- Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062196659
作品紹介・あらすじ
魔犬の呪いで妹を失った三きょうだいは、ママと一緒にパパが残してくれた別荘に移り住む。そこで彼らはオパール、琥珀、瑪瑙という新しい名前を手に入れる。閉ざされた家の中、三人だけで独自に編み出した遊びに興じるなか、琥珀の左目にある異変が生じる。それはやがて、亡き妹と家族を不思議なかたちで結びつけ始めるのだが……。
感想・レビュー・書評
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オパール、琥珀、そして瑪瑙。
生まれた時につけられた名前を捨て、古びた別荘で母親とひっそりと暮らしている3人の子供。
外の世界と遮断された小さな世界で子供たちは不自由な事を不自由とも思わず、自分たちだけの楽園を作り上げている。
小川洋子の独特の世界観がぴたっとハマる時もあるけれど、今回はずっと違和感を感じたままで終わってしまった。
美しいと表現されることが多いその世界も、哀しさ、切なさ、痛々しさが先行してしまって気持ちの整理がつかなかった。
壁の外に出ることも大きな声を出すことも固く禁じられ、小さくなりすぎた洋服を着せられいつまでも母親のお人形でままでいる子供たちの姿を美しいとはどうしても思えなかった。
もっと悲しいのは母親の心の闇。
おそらく一番下の子を喪う前から少しづつ壊れ始めていたのだろう。
3人の子供たちは外の世界に救いだされてからも幸せだったのだろうか。
離れ離れにならざるを得なかった彼らの人生を思うと何とも言えない気分にさせられた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
母親に連れられて、別荘地の古い館の中で暮らす三人の子供たち。
小川洋子さんならではの切なく美しい世界です。
父親が破産し、人里離れた所にある別荘だけを与えて去った。
末の妹を思わぬ病気で突然なくし、母親は呪いと思い込んでしまう。
子供たちを失うまいと懸命になるのです。
この母親も遠くまで働きに通って子供たちを養う頑張りを見せ、家の中で出来る様々なやり方を工夫して、子供たちを可愛がり育てるのでしたが‥
オパール、琥珀、瑪瑙という新しい名前のついた姉と弟たちは、家の中だけで、寄り添って生きていきます。
父が出版した図鑑を使った空想や、遊びの数々。
琥珀は図鑑の隅に絵を描き、 亡き妹が生きて動いているかのような姿を皆が見つめることに。
閉ざされた世界の出来事が濃密で、とても豊かにも見えてくるのです。
いつかは壊れるだろうと予感させて、哀しく儚いのですが。
後々、芸術家専門の老人ホームという、これもまた現実にしては不思議さのある場所で、伴奏専門のピアニストだった女性が、才能あるアンバー(琥珀)氏という人物に惹かれ、そっと見守っています。
子供の頃の世界と交互に描かれ、どちらも少し物悲しいけれど。
親の犠牲になったという一面を見れば、痛ましい人生。
狭いことが悪とは言えないのではないか‥
とはいえ。
こちらの印象も揺れ動きます。
実在感のある儚さ、精緻な描写。
フランス映画のような雰囲気で、映像としてあのシーン、このシーンがありありと目に浮かびます。
読んで何ヶ月もたっても。 -
壁の外に出てはいけない。
大きな声で話してはいけない。
昔の名前を口にすることも禁じられ、新たにオパール、琥珀、瑪瑙という鉱物の名を与えられた姉弟たち。
ママの禁止事項を守りながら、世間から隔絶された環境でひっそりと暮らした子供たちの物語です。
母親の存在の大きさに背筋がひんやりとしました。
母親は子供にとって光でもあり、檻でもあるのだなぁと。
みんなで歌ったり、踊ったり、遊んだりする微笑ましいはずの場面でも、母親が作り上げた世界の歪さが常につきまとい、うすら寒い感じがぬぐえませんでした。
閉じられた世界の中、姉弟たちが何度も手にする数々の図鑑が象徴的。
琥珀の子供時代と現在の描写が交互に語られ、迎えた結末では複雑な気持ちになりました。
母親の世界からの解放は、果たして子供たちにとっては幸福だったのか。
結末を知った上で、再度読み返したい作品でした。 -
冒頭数ページで、作品の世界観にぐっと引き込まれました。
誰に教わるでもなく、母親の前での振る舞い方を心得ているオパール。自分の好奇心に正直な瑪瑙。繊細だけど、圧倒的な存在感を放つ妹。
そして、「ママの禁止事項」を忠実に守りながらも、壁の内側で自分の役目や存在価値を見つけていく琥珀。
それぞれの個性が、それぞれの足りないところを補って、まさに「ひとつのかたまり」として生きていく兄弟の形が、目に見える様でした。
「ママ」の弱さが引き起こした、残酷な結末。
「4人でひとつ」だった兄弟の、その後の人生を想像せずにはいられませんでした。
兄弟って、疎ましく思うこともあるけれど、自分の足りないところを補ってくれる唯一無二の存在でもあるんですよね。
普段は気づかないけれど。
社会に出るとよく分かります。
壁の外側で魔犬と闘う強さを教えるのも、
また親の役目なんですね。 -
悲しく切ない気持ちになる。
小川ワールド満載で、この方の独特な目の付け所が本当に好き。文章も大好き。 -
閉じた空間への偏愛と濃密な生の時間。小川洋子作品のモチーフを凝縮したような一作。
現実を拒否し、閉ざされた空間の中で物語としての「現実」を繭のように作り上げることで、自己自身の「世界」を守ること。監禁された子どもたちも、それぞれが自らの「物語」を重ね書きすることで、「母親によって作られた物語を現実として生きなければならない」という現実を否認し、自分たちの「物語」に生きようとする。
しかし、にもかかわらず現実の時間は流れて行く。多重化された「物語」どうしの緊張関係と、さらにその物語たちの外部としての現実の時間の侵入。作品世界に漂う張りつめた緊張感は、いったいこのバランスはいつ壊れるのだろうか、という予期の裏返しと言える。 -
まだ幼い末の妹が「魔犬」に噛まれて死んでから、母親は残った三人の子供を魔犬から守るために別荘に移り住み、子供たちを一切、壁の外に出さずに暮らし始める。子供たちの名前は、オパール、琥珀、瑪瑙とそれぞれ新たに名づけられ、服にはすべて尻尾や鬣、羽などを縫い付け、敷地内から出ることはもとより、大きな声で話すことは許されず、母は魔犬の襲撃に備えて毎朝ツルハシを背負って出勤する。
客観的に見れば狂気の沙汰だけれど、子供たちはそれをとくに不幸とは感じていない。学校には行かせてもらえないけれど出版社の社長だった父親の作ったさまざまな図鑑で勉強をし、独自の遊びを発明し、庭で泥んこになって遊んだり、年に一度雑草を食べにくるロバのボイラーと過ごしたりして、妖精の子供たちのように暮らしている。
姉のオパールは「語る」ことがとても上手。真ん中の琥珀は、左目が琥珀色に変色し、その中に死んだ幼い妹が住んでいて、その目で見たものを絵にして図鑑の余白に書き込む。弟の瑪瑙は左耳にいる「シグナル先生」からいろんなことを教わり、歌を作って歌うのが得意。三人はそれぞれの役割を調和させて寄り添って生きてきたけれど、あるとき「よろず屋ジョー」が現れたことから変化が起こり・・・。
小川洋子さんらしい、喪失と、その喪失を埋めるために為されたことの物語。6年間隠れ住んだ子供たちは、精神を病んでいた母親の「虐待」から「救出」されるが、果たしてそれが本当に幸福なことだったのか。自らの意思で出て行ったオパール、一番幼ったがゆえにおそらくやり直しがきいた瑪瑙、しかしすでに年老いて芸術家専門の老人ホームのようなところで暮らすアンバー氏=琥珀だけは、過去の思い出に囚われそこから出ることができなかった。
美しく静謐でとても切ない。 -
オパール、琥珀、瑪瑙。
文章の美しさたるや。
心が震えるってこういう事なのかなって思う。
この本を含め、小川洋子さんの小説を4冊くらいしか読んでいないのだけれど、いつも思うのは、
「んもう、この人って愛の人なんだろうな。」
ってこと。
優しい。隅々まで優しい。
具体的に「こういう所がこんな感じだから優しいです。」とは言えないのだけれど、感覚でなら言える。
優しさのきらきらがふわって降ってくる感じ。
他には、優しい光りに包まれる感じ。
バカみたいだけど、そうなのだ。
涙を流すようなシーンではないのに、文章が美しかったり、優しさに溢れていて泣いてしまったのは、この本を含め2回。
どちらも小川洋子さんの本。
追記
そして、あたしゃ、オパールのピンキーリングを買っちまったのさ。 -
琥珀、瑪瑙、オパール、ロバのボイラーによろず屋ジョーとネーミングだけで小川さんの本を読んでいるんだ的な興奮度は増していく。
そしてオリンピック競技遊びのリュージュ選手インタビューで辺りで偏愛の度合いは頂点に達して行くのだがそこら辺りでちょっと違和感が…そうなにかいつもと違っているのだ。
静謐に粛々と進んでいく物語が少しずつ歪みを見せる美しさが小川流だったはずが歪みが亀裂になり最期はパリンと割れてしまう新たな展開に衝撃を受けた。
しかし全てがなくなってしまっても人の記憶は残る、そう深い地の底で何十万年もかけて形成された宝石のように。
うまくまとまりましたかね