九年前の祈り

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062192927

作品紹介・あらすじ

九年前の祈りは第152回芥川龍之介賞を受賞している作品です。朝日新聞をはじめとして各新聞でも講評が高く評価されています。幼い息子を連れて小さな集落に戻ってきたシングルマザーが主人公です。自分の故郷で主人公の女性が親友や人々との関わりの中で成長していく姿を丁寧に描いています。タイトルの9年間は必要な時間だったのでしょう。

感想・レビュー・書評

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  • 繊細な性格で、すぐパニックを起こす息子の子育てに悩んでいた女性が、昔世話になった、「みっちゃん姉」のことを回想する物語。身近に似た境遇の子を育てた人がいるのは、心強いことだなと思った。芥川賞を受賞した表題作の他、3作を収録した連作短編集。

    表題作と『悪の花』は、純文学という印象が強い作品だったが、他の2作は軽く読める作品だった。

  • 正式に籍を入れていなかったカナダ人の男に去られシングルマザーとして郷里の大分に帰ったさなえ。まだ幼い息子の希敏(けびん)はハーフゆえ天使のような外見ながら、母親であるさなえとすら意思の疎通が難しく、突然ミミズのようにのたくって泣き叫ぶ。温厚な元教師の父、迷信深いけれど現実的な母、閉鎖的なムラ社会。その中でだたでさえ難しい息子を育てる苦しみ。さなえが思い出すのは、9年前に町の企画で一緒にカナダ旅行に行った数人のおばちゃんたち、そのなかでも陽気で優しかった「みっちゃん姉」のこと。当時まだ若く未婚だったさなえには理解できていなかったが、みっちゃん姉はやはり障害を持つ息子の子育てのことで苦労していたのだった。

    世代に関係なくいつの時代も子育ては大変だし、結局時代が変わっても同じことの繰り返しなのだということが、進歩がないという嘆きよりも逆に、これはもう仕方ないこと、私だけの不幸ではない、という妙な安心感につながっているような印象を受けた。個人的にはさなえの母親や、かつて一緒に旅行にいったおばちゃんたちの独特のパワフルさが、いきいきしていて良いと思った。さなえの母はとくに、自分の母親と重ねてしまった。娘を傷つけたいという悪気はまったくないのだろうけれど、母親という生き物のいや~な部分をたっぷり持ちつつ、それなりに娘や孫を愛していないわけではなくて、ときにその限りない現実主義に救われもする。けれどふとした言葉の端にやっぱり「娘の幸せが気に食わない」潜在意識下の同族嫌悪がにじみ出る感じ。

    表題作以外の短編も同じ場所を舞台にしていて、登場人物も関連している。他作品もすべて読むことで世界観が深まるのは良かった。単品としてはラストの「悪の花」が一番好みだったかな。なんだろう、近所の誰の事も幾つになっても「○○兄」「○○姉」と呼び合うところとか含め、ちょっと中上健次の路地的な雰囲気があった気がする。

    ※収録
    九年前の祈り/ウミガメの夜/お見舞い/悪の花

  • 読み進めていくと薄く剥いだ断片が降り積もって、全体が見えて来る独特の感覚(見えないままのところも割とあって、それもそれでいい)。
    現実から少しだけはみ出しているところも素直に受け入れられた。
    収録作が全て緩く繋がって、他の作品の別の面が見られるのも良かったなぁ。

  • 芥川賞作品、連作短編と知らずに読み進め、独特な長めの言い回しが多少気になったが、田舎の空気を感じながら、続きが気になりページをめくった。結局難解で、一度読んだだけでは未消化。図書館本で予約がたくさん待っていなければ、もう一度読み返したかった。のたうちまわるミミズ は、みなさんが言うほど不適切な表現ではないと思った。自閉症の子(なのかは分からないが)のパニック状態は、そんなイメージもあると思う。大学生はなぜ海亀をひっくり返し、もがく亀をそのままにしたのか、私には難しすぎて、その話では不快感のみ。

  • こういう田舎が舞台の小説読んでて思うのだけど、都会で生まれ育った人はどんな感想を抱くのだろう?
    私は田舎生まれ田舎育ちなので、この干からびた空気感が非常になまなましく思い出せるのだけど。

    悪の花が咲く話がよかったな。
    咲きまくって集落を覆い尽くせばいいんだよ。

  • 芥川賞受賞作でありながら、なかなか読むチャンスに恵まれずようやく今頃になって読了。
    大分方言が出て来るので、人物がリアルに動き出す。
    発達障害?の子供を育てる中で、過去の記憶と現在の葛藤が
    交錯していく。
    記憶から今を生きて行く術を見いだせているのかどうか。

  • 腐敗から生じた毒がさなえの体を通して息子に伝わったのか。ひきちぎられたミミズ。激しく身をよじらせるミミズ。背後には悲しみが立っている。悲しみが行う慰めは、さすられる者とそれに気づいてしまった者の心の痛みを増すだけ。心はひどく落ち着かない。なのに太陽の光を浴びる建物もその上に広がる青い空も美しい。逡巡に苛まれながらも気づいたときには悲しみは後ろにはなかった。悲しみは聞きたくなければ聞かなければいい。相手にされなければ悲しみの方から去っていく。

  • 芥川賞受賞作。

    4編の読み切りですが、それぞれが関係しているお話。


    ■九年前の祈り
    渡辺ミツさんの息子が病気らしい。
    ミツさんの息子は、軽い障害?知恵遅れ?があるようだ。

    主人公は、安藤さなえ35才。カナダ人との息子ケビン(希敏)を連れて、半年前に大分の実家に戻った。
    ケビンは、知らない所では泣き叫びパニックを起こす病気?障害?だ。

    9年前、さなえが働いていた教育委員会の企画で、町の国際交流のために、カナダのトロントに7人の女性が出かけた。外国語指導助手ジャックが企画にも携わり、ガイドも担当。ジャックの友人で、カナダでのガイドをしてくれたフレデリックが、後のケビンの父である。

    ミツさんの息子のお見舞いに、厄除けの効果があると言われる文島の貝殻を持って行こうとした。
    その時、ケビンとはぐれてしまい…。

    9年前の出来事と、現在が錯綜しているが、その時間はわりと理解できるように書かれている。


    ■ウミガメの夜
    大学生3人が、海ガメの産卵を見にやって来た。大分県佐伯市。
    その1人が主人公の今野一平太。一平太は、離婚した父の実家が、ここにあり、祖父に連れてきてもらったことがあった。
    父の名は日高誠、祖父の名は日高道男。
    父方の祖父の家と思って訪ねた家は、タイコーと言う人の家だった。タイコーの家の前に、ちよ姉と呼ばれる老婆が、眠るように座っていた。
    タイコーは、大分の病院に入院している。一平太の母も癌の末期で入院中。

    細やかに、様子が描かれている。


    ■お見舞い
    この主人公は、トシと呼ばれる首藤寿哉。
    トシは、漁師の家に生まれた三男。わりと裕福に育ったが、兄たちからの暴力が絶えない家だった。
    トシは、連れ子娘2人のいる美鈴と結婚し、息子2人をもうける。

    トシの3つ上の日高誠(マコ兄)は、次兄寿基(トシキ)の同級生だったが、小さなころからトシに優しく遊んでもらい、トシは慕っていた。
    マコ兄は、東京の大学に行き就職したが、20代後半に、郷里に戻り、地元の役所に就職した。
    そのマコ兄が、10年ほど前からおかしくなった。それまでは、離婚した妻に引取られた子どもに会いに東京に行っていたが、行かなくなってからだ。
    マコ兄の金使いは荒く、借金を重ねながら、飲んだくれたり女遊びをしたり…トシもよく付合い、運転手をしていた。
    マコ兄は、役所もやめて、自宅で飲んだくれた日々を過ごしていたが、トシは放っておけず、食料や酒などを買って家に置いておいた。また、パトロールと称して、海岸や町中をドライブするのにも付き合っていた。
    ドライブ中、マコ兄が、昔、我が子を夏休み預かって、ウミガメの産卵を見せたことを話していた。

    トシは、マコ兄を家に送り、海岸沿いを走っていると、友人たちが浜辺で飲んでいた。そこに合流して、しばらくすると、「ウミガメの夜」のウミガメを見に来た大学生3人に会った。
    大学生は、入院している母の具合が悪くなって、東京に帰らなければならないが、車が故障した。そのため、駅まで送って欲しいと。早く帰るなら、飛行場まで送ると、車を走らせる。

    トシは、昔、イジメていた伽(とぎ)という友人のお見舞いにいったが、家族の意向で面会できなかった。マコ兄も伽(とぎ)の見舞いに行きたがっていた。


    トシが空港に送った大学生は、マコ兄の息子です。
    伽(とぎ)は、タイコーなのかな?


    ■悪の花
    この主人公は、吉田千代子。
    75歳から、膝が悪くなり、様々なことに苦労するようになった。
    民生委員の渡辺ミツが、色々世話をやいてくれた。ミツの息子がタイコー。
    また、千代子が、毎朝、日課にしていた墓参りができなくなり、1年ほど前から、タイコーが代わりに墓参りをしてくれるようになった。

    千代子は、幼い頃に両親が亡くなり、兄とともに祖父母に育てられた。兄は戦争で亡くなった。自分が、再婚の男の嫁いだが、子どもが出来ず、義母に離婚を迫られ離婚。その後、学校の用務員として働く。
    後に、自分の前の前妻が自殺、元夫も亡くなり、元義理の母も亡くなる。
    自分は、根も葉もない噂(多分、噂で事実でないと思うが、本からは不明)をたてられ、自分自身も自分を責めていた。その時、鏡に映った自分の近くの見えるところに、悪の花が咲いていた。
    お墓の周りに咲いているのも、悪の花で、それを取ってくれていたのがタイコーだった。

    う~ん、よくわかりません。



    ブクログ内で、小説読了214冊。

  • 桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/volume/1122696

  • ▼福岡県立大学附属図書館の所蔵はこちらです
    https://library.fukuoka-pu.ac.jp/opac/volume/172375

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著者プロフィール

1970年大分生まれ。東京大学大学院単位取得退学。パリ第8大学文学博士、現在、明治学院大学文学部フランス文学科専任講師(現代フランス語圏文学)
著書に『水に埋もれる墓』(朝日新聞社、2001年、第12回朝日新文学賞)
『にぎやかな湾に背負われた船』(朝日新聞社、2002年、第15回三島由紀夫賞)

「2007年 『多様なるものの詩学序説』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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