九年前の祈り

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 889
レビュー : 120
  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062192927

作品紹介・あらすじ

九年前の祈りは第152回芥川龍之介賞を受賞している作品です。朝日新聞をはじめとして各新聞でも講評が高く評価されています。幼い息子を連れて小さな集落に戻ってきたシングルマザーが主人公です。自分の故郷で主人公の女性が親友や人々との関わりの中で成長していく姿を丁寧に描いています。タイトルの9年間は必要な時間だったのでしょう。

感想・レビュー・書評

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  • 正式に籍を入れていなかったカナダ人の男に去られシングルマザーとして郷里の大分に帰ったさなえ。まだ幼い息子の希敏(けびん)はハーフゆえ天使のような外見ながら、母親であるさなえとすら意思の疎通が難しく、突然ミミズのようにのたくって泣き叫ぶ。温厚な元教師の父、迷信深いけれど現実的な母、閉鎖的なムラ社会。その中でだたでさえ難しい息子を育てる苦しみ。さなえが思い出すのは、9年前に町の企画で一緒にカナダ旅行に行った数人のおばちゃんたち、そのなかでも陽気で優しかった「みっちゃん姉」のこと。当時まだ若く未婚だったさなえには理解できていなかったが、みっちゃん姉はやはり障害を持つ息子の子育てのことで苦労していたのだった。

    世代に関係なくいつの時代も子育ては大変だし、結局時代が変わっても同じことの繰り返しなのだということが、進歩がないという嘆きよりも逆に、これはもう仕方ないこと、私だけの不幸ではない、という妙な安心感につながっているような印象を受けた。個人的にはさなえの母親や、かつて一緒に旅行にいったおばちゃんたちの独特のパワフルさが、いきいきしていて良いと思った。さなえの母はとくに、自分の母親と重ねてしまった。娘を傷つけたいという悪気はまったくないのだろうけれど、母親という生き物のいや~な部分をたっぷり持ちつつ、それなりに娘や孫を愛していないわけではなくて、ときにその限りない現実主義に救われもする。けれどふとした言葉の端にやっぱり「娘の幸せが気に食わない」潜在意識下の同族嫌悪がにじみ出る感じ。

    表題作以外の短編も同じ場所を舞台にしていて、登場人物も関連している。他作品もすべて読むことで世界観が深まるのは良かった。単品としてはラストの「悪の花」が一番好みだったかな。なんだろう、近所の誰の事も幾つになっても「○○兄」「○○姉」と呼び合うところとか含め、ちょっと中上健次の路地的な雰囲気があった気がする。

    ※収録
    九年前の祈り/ウミガメの夜/お見舞い/悪の花

  • 腐敗から生じた毒がさなえの体を通して息子に伝わったのか。ひきちぎられたミミズ。激しく身をよじらせるミミズ。背後には悲しみが立っている。悲しみが行う慰めは、さすられる者とそれに気づいてしまった者の心の痛みを増すだけ。心はひどく落ち着かない。なのに太陽の光を浴びる建物もその上に広がる青い空も美しい。逡巡に苛まれながらも気づいたときには悲しみは後ろにはなかった。悲しみは聞きたくなければ聞かなければいい。相手にされなければ悲しみの方から去っていく。

  • こういう田舎が舞台の小説読んでて思うのだけど、都会で生まれ育った人はどんな感想を抱くのだろう?
    私は田舎生まれ田舎育ちなので、この干からびた空気感が非常になまなましく思い出せるのだけど。

    悪の花が咲く話がよかったな。
    咲きまくって集落を覆い尽くせばいいんだよ。

  • 日曜美術館の小野正嗣。装飾の多い文章だが、読みやすく、引き込まれる。芥川賞(第152回)にふさわしい作品。故郷の大分の海岸沿いの集落をベースにした連作集。どのシーンも、映像が思い浮かぶので映画化してもよさそう。

  • 最初の「九年前の祈り」のみ読み切ったが、読解力不足か、理解できず。
    連作とは知っていたけれど、続きは読めなかった。
    何を言いたかったんだろうな。

  • ★方言の強さ★精神面での障害がありそうな子供に対する母親のいらだちはどこにもぶつけようがない。振り返ってみればそれを抱えながら明るく振舞っていた近所のおばさんの思いに気づき、救いにつながっていく。(大分の)方言を生かしたからこそ、年配の女性のたくましさが引き立つ。田舎の女性の芯の強さというのは思い込みかもしれないが、独特の言葉はやはり強い。修飾表現がやや過多のように思え鼻についたが、徐々に慣れた。しかしなぜ「くねんまえ」ではなく「きゅうねんまえ」なのだろう。

  • 田舎のおばちゃんたちの胴間声、頭に浮んだことをそのまましゃべる、そうなんだよねえ。南の方でもそうなんかい。
    そして地方はどんどん人が少なくなっていく。海の物も山の物も採れてきれいな水があり、薪炭に困らないところに昔はヒトが住み着いたのだなぁ。

  • すごい才能!すごい作家出た!

    ここ10年、20年くらいの芥川賞は「?」と思うものが多かったけど、久しぶりに納得がいく、久しぶりに芥川賞らしい作品が出たという感じです。

    【メモ】
    自閉症の息子、カナダ旅行で出逢った夫
    短編3つ、登場人物がリンク

  • 大分の小さな海辺の集落に東京から帰省したさなえの息子希敏はフライトの機内でスイッチが入ったように大声で泣き叫ぶ。障害がある息子の子育てに疲れたさなえの脳裏にふと9年前の海外旅行で同行したみっちゃん姉のことを思い出す…。心理描写や情景描写が細かい。男性作家でいらっしゃるのに母親というか女性の心理(とくに暗いほうの)が巧みで凄いと思った。他の3つの短編も皆この大分の漁村を舞台にしていて登場する人々がそれぞれの物語に関連してくるのも面白かった。ただ比喩が多過ぎて読みにくく、そんなに厚手の本ではないのに読むのに時間がかかってしまった。そもそも芥川賞作品は比喩が多いのでしょうか?その比喩も人間の心のダークな部分を動植物に投影させて描いていて表現が斬新。でも難しい。

  • 2015.3/27 芥川賞作品って受け付けないときは、とことん受け付けない。シングルマザーとして障害児?の息子を育てる大変さは並大抵ではないのだろうけど、過去ばかり振り返る感がどうにも...

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著者プロフィール

1970年、大分県生まれ。小説家、仏語文学研究者。現在、立教大学文学部文学科文芸・思想専修教授、放送大学客員准教授。2001年、「水に埋もれる墓」で朝日新人文学賞、2002年、『にぎやかな湾に背負われた船』(朝日新聞出版)で三島由紀夫賞、2015年、『九年前の祈り』(講談社)で芥川龍之介賞受賞。エッセイ集に『浦からマグノリアの庭へ』(白水社)、訳書にV・S・ナイポール『ミゲル・ストリート』(小沢自然との共訳、岩波書店)、ポール・ニザン『アデン・アラビア』(河出書房新社)、アキール・シャルマ『ファミリー・ライフ』(新潮社)ほか多数。

「2018年 『ヨロコビ・ムカエル?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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