闇に香る嘘

著者 :
  • 講談社
3.63
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  • Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062190947

作品紹介・あらすじ

村上和久は孫に腎臓を移植しようとするが、検査の結果、適さないことが分かる。和久は兄の竜彦に移植を頼むが、検査さえも頑なに拒絶する兄の態度に違和感を覚える。中国残留孤児の兄が永住帰国をした際、既に失明していた和久は兄の顔を確認していない。

27年間、兄だと信じていた男は偽者なのではないか――。
全盲の和久が、兄の正体に迫るべく真相を追う。

選考委員の有栖川有栖氏が「絶対評価でA」と絶賛し、選考会では満場一致で受賞が決定。
第60回を迎える記念の年にふさわしい、江戸川乱歩賞受賞作!

感想・レビュー・書評

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  • 第60回江戸川乱歩賞受賞作品。
    選考委員の絶賛を浴びたと言うこともあり大いに期待して読む。
    うーむ、正直いってそんなに絶賛するほどの作品なのだろうか。
    いやね、面白く読めましたよ。
    特に後半なんて明日に障ると思いつつ寝る間を惜しんで読んじゃったもの。

    40代で失明した盲目の男性が主人公。
    戦後、満州から引き揚げてきたのだがその際に兄と生き別れになっている。
    その兄が残留孤児として帰国し20年以上もの月日がたっていた。
    ところがあることをきっかけにその兄が本物の兄かどうか不審に思うようになった。
    真実を知るために動き出した彼には様々な困難が待ち受け時には自分の命さえ危機にさらされてしまう。
    果たして兄は、あの兄なのか・・・。

    全盲の人がどんな生活をしているのかこの本を読むと良く分かる。
    描写がリアルで(果たして本当にリアルか分からないが)、読んでいる私まで暗闇に包まれたような重苦しい閉塞感が襲ってくる。
    さらに中国残留孤児の現状がこんなに厳しいものとは思いもしなかった。
    テレビで残留孤児たちの肉親捜しが行われていたのは遠い昔の記憶でしかなかったが、今なお当事者たちは様々は問題を抱えているのだ。
    それにしても政府の対応もひどい。

    こういった社会的背景の描写は緻密な取材に基づいているのだろう。
    ただ、肝心の人物描写がいかんせん浅い。
    この辺りが良くなったら物語に深みが出るのにと思うと非常に惜しい。
    最後の大団円のオチもちょっとね。
    さほどミステリーを読まない私がこんなこと言うのもなんですが。

    でもデビュー作でこれだけ読ませるのは手放しですごい。
    今後に期待したいと思います。

  • 中国残留孤児の「血縁と絆の対立」をテーマにしたミステリーだった。中国残留孤児の主人公の和久が自分の兄が本当の兄なのかを疑問に思う。和久は全盲の視覚障害者であり、真実を知るために動く。和久に対して母・兄は調べるな!と伝えられる。また、満州で一緒だった知人等に会っても真相にたどり着けない。和久の危険な時に必ず現れる「無言の影」、なぜ影が助けたのか?この奥深い真相には、戦争によって人生を狂わされたこの時代の不条理に落胆する。自分がこれまで知らなかった戦争の史実、兄弟愛、生体腎移植の問題を含む壮絶な内容だった。

  • 私が読む下村敦史氏作品の7冊目(アンソロジー含む)。
    本書がデビュー作とのこと。
    中国残留孤児を題材とし、主人公は全盲の視覚障碍者、というのはどちらも私の読書において初めての事象。

    全盲の視覚障碍者の「見えないもの」について、確かに言われてみればそうだろうなと思うことばかりだが、私には今までここまでの想像が全くできていなかった。
    全盲の視覚障碍者の恐怖心、猜疑心、不安感、不自由さを少しでも知ることができたのは良かった。
    日常の些細な作業や生活全般においても、猜疑心でいっぱいになってしまうのは当たり前だろうと思う。





  • 下村さんのデビュー作であり、苦節9年目に江戸川乱歩賞を受賞した作品。

    気合いの入った作品だった。
    満州開拓団、中国残留孤児という問題を脇役に語らせる事で分かりやすく、詳しくないわたしでも理解できた。
    70歳にして兄が偽物では?と疑念を抱く主人公。
    主人公が盲目という設定が、偽物かも?という兄への疑いを無理なく話が進む。

    この本の見開きに下村氏の受賞のコメントが。
    巻末に選考委員である作家らの選評が載っていた。
    選評がとても面白かった_φ(・_・

    受賞作なので内容は絶賛されてますが…
    応募時のタイトル「無縁の常闇に嘘は香る」
    「とにかくタイトルを何とかしろ」と言う今野敏さんに笑ってしまった。
    確かに今野作品のタイトルは短い笑

    落選した作品の選評はみなさんボロクソ笑
    「何の為に500枚も読まされたのか唖然とした」
    これまた今野敏さんの選評笑


    こんな選評を9年間もらいながら、クサる事なく挑んだ下村さんは凄い( ̄▽ ̄)


    以下巻末に掲載されていた受賞経緯です♪

    第52回(2006年)から毎年江戸川乱歩賞に応募し続け、9度目で受賞に至った。この間、5度最終候補に残り、落選に落ち込む時もあったが、未熟さを見抜いた選考委員からの激励と受け取り、励むことが出来たという。[1]選考委員からは「相対評価ではなく、絶対評価でA」(有栖川有栖)、「自信をもって世に出せるものを送り出せた。ぜひ期待してほしい」(今野敏)と高評価だった[2]。応募時・受賞時のタイトルは「無縁の常闇に嘘は香る」だったが、「タイトルが意味不明」(石田衣良)、「作品のコンセプトを語り過ぎている」(桐野夏生)、「とにかくタイトルを何とかしてほしい」(今野敏)と総じて不評で、改題に至った。


    タイトルは大事ですよね( ̄▽ ̄)笑

    • 1Q84O1さん
      大丈夫です!
      どれも読みやすいからサクサク読めますよw
      手を出してくださいねw
      大丈夫です!
      どれも読みやすいからサクサク読めますよw
      手を出してくださいねw
      2023/01/19
    • なおなおさん
      みんみんさん、私も読みました。
      最後…そういうことだったのかと。面白かったです。
      それにしても応募時のタイトル、何のこっちゃ((੭ ᐕ))?...
      みんみんさん、私も読みました。
      最後…そういうことだったのかと。面白かったです。
      それにしても応募時のタイトル、何のこっちゃ((੭ ᐕ))?ですね笑
      良かった…タイトル変えてくれて^^;今野敏さんの「とにかくタイトルを〜」がキツイけど笑えます。
      お話にぴったりなタイトルになりました✧*。
      2023/01/19
    • みんみんさん
      なおなおさん今晩は〜♪
      面白かったですよね(^ ^)
      タイトルで読んでみたくなることあるから
      センスないのはダメです笑
      なおなおさん今晩は〜♪
      面白かったですよね(^ ^)
      タイトルで読んでみたくなることあるから
      センスないのはダメです笑
      2023/01/19
  • 27年間兄だと信じていた男は何者なのか?中国残留日本人で永住帰国した兄の顔を盲目になった主人公は確認していない…

    初めてのタイプのミステリ。主人公が盲目の為に視覚からの情報が全く無い。真実がわかった時は思わず息を呑んだ。

  • 2020/07/14読了
    #このミス作品34冊目

    満州で生き別れとなり残留孤児として
    帰国した兄に対する偽物疑惑。
    全盲の主人公が正に手探りで捜査する。
    とても骨太なストーリーに加え
    親子兄弟の強い絆に感動する。

  • 江戸川乱歩賞受賞作…もうほんと良かった。

    中国残留孤児のことや満州からの引き上げのこと、臨場感があって読んでいて思わず息を呑んだ場面も多々あった。
    40余歳で全盲になったことで自分自身と家族が戸惑い、その上数々の違和感を感じたら疑心暗鬼になるのも当然だと思う。

    ところが結果、善意に溢れた登場人物たちに、意味で予想を裏切られた。良かった。

  • 横浜港でのコンテナ船から現れた不法移民とみられる人々。彼らは窒息死していた。そこから逃れた人影。

    孫の生体腎臓移植に不適合だと言われた69歳にならんとする中途失明者の祖父・村上和久。一縷ののぞみをかけ実家の兄に頼みに行くと検査も拒否。そこから生まれる、兄は本当の兄なのか? 検査で事実が顕わになるのを恐れているのでは? むくむく大きくなる疑惑。

    和久は満州で生まれ命からがら母子二人で帰ってきた。途中兄とははぐれ、兄は残留孤児としてようやく帰ってきて岩手の実家で母と暮らしていたのだった。兄は財産めあてで日本に来た中国人なのではないか? 疑惑を明かそうといろいろ調べ始める和久の周りで不穏な空気と事件が起きる。

    冒頭のコンテナ船といい、和久の周りで起きる不穏な空気といい、読んでいると目の見えないだけに疑惑が膨らんでしまう和久の焦燥感がじりじりと高まってゆくのを感じる。ページをめくる手が止まらない感じだ。人物描写が上滑気味で、ちょっといろいろな事件が都合よく収まる感じはあるが、満州開拓のひずみをからめて、疑心暗鬼の心理がよく描かれていると思う。最後のどんでん返しがう~む。

    下村敦史氏は初めて読んだ。

    第60回(2014年度)江戸川乱歩省受賞作。

    2014.8.5第1刷 図書館

  • 帯文で興味を持って購入。
    27年間兄だと信じていた人物は何者なのかという謎を全盲の弟が追う、という設定。
    全編に漂う閉塞感、不安感はさすがの筆力で、読みながら「見えない」感覚をずっと味わっていた。こんなに不安で閉じ込められた感じがするものなのかと。
    残留孤児の問題もそうだが、満州からの引き揚げの話はとても重かった。私の父も引き揚げ者なのだ。かつて一度だけ話をしてくれたが、とても苦しそうだった。
    ちょうど敗戦記念日の今日この作品を読んだことになにかしらの意味があるようにも思う。
    疑念や疑惑が次々に生まれては反転し、いったいどういうことなのかという興味に引っ張られて一気に読んでしまった。たった一行ですべてが変わる、と選評にもあるが確かにそうだった。伏線も見事に回収されていて、途中で浮かぶ違和感がきちんと解決されていて気持ちがいい。ラストはじんわりとあたたかいものが胸を満たす。
    大変読み応えのある作品だった。

  • これは参った!
    なんかサスペンスというよりも中国残留孤児の話だけが
    したかったんちゃうんって思っていたら
    最後のどんでん返しでうやむやが全部つながるという!!
    これぞ小説!

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著者プロフィール

1981年、京都府生まれ。2014年に『闇に香る噓』で第60回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。同作は「週刊文春ミステリーベスト10 2014年」国内部門2位、「このミステリーがすごい! 2015年版」国内編3位と高い評価を受ける。著書に『生還者』『難民調査官』『真実の檻』『失踪者』『告白の余白』『緑の窓口 樹木トラブル解決します』『サハラの薔薇』『法の雨』『黙過』『同姓同名』『ヴィクトリアン・ホテル』『悲願花』『白医』『刑事の慟哭』『アルテミスの涙』『絶声』『情熱の砂を踏む女』『コープス・ハント』『ロスト・スピーシーズ』などがある。

「2023年 『ガウディの遺言』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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