偽詩人の世にも奇妙な栄光

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 88
感想 : 9
  • Amazon.co.jp ・本 (146ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062193931

作品紹介・あらすじ

吉本昭洋は中学2年の時、詩に出会った。教科書に載っていた中原中也の詩だった。以来彼は、詩を愛するようになり、生活の大半を詩に捧げるようになった。しかし、彼は詩を作らなかった。いや、作れなかったのだ。詩を愛しながら、詩作の才能の欠如を自覚した彼は、大学卒業後、商社に入社し、ビジネスマンとして世界各国を渡り歩く生活を送ることになった。しかしその後、出張先のニカラグアで、ある衝撃的な事件に遭遇する……。

感想・レビュー・書評

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  • 「昭洋は永遠の読者たることを宿命づけられていた。(中略) むしろ読めば読むほど、あたかも砂漠の逃げ水のように、書くことは昭洋から遠ざかってゆくのだった。」
    「すなわち、詩が書けないということさえ度外視するならば、昭洋は宿命的に詩人だった。」

    詩人四元氏の初小説。
    面白い!
    現代詩人の小説というと小難しくなりそうだけれど、詩から切り離してきっちり小説の文章で小説の物語が綴られているのだから恐れ入る。
    「文学少年/少女」の何割かは確実にこじらせたことのあるだろう中原中也にのめり込む十代の主人公の姿は身に覚えがあり過ぎて、もうやめて!と悲鳴をあげたくなるのだけど、そこから加速していく物語がとても面白い。
    こよなく詩を愛しているのに、主人公は性格というか性質上、詩を書くことが出来ないのだ。
    また、物語に絡めて語られる古代からの詩、そして現代詩の状況は、こちらはやはり実際に現代詩人であるから語れることで、一石二鳥感がある。
    ラスト付近、主人公について評論家が意見を述べる場面がとてもいい。
    ただ、結末が尻すぼみになってしまった感があって、それだけが残念。

  • 昨年読みそびれていたものを手に取った。

    文芸が好き、翻訳が好き、できればその道に進みたい…という方面のみなさまには、全方位から「あ痛たたっ!」という攻撃を仕掛けられている感触のする作品だと思う。好きなものから離れられない(まあ、離れる必要があるわけではないが)、でもその道に進むには才能に乏しい。あきらめて何年も経ち、出かけた土地で出会った作品があるとき口からこぼれてしまったときの賞賛を受けて、小さな嘘が交じる。また称賛される。新たな「作品」を追加投入、称賛…のスパイラル。

    念のため言っておくと、道徳の教科書的に読む作品では決してない。そうとはいえ、創作における「禁じ手」をめぐる人間の心理と行動を描いた作品であるし、クリエイティブな活動の基盤を持っている人がそれを自覚してやるぶんにはその代償も大きいのはある程度はしょうがないのかなあと思うけれど、これと同じことはネット上で結構目にする。しかもそっちのほうが多くの称賛を受けているという点も変わらない。世の中は引用に満ちているのは経験上わかっているものの、そこは何というか、目をつぶれるものとつぶれないものがある。偶然の一致とは考えられないものが自分とは別の方向から飛んでくると、結構びっくりしますよ。

    知性がすみずみにまで行きとどいた華麗な筆致と、主人公が最初にハマる作家がナイーブさ全開の中原中也ということから、森見登美彦氏が描くところの「太宰治に心酔する腐れ大学生」のような人物を中心に据えた、笑いの勝った面白悲しいストーリーなのだろうとうっかり錯覚してしまったが、面白悲しさはあるものの、そういうおかしみとは離れた、シビアな面を直球勝負で見せつけられる作品だった。仕事・趣味にかかわらず、素材をネットのコピペで済ませりゃよいとほぼすべてにわたって思ってる人、ちょっと読んでから来るように。なにも取って食ったりはしないから。

  • 文学

  • 中学時の明けても暮れても中原中也から、ヨーロッパ、古典、古今東西の詩への遍歴。詩への深い洞察を得ながらも自分では書けない。商社に就職、世界を渡り歩くうち、各地の詩祭に参加するようになる。帰国後、即興詩合戦、ネタは自由に創造的に翻訳した詩祭の詩集。

    オリジナルであるかどうかの判断にこそ問われる、知識と愛。

  • リズム、リズム、リズム。訥々、緩急、強弱、シンコペーション…言葉の波のリズムに襲われるような文章。
    自虐と自嘲と自戒のぐるぐる巻き。

  • Twitter文学賞

  • 独創と模倣の線引きはまことに難しい。

  •  小説なのではあるが、詩論として、詩とはなにか、という問いに対する答えとして読むと一定の納得が得られる。
     主人公は若い時から詩を読むことが好きだけれども自分の筆としてものすことが出来なかったが、翻訳を通じて自分の筆に乗せることが出来るようになった、というくだりが感動的である。が、のちにポエトリーリーディングに出るようになった時に何故正直に「翻訳だ」と言い出せなかったのか、コトが大きくなるまでに正直に言えなかったのか、というあたりがストーリーの犠牲になっている。そうでもしないと話が進まないから、というのはちと乱暴かなぁ。

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著者プロフィール

編者:四元康祐
1959年、大阪生まれ。86年アメリカ移住。94年ドイツ移住。
91年第1詩集『笑うバグ』を刊行。『世界中年会議』で第3回山本健吉賞・第5回駿河梅花文学賞、『噤みの午後』で第11回萩原朔太郎賞、『日本語の虜囚』で第4回鮎川信夫賞を受賞。
そのほかの著作に、詩集『単調にぼたぼたと、がさつで粗暴に』『小説』、小説『偽詩人の世にも奇妙な栄光』『前立腺歌日記』、批評『詩人たちよ!』『谷川俊太郎学』、翻訳『サイモン・アーミテージ詩集 キッド』(栩木伸明と共著)『ホモサピエンス詩集 四元康祐翻訳集現代詩篇』など。
2020 年3月、34年ぶりに生活の拠点を日本に戻す。

「2020年 『地球にステイ! 多国籍アンソロジー詩集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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