脳はなぜ都合よく記憶するのか 記憶科学が教える脳と人間の不思議

  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062197021

感想・レビュー・書評

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  • 内容のぎっしり詰まった本です。
    「記憶」という一見探求しやすそうなテーマを取り扱っているのだけれど、読んでみるとどっこい、つかみどころがない。認知の世界の話なので、文章をグッと明確に映像化しながら、記憶をカタチのあるものに置き換えながら読まないとフワフワとした感覚で読み進めてしまう。
    ましてや最新の実験や文献を多様に紹介してくれているのは嬉しいのだけれど、論文とか、文献を読み慣れていない私は、牛の噛み返し、カタツムリの歩みの如く向き合うことになった。
    読み終えた今この本の表紙のイメージに似合わない、内容の深みに戸惑った人たちを思わず想像してしまう。

    でも、哲学の本よりは一歩一歩は確実に地を蹴っている実感は得られる。

    是非読んでもらいたいので、気に入った箇所を引用します。

    成長するにつれ、ニューロン間の不要な結合の複雑なウェブの増殖と刈り込みを同時に行うようになるため、舵取りがずっと楽になる。途方もない数のニューロンを育て、できる限り多くの結合を形成し、使用頻度の低いニューロンやシナプス結合は排除する。人は混乱した脳を、自分が置かれた環境、つまり何を学び、どんな生活をし、どんな境遇にあるかに合わせ、最適化し洗練された脳へと変化させていく。
    「記憶」という言葉は案外身近なもので、五行程度で説明できるものと思っていたが、この本を読んでいるうちに段々とその説明が遠ざかってゆくのを感じてしまう。
    紹介されている研究結果や過去の事件、社会現象を「記憶」という切り口で説明されているので、「記憶」の周辺に漂う知識はどんどん分厚くなっていくことは感じられるのですが、いざそれを説明するという段になるとポッカリと空いた中心部分があることに気づかされる。
    だから、この本自体の感想を書くのはやめて、昨日観たNHKドキュメンタリー『冤罪が奪った7352日』という番組で感じたことをとおして、この「記憶」というものいくつかの姿を描けたらと考えている。(うまくいくだろうか)
    この冤罪事件は東住吉事件とは1995年7月22日に大阪府大阪市東住吉区で発生した火災で女児が死亡し、それを内縁の夫と女児の母親(青木恵子さん)の犯行として無期懲役刑が確定。
    その後、無罪を訴えて再審の結果、2016年8月10日に大阪地裁で無罪判決が出た。検察は控訴権を放棄し、即日確定したというものだ。

    青木恵子さんを起訴し、有罪に導く自白を引き出した警察や検察には、初動捜査の誤りや
    捜査からあがってきた情報の筋立てに小さな誤りがあったに違いないのだ。だが、それを省みるチャンスを失ったか、「振り上げた拳を収められず」に突っ走ってしまったのだろう。その‘小さな誤り’はこの「記憶錯誤」が関わっているのだ。
    それは、捜査の過程で積み上げてきた証人たちの無意識による記憶の置き換え(思い込み)、であり尋問をする検察官の姿勢に立件向けた「記憶錯誤」が忍び込んでいるのではないかと感じた。
    そしてなにより痛烈に胸に刺さったのが「20年という刑務所という世界で過ごした時間は、現実の社会での自分の居場所を奪っていた」という言葉だった。
    海外で数年でも生活すると実感することですが、海外にいると日本という国で生活している時の情報の密度が得られないため、日本に帰国した時に、自分の人生の記憶の日本にいなかった時の記憶が欠けてしまっている感覚になることがあるが、青木さんの場合はそんなもんじゃない。日本にいながらにして、20年という(世の中での経験蓄積)記憶が全く機能しない積み重ねだったのだ。
    獄中で無罪を訴えてやっと勝ち取った‘無罪’なのに、世の中に出てきて少ししたら「刑務所に戻りたい」という呟きは、連続した社会に包まれて生活している我々には理解し難いものがある。
    こういう人間の姿を見ていると、「記憶」というものの働きが、生物が環境適応していくのに不可欠であることを証明させてくれる。

    この社会という人間の文明が積み重ねがスピードをもって進行しているなかを私たちは「記憶」という能力を持つことによって何気なく過ごしているが、それを自分の外側にいる誰かによってコントロールできるということもこの本には紹介されているが、そうなると『人生』というものの意味が全く違ったものになっしまう。



  • 赤ちゃんの脳が長期記憶を形成、蓄積することは生理学的に不可能

    脳は主に4つの領域
     頭頂葉 知覚情報と言語の統合 短期記憶に欠かせない
     前頭葉 思考、計画、論理的思考など高次の認知機能 前頭前皮質 複合思考

    作業時に短期記憶をグループ化することをチャンキングと呼ぶ

    成年期まで残る記憶形成が始まるマジックエイジは3.5歳

    前頭葉と海馬の一部など長期記憶を司る脳の領域が成長し始めるのは8−9ヶ月 9ヶ月頃親においていかれるのを嫌がる

    記憶として何を貯蔵できるか、のちにそれをどのように検索できるかには、ストレスや覚醒度が大きな役割をはたしている

    睡眠は、記憶を強化し、再編成し、変化させるための方法だ

    記憶形成にはなんらかの注意を向ける事が必要なこと、その記憶の固定化と強化には睡眠が欠かせない

    ジークムント・フロイトは晩年ロンドンのハムステッドで過ごした フロイト博物館

    why Freud was wrong

    フロイト 無意識 意識がつよく押さえ込んでいる
    多くの身体的精神疾患は子供時代のトラウマが原因  抑圧した性的虐待 症状h、たいてい回想し、話すことで消失 


    抑圧という、この精神分析の概念の働きには確かな証拠はないが、その治療の条件が、じつは過誤記憶を生じさせる理想的な条件であることを示す非常に有力な証拠がある

    第一の問題 専門家が、患者に対して抑圧された記憶という考え方を教える 第二の問題 専門家が患者に、症状を治癒させるには、抑圧した記憶を明らかにする必要があるということ 第三のもんだは、専門家らから暗示的で誘導的な情報を与えられる 第4の問題は、患者が根本にあるトラウマの細部を繰り返し伝えられ、それを記憶の台本にしたがって視覚化することを求められる

    過誤記憶の発生をうながす類の条件
     

  • 著者は、記憶、特に記憶のエラー「過誤記憶」の専門家。
    記憶の仕組みは、最新の科学でも謎が多い、驚異的なものである一方、実は移ろいやすく、簡単に上書きされるものだという。
    自分という存在は過去の記憶・経験からできているものではあるが、その寄って立つものも結構曖昧なものなのだ。
    それにしても、この邦題はいけない。原書の直訳は「記憶の幻想」だが、こちらの方がはるかによい。

  • 都合よくないとやってられませんよね。

  • 著者は記憶研究の専門家。「私は記憶ハッカー。私は起こっていないことを起こっていたと人に信じ込ませる」という。それは催眠術のような怪しいものではなく、注意深く準備された実験において、その人が経験しているはずのない記憶を誤って覚えていると信じ込ませることができる、ということだ。著者は、そのような過誤記憶を生じさせることが、記憶の仕組みを解明するきっかけになると信じて研究を続けている。そして、「人の記憶には致命的な欠陥があると納得してもらうこと」がこの本を書いた理由であるという。その裏には、間違った証言によって、告発され有罪となった人の存在がある。司法当局による捜査や裁判の中では、もっと慎重に証言が取られるべきだという主張につながる。

    本書の中で扱われる、不正確な記憶にまつわるテーマは様々で多岐にわたっている。幼児期の記憶、偽の記憶、 特殊な記憶力、記憶への過度な自信、同調する記憶、修正される記憶、といったものが話題にされる。記憶のシステムにおいて、経験はいくつもの断片として貯蔵され、その断片は実際には起こらなかった形に再結合できると言われている。脳の仕組みは連想記憶システムを構築したが、その生理学的要因によって記憶の幻想も生じることになった。

    よく考えると、自分の脳が経験や事実を記憶しているというのはとても不思議なことだ。人の名前や覚えているはずの技術用語を思い出すのに以前よりも時間がかかり、知っているはずなのに正解である言葉が出てこないということを繰り返すと逆に以前は本当に当たり前のように記憶できていたことが不思議になってくる。新しい記憶を作るという能力が年々落ちているのを感じるが、注意を向けることが記憶形成の必須条件であるということから、並行処理が多くて物事に注意を向けることができなくなっているだけなのかもしれない。単に知らないうちに回りへの興味を失っているだけなのかもしれないが...。

    「記憶は忘れるために形成される」という言葉も印象的だ。そのとき行われる忘却は、脳の効率を上げて重要な情報だけを貯蔵するために行われる処理だ。いずれにせよ人はすべての経験を記憶しておくことはできない。そういった記憶の中で、人間は記憶の隙間を自ら埋めようとする。そして、それが矛盾のないものであればいとも簡単にその正確性について疑いを抱かないようになる。またときに周りの見解に同調するがゆえに、自分の記憶の方を修正することもある。この事実は、仲間と同調して動くことで利益を得られたことから遺伝的に獲得してきた能力にも関係していると言われる。そういえば、ダニエル・カーネマンの『ファースト・アンド・スロー』にもこの事例が出てきていたような気がする。こういった記憶の傾向を利用すれば、他者の記憶を都合のよいように操ることもできるようになる。曖昧さをごまかすためにときに人は頑なになるため、記憶に対する強い自信は逆に危険信号と考えるべきだともいう。そう考えると人間は自分の記憶の正しさを本当には確信することはできないのかもしれない。自分の小学生のときに行った旅行の記憶や学校の記憶が果たして本当にあったことなのか、いくらそれが明白であるように思えたとしても、不思議だけれども本当なのかどうかわからないのかもしれないのだ。

    この本を読んで粗てめてわかることは記憶というものがいい加減で脆いものであるということだ。例えば、熱気球のゴンドラに乗る合成写真を見せられた後、その出来事を覚えているかと尋ねられると半数が経験がないにも関わらずあると答えて、写真の方に記憶を合わせてしまったという。 また、記憶について多くのことがわかりつつあるものの、記憶の仕組みについて本当に深いところで人間はまだ理解できてはいない。例えば、夢は「学習と記憶の適切な機能に欠かせない、活発なオフライン情報処理」状態だという説がある。熟睡中に人は一日の記憶を再現するように脳の中で再生されているというのだ。睡眠が記憶を強化するというのは他でも言われていることではある。ただし、本当にそうであるのかもまだよくわかっていない。脳の損傷による症例を通して、海馬が記憶の形成に大きな役割を果たしていることがわかってから長い時間が経つが、いまだに記憶は脳神経科学の大きな謎のひとつである。

    本書における大きなテーマのひとつは、インターネットが人の記憶行動や記憶能力に与える影響である。ベッツィ・スパロウの論文『Google effects on memory』はそのことを論じたものである。インターネットは、「外部メモリあるいはトランザクティブ・メモリの基本形態となり、情報は人の外にまとめて保存されるようになった」という。後でGoogleに聞けばわかるものを、誰が注意を振り向けて記憶しようとするだろうか。インターネットの存在は、人の記憶力にも影響を与えているのである。後でデジタル化された形で読めると思うと、情報を記憶できなくなる症状については「デジタル健忘症」という名前までついている。スパロウいわく「人はコンピュータツールとの共生の結果、情報そのものではなく、その情報を見つけられる場所を記憶する相互システムとなりつつある」らしい。 著者はさらにソーシャルメディアの出現によって、誤情報が生じる可能性が高くなり、その過程で過誤記憶が生じる可能性も高くなっていると警鐘を鳴らす。
    著者は、ネットにあるとわかるとその事実に対する記憶力が低下することと同じように、人は書くことによって書いた内容を記憶から外してしまうということも紹介する。そのことを示す実験例として、強盗役の人を目撃した人がその人物の写真を見分ける実験で、その顔の描写を言葉で書き留めた人は、書き留めなかった人と比べて正確率が著しく下がったという。実に正解率27%と61%という大差になったという。この実験の結果は多くの異なるサンプルにおいても追試され、同様の結果になることが確かめられている。ここから言えることは、非言語的なことを言語化することで、現実の経験ではなく言語化された断片を記憶するのかもしれない。
    また、情報がどこにあるかを記憶すると、その内容の記憶が低下する例として、携帯電話番号が挙げられている。ある調査では、50%の人がパートナーの電話番号を思い出せず、71%が自分の子供の電話番号を思い出せないという。しかし、その情報がどこに保存されているのかはしっかりと知っているのである。これについては自分も経験していることで、自分の携帯の番号さえ思い出せないときが多々ある一方、もう20年以上は使っていない生家の電話番号はいつでも思い出せる。(ちなみに学生時代の一人暮らしの電話番号も思い出せる。ただそれは、03-3838-0038 ~ さわださわだ、おおさわだ、という番号だったからかもしれない)。
    自分の経験でも腑に落ちる経験がある。留学時代の数学の試験でA4用紙1枚までならどんな公式や解法を書いたものでも持ち込み可能という条件が付けられた試験があった。そのとき、できるだけ多くの式を前の晩に紙に書きつけたのだけれど、いざ使うときになるとA4用紙の中でどこに書いたのか探し出せなかったり、普通に覚えていなければならないことが思い出せなかったりして、ひどい結果になったことがある。たぶん何も持ち込みなく試験準備をしていた方がよい点数が取れたのではないだろうと思っている。こうやって多くの書評を書いているけれども、書くことによって本当の本の内容については忘れてしまっているのかもしれない。

    この本は次の扉の言葉から入っている。ロフタス教授は、犯罪捜査における証人の偽記憶に権威だ。

    「記憶は作ることができる。
    作り直すこともできる。
    記憶はウィキペディアのページに少しにている。
    自由にアクセスし、変更できる。
    それはあなた以外の人にもできる
    ― エリザベス・ロフタス教授」

    法廷での証人証言と記憶の問題。それは、著者の専門でもある。著者は、「過誤記憶を生じさせる可能性のある方法で証言を集めてはいけない」という。実際に、自白至上主義のところがある警察の取り調べでは、容易に容疑者の記憶を操作することができるのかもしれない。警察の取調官は「自白させる」プロでもあるし、自らが描く絵に沿って記憶を告白させる強いインセンティブが存在する。科学的な過誤記憶の研究成果がなくても、「自白させる技術」によって、証人に筋書に沿った記憶を持たせることができるのではないかと思う。実際にアメリカでもDNAを使った再検査により無罪であるとわかった325件のうち235件で目撃者の誤認された記憶による証言が重要な影響があったことを示している。

    いずれにせよ、記憶は自分が思っているよりもナイーブなものであることは自分が証言台に立つ可能性がどうであれ、知っておかないといけないことだろう。記憶のことを信じられないと思うようになることで、誠実になる代わりに、ますます記憶が低下してしまう可能性もあるのかもしれないが。
    人はますます自分の行動や考えをデジタルで記録するようになるだろう。そして、ますます安心して人は経験の断片を忘却することになるのかもしれない。

  • 過誤記憶の専門家による著者の領域の研究をまとめた本です。記憶は常に書き換えられ、他人との話やファイスブックなどで話を共有する中で、どんどん無意識に変化していく。そうして変化した記憶と元々の記憶の違いに気づく方法はなく、人に残る記憶が本当に経験した記憶なのかは誰にもわからない。その中で、「DNA検査により無罪と立証された325件の事件のうち、235件もの事件に目撃者の誤認がかかわっていた」もはや、犯罪で逮捕される確率より、冤罪で逮捕される可能性のほうが高いのかもしれない。記憶の仕組みの正確な知識が重要だということを再確認しました。

  • 原題の「The Science of False Memory」が示しているように、自分の記憶が意外なことにどれだけ間違いやすいか、それどころかすでに間違っているか、同じコインの両面だが他人の記憶がいかに怪しいか、などを科学的に述べている。こうしたメカニズムを知っておくことは、自分の間違った記憶に振り回されないためにも、そして社会的には冤罪を防ぐためにもとても重要だと思う。こうした”間違った記憶”についてのまとまった本は他にないので、とても有用。面白かった。

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001096495

  • 記憶過誤について、研究結果をもとにせつめいしている。前半は概要に、例えばなしを交えながら親しみやすく、だんだんと順をおって記憶のメカニズムを解説し、その問題点と過誤記憶が起こりうる状況を語る。
    なんとなく悲観的な内容でもあるのに、研究に対する真摯な態度と慎重な考察と、人間愛により、好感がある本となっている。

  • 記憶が良い加減であることを学んだ。

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著者プロフィール

ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ(UCL)心理学科の科学者。学術研究、講義、鑑定人としての仕事を通じ、さまざまなやり方で犯罪行為の理解に努めてきた。刑事事件の専門家として助言を与え、警察や軍で研修をおこない、犯罪者の更生プログラムの評価をおこなってきた。2016年に出版され、ベストセラーとなった著書The Memory Illusion: Remembering, Forgetting, and the Science of False Memory(邦訳『脳はなぜ都合よく記憶するのか――記憶科学が教える脳と人間の不思議』、講談社)は、20ヵ国語に翻訳された。これらの業績は、CNN、BBC、ニューヨーカー誌、ワイヤード誌、フォーブス誌、ガーディアン紙、デア・シュピーゲル誌で取り上げられている。

「2019年 『悪について誰もが知るべき10の事実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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