- Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062186735
作品紹介・あらすじ
2009年秋、当時35歳だった木嶋佳苗の周りで、多数の男性が不審死した事件が話題をさらっていた。やがて同時期、首都圏を舞台とした、この事件とは別の連続不審死事件が浮上してきた。現場は鳥取、主役は上田美由紀、スナックのホステスだった。
「一人の女の周囲で多数の男性が不審死していく」という、二つの事件には、驚くほど共通点があった。主役はどちらも30半ばの小柄な肥満体型の女性で、亡くなった男性たちと肉体関係を持ち、多額の金銭を貢がせていた。
しかし、一見、よく似た事件はまったく別の背景をもっていた。佳苗が、高級マンションに住み、外車を乗り回し、セレブ相手の料理教室に通って、婚活サイトを利用して男性を物色していたのに対し、美由紀は日本全国で最も人口の少ない都道府県である鳥取で多数の子ども抱え、自らが勤務する寂れた繁華街の小さなスナックでターゲットを探していたのだ。
筆者は、鳥取の町を歩き、事件の現場になったスナックに通い、裁判を傍聴する。美由紀に惚れ、貢ぎ、騙された男たちをみつけ、話を聞いていく。そして、拘置所にいる美由紀とも面会を重ねる。
その結果、華やかな臭いを纏う木嶋佳苗事件からは、決して見えてこない、地方特有の事件の景色が判明していく。日本の地方、田舎で何が起きているのか。事件の深層と地方の風景は切っても切り離せない関係にあった。
人口が減り、町が廃れ、そこで暮らす人々には仕事がなく、生活が立ちゆかなくなる。そこで生まれる犯罪。生活弱者が弱者を食い物にした。
ーー美由紀に騙されたのは、あなたかもしれない。
感想・レビュー・書評
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日本の司法制度の脆弱を懇切丁寧に物語る構成に感嘆する。地元住民から陸の孤島と自嘲される鳥取県で次々と起きる不審死事件。計六人の男が死に至りそれぞれが一人の女性上田美由紀と関わりを持つ。男から金を毟り取る女は果たして殺人を犯したのか。決定的な証拠も自白もなく、別件の強盗や虚言を列挙することで裁判員に有罪へと誘導する検察、被告人質問で黙秘権を行使する美由紀。さらに黙秘=承服&逃避だという論法で糾弾するメディア。語らない被告人はどのような真実を抱え込んでいるのか。彼女が筆者に語る言葉の中に真実を見出すことの困難が社会の縮図となる顛末にうならせる。
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全国にこの誘蛾灯がどれくらいあるかを妄想する
インタビューに応じたママさんは、そこいらいにいるデフォルトママ -
獄中死後に本書の存在を知り購入。文庫化されてるとも知らずに。いやはや、著者も、夢中に読んだ小生もチェックメイトではなかろうか?そしてラストのケムに巻かれた感は現実の死により完全なる完成となってしまった。田舎ホラーの一種でもある。ノワール小説、ノワールフィルムにおけるファムファタ(ー)ルの概念すら破壊する。
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先に読んだ本の参考文献に挙げられていたので読んでみた。
「なぜこんな女に次々と多くの男たちが惹きつけられ、道を踏み外すのか」という疑問は私も大変気になるところだったので期待して読み進めたものの、とにかく中身の深まらない問いかけや繰り返しが多く、結局のところ「よくわからない」という結論で事件の核心に迫ったとは言い難い内容。
地方と貧困というキーワードをもとに社会問題と絡めて現代の闇、的な感じで何か言いたかった感は分かるが、読み進めても考察がさっぱり深まらず。
最後の上田美由紀本人との面会の場面は結果的に「全く核心に迫れなかった」ことがありありと伝わってきて面白かったけど。
でも取材しても「結局何もわからんことがわかった」というのはとても誠実な内容にも思う。
そしてこういった実際の事件を元に架空の作品を描いていく作家の力ってのはやっぱりすげぇなぁ…と関心した。それが本当かどうか、ではなく、男に嘘をつきまくり金をむしりとり用済みになったら殺してしまう、というような女が一体どういう人間なのかを内側から覗いてみたい欲求を存分に満たしてくれるのだもの。 -
鳥取連続不審死事件の話。
ホントに何回見ても、うまくみても、上手にどーにかしても、やっぱり太った冴えない中年のおばさんにしか見えないのに、、、
なぜ、次から次へと金を貢いで、しまいには自殺に追い込む。
そして、また次の男次の男。
5人の子どもがいて、次から次へと男を夢中にさせる何かがあるとはとても思えない女なのに。妻子持ちの有名自動車メーカーの営業マンも美人の妻を差し置いてミユキと一緒になる!
と、言わしめたり。
なんと警察の刑事しかも、三課の。なぜ!!!
何回写真見ても、どーしてもわたしが男ならどんなに性格よくてとてつもなくいい子だとしても。好きになれる気がしない。
でもって二股どころか三股と、しかも、5人の子持ちで、それで持って金金金と金の亡者だった。と付き合いをしていた生きてる男たちは口々に言う割に、でも、癒された。と。
マジか。
著者はどうにもこういも絶対見たくないみたくないけどくせになる。そんな絶望的な底の底に身を沈めたくなるそんな気分でのめり込んでいったんじゃないか?
って話だけども。
なんとも不可思議で仕方ない。
すごい女だってことはわかるよね。5人は殺したんじゃないかと思われてるけど、一つも証拠残してないし、ウチ二人は完全に自殺させてる。
すごくないか。この女。 -
フリージャーナリストが鳥取連続不審死事件を追う。警察の捜査や裁判の在り方、事件の真相を追うというよりは、なぜ刑事や新聞記者といった男性達があのような女性に惹かれ人生を狂わせたのか?というのが主題。同時期の埼玉の事件も同じような扱いでメディアに取り上げられていたが…そんなに謎か?殺人まで行ってしまうとアレだがそこまで行かなければ男女関係には多かれ少なかれありそうな話と言い切れないのがマスコミか。笑うセールスマンのある話を思い出したわ。
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テレビのコメンテーターとしてよく見る青木理さんの作品を読んだことがなく、とっかかりの1冊として手に取った。「木嶋佳苗」と言うと、「ああ」とわかる人でも、ほぼ同時期に鳥取で同じような事件があったことを覚えている人は、私の周りには少ない。そこに斬り込んだ作品。
書かれたのは2013年。死刑は2017年に確定している。この女性が、「息をするようにうそをつく」のだったとしても、ちょっと食い足りない気がする。 -
鳥取という日本で一番小さな人口の少ない県の風景と、そこで起きたと目される事件。事件そのものというより、鳥取の社会と人の印象が深い。
最初「えっ。なんでそうなったの?」と思うのだけれど、だんだんと、彼女に惹かれていく故人の心境が「ああ、そうなるかもしれない」と思えてくるから怖い。
よく、確固たる信念を持て、と言われるけれど、バブル崩壊後は信念を持つのが辛い時代であり、地域性故か、余計に陰鬱で未来が見えない状況だ。その中で「自分」を手放して、彼女に振り回されたい……どうせ辛いなら、彼女のために、と思う気持ちがわかるような気もする。
私は、ノンフィクションは事実を求めていない(書き手のフィルターを通すので、事実とも言い切れないと思うのだ。また事実なんてものも、立場によっては見方が異なる訳だし)。なので、書き手の心象が描かれているものに惹かれる傾向がある。そういった意味で非常に読みがいのあるノンフィクションであると思う。
他の作品も読んでみたいと思うと共に、続編でないかなぁ。