら
    小さな島で暮らすのもいいなぁ~なんて
    安易に考えていた時期もあったけど、
    コレ読むと島には良い部分以上に様々な問題があって
    理想と現実との違いをあらためて思い知らされたし、

    奇しくも同じテーマを描いた現在放送中のNHK朝ドラ「まれ」で
    まれの母親役の常盤貴子さんが
    島の住民と移住してくる人たちの関係を
    『本当はお互いがお互いに憧れてるのかもしれんね…』と言っていた言葉が
    この物語を読んで初めてストンと腑に落ちたのです。

    そして物語のクライマックス、
    4人の少年少女たちがあるお婆ちゃんのために
    東京や大阪を奔走する、
    時間制限付きのロードムービーのひたむきな思いには
    まんまと泣かされましたよ…( >_<)

    そして永遠に続くかと思われた少年少女たちの島での日々にも訪れる
    別れのとき。

    それぞれの夢や目標を手に
    島に残る者ととどまる者。
    行ってらっしゃいと送り出す者と
    行ってきますと旅立つ者。

    帰る場所があるってことは
    なんて素晴らしいことなんだろう。


    遠くまで旅する人たちに あふれる幸せを祈るよ!

    僕らの住むこの世界では 太陽がいつも昇り

    誰もみな 手を振っては しばし別れる…


    『ぼくらが旅に出る理由 / 小沢健二』

    オザケンオリジナル↓
    https://www.youtube.com/watch?v=ByaGUx2HfbQ&feature=youtube_gdata_player

    秀逸なアレンジと豪華メンバーによる安藤裕子のカバーVer.↓
    https://www.youtube.com/watch?v=23achdSE-QI&feature=youtube_gdata_player


    ラストシーンを読んだ僕の胸には
    いつまでもいつまでも
    大好きなこの歌が鳴り響いてました♪


    P.S. シングルマザーの蕗子(ふきこ)が作った
    お酒入りの手作りフルーツポンチを朱里が食べるシーンと
    新が朝食に食べる手作りみかんジャムのシーンが個人的には好き~(笑)

  • キラキラした青春小説だろうと思い読み始めた。
    心の芯がジーンとなって読み終えた。

    伸びやかな少女、朱里。
    美人で気が強く、衣花。
    東京から連れてこられた、源樹。
    熱心な演劇好き、新。
    4人が冴島で育ち、生きていく。

    青春だけじゃない。
    都会から島に逃げてくるしかなかった親子の物語。
    一緒に生きていきたかった祖母、母の物語。
    ヨシノ、環の伝える言葉、生き方に共感する。

    母子手帳、幻の物語に込められた想い、願い、やさしさが深い。
    そして、衣花の溢れだす想いに涙を零してしまった。
    ぐっときた。

    「おはよう」「おはよう」
    「いってらっしゃい」「いってきます」
    そして「おかえり」...「ただいま」。

    相手がいるからこそ伝えられる。

    良い物語でした。

    いつかまた出会いたい。
    朱里、衣花、源樹、新の大人になった姿に。

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著者プロフィール

1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ふちなしのかがみ』『きのうの影ふみ』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『噛みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『レジェンドアニメ!』など著書多数。

「2023年 『この夏の星を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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