その鏡は嘘をつく

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062185202

作品紹介・あらすじ

エリート医師が、鏡に囲まれた部屋で自殺した。その後、医学部受験を控えた一人の青年が失踪した。正義感に溢れる検事・志藤清正は、現場の状況から他殺の可能性を見破り、独自に捜査を進める。その頃、東池袋所の刑事・夏目信人は池袋の町を歩き、小さな手がかりを見つめていた。二転三転する証言のなかで、検事と刑事の推理が交錯する。乱歩賞作家・薬丸岳が描く、極上の感動長編!

感想・レビュー・書評

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  • 夏目刑事シリーズ第二作。
    これもまた既読だが、以前読んだのが随分前なので詳細は忘れていて新たな気持で読めた。

    痴漢容疑を掛けられたものの嫌疑不十分で釈放された外科医の男性が八日後に首を吊って自殺。しかしその死に疑惑を抱く検事の志藤は警察に再捜査を指示すると共に自らも調べ始める。

    この作品には大切な家族を亡くしたり酷く傷付けられた三人の男が登場する。
    一人目は勿論刑事の夏目。彼の一人娘は十年前に頭をハンマーで殴られて以来、植物状態のまま目を覚まさない。犯人は明らかになったが娘が回復する見込みはない。
    二人目は検事の志藤。記者だった父親は志藤が中学二年生の時に自殺。しかし当時父親は大物政治家の不正を追っている最中だったため、志藤は父親が自殺に見せかけて殺されたものだと確信している。父親の無念を晴らすために検事を志した。
    三人目は今回の事件の被害者・須賀。彼は中学三年生の時に目の前で母親が心臓発作で倒れ、救急車が来るまで必死に蘇生を試みたものの甲斐なく亡くなったという経験を持つ。それから猛烈に勉強し医科大に合格、医師としてのキャリアも積み、勤めている大学病院の病院長の娘と結婚するという逆玉を掴んでいる。

    三人それぞれが身近な人を亡くしたり痛めつけられるという苦しい状況を経て今の仕事に邁進しているという設定は似ているが、その心の持ちようは三人三様だ。

    夏目は前作「刑事のまなざし」でさんざん見せつけられたようにどんな小さな手がかりも見逃さず犯人を見つける鋭さや容赦のなさがあると同時に、人の中にほんの少しでも残っている良心や愛情や、その人が立ち直るための希望を信じている部分もある。
    対する志藤は徹頭徹尾疑い続ける。須賀が痴漢容疑を掛けられたときも、須賀が自殺を装って殺されたのではないかと考えたときも、その犯人としてある人物を追い詰めていくときも。彼の根源にあるのは憎しみであり、それを『糧に犯罪者と闘っていく』のが信条。そんな志藤には夏目が甘いように見えてしまう。
    そして被害者の須賀。須賀はすでに死んでいるので他者が語る彼しか描かれず、彼が心の奥底で何を考えていたのかは最後まで分からなかったが、かなり歪んでいる人物であることは間違いなさそうだ。
    似たような状況に置かれていても、その人の心の持ちようは人それぞれ。環境や事情が人を変えるのではなく、その人の心の持ちようで生き方や物事の見方が変わるように思えた。

    肝心の事件の行方については、何か事件に巻き込まれたらしい逃亡中の学生と、須賀の事件とがどう交錯するのかというのが焦点。
    その奥には何とも陰惨でやりきれない真実が隠されていた。須賀のやり方や考え方が歪んでいるのは間違いないが、人の命を預かる仕事である以上、その能力に全く達していないのであればふるい落とされるのも致し方ないとは思う。

    ただ医師と一口に言っても様々な分野があるし、医療と一口に言っても様々な仕事がある。当人にどうしても医師になりたい、医療の仕事をしたいという情熱があり努力を続ける覚悟があるのであれば、それらの中から当人に向いた仕事、能力に応じた仕事を探し導いてあげるのも指導者の能力ではないだろうかとは思った。

    犯人についてや事件の過程について素朴な疑問や突っ込みを感じる部分もあるが、夏目と志藤という似て非なる二人の出会いの物語としては興味深く読めた。
    志藤の父親の事件の顛末については今後のシリーズ作品で描かれるのだろうか。

    ※シリーズ第一作「刑事のまなざし」レビュー
    https://booklog.jp/users/fuku2828/archives/1/406277299X#comment

  • 夏目刑事視点と、志藤検事と、何が事件の真相を知っていそうな少年(途中からその少年を心配するいとこ)目線で物語は進んでいきます。
    人の弱さに漬け込み、最低な部分も味わいますが、人が人のことを思い、助けようとする。ジーンとするシーンもあります。
    それにしても、夏目刑事の目の付け所がすごいなぁと。

  • 夏目シリーズの第2弾。これが出てるとは知らずに、第3弾を先に読んでしまっていた。エリート医師の自殺と、予備校生の失踪を別々の視点から追う夏目と検事の志藤の駆け引きがなかなか面白かった。

  • エリート医師が、鏡に囲まれた部屋で自殺した。その後、医学部受験を控えた一人の青年が失踪した。
    正義感溢れる検事志藤は医師が自殺ではなく他殺だと判断し独自の捜査を進める。池袋署の夏目刑事は池袋の街で事件の小さな手がかりを探していた。
    二転三転する真相の中にある人間の心の闇とは…。
    社会問題をテーマに書いてきた本作作者のテーマとしては、今作はあまり響かなかった。それでも終盤の真相が明らかになっていく展開には一気に引き込まれていった。

  • 夏目シリーズの長編は初めてだった。他を読んでいるので、わかりやすかった。奥さんと娘さんが出ないので、シリーズぽくないと感じた。行方不明くらいで警察が真剣に捜索してくれないだろうとヒトリ突っ込み。

  • 登場人物が多くて、ごちゃごちゃになりつつも
    ページをめくる手が止まらず。

    感想はといえば、切ない。
    その一言に尽きる感じ。

    夏目刑事、実写化されるなら 小日向文世が良い。

  • 【要旨】エリート医師が、鏡に囲まれた部屋で自殺した。その後、医学部受験を控えた一人の青年が失踪した。正義感に溢れる検事・志藤清正は、現場の状況から他殺の可能性を見破り、独自に捜査を進める。
    その頃、東池袋所の刑事・夏目信人は池袋の町を歩き、小さな手がかりを見つめていた。二転三転する証言のなかで、検事と刑事の推理が交錯する。

    最後まで事件の真相は予測できなかった。非常に面白い!!
    失踪した幹夫、心配するいとこの沙紀ちゃん、容疑者となった予備校講師の峰岸先生。夏目刑事に志藤検事、どれもが良いキャラで感情移入しやすい。
    薬丸岳さんはこのところハズレなしなので、次も期待したい!!
    お薦め!!!

  • ★3.5

    エリート医師が、鏡に囲まれた部屋で自殺した。
    その後、医学部受験を控えた一人の青年が失踪した。
    正義感溢れる検事・志藤清正は現場の状況から、他殺の可能性を見出すー。


    電車内で若い女性に痴漢を働いたという容疑で逮捕され、
    嫌疑不十分として釈放された八日後、京北医科大学のエリート外科医
    須賀邦治が秘密の部屋・鏡に囲まれた不思議な部屋で首を吊って自殺した。
    痴漢事件の時に十日間須賀を取り調べした検事・志藤は、
    須賀の人柄から自殺するような人間とはどうしても思えず、資料を取り寄せ
    現場の状況から他殺の可能性を見破り独自に捜査を進める。

    その頃、東池袋署の刑事・夏目信人は四日前の深夜に近くの煙草屋の前で、
    若い男性が数人の男性から暴行を受けていると通報があったのに、
    警察官が駆け付けてみると、暴行していたという男性はおろか、
    被害にあっている男性も通報してきた人間もいなかったという。
    この事件にこだわって、池袋の町を歩きひとりで調べていた。

    そして、冒頭で暴力を受けていた浅川幹夫。
    彼は、落とした携帯電話を発見すると姿を消してしまう。

    最初、検事・志藤が正義感に燃え、行動力もあり素晴らしく感じていた。
    このお話は志藤が主人公のお話かと思い読み進めて行きましたが、
    あーっ、やっぱり夏目刑事が登場するとかすんじゃう…(*'-'*)エヘヘ
    でも、とっても良いキャラでした。
    3つの出来事がどう繋がっていくのか?
    それぞれの捜査がどの様に繋がっていくのか?
    わくわくしながら、読み進めました。
    二転三転する証言と、検事の推理と刑事の推理が交錯する。
    志藤と夏目それぞれ違うタイプですが、お互いに正義感があり、
    それぞれが気付かなかった事を補っていた。
    事件の真相は、切なく悲しいものでしたが、
    幹夫の未来にも明るい光で見えてホッとしました。
    人それぞれ幸せの形も、不幸の形も違う。
    その人自身の幸せを探していくしかないのですね。

    夏目刑事の洞察力の素晴らしさや事件に対する嗅覚の素晴らしさ。
    そして、何より人を信じる気持ち、とても深い心温かい心を持っている。
    犯人の心に寄り添い、真実に辿り着く。
    温かい雰囲気がとっても良いなぁ(❁´ `❁) ♡

    志藤も記者だった父親が、大物政治家一族の不正を追う中で自殺か他殺か
    判然としないまま亡くなっている過去を持っていた。
    今回、このお話に余り触れられていませんでしたが、このお話が出ると良いなぁ
    志藤×夏目のお話をまた読みたいです♪

  • 人の心は複雑だ。
    本当のことなんてわからない。
    自分の気持ちでさえ、コロコロと変わるのに。
    厳しい人生を通り抜けてきた人なら、相手の苦しみも多少は理解しやすいのか?
    うまく相手に伝えられていないだけで、実はしっかり心配されているものなのかもね。

  • 10月-2。4.0点。
    夏目刑事第二弾。鏡に囲まれた部屋で、外科医の自殺。
    検事が疑問を持ち、また夏目も。ラストは結構感動。
    このシリーズは面白い。次作も期待。

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著者プロフィール

1969年兵庫県生まれ。2005年『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2016年、『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に刑事・夏目信人シリーズ『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』、『悪党』『友罪』『神の子』『ラスト・ナイト』など。

「2023年 『最後の祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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