- Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062195553
作品紹介・あらすじ
アンデルセンの名作『即興詩人』の世界を、安野光雅が旅し、紀行文と美しいスケッチで再現。読者をイタリアの旅へと誘います。
感想・レビュー・書評
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デンマークの童話作家アンデルセンの自伝的小説『即興詩人』(1835)を、日本では森鴎外が、ドイツ語版をもとに10年近くかけて翻訳し、1902年に発表している。この翻訳では、言文一致体が確立しつつある時代のなか、敢えて雅文体(擬古文体)が用いられており、イタリアの風光明媚な景色や、美男美女の織り成す友情・恋愛物語に彩られたドラマチックな人生模様を典雅に描き出していると、名高い美文なのだそうだ。
安野さんは若い頃にこの名翻訳と出会ってたいそう感銘を受けたそうで、とにかくこの森鴎外訳をひとりでも多くの人に読んでほしいと周囲の人に布教活動したらしく、出版物としても私の知る限り以下の三作はその活動の一環と言えよう。
・『絵本 即興詩人』 講談社、2002年 / 『「即興詩人」の旅』 講談社〈講談社+α文庫〉、2009年
→今回読んだのはこれの新装版
・『青春の文語体』 筑摩書房、2003年
→未読だが、人々のブックレビューを読むと結論はとにかく「森鴎外の即興詩人を読んでくれ」ということらしい
・『口語訳即興詩人』 森鴎外文語訳、山川出版社、2010年
→これも未読だが持ってる。厚い。ついに自分でも訳しちゃったんですね。
『絵本 即興詩人』は、安野さんが即興詩人の"聖地巡礼"をした際のスケッチを挿し絵に原作のあらすじをたどれるうえに、断片的に鴎外の訳文が引用されたり、安野さんの感想や思い入れや、現地を訪れた折のエピソードなども挿し挟まれたりと、安野ファンとしてはかなり美味しい本。もう、安野さんの口語訳も、鴎外の翻訳も、読まなくていいやというくらいお買い得な読書だったが、「これで原作(=鴎外の翻訳のこと)を読んだ気になどゆめゆめなってくれるな、どうかあの美しい原文を読んでくれ」とはっきりと再三訴えてくる。
安野さんは、森鴎外の即興詩人は物語が主なのではなく、文語体の調べの美しさが主なのだという。あらすじなどでは到底伝えられない音楽的文章の世界がそこにはあるのだと。
私は正直なところ文語体には慣れてないし意味もよく取れないしその魅力はわかっていないけれど、そう言われるとそれは例えばミュージカル(映画)の魅力に似ていそうだ。そんなふうに文語体を味わえたら人生もっと楽しそうだ。
だから生涯に一度は森鴎外の即興詩人を読んでおこうと思った。
(ちなみに森鴎外は安野さんにとって同郷の偉人なのだが、「むしろわたしは他の土地に生まれて、『即興詩人』に対する敬慕の純粋さの証を立てたいくらいです。」と前書きで述べている。かわいい。私は安野さんの文章こそ、その内容が主なのではなくこのかわいさが主だと思っていつも読んでいる。)詳細をみるコメント0件をすべて表示