スペードの3

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  • 講談社
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  • / ISBN・EAN: 9784062188500

感想・レビュー・書評

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  • ------本文冒頭
    ファミリアは砂鉄に似ている。誰も、磁石の力に逆らうことはできない。

    ―――朝井リョウの表現について簡単に研究してみる。

    189P
    “たった四人だと、春休みの学校はこんなにも広い。”
    相対的なものの見方。
    同じ学校でも人が多ければ狭く感じるし、少なければ広く感じる。
    同じ気温でも、シチュエーションが異なれば、暑くも感じるし、寒くも感じる。
    もう一つ、これもそうだ。
    215P
    “からっぽの胃の中に、ぬるい水が落ちていく。満たされている感覚よりも、空白の部分が際立つ感覚のほうが強い。”
    満たされることよりも、空白になる感覚から物事を表現する。
    このような感覚の表現が新鮮で的確なのだ。
    彼の小説には、そういった表現が頻繁に使われる。
    これは天性の才能だろう。
    或いは、幼い頃から物理的な現象や心の中で思い描く感覚が人一倍鋭いのか。 

    研ぎ澄まされた五感から産まれ出てくる文字表現。
    現代作家の中でこれほど優れて心に染み入るような文字表現できる人間は数少ない。
    この作品でも、このような秀逸な表現が至る所で見られる。
    そして、まるで女性の内面を知り尽くしているかのような心情表現。
    これもまた、彼の天賦の才というべきものだろう。

    演劇界のスターと、それを取り巻くファンたちの姿。
    彼女たちはどんな理由で、どんな視点で、その位置を保っているのか?
    叙述ミステリーのような一面をも持ったこの作品のなかで、彼女たちは葛藤する。

    • 九月猫さん
      koshoujiさん、こんばんは♪

      先日は同作の私のレビューに花丸とコメントをありがとうございました。
      そちらにもお返事書いておりま...
      koshoujiさん、こんばんは♪

      先日は同作の私のレビューに花丸とコメントをありがとうございました。
      そちらにもお返事書いておりますが、おススメいただいた「少女は卒業しない」は
      近いうちに読もう!と決めました(*^-^*) 楽しみです♪

      研究風のレビュー、いいですね。
      215ページの表現は私も印象深かったです。
      この感覚は実際に何度も感じたことがあるのに、「空白」で表現することはなく……
      確かに新鮮ですね。

      朝井さんは、私にとってまだまだ未知の、でもなんだか惹かれる作家さんです。
      koshoujiさんの本棚には、朝井さんの他にも興味がありながら未読の作家さんも多く、
      選書とレビューを参考にさせていただきたいなと思います。
      ということで・・・フォローさせていただきました。
      どうぞよろしくお願いいたします(*- -)(*_ _)ぺこり。
      2014/05/08
  • 朝井リョウはどんどん変化していく。
    でも、行間に埋め込まれた、赤ん坊の爪のような薄くて鋭い刃は健在なので、読み進めるに連れてどんどん細かい切り傷が増えていく。ヒリヒリと、痛くてたまらない。
    特別な場面はないのに、ずっとドキドキして、怖くてたまらなかった。
    「学級委員」の立場を守ろうとする心理。特別な物語を求める心理。「自分のため」を押し隠そうとする心理。
    どれもみな思い当たることばかりで、だからドキドキするんだろうと思う。

    「待っていても革命なんか起きない」という言葉がいちばんぐさっときた。誰も他人のためになんか、革命を起こさない。変えるのはいつも自分だ。
    ダークで、やりきれない物語の底に、そっと置かれた励まし。「そこにあるのは、そのときのその人自身」
    ぶるっと心が震える一節だった。

  • ラストで自分もズルいことをして逃げそうになっていたけど、踏み止まってくれてよかった。
    そして自分のために演じようと決意してくれたのもすごくよかった。
    朝井リョウさん、とっても素直な青年なんだなと文章から伝わってきて大好きです。

  • 前作の『世界地図の下書き』を読了後から朝井リョウの作品にハマったが『世界地図の下書き』以前の作品はなぜか、苦手のままである。今回の作品もグイグイと作品に引き込まれ、あっという間に読了。読んでいる時、朝井リョウって女性だったかと錯覚をする程、女の生態がリアルに描かれている。3つの話が交錯し、最後には一つになる。すごく読みごたえがある作品。

  • 「朝井リョウって、実は女なんじゃ…?」と疑いたくなるくらい、女の醜いドロドロした部分がリアルに描写されていました。
    3人の女性が主人公の中編連作。
    それぞれの物語の仕掛けにあっと言わされ、感情のどす黒い部分を見せつけられ、ボディーブローのようなダメージが。でもページをめくるのをやめられず。

    ただ見せつけてダメージを与えるだけではなく、それぞれの主人公が自分の醜い部分と向き合い、一歩踏み出す姿が描かれていて、どの人物も、最後には立ち上がろうとしていきます。
    特に最後のお話が、何にでも物語が求められ、羨みからやっかみに変わっていく現代社会が描写されていて、ホント痛かった。
    自分は間違いなく、つかさ側なのでめちゃくちゃ共感してしまい、ラストのつかさのセリフに泣かされました。

    SNS・まとめサイトに依存気味な人、リーダーというより仕切り屋体質な人、「物語消費」大好きな人は是非ご一読を。…って、私だな(笑)

    でも冷静に考えてみると、小説で「物語を無理にでっち上げなくてもいいんだよ」と書いてしまうって、とんでもないことだよなぁ…。

  • ・朝井リョウの作品は思わず目を覆いたくなるような場面をありありとリアルに描写するところが生々しくて好きだ。
    そしてそれはスケールの大きいものではなく、誰もが日常的に感じたことのある、身近な場面や欲望だったりするからより自分に肉薄して感じるものがある。
    ・日常の何でもない場面の切り取り方や、言動や所作の比喩の方法がとんでもなくうまく、よくある場面だけれどまだ誰も言語化していない新しいものに感じさせる。
    ・緊張感の煽り方がうまい。読んでいて自分の中でホラー映画の今にも怖いものが飛び出る時の音楽が鳴り響いているかのような音楽や心臓の高鳴りを覚える。

    ○スペードの3
    ・自分のささやかなプライドを保ってくれるものを少しずつ侵されていく怖さと焦燥感の煽り方がうまい。
    ・中盤のどんでん返しも綺麗で驚きがある。
    ○ハートの2
    ・行間が広い。醜いと言われた明元むつ美がスペードの3に出てくるほどの美しい女性になることがわかっているから、学生時代の決断や行動に説得力が出る。こうして他人のためではなく、自分のために欲を出すことを恐れなくなって大きく変わっていったのだということがわかる。
    ○ダイヤのエース
    ・3つの物語の中で一番刺さった。
    ・何不自由ないことがコンプレックスになることもある。そう考えると自分の不幸な状況にそっと手を差し出してくれるような気がした。
    ・誰をも魅了してしまう人間って一定数いて、その中でも苦悩があるし、努力もしている。憎んでいる人のそういう姿を見て上手に憎めなくなるというのがこの物語で一番好きだった。

  • 「○○女子」と枕詞につく言葉は色々あるけれど、この話は紛れもなく、辞書的な意味での、女子の話。

    女子。女子学生の意味の「女子」。

    主人公は女性が3人。

    1話ごとに主人公が入れ替わる。

    学生時代のと現在の様子が一話の中で描かれる。

    朝井リョウさんの小説って、いつものっけから不穏で、ずっと暗い。

    朝井リョウさんのエッセイは頭からっぽで読める抱腹絶倒だから、小説とのテンションが、同じ人が本当に書いたのかなと思うほど。

    今回の『スペースの3』について。

    著者の朝井リョウさんは男性だけど、
    どうしてこんなに女子のこと分かるのだろう。学生のときの女子グループ、よく観察していたのだろうか。

    第1章の「スペードの3」ミュージカル女優のファンクラブのまとめ役の美知代の話。

    第1章が一番おもしろい。

    ちょっとした叙述トリックにまんまとひっかかる、チョロいな私は。
    どういう繋がりか分からなくて、最初からパラパラと読み返した。

    学生のとき、こういう美知代みたいな女はいた。

    小さな世界(クラス)を牛耳って、あたかも世界のリーダーは自分だ、みたいな顔をして、取り巻きまでいるような女。

    他の女子へのちょっとした優越感が心地よい。歪んだ感じ。
    朝井リョウさんの小説という感じ。


    第2章
    第1章にも登場した、地味で冴えないむつ美の話。

    この本の中で気持ちがよくわかるのはむつ美。

    第3章、第1章の美知代がファンクラブに入っていた、つかさの話。

    何か人生の転機になるような特別なエピソードなんて、きっとみんな後付けじゃない。

    第3章は朝井リョウさんの「何者」思い出した。何者かになった人も、ずっとずっともっと超越した何者になりたいのかもね。










  • 二回目だった。


    スペードの3 美知代のはなし
    ハートの2 アキのはなし
    ダイヤのエース つかさ様のはなし

    の3章からなる長編小説。
    宝塚男役つかさ様のファンクラブファミリアの会長である美知代と小学校の同級生のアキ、そしてつかさ様の三人の話からなる。

    一章は明るい話で、美知代が変わるきっかけとなる。いままでは大好きな人が会いに来てくれる立場を作ることだけに執着して自分から行動を起こさなかった美知代。革命はおきない。彼女が受動的な人生を変える。革命を起こす努力を始める。

    二章はアキの話。容姿が醜くぱっとしなかった彼女が変わる話。その一方で人間の内面の醜さにも気づきそれを受け止める。誰かのため、という前提で行っていた物事はすべてその手前に必ず、必ずもうひとつの前提がある。自分のため、自分のため、自分のためじぶんのため。自分のためだっていうことをごまかす理由や言い訳を探すことに時間がかかってしまったけど、そうでなくていい。自分のためによりよくなりたい。それでいいのだと。それは決して醜い欲望ではないのだと。

    三章はつかさ様の話。いつも身の上話で得するライバルの円とつかさは比べられた。円がもつ不幸話とそこに物語を見出して喜ぶ人々。自分は何の物語も持たないことに絶望する。円ほど有名にもなれない。演技を続ける理由はない。彼女が喉から手が出るほど欲しがった物語は結局手に入れられない。
    円は自分がもつその物語の効果を自覚していたし、それをずるいと知っていた。
    けれどつかさは気がつく。円は物語なんてなくても実力が自分よりある。その人の背景や余白や、物語は、それ以上のものになり得るように見えることもあるけれど、実際はなり得てはいない。そのときそのときに出会ったものの積み重ね、吐き出して生きる私たちにとって、そのときそのときに想像されたかもしれない物語なんてどうでもいいものだ。そこに本当に存在するのは、そのときのその人自身、それだけだ。特別な物語なんてなくてもいいんだ。

    とても考えさせられた。

  • 朝井リョウさんの本、初めましてがこれでした。

    自分の存在意義・存在価値ってどこ?
    変わりたいけど変われない、でも変わらなきゃ!
    あの人にはあるのに、なんで私には人と違うエピソードがないんだろう…。
    そんな女性三人が主人公の連作短編小説。

    ●第一章 スペードの3
    ファンクラブ「ファミリア」の幹部となり優越感を覚える美千代。
    ファンクラブのためと言いながらも、ちゃんと自分が優位に立てるような言い方をしていて腹黒いなぁ。
    あることがっかけで立場が危うくなりどんどん追いつめられていく。
    同情できないものの、ハラハラしたり胸がちょっと苦しくなりましたよ…。

    ●第二章 ハートの2
    第一章の美千代と小学生時代同級生だったむつ美の話。
    これが誰のことかは読んでいるとわかるとして…
    冴えない容姿に悩み、宝塚の「つかさ様」に憧れを抱いている。
    まあ、大人になれば服装やヘアメイクで変われるしかわいくなれるよって言ったところで
    この時期の少女にはなんの説得力もないのよね…。
    変わりたいけど、ある日突然デビューしても笑いものになりかねないし。

    ●第三章 ダイヤのエース
    宝塚スターのつかさ。
    ライバルに嫉妬したり、自分に持ってないものを欲しがったり、妄想したり…。
    華やかな世界にいて人前に立つ仕事だからこそ、より一層他人と比べてしまうものなのかも。

    「待ってたって、「革命」なんて起きないから。」

    三編通して、変わるタイミングは自分次第ってことなんだなと。
    結構面白かったです!

  •  何気に見覚えのある著者で、冒頭を読み始めたら読み易かったので図書館で借りてみた1冊。
     著者だけとか書評だけで読んでも脱落する作品もあるけど、やはり読み易さを実感して読むものは最後まで一気に読めた。
     以前、著者に向かって「あそこまで女の腹の底が分かるなんておかしい」みたいな発言をしているテレビを見た覚えがあったけど、やっぱりこの作品か! と確信を持てるほどエグイ腹の底の探り合いな内容だった。
     この著者、本当に男性なのか? と疑いたくなる。
     全編絡み合いながら3つのストーリーで女子、女性が出てくるので、照らし合わせたら誰かしら自分に似た人が出てくると思う。
     私は狭い世界の中で中心にいて喜んでいる哀れな女だと鏡を見ているかのように思った。
     どこからか他人にもそう思われているようで怖くなった。

著者プロフィール

1989年岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』で、「小説すばる新人賞」を受賞し、デビュー。11年『チア男子!!』で、高校生が選ぶ「天竜文学賞」を受賞。13年『何者』で「直木賞」、14年『世界地図の下書き』で「坪田譲治文学賞」を受賞する。その他著書に、『どうしても生きてる』『死にがいを求めて生きているの』『スター』『正欲』等がある。

朝井リョウの作品

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