自分を好きになる方法

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  • 講談社
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  • / ISBN・EAN: 9784062184557

感想・レビュー・書評

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  • 一人の女性リンデの一生を「6日間」で描くという、挑戦的な試みに作者らしさを感じた。
    その「6日間」とは、3歳・16歳・28歳・34歳・47歳・63歳のそれぞれ一日。

    物語は16歳から始まる。

    「16歳のリンデとスコアボード」
    高校に入学してすぐ。微妙な距離感の残る「友人」たちとのボウリング場での一日。
    “ほんとうにわかりあえる誰か”を諦めずに探すべき――最後にリンデが書く短い手紙がとても印象的。

    「28歳のリンデとワンピース」
    「34歳のリンデと結婚記念日」
    プロポーズ間近と思われる彼との旅行最終日。28歳の一日。
    思い出の地を再び訪れた結婚記念日。34歳の一日。
    人と人の関係は、同じだからうまくいくことと、違うからうまくいくことがある。
    反面、同じだからダメになったり、違うからダメになることもある。
    それがどこなのか、傍から見ればわりとわかるものだけれど、自分の身になるとなかなかわからない。

    「47歳のリンデと百年の感覚」
    仲間とのクリスマスパーティの一日。
    まだあきらめていない部分、あきらめつつある部分、あきらめた部分。そういうものが一番混在している歳に思えた。
    一人でもいいやと思う気持ちと、まだ誰かと時間を共有したい気持ち。でも新しい出会いや関係を展開するのは面倒くさい。それは恋愛であろうと、友人関係であろうと、家族であってさえも。

    「3歳のリンデとシューベルト」
    保育園でのいつもの一日。お昼寝の時間。
    3歳の一日がここに挟まれていることで浮遊感のようなものが生まれ、3歳のリンデの行動が遠い小さい頃のなにかの記憶を思い出させるような……なんだか不思議な章。

    「63歳のリンデとドレッシング」
    現役も引退し、だらりと過ごす毎日にメリハリをつけてみようとする一日。
    わざと忙しくした一日の中で、会えない宅配便の配達員に思いを馳せる。

    連作集のようで、これは紛うかたなき長篇だった。
    描かれていない「6日間」以外の年月が確かに存在するのを感じ、そしてその年月ずっと、リンデは“ほんとうにわかりあえる誰か”を探し続けている。

    6日間からのぞくリンデの人生から、自分や誰かの人生が透けて見えるような気がした。
    いつか来た道であり、通ることのなかった道でもあり、そして、いつか行く道かもしれず、まったく通らない道かもしれない。過去に安心し、未来にうっすら不安を覚え、どこかしらが痛む、そんな道の数々。
    せめてひそやかに、自分や誰かやリンデの穏やかな未来を祈りたい。
    “ほんとうにわかりあえる誰か”の隣にいますように。

    ・・・・・・・・
    初読了:7月10日(刊行前プルーフ版)
    再読了:8月10日(完成書籍)

    • nejidonさん
      九月猫さん、こんばんは♪
      レビューを載せてくださってありがとうございます!
      うちのにゃんたちは「まいぺーしゅ!ってつたえてくだしゃい」って言...
      九月猫さん、こんばんは♪
      レビューを載せてくださってありがとうございます!
      うちのにゃんたちは「まいぺーしゅ!ってつたえてくだしゃい」って言ってましたよ。
      夏休みの読感文ではないので、まず本は楽しく読まなくちゃです。

      ところで、この作品ですが、結論は出ているのでしょうか?
      リンデは、自分を好きになれたのでしょうか?
      (それが最終目的なんですか?)
      つまらないこと聞いてごめんなさい。
      セラピー本のようなタイトルですが、違うんですね。。。

      2013/08/15
    • 九月猫さん
      nejidonさん、こんばんは♪

      こちらこそコメントと花丸をありがとうございます!

      読める(もちろん楽しんで♪)のですが、書くの...
      nejidonさん、こんばんは♪

      こちらこそコメントと花丸をありがとうございます!

      読める(もちろん楽しんで♪)のですが、書くのがどーにもこーにも。
      やっぱりこれは夏バテのせいも大きいのでしょうね(ノω・、)
      nejidonさんの本棚にも書かせていただきましたが、
      低空飛行ながらぼちぼちと復活していきます。
      やっぱり読むのも書くのも好きですし、こうやってお話しできるのも
      楽しいですし、ね(*´∇`*)

      この本、セラピー本みたいなタイトルですよね。
      実際、プルーフ版を見た相方が「あれ?珍しい。自己啓発本?」と
      言ってきました(笑)が、小説です。

      >結論は出ているのでしょうか?
      >リンデは、自分を好きになれたのでしょうか?
      >それが最終目的なんですか?

      “ほんとうにわかりあえる誰か”を探し続ける、というのが
      目的だったと思うのですけれど、歳を重ねるごとに年齢や経験からの
      諦観とか面倒くささみたいなものも増えてくるんですよね。
      昔には戻れないし、やり直しもできないし、今からそれを求めるのも
      ムリだし・・・自分でもそれでいいと思っているけれど、
      胸の奥のほうでまだ夢見ていたかったり。
      自分を好きかどうか、っていうのも、少なくとも嫌いではないけれど、
      「好き!」と大きな声で言えるほどではなく。
      ある意味、すごく等身大な感じです。(私はリンデに共感しませんでしたが)
      リンデの人生は続いているので、結論という結論は出ていません。
      一日のうちの数時間を切り取っているだけなので、特にオチもないんです。
      読む人によって、感じ方や共感する部分が全く異なる作品なんだろうな、と
      思います。上で書いてあることも、わたしが感じたことなだけで、
      はっきりとそう書かれているわけでもないんです。

      うーん。ごめんなさい!これじゃわからないですよね。
      レビューもですけれど、抽象的にしか書けなくて。
      これ、提出用の感想は400字程度だったので、乗り切れたんですけれど、
      いざブクログに上げるとなると、なかなか書けず。
      提出用の感想を基に書く→加筆修正の嵐→スランプ→今回まるっとリライト。
      で、それだけ書いてもこんな風にしかならず。
      自分の未熟さを感じつつ、開き直ってUPしたという・・・。
      2013/08/15
  • 今までの本谷さんのはちゃめちゃな設定とは全く違うけれど、すごく良い物語だった。16歳、28歳、などリンデという主人公の一日を切り取っている連作長編。
    63歳で終わるんですが、最後の一行読んだ瞬間にため息が出た。
    リンデがまた共感したい気持ちはあるんだけどなかなか痛い部分もあったり、ああわかるなあという部分もあったり。
    甘い期待をあきらめる瞬間、気持ちが離れていく瞬間。えぐいと思えるぐらい緻密に描いていると思います。
    最近の海外の作家だとミランダ・ジュライとかジュンパ・ラヒリを読んでいる時と似たような感覚になった。

    リンデはきっとハーフでおそらく日本と英語圏の国で生きたんだろうな。周到に日本でも英語圏でも通用するような名前ばかりを採用したり地名を一度も出さなかったりする世界観づくりはなんだか余計なような気もするけど、本谷さんは前作で大江健三郎賞を受賞されていることですし、海外読者のことも考えたのかもしれません。

  • 本谷さんの本って不思議な内容と人物が多くって、またそこが魅力的で好きなんだけど、
    どこが?と聞かれたら困るけど、1番好きな本かもしれない。
    人付き合いが苦手というか、考えすぎながら生きてる感じが、
    身近にそういう知り合いがいそうだし、自分もそうなのかもしれないしね。

  • ありふれた孤独とコンプレックスを抱えて生きる、ありふれた一人の女性の、ありふれた一生の中のありふれた6つの日。
    たった6つの風景の中から、始まりも終わりもない一つの人生が、はっきりと手触りと温度を持って浮かび上がってくるようだった。ずっと奥深くまで見通せそうな、透明感のある言葉が、小説に奥行を持たせて、立体感を生み出しているのだろうか。
    リンデという女性の日々を、作者の目を通して見つめながら、自分自身がリンデとして生きたような読書経験だった。

    「新境地」と帯にもあったけれど、今までの本谷有希子さんの作風とはずいぶん変わったように確かに感じる。
    けれど「コンプレックス」というテーマがその中心に据えられているということはこれまでと変わらない。
    それから、コンプレックスを抱えて生きる女性が主人公であるということも。

    コンプレックスをさらけ出して、直視して、リングの上でガチで殴り合うみたいにしてそれを征服しようとしていたのがこれまでの本谷作品の女性だとするならば、
    今作の「リンデ」はそれを手名付けようとするのではなく、何とかなだめて、ごまかして、うまく一緒にやっていこうとしているのだろう。
    「生きていれば何とかなる」みたいな言葉は、僕やリンデのような自分が嫌いで嫌いで仕方ない人にとっては、ただの慰めにもならない。
    だって「生きていく」にしても、大嫌いな自分がいつもそこに居て、自分は自分からは離れることができないのだから。
    それでも大嫌いな自分と一緒に生きていくことしかできなくて、そうして日々を重ねていくことが、きっと唯一の「自分を好きになる方法」なのだろう。

    「あんたは私から離れることができるけど、私は私から離れることができないんだよ」というようなフレーズが、同著者の過去の作品にあったのを思い出した。
    この小説は、ずっと「コンプレックス」を描いてきた著者による、一つの「答え」なのだろう。
    自分のことが好きになれなくて、世界を呪ってしまうくらいの負の感情を抱えていても、それでも生きていけるのだ、と教えてもらえた気がした。

  • 16歳、28歳、34歳、47歳、3歳、63歳、それぞれのリンデの一日。
    リンデは、他人に何かしてもらって当然、と思ってしまうひとだったのかな。
    16歳のリンデはスクールカースト上位のグループにたまたま入れそうになったら、それまで一緒にいた子たちにエッチな話でマウンティングしたりしてちょっとイヤなやつだった。
    28歳と34歳のリンデはパートナーに色んな世話をしてもらって当たり前、トークで楽しくさせてもらうのが当然、という感じで自己中心的なひとに見えた。
    47歳のリンデは離婚して一皮むけたかと思いきや、やっぱり我が強くて友人関係のなかでも自分の意見を押し通そうとしたりしててちょっと痛いひとだった。
    3歳のリンデは幼いながらに、自分の味方になってくれるひとを大切にする意味をわかっていた。どうして成長したら忘れてしまったんだろう。
    63歳のリンデは偏屈なおばさんになっていた。宅配便の配達人は酷い態度をとるくせに、妙に見栄ばかり張ってプリプリ怒ってるいやなひと。だけど、肉屋の老夫婦を見てたらすこし気持ちがほぐれて、猫にも配達人にも優しくなれた。その瞬間のリンデは優しいひとだった。

    --------------------------------------

    どうして他人のせいにしてしまうんだろう。失敗したり嫌なことがあったとき、周囲の人のせいにしてしまうことがある。自分の選択ミスだったり、準備不足だったり、たいていは自分がわるいのに八つ当たりしてしまう。あとで後悔するとわかっていても。
    どの年齢のリンデも、身近な人への感謝が足りてなかった。やってもらって当然、やってもらえなければ怒ってしまう人。自分もそういう人間だなと思いながら読んだ。
    16歳のときと変わらず、周りにいてくれる友達をちょっと見下している47歳のリンデは悲しかったな。こういう人生はさみしい。

    生活に追われるなかで心にゆとりがなくなる日々、周りの人に八つ当たりするんじゃなくて、感謝して優しくできる人。そんな人になれたら自分を好きになれるってことだ。なかなか実現は難しい。みんなゆとりがないから優しくなれない。でも理想は持つべき。

  • 友達もパートナーもいないわけではないけど、
    もっとほかにビビッとくる人がいるかもしれない、
    と一生をかけて探してきたリンデの物語。

    「私を察して」「私をわかって」「私と共感して」
    ばっかりじゃ、なかなか満たされないし
    うまくやっていけないんだよなぁ、
    ということが激しくよくわかる一冊。

    そんなことしたら孤独になっちゃう、やだな。
    でも、やっぱりどうしても譲れない部分もあるし、
    自分が悪いとは思いたくないし、
    言葉にしなくてもこの気持ちわかってほしい。
    我慢せずにもっともっと本音を語りたいし、
    もっともっと心から幸せになりたい!

    私だけでなく、もしかしたら誰もがみな、
    こんなふうに相反するた気持ちを抱えながら
    毎日を生きているのかなと思うと、
    ちょっと心が軽くなるような気が。

    そして、今、自分の手の中にあるものや
    自分を囲んでいる現実との折り合いをつけず、
    まっすぐに理想を探求していく不器用な彼女に、
    ある意味、羨望の念を抱きました。

  • 16、28、34、47、3、63歳の順にリンダの生活や考え方を見ていく。あまりにもぶっきらぼうでガサツで落ち着きがなく、本人もそれを自覚しているけれど読んでいて実りがなかった。まるでおさるのジョージを見ている気持ち…

  • 《図書館本》新年最初の1冊。思ってたのと全然違ってて、なんだかよくわからなかった

  • こんなふうに知らない小道を発見して、幸せだと思えれば、他に何もいらないのかもしれないわね

  • 自分を好きになる方法はこの本からは見つからなかった。

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著者プロフィール

小説家・劇作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

本谷有希子の作品

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