琥珀のまたたき

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 936
レビュー : 148
  • Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062196659

作品紹介・あらすじ

魔犬の呪いで妹を失った三きょうだいは、ママと一緒にパパが残してくれた別荘に移り住む。そこで彼らはオパール、琥珀、瑪瑙という新しい名前を手に入れる。閉ざされた家の中、三人だけで独自に編み出した遊びに興じるなか、琥珀の左目にある異変が生じる。それはやがて、亡き妹と家族を不思議なかたちで結びつけ始めるのだが……。

感想・レビュー・書評

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  • オパール、琥珀、そして瑪瑙。
    生まれた時につけられた名前を捨て、古びた別荘で母親とひっそりと暮らしている3人の子供。
    外の世界と遮断された小さな世界で子供たちは不自由な事を不自由とも思わず、自分たちだけの楽園を作り上げている。

    小川洋子の独特の世界観がぴたっとハマる時もあるけれど、今回はずっと違和感を感じたままで終わってしまった。
    美しいと表現されることが多いその世界も、哀しさ、切なさ、痛々しさが先行してしまって気持ちの整理がつかなかった。

    壁の外に出ることも大きな声を出すことも固く禁じられ、小さくなりすぎた洋服を着せられいつまでも母親のお人形でままでいる子供たちの姿を美しいとはどうしても思えなかった。
    もっと悲しいのは母親の心の闇。
    おそらく一番下の子を喪う前から少しづつ壊れ始めていたのだろう。

    3人の子供たちは外の世界に救いだされてからも幸せだったのだろうか。
    離れ離れにならざるを得なかった彼らの人生を思うと何とも言えない気分にさせられた。

  • 母親に連れられて、別荘地の古い館の中で暮らす三人の子供たち。
    小川洋子さんならではの切なく美しい世界です。

    父親が破産し、人里離れた所にある別荘だけを与えて去った。
    末の妹を思わぬ病気で突然なくし、母親は呪いと思い込んでしまう。
    子供たちを失うまいと懸命になるのです。
    この母親も遠くまで働きに通って子供たちを養う頑張りを見せ、家の中で出来る様々なやり方を工夫して、子供たちを可愛がり育てるのでしたが‥

    オパール、琥珀、瑪瑙という新しい名前のついた姉と弟たちは、家の中だけで、寄り添って生きていきます。
    父が出版した図鑑を使った空想や、遊びの数々。
    琥珀は図鑑の隅に絵を描き、 亡き妹が生きて動いているかのような姿を皆が見つめることに。
    閉ざされた世界の出来事が濃密で、とても豊かにも見えてくるのです。
    いつかは壊れるだろうと予感させて、哀しく儚いのですが。

    後々、芸術家専門の老人ホームという、これもまた現実にしては不思議さのある場所で、伴奏専門のピアニストだった女性が、才能あるアンバー(琥珀)氏という人物に惹かれ、そっと見守っています。
    子供の頃の世界と交互に描かれ、どちらも少し物悲しいけれど。
    親の犠牲になったという一面を見れば、痛ましい人生。
    狭いことが悪とは言えないのではないか‥
    とはいえ。
    こちらの印象も揺れ動きます。

    実在感のある儚さ、精緻な描写。
    フランス映画のような雰囲気で、映像としてあのシーン、このシーンがありありと目に浮かびます。
    読んで何ヶ月もたっても。

  • 壁の外に出てはいけない。
    大きな声で話してはいけない。
    昔の名前を口にすることも禁じられ、新たにオパール、琥珀、瑪瑙という鉱物の名を与えられた姉弟たち。
    ママの禁止事項を守りながら、世間から隔絶された環境でひっそりと暮らした子供たちの物語です。

    母親の存在の大きさに背筋がひんやりとしました。
    母親は子供にとって光でもあり、檻でもあるのだなぁと。
    みんなで歌ったり、踊ったり、遊んだりする微笑ましいはずの場面でも、母親が作り上げた世界の歪さが常につきまとい、うすら寒い感じがぬぐえませんでした。
    閉じられた世界の中、姉弟たちが何度も手にする数々の図鑑が象徴的。

    琥珀の子供時代と現在の描写が交互に語られ、迎えた結末では複雑な気持ちになりました。
    母親の世界からの解放は、果たして子供たちにとっては幸福だったのか。
    結末を知った上で、再度読み返したい作品でした。

  • 光の中に生まれ出でて
    初めての呼吸をし、目を覚ます。

    >ここはどこでしょう。
    >この真っ白な命は誰でしょう。

    小さな命は大きな命に縋り、
    日々の糧を得、
    自ら成長する事で
    ここはどこで、自分は何者なのか?を徐々に悟って行く。

    三人は天使だった。
    羽もティアラも鬣もある純真無垢な天使の姉弟達。

    しかし、彼らの生きる世界はあまりにも窮屈な
    四方を壁に囲まれた内側のみ。
    ただ、そこのみが自分達の生きる世界だと
    母親から言い聞かせられてきた彼らにとっては
    時間さえ言いなりになる、自由な園でもあった。

    >恐ろしい『壁の外』にさえ出て行かなければ
    母親だって安心するし、僕達も安全なんだ。

    誰が自分達を傷つけ、
    誰が正しいのか?が、天使達にはわからなかった。
    何しろ、彼らの母親が強大な守護天使であったから。

    壁の崩壊後、彼らが普通の人間に戻って行く様は、喜ばしい事のはずなのに何故か胸が痛んだ。

    いつだって、壁を壊しに来るのは
    正しい人間達。

    彼らは救出された、と信じていいのだろうか。

  • まだ幼い末の妹が「魔犬」に噛まれて死んでから、母親は残った三人の子供を魔犬から守るために別荘に移り住み、子供たちを一切、壁の外に出さずに暮らし始める。子供たちの名前は、オパール、琥珀、瑪瑙とそれぞれ新たに名づけられ、服にはすべて尻尾や鬣、羽などを縫い付け、敷地内から出ることはもとより、大きな声で話すことは許されず、母は魔犬の襲撃に備えて毎朝ツルハシを背負って出勤する。

    客観的に見れば狂気の沙汰だけれど、子供たちはそれをとくに不幸とは感じていない。学校には行かせてもらえないけれど出版社の社長だった父親の作ったさまざまな図鑑で勉強をし、独自の遊びを発明し、庭で泥んこになって遊んだり、年に一度雑草を食べにくるロバのボイラーと過ごしたりして、妖精の子供たちのように暮らしている。

    姉のオパールは「語る」ことがとても上手。真ん中の琥珀は、左目が琥珀色に変色し、その中に死んだ幼い妹が住んでいて、その目で見たものを絵にして図鑑の余白に書き込む。弟の瑪瑙は左耳にいる「シグナル先生」からいろんなことを教わり、歌を作って歌うのが得意。三人はそれぞれの役割を調和させて寄り添って生きてきたけれど、あるとき「よろず屋ジョー」が現れたことから変化が起こり・・・。

    小川洋子さんらしい、喪失と、その喪失を埋めるために為されたことの物語。6年間隠れ住んだ子供たちは、精神を病んでいた母親の「虐待」から「救出」されるが、果たしてそれが本当に幸福なことだったのか。自らの意思で出て行ったオパール、一番幼ったがゆえにおそらくやり直しがきいた瑪瑙、しかしすでに年老いて芸術家専門の老人ホームのようなところで暮らすアンバー氏=琥珀だけは、過去の思い出に囚われそこから出ることができなかった。

    美しく静謐でとても切ない。

  • オパール、琥珀、瑪瑙。

    文章の美しさたるや。
    心が震えるってこういう事なのかなって思う。

    この本を含め、小川洋子さんの小説を4冊くらいしか読んでいないのだけれど、いつも思うのは、

    「んもう、この人って愛の人なんだろうな。」

    ってこと。

    優しい。隅々まで優しい。
    具体的に「こういう所がこんな感じだから優しいです。」とは言えないのだけれど、感覚でなら言える。
    優しさのきらきらがふわって降ってくる感じ。
    他には、優しい光りに包まれる感じ。
    バカみたいだけど、そうなのだ。

    涙を流すようなシーンではないのに、文章が美しかったり、優しさに溢れていて泣いてしまったのは、この本を含め2回。
    どちらも小川洋子さんの本。


    追記
    そして、あたしゃ、オパールのピンキーリングを買っちまったのさ。

  • 琥珀、瑪瑙、オパール、ロバのボイラーによろず屋ジョーとネーミングだけで小川さんの本を読んでいるんだ的な興奮度は増していく。
    そしてオリンピック競技遊びのリュージュ選手インタビューで辺りで偏愛の度合いは頂点に達して行くのだがそこら辺りでちょっと違和感が…そうなにかいつもと違っているのだ。
    静謐に粛々と進んでいく物語が少しずつ歪みを見せる美しさが小川流だったはずが歪みが亀裂になり最期はパリンと割れてしまう新たな展開に衝撃を受けた。
    しかし全てがなくなってしまっても人の記憶は残る、そう深い地の底で何十万年もかけて形成された宝石のように。
    うまくまとまりましたかね

  • 閉ざされた世界の中で育った三人の子供たち。
    常識的に考えれば閉じ込めた母親による「異常犯罪」と言える。
    でも、読んでいて、その世界の美しさ、はかなさ、あたたかさに、世界の軸がぐらりと揺れるような気がしてきます。
    広い世界に飛び出し、様々な人やものと出会って社会的な生活を送る――当たり前に「よし」とされる人の生き方。その影でないがしろにされている何かがあるのではないか、という気がしてくるのです。
    身の回りの小さな世界を注意深く見つめ、耳を傾け、深く愛し、大事なものを見つける――「そういうことが出来ていますか?」と問いかけられているような。

    文中にあった、「たとえ道端で踏みつけにされた、片方の手袋についてだって、礼儀正しく語れる。誰も気づかない物語を朗読できるんだ」(p.24)という言葉は、こうありたいという作者の思いかな、とも思えます。

    とはいえ、独自の世界観と美意識で紡がれた物語は好みの分かれるところ。
    個人的には好きなのですが、果たして人にススメていいものか…悩ましい。

  • 博士の愛した数式と、登場人物の立ち位置がちょっと似ているなと思った。彼本人の中にある、とても大事な静謐な世界の中にいる人と、その人のそばにいる女性。
    きょうだいとママと過ごした6年間に、今も支配されているように感じるけど、アンバー氏にとってはそれがすべてで、傍から見れば過酷で残酷なのに、かわいそうという同情の気持ちも、いとおしい無垢な人という気持ちも感じてしまう。全然うらやましい境遇ではないのに、それだけで生きていけるというものがあるのは、ある意味幸せなのではないかとも思えてしまう。あれもしたいこれも欲しいと思ってしまう、多くの人がいるこの世界の方が変わってるんじゃないか。弱い立場の人・少数派の人、とくくってしまいそうな人に寄り添う、小川洋子さんの本を読むことは私には定期的に必要なことだと思う。定期的に読み返すことも。

  •  閉じた空間への偏愛と濃密な生の時間。小川洋子作品のモチーフを凝縮したような一作。
     現実を拒否し、閉ざされた空間の中で物語としての「現実」を繭のように作り上げることで、自己自身の「世界」を守ること。監禁された子どもたちも、それぞれが自らの「物語」を重ね書きすることで、「母親によって作られた物語を現実として生きなければならない」という現実を否認し、自分たちの「物語」に生きようとする。
     しかし、にもかかわらず現実の時間は流れて行く。多重化された「物語」どうしの緊張関係と、さらにその物語たちの外部としての現実の時間の侵入。作品世界に漂う張りつめた緊張感は、いったいこのバランスはいつ壊れるのだろうか、という予期の裏返しと言える。

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著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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