家へ

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 110
レビュー : 14
  • Amazon.co.jp ・本 (202ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062197342

作品紹介・あらすじ

彫刻家を目指す美大生の新太郎は、日本海沿いの町で、母親とその内縁の夫「じいちゃん」の3人での家庭で育った。実の父親、「倫さん」と親しく交流を続けている。複雑ながら穏やかな関係を保つ家族だったが、やがて、彫刻の修業のために、新太郎が留学を考えはじめたころ、小さな亀裂が走り始める。

感想・レビュー・書評

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  • からだのこわばりが、ほどけてゆく。
    いかっていた肩に、ゆっくりじわじわと血が戻ってきた。

    新聞配達の人が通り過ぎたあと、
    まだ世の中が動き出す前の静かな時間に
    物語に風が荒れ狂う冬の厳しい
    新潟の海に連れて行かれる。

    ごうごうという風の音と、
    腹まで響くどどんという波の音。
    自分の声すら聞こえないところで、
    気のすむまで、言葉にならない声を叫ばせてもらった。

    新潟の片田舎の複雑な家庭環境に生まれ育った
    東京の美大の大学院生、シンの物語。

    主人公が若い男性だからなのか、
    木を彫る彫刻家を目指す美大生だからなのか、
    実家のフクザツな環境からなのか、
    それとも読む私が弱りすぎていたのか…。

    いつもはひたひたと沁み込んでくる言葉が
    熱をもったエネルギーを感じる強いものとして
    私の心の中に入ってきました。

    お正月休みに読めたのも良かったのかもしれません。
    新しく始まる空気の中で、しんと心が静まりました。
    私が『唄めぐり』も併読しているからなのか、
    読んでいる間、民謡の唄もずっと聞こえてました。

    また好きな作品に出会えました。
    この作品が芥川賞候補だとか…。
    とってもとらなくても、私にとっては大切な一冊です。

  • 文体はいつもの石田節。

    彫刻家としての道を目指したい
    大学生の<シン>が帰郷。

    やや複雑な家庭環境にあったらしい彼だが、
    もう今は大人。
    どんな事情も(みんな小さな事、なんて事ないわよ!)
    と、おおらかに笑い飛ばしてしまう様な母が傍にいる安心感から、
    シンに不安はないみたい。
    じゃあ、うとうとしても大丈夫かな…
    芸術家としての道を歩みたいと言う志も無事、応援してもらえそうだしね。

    出来事と台詞を分ける<柵>をとっぱらっちゃった独特の石田ワールドにいると、
    誰かの記憶の中をゆらゆらとたゆたい、
    遠くから聞こえてくる懐かしい声が物語を語っているかの様な気楽な読書につい、甘えてしまう。

    が。
    終盤になって、どんっ!と激しい雷が落とされた。
    あわあわ、何事か?!
    それは、正義というかぶっているのが本当はつらいかぶりものを勇気を持って外してしまった弱い心が引き起こしたもの。

    悲鳴を上げる<弱い心>は
    すさまじい衝撃波を放つ。
    正しい人の前では、隠しておくしか無い、本当にしょうもない取るに足らない、捨ててしまいたいもの。
    でも、
    世間体を保ちたい、安定した暮らしを捨てたくない、
    という気持をどうすれば攻められるかな。
    ビリビリとじいさんが放った弱者ビームを浴びながら、
    (私の心も共振してるよ…。)
    と、認めざるを得なかった。

    正義面…という化けの皮はひょんな事から外されてしまう。
    それを被り続けるのはバカみたいに苦痛な事。
    特に年をとってしまった後は尚更耐え難い・・・
    ただ、そんな心さえ、
    家族が照らす陽だまりの中ではしゅん、と消えてしまうんだな。
    温かい陽だまりの中では悩みも苦痛も忘れ、私は再びうとうとと。

  • 元夫と今の夫(共に内縁関係)がまるで親戚のように親しく付き合い、その両者の間でどこまでも自由にマイペースに振る舞う母。
    そんなヤヤコシイ関係を大学院生の一人息子・シンも普通に受け止めていた。
    都会ならともかく、閉鎖的な田舎暮らしでの設定に少し戸惑った。
    互いの過去には触れず墓も別にする、という母と今の夫との割りきった関係にも驚く。

    それに対して元夫の家族の温かさが身に染みる。
    このちょっと変わった関係を丸ごと受け止める、元夫の今の奥さんはなんて出来た人なんだろう。
    そして元夫側の祖母のセリフ「つらいことがあったら、いつでも島に来ればいい、あんたには屋根のある家が、ふたっつもあるんだから」には泣けた。
    そしてラストにかけての、今の夫を巡る急展開には更に驚かされた。

    けれどこのことをきっかけに、自分を信じて待っていてくれる人がいることの心強さをしみじみ有り難いと思えた。
    それさえあれば、安心して帰る場所があれば、人は安心して飛び立つことができる。

  • +++
    東京の美大で彫刻を学ぶ大学院生「シン」は、母と、その内縁の夫「じいさん」と新潟の海辺の町で育った。一方、島に住む実の父親「倫さん」とも親しく交流を続けている。複雑ながら穏やかな関係を保つ家族だったが、シンの心には小さな違和感が芽生えはじめる…。
    +++

    とても穏やかで静かなのに、なんて複雑で込み入った人間関係なのだろう。逆に言えば、これほどの複雑さを描いて、どうしてここまで穏やかな風情でいられるのだろう、と不思議になる。登場人物それぞれに屈託がないわけがないのだから、各人がそれを大らかに呑みこんで裡側の波風を外に放たないのだろう。それでもまだ若いシン(新太郎)は、そのすべてをそのまま呑みこみ切れずに、違和感としてわだかまりを覚えもするのだろう。なにがあっても迎え入れてくれる屋根がふたつある、という、島のばっちゃんの言葉が胸に響く。みんなしあわせになれ、と思わされる一冊である。

  • 20161012・・レビューなしと気づく。
    読んだはずなのに、内容が?

  • この人のエッセイは大好きなんだけど、小説はまだちょっと、もう少し頑張ってほしいな、という感じがする

  • 鉤括弧がなくて地の文と会話文がわかりにくく、さらに登場人物の関係や名前もわかりにくかった。シンの彫刻。溢れ出るイメージ。芸術家ってすごいなぁ。

  • 第154回芥川賞候補。
    作者の意図したものなのだろうけど、地の文会話文が区別されておらず、長さの割に登場人物も多いので、誰が話しているのか、何が起きているのかなどを把握するのに時間が掛かる。それが結局、自分にはどこにも焦点のあっていない写真のように感じられてしまった。そのぼんやりとした手掴みに、暖かさを感じられれば良かったのだろうけれども、自分は最後まで話に入り込むことができなかった。

  • 新潟の漁村と島が故郷のシン.複雑な家族関係の中で真っ直ぐに育ってきたのは,実の父親,ボブ・ディラン好きの倫さんのおかげか,温かい周りの人々の心遣いがとても気持ち良い.好きなことに向かって迷いなく進む彫刻の世界.いろいろな気持ちがぐるぐるしている描写が,心に迫るし,本当にうまい表現だなって文章力に脱帽.

  • 石田千の書きとる世のさまは、しごく現代的であるにもかかわらず、失われつつある古き善き習慣に根差しているように見える。もっぱら随筆をよくする作家としての石田千を好んで手に取るのだが、その理由はかなで書き下された日本語の音のよさと、その古臭い日本の習慣への郷愁がない交ぜになってのことなのだろうと自己分析している。

    古臭い日本は、すでに都会には存在しないように思ってしまうけれど、石田千は人々の日々の行いの中からそれを、すっと、すくいあげる。もちろん、それは浅草であったり山形であったり、いかにも綿々と繋がっている無形のものが存在していそうな土地であることは多いけれども。しかし、その目線に倣って辺りを見回せば、丸の内のビルの裏側や、ましていわんや新橋の路地裏でも、同じようにそれはぬぐい去りがたく人々の行動様式に貼りついていることは分かる。その事を教えてくれるのが石田千なのだ。

    小説であることを意識せずに読みはじめたので、主人公の独白をいつものように石田千の言葉と勘違いし、山形にも湯沢という土地があるのかといぶかしく思っていると、主人公が石田千ではないことに気付いて、ぎゅっと身体が硬くなる。しかし、読み進めるとその口調の変わりのなさが実感され、ゆるゆると身構えた固さがほぐされてゆく。そして新しい石田千に対峙する。

    以前にも一冊この人の小説を読んだことがあった。そこには誰からも見向かれることのない孤独の気配をまとった主人公たちがいたように記憶している。この本でも、徐々に似たような印象にとらわれる。主人公は誰かに心の内をさらけ出すこともない。そうして家族と呼ぶにはあまりにも希薄な関係性で保たれた、一つ「家」に棲む人々との距離感を探ることに必死だが、それを隠そうともする。その脆そうな関係は地方における地域での濃い繋がりとの対比でさらに儚く見え、より頑なで大きな力が加われば一瞬で崩れてしまうようにも見える。しかし、よくよく見れば、親をも他人と捉え距離感をつかみ損ねているとしても、結局のところ、昔から言われ続けた典型的な人間関係にどうしたって根差していることも事実なのだ。血縁、確執、墓場三代、遠くの親戚より近くの他人。言いたいことを言い合うばかりりが近しい関係という訳ではない。墓場にもっていかれてしまった事柄は掘り起こしてはならない。

    血の関係やたまさか一緒に暮らす関係などと、自分と家族の間柄を分類してみても仕方がない。そのことを一つの災いを通して主人公は確信する。ああ、そういうことか、と少しだけ石田千の心の内が見えたような気になる。これは石田千の先の震災に対するレクイエムなのだな、と。失ったものや時間は取り返せないけれど、生きていれば腹はすく。そして、なにもかにも失って茫然自失となっているように自覚しても、深いところから想像もしない感情は沸き上がる。そんな風にして先に進むこと、それが祈り。

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著者プロフィール

1968年福島県生まれ、東京育ち。國學院大學文学部文学科卒。「大踏切書店のこと」で、2001年第1回古本小説大賞受賞(のちに『あめりかむら』所収)。エッセイに『踏切趣味』『平日』『店じまい』『役立たず、』『みなも』『きつねの遠足』『夜明けのラジオ』『もじ笑う』『唄めぐり』など、小説に『あめりかむら』『きなりの雲』『バスを待って』『家へ』がある。

「2016年 『からだとはなす、ことばとおどる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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