殺人出産

  • 講談社 (2014年7月1日発売)
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  • 本 ・本
  • / ISBN・EAN: 9784062190466

感想・レビュー・書評

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  • 人々のために人を産むこと。そして殺すこと。
    世の中がそれを美しいとする世界


    どうしても人を殺したい人間は10人出産する。
    もしそれが、自分のきょうだいだったら?
    きょうだいが人を1人殺すために10人産むんだとしたら?
    その殺される1人が自分だとしたら?
    あなたはどう思う?どうする?

    主人公は姉の「だだ殺したい」という殺意を
    応援する。そんな中、1人の女性が現れる。
    その人は「こんな世の中は間違っている」という
    考えを持つ。ひたすら姉を否定する。姉は、
    その人を殺す。「かわいそうな人だと思ったから」
    主人公は姉と一緒になってその人を殺す。


    その人には秘密があった。

    ああ…
    だから、この世の中から必死で逃げていたのか。

  • 村田沙耶香さんワールド全開の短編集。
    収録作品は、『殺人出産』『トリプル』『清潔な結婚』『余命』の4つ。
    どの作品も今現在の常識や価値観に捉われない、近未来的(そういう未来が来るとは限らないけれど、あり得そうでちょっと怖い笑)な世界線のお話。

    『殺人出産』は10人産んだら一人殺せるという制度が導入された世界のお話。この発想力が村田沙耶香さんだなぁと思う。10人産むには約10年かかるわけで、その間殺したい人を"想い続ける"その執念は怖すぎる…。環が早紀子を選んだように偶発的なパターンもあるようだが、それはそれでめちゃくちゃ怖い。無差別殺人と同じじゃないか…。村田沙耶香さんの作品は、そんな角度から?!と思うような新しくて多様な価値観、概念のものが多いけれど、本作は鋭角すぎて怖さを感じてしまった。

    『トリプル』はその名の通り、3人1組の恋愛関係が主流になった世界線のお話。性描写のところは官能小説とも違い、描写が機械的ゆえにストレートで、読んでいてあまり心地よい感じはしなかった(汗)でも、こんな世界線は全然あり得るなと思った。

    『清潔な結婚』は性交渉を結婚生活から排除した夫婦が、子作りのためにクリーン・ブリードと言われる治療(直訳は清潔な繁殖)を受けるお話。セックスレスで悩む夫婦もいれば、二人のようにセックスはしたくないけれど子供は欲しいという悩みを抱える夫婦もいるわけで、夫婦の数だけ悩みがあるというのはその通りなのかもしれないなと思った。本作の治療はかなり過激的で、同じような悩みに対してもっと適切な治療方法あるんじゃないの??と思わずにはいられなかったけれど、こちらもあり得ない話ではなさそう。

    『余命』は自分で死期も死に方も選択できるようになった世界線のお話。これはもう全然あり得ると思う。というか、人の尊厳としてもっと早く受け入れられるべきものだと思う。たったの4ページの超短編だけれど、本作の中では一番気に入った作品でした。

    個人的に、村田沙耶香さんの作品は、めちゃくちゃ刺さるとか、誰かにおすすめしたいという感じではないけれど、なんとなく新作が出たら気にはなってしまい、読んでおきたい、という作品が多いです。合う合わないが分かれやすい作品でもあるかなと思います。なので、同じように、気にはなる…という方にはおすすめです。

  • 『殺人出産』
    「今から100年前、殺人は悪だった。それ以外の考えは存在しなかった」
    とても考えさせられる作品。この作品の著者がよくこんな本を書けるな、と。そのアイデアに驚嘆した。
    出産することで人口を増やすことに貢献することで殺人を許可されるというストーリー。
    確かに少子高齢化が進んでいる我が国で、人口を増やすということは大切なことなのかもしれない。けれど、殺人出産によって子供が産まれ、人が死ぬのだとしたら、何のために子供が産まれてくる必要があるのだろうと感じた。産まれた子供が殺人をするかもしれないし、反対に殺人出産によって殺されてしまうかもしれないから。100年もしたら、人口にフォーカスを当てなくとも、技術に焦点を当て少ない人口で人類が繁栄できるような社会が作り上げていくのではないかと私は思うから、そんなに人口に特段固執しなくてもいいのにと感じた。
    私も殺意を抱いたことはあるし、今でも嫌いだし、いなくなればいいのにって思う人がいるけれど、ちょっと10人は大変なんじゃないかなって思うと、その人のことは忘れて別のところで自分の幸せ探してあげたいなって思う。殺したい人を忘れる記憶喪失マシーンとか、やったあげればいいのにね、殺人出産をこれから行おうとする人たちに笑。
    最後、早紀子さんのお腹の中に赤ちゃんがいたということについて。早紀子さんは、今の社会の多くの人のように愛し合って子供を産もうとした人であり、子供に対して母性がある、お腹の中の赤ちゃんをなんとしても守らなければいけないと感じているような描写が描かれており、胸が苦しくなった。主人公がラストで、「たとえ100年後、この光景が狂気と見なされるとしても、私はこの一瞬の正常な世界の一部になりたい。」という発言。殺人出産だけでなく、現代を生きる我々にも当てはまるところが多くあるのではないかと感じた。例えば、イジメやコロナウイルスのワクチン、など。同調圧力のもとで、行われていることに対して私たちがもっと注意深く考えるべきなのではないかということを筆者は伝えたいのではないかと思った。また、考えた上で主人公のようにそのような世間の流行に流される人もいるのは、仕方のないことだとも伝えているのではないだろうか。
    とても興味深い作品だった。
    『トリプル』は、ちょっと私の今のもっている価値観で読むと、生理的に気持ち悪くて無理でした。
    『清潔な結婚』は、ラストの意味があんまり分からなかった。他の方の考察を読みたい。
    『余命』は、この筆者の一冊を通して伝えたい今当たり前でないことが当たり前になっている世界(この話では死について)においては、"余命"なんてものは存在しない。そんな世界が今後存在するかもしれないことを匂わせる世界線となっていて興味深かった。
    なかなか現代を生きる上で考えない視点で物語が描かれていて興味深かった。人と考察を語り合ったら楽しそうな作品。でも、ちょっと気持ち悪い笑、生理的に無理な人は無理かもー。

  • 面白かった。どのお話しも自分が想像したことないような世界観だった。特に殺人出産はすごく印象に残った。

  • YouTubeでマサキさんが紹介してるのを見て、気になって読んでみました。
    衝撃で星5。短編が4つありますが、表題作の殺人出産が一番おもしろいというか衝撃的というか。読んでいて怖くなりました。産刑とか怖すぎるわ。ホラー小説ではないのでしょうが、自分的には超ホラーでした。
    常識とか倫理観とか、とにかく揺さぶられましたね。
    でも確かに常識とか倫理観って、100年後とか全く違うものになっているんだろうな〜。100年前と今とでは全く違うように。とか色々読んだ後、考え込んでしまいました。
    読後感もあまりよくはありません。というか自分の常識ではかなり残酷で嫌悪感を感じました。この本、他の方の読後の感想気になりますね。どう感じるんだろう?
    他の短編もなかなかにクセ強な設定ですが、殺人出産が一番クセ強度が突出しています。私は記憶力がかなり弱いので、読み終えた本の内容って結構すぐに忘れてしまうのですが、この話は10年後とかでも覚えているだろうな。そのくらいインパクトはありました。
    村田沙耶香さんの他の本読みたくなったけど、また揺さぶられるかと思うとちょっと怖いなwメンタルが整っている時に読むようにしよう。

  • タイトルとあらすじから気になって読み始めましたが、まず発想が面白いし、違和感や無理矢理感が無くて本当にそうゆう考え方もあるんだな、と淡々と読むことが出来ました。
    村田沙耶香さんの作品は始めて読みましたが、よくぶっ飛んでる話しが多いとゆう印象でしたが、読みやすくて良かったです。他のもタイミングがあれば読んでみたいですね。

  • 読みやすい文章だからサラサラ読めた。テーマが人間の性と死という重いものなはずなのに、こんなにサラサラ読まされてしまうと、大したことの無いもののように思えるから不思議。
    殺人出産もトリプルも清潔な結婚、余命も読み終わると うわぁ〜とどんよりとした気持ちにさせられて…この薄気持ち悪さはどうしたものだろう。

  • はじめて読んだ作家さんでした。本当ならありえない世界感なのに本当にこれが常識になってしまうような気がしてしまい引きこまれていきました。
    他の作品も是非読んでみたいと思いました!

  • 作品紹介を読んでずっと気になっていた作品。

    常識や倫理観がぶっ飛んでいて全然理解できないと思いながらもなぜか読む手がとまらない。
    10人出産することで殺人ができたり、一生出産することが刑となる。理解を超える感覚に追いつけないままラストシーン。目を顰める描写でなかなかグロい。
    トリプルもあまり得意ではない世界。
     
    けれども常識と思っている世界を根底から覆す作品で、村田沙耶香さんはコンビニ人間に次いで2作目の読了だったけど、絶対に思いつかない世界観で読むたび凄いと思わさせられる。

  • 村田さんの小説は世界観が面白いなと思った。
    「コンビニ人間」でもそうだが、音の描写が多く、それがなぜなのか少し引っかかった。
    生きている中で何が正しく何がそうでないのか、何を軸に生きるのかは社会の流れや動きが関係しているんだなと思わざるを得なかった。読んでいて、モヤモヤするというか少し気持ちが悪いというか、そのように感じた部分も今生きている常識をもとに判断しているからなのだろう。普段の生活とは違いすぎて、だが遠すぎなくて、それゆえ面白い。

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。その他の作品に『殺人出産』、『消滅世界』、『地球星人』、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

「2021年 『変半身(かわりみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

村田沙耶香の作品

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