世界の果てのこどもたち

著者 :
  • 講談社
4.14
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本棚登録 : 938
レビュー : 169
  • Amazon.co.jp ・本 (386ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062195393

作品紹介・あらすじ

戦時中、高知県から親に連れられて満洲にやってきた珠子。言葉も通じない場所での新しい生活に馴染んでいく中、彼女は朝鮮人の美子(ミジャ)と、恵まれた家庭で育った茉莉と出会う。お互いが何人なのかも知らなかった幼い三人は、あることをきっかけに友情で結ばれる。しかし終戦が訪れ、珠子は中国戦争孤児になってしまう。美子は日本で差別を受け、茉莉は横浜の空襲で家族を失い、三人は別々の人生を歩むことになった。
あの戦争は、誰のためのものだったのだろうか。
『きみはいい子』『わたしをみつけて』で多くの読者に感動を与えた著者が、二十年以上も暖めてきた、新たな代表作。

感想・レビュー・書評

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  • 戦時中の満州で出会った3人の少女たちが主人公のこの物語。それぞれが激動の運命に翻弄されながらもしっかりとその後の人生を歩んだ。時を超えて彼女達を再会させるきっかけとなったのは一つのおむすびだった・・・。

    綿密で丁寧な取材を重ねたことが良く分かる。中脇さんは子供を描くのが非常にうまい作家さんであるけれど、また今回は戦争を描いたという点で完全な新境地に踏み込んだと思う。作者の意気込みがひしひしと伝わってきた。

    私の両親はこの少女達と同世代でいわゆる戦前生まれではあるけれど、辛い戦争体験は全く聞いたことがない。戦争とは国家で引き起こされるものではあるけれど、戦争体験となると非常に個人的なものということだろうか。
    だからこそ、戦後70年となった今、私達は個人的な体験として戦争を振り返る必要があるのだと思う。いかに多くの人々が、国家の意志の元に犠牲になったのか知るべきだ。

    中国残留孤児となった珠子、在日朝鮮人として生きる美子、そして空襲で全てを失った茉莉。
    どんなに辛くても自分の運命を嘆くことなくしっかりと受け止めて前を向いて歩んでいく彼女達の姿に心打たれる。

    彼女達と同じように、いやもっともっと辛い戦争体験を持つ人は沢山いる。
    個人個人の戦争体験が今何を語りかけるのか。あの戦争は何だったのか。この本が改めて考えさせる良いきっかけになった。
    どこぞの議員に「戦争に行きたくない」がどんなに利己的だと非難されようと、「戦争に行きたくない」、「戦争反対」を言い続けていきたい。

  • 1944年の夏。3人の女の子が満州で出会う。3人は、大人たちに内緒で、小さな冒険に出かける。しかし、突然のハプニングに見舞われ、心細い一夜をともに過ごすことになる。
    その夜が、終生、忘れられぬ夜になるとは知らずに。

    1人は珠子。高知の貧村から、満州移民団として家族とともにやってきた。一家は少しでも楽な暮らしができることを夢見ている。
    1人は茉莉。横浜の裕福な貿易商の家に生まれた。父親に連れられ訪れた。満州はほんのひとときの旅先。すぐに横浜に戻ることになっている。
    1人は美子(ミジャ)。朝鮮中部の出身だが、父は暮らしの厳しさから故郷を出て、満州で日本人の開拓団村で職を得たのち、家族を呼び寄せた。

    満州で暮らす珠子と美子はすでに友達である。そこにやってきた、戦時には場違いなほどの洒落た服装の茉莉との出会いは、さほど親しみに満ちたものではなかった。だが、子供の常で、一緒の時間を過ごすうち、互いの垣根が取り払われていく。

    茉莉はお金持ちでわがままに育ったお嬢様らしく、いささか鼻持ちならないところがある。しかし、物怖じをしない闊達さがまた、愛されているものならではの魅力である。
    しっかり者の美子は、子供ながらにこれまでもさんざん苦労をしているだけに、思いやりの心を持っている。
    珠子は臆病なところもあるが、素直で優しく、周りを見つめる澄んだ目を持つ。

    子供時代の短いきらめく時をともに過ごした3人は、この後、苛酷な人生を送ることになる。

    日本に戻った茉莉は、横浜で空襲に遭い、すべてを失う。
    美子は時勢に追われて日本に渡り、在日として苦難の日々を送る。
    珠子は敗戦とともに満州の村を離れ、流浪の果てに、母から引き離されて人買いに売られてしまう。

    戦時、困難は特に、弱きものに多く降りかかった。
    戦災孤児。引揚者。残留孤児。抑留者。
    膨大な文献にあたったのだろう本作は、開拓団、在日社会、養護施設をつぶさに描きつつ、常に視点を弱きものに置く。
    まるで、一番語られるべき物語はここにあったと言うかのように。
    多くの心に残るエピソードがあり、読む人それぞれに強い印象を残すだろう。

    一番、勝ち気であるように見える茉莉が、3人の中で一番の奈落を抱えている。
    戦時中、そして終戦時に、周囲の人の絶望的な冷たさに気づく茉莉は、しかし、同時にそれが自分の中にもあることに気づいてしまうのだ。
    そして、戦時の高揚に自分も無縁ではなかったこと。自分の手が実は、引き金につながっていたこと。
    その暗い絶望の淵は、実はラストまで埋められてはいない。
    それはいつか克服できるものか、それともやはりできぬものか。
    投げかけられた問いが重く残る。

    3人は苦難の末に、再会を果たし、この先も生きていくことを誓う。
    本作では、過去のさまざまな出来事の記憶が丁寧に繰り返し拾われる。これはおそらく、この著者の持つ1つの特性なのだろうと思う。
    過去を抱え、記憶を道連れに、その先への一歩を。
    読みながら、何とはなしに、ずっと昔に読んだスタインベックの『エデンの東』の一節を思い出していた。
    「汝、--することあるべし」。
    今は克服できないかもしれない。けれどいつか、克服する「可能性」があるはずだ。いつかを求め、人は旅する。
    すべての問題が「今」解けなくても。己の黒さも、世界の冷酷さも、解決はできなくても。つらくても、苦しくても。
    くちびるに歌を持ち、心に太陽を持ち、希望を捨てず、一歩一歩進む。
    これはそんな物語なのかもしれないと思う。


    *満州については、もう少し追いたいと思っています。川端康成『美しい旅』(川端康成全集〈第20巻〉小説 (1981年))に関する、個人的な思い入れからの流れです。戦争の「渦中にある」とはどういうことか、断続的に考えています。

    関連書
    ・『浮浪児1945‐: 戦争が生んだ子供たち』
    ・『近代文学の傷痕―旧植民地文学論』

  • 戦中・戦後のドラマを見たり、本を読んだりして「なんて辛く、苦しい生活なんだ(T-T)」なんて言っていると、必ず「その当時は皆そうやったんやで、そんな事思わへん( ̄^ ̄)」と戦中・戦後をガッツリ生きてきた婆が言う(--;)それはそうかも…(^^;)だけど、生まれも育ちも違う三人の女の子が戦中に満州で出会い、終戦後にそれぞれ過酷ななか生き抜き、再会する話は心にズシッとくるよ(>_<)おむすびで結ばれた絆(--、)

  • 第二時世界大戦を軸に、その壮絶な戦乱激動の時代を生き抜いた3人の少女たちの物語。
    まわりの大人にされるがまま生きるしかなかった彼女たちの、余りにも過酷な運命には言葉がみつかりません。
    これが、たった70年前に、本当にこの世界で起こっていたことなのかと。
    歴史の素養が皆無な自分に恥ずかしくなりました。
    今日の食糧も、明日の寝床も分からないような日々。
    売り飛ばされ残留孤児となったことも、空襲で親兄弟を失ったことも、在日となり帰る故郷がなくなったことも、少女たちが背負うには重すぎる。
    『置かれた場所で、精一杯がんばるしかない』という希望ともとれる決意には、読者の私が救われる思いでした。

    そして、珠子、美子、茉莉を支え続けたのは、自分たちを本当に大切にしてくれる人たちの存在とその優しさ。
    誰かから享けた優しさがあれば、それをおぼえていれば、また誰かに贈ることができる。
    想像も絶する時代をそうやって生き抜いてきた、彼女たちの揺るがない強さは、深く深く心に残りました。

    これはフィクションじゃない。
    何年経とうと未だ解決しない問題もある現代、今の自分を省み、見失ってはならないものを大切にしていきたいと思えました。読んでよかった。
    こんなに重く惨い内容を、決して光を絶やさずに読ませ切る中脇初枝さんの筆力に改めて感動です。

  • 満州の開拓団村で出会った三人の少女ー珠子は戦災孤児となり(山崎豊子は残留孤児という言い方はしていない)、美子は在日朝鮮人として生き、茉莉は児童養護施設に入れられるーが、それぞれ戦中戦後を生き抜き、再会するまでの物語。
    満蒙開拓団の逃避行の悲惨場面、中国の養父母に育てられる珠子の境遇、等々読み進めながら、山崎豊子の『大地の子』を意識してしまう。山崎作が歴史事実に直面する緊迫感に満ちているのに対し、中脇作は同じような壮絶な場面を描きながらも、三人の友情で結ばれた再会のハッピーエンドがあるためか、どこか切迫感がない(けっして中脇作を貶めるものではなく)のは、両者の年代(戦争経験者と戦後派)及び作風の違いといっていいか。
    ともかく、次の世代に読み継がれるべき作品である。

    • azu-azumyさん
      hongoh-遊民さん、おはようございます。

      山崎豊子さんの『大地の子』を読んでみたい(読まなければ!)と思いつつ、その重さ(テーマ...
      hongoh-遊民さん、おはようございます。

      山崎豊子さんの『大地の子』を読んでみたい(読まなければ!)と思いつつ、その重さ(テーマと分量等々)を考えるとなかなか手が出せずにいました。

      この本もとても興味深いです!
      ぜひ、読んでみたいと思いました。
      中脇さんの本は2冊読んでいますが、この本はhongoh-遊民さんのレビューを読ませていただいて、知りました。
      良い本を紹介していただけました。
      ありがとうございました。
      2015/10/03
    • hongoh-遊民さん
      コメントありがとうございます。
      『大地の子』を読んだ余韻冷めやらぬころ、このブクログで本書を知り、これは読まねばと、さっそく購入。レビュー...
      コメントありがとうございます。
      『大地の子』を読んだ余韻冷めやらぬころ、このブクログで本書を知り、これは読まねばと、さっそく購入。レビューにも書きましたが、やはり多くの人に読んでもらいたい良書です。azu-azumyさんの読んだ感想を楽しみにしています。
      2015/10/03
  • 私の祖母は、東京大空襲の話を決して語ろうとはしなかった。ただ、「もう二度と、かぼちゃは食べたくない」と言っただけだった。戦中、戦後、いったいどれほどの苦労があったのだろう。どんなにむごい光景を見てきたのだろう。今となっては、もう聞く機会がないことが残念でならない。

    だから私たちは、こういう本をしっかりと読み、人間がかつて味わった悲しみや凄惨な光景を疑似体験し、心に刻みたい。
    同じ過ちを決して繰り返さないために。
    戦争で幸せになる人なんて、きっとこの世に誰もいないのだから。

    そして今でも世界のどこかで、同じような過酷な状況と向かい合っている子どもたちがいることを悲しく思う。

  • またちゃんと知ってなきゃいけないのに、知らない歴史。
    タイトルが落とせないまま読み終わってしまったけれど、3人それぞれの人生が、まったく思いがけないものになって、すごい物語に。
    2018/7/17読了

  • 私のレビューにいいねをして頂いた方の本棚から、五つ星が付いている本を一冊読むようにしている。
    自分では手に取らなかったような本を読むことが出来る。
    そして読んでよかったと思える本に出会うこともある、この本のように。
    高知の貧農から国策で両親と満州開拓団(作物は良く採れ、食事には満足できるくらい)として渡った珠子。
    同じく貧しさからの脱却を目指し満州に行った在日朝鮮人(差別が酷く様々な苦労)の娘美子。
    横浜の貿易商の娘で、裕福(おやつにミルクと砂糖をたっぷりかけた苺を食べるくらい。時局が悪化している中、入学式に綺麗なワンピースを着て行き、非国民と陰口をたたかれる)な家庭の茉莉。
    珠子は中国残留孤児、美子は在日朝鮮人、茉莉は戦争孤児となり、それぞれ大変な苦労をしつつ、懸命に生きていく。
    3人は子供時分に満州で会い、ちょっとした冒険を行い、おにぎりを分け合うが、その思い出により彼女達は再び友人となれる。
    戦中・戦後・中国残留孤児など大変よく調べられ、リアル(横浜大空襲とか、戦後の様子など祖母に聞いた話と一緒)に描かれた小説であり、戦争を知らない多くの日本人に読んでもらいたい本である。

  • 【今日本に生きる幸せ】

    いい本を読んだときはうまく感想をまとめられないなと思うのですが、この本もそんな本でした。

    第二次世界大戦の時のお話です。最初は戦争の話だと思わず読み始めたので「おもいな」と思ってなかなかページをめくるペースが遅かったです。でも後半に入ると集中してしまい、また涙が出てしまいました。読んでよかったです。

    満州へ開拓民として移り住んだ珠子、朝鮮人の美子、横浜で生まれた茉莉。子供のころに満州でほんの数日、出会って一緒に過ごした3人はそれぞれ戦時中、戦後を苦労して生きていきます。

    戦争を描いた話は読むのは辛いものの、読むとあらためて戦争は嫌だなと思い出させてくれます。そして今、戦争が起こっていない時代に生まれてきたことは幸せなことだなと実感させてくれます。

    どんなに戦争が人を悲しませるのか、苦しい思いをさせるのか。あと、周りにいる人たちを大切にしたいという気持ちを。私は本でも時々思い出したいです。

  • 三人の生まれの違う、育つ環境も違う女の子の歩んできた人生の話。共通するのは戦争にそれぞれ翻弄されたということ。何度も挫折しそうになった。読み進めるのがイタくて辛くて。
    本屋大賞にノミネートされていなかったら絶対手に取ることはなかったタイプの本でそういう意味では読むことができてよかったのだけれど。

    救いのあるラストシーンで本当によかった。

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著者プロフィール

中脇初枝 徳島県に生まれ、高知県で育つ。筑波大学で民俗学を学ぶ。著書に『魚のように』(第2回坊ちゃん文学賞)『祈祷師の娘』『きみはいい子』(第28回坪田譲治文学賞)『みなそこ』『世界の果てのこどもたち』『女の子の昔話』『ちゃあちゃんのむかしばなし』(第64回産経児童出版文化賞JR賞)『神に守られた島』など、絵本に『こりゃまてまて』『あかいくま』などがある。

「2019年 『あそびうたするもの よっといで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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