吸血鬼

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 264
レビュー : 39
  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062199186

作品紹介・あらすじ

独立蜂起の火種が燻る十九世紀のポーランド。
その田舎村に赴任する新任役人のヘルマン・ゲスラーとその美しき妻・エルザ。この土地の領主は、かつて詩人としても知られたアダム・クワルスキだった。
赴任したばかりの村で次々に起こる、村人の怪死事件――。
その凶兆を祓うべく行われる陰惨な慣習。
蹂躙される小国とその裏に蠢く人間たち。
西洋史・西洋美術に対する深い洞察と濃密な文体、詩情溢れるイメージから浮かび上がる、蹂躙される「生」と人間というおぞましきものの姿。
芸術選奨新人賞、吉川英治文学新人賞受賞作家の新たなる代表作となる長編小説です。

感想・レビュー・書評

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  • 19世紀半ば、ポーランド南東部の田舎の村が舞台。
    古い迷信からくる教会と墓地の場面が印象的だった。
    異様だと思いながらも厳かというか口を挟めない雰囲気で、その光景が迫ってくる。自分もその場で見ているような感じがした。
    でも読み終えてみると、村のしきたりばかりが心に残っているわけじゃなく、蜂起するしないの時代がどんなものか味わえたのがよかった。

  • 19世紀半ば、オーストリア支配下のポーランド(ルテニア)の貧しい村に派遣されてきた役人のヘルマン・ゲスラーと、親子ほど年の離れた若妻・エルザ。一帯の領主は詩人でもある貴族のアダム・クワルスキで、農家出身の妻ウツィアが実務を取り仕切っている。ゲスラーは着任早々、10年ほど前に迷信深いこの地で吸血鬼騒動があり、疑わしい死者の首を切断する儀式があったことを知らされる。請け負ったのはヨソモノのヤレクという老人。やがて村人の中から、少年、妊婦、若い女性と次々不審な突然死が相次ぎ、動揺する村人に対処するためヘスラーがとった処置は…。

    まず序盤は時代や場所がわからず戸惑います(中欧はとくに複雑だし)。そういう部分の説明を省いちゃうのが佐藤亜紀の小説から翻訳ものぽい印象を受ける理由のひとつかも。タイトルのイメージから、つい詩人で貴族のクワルスキが吸血鬼で村の若い娘の生き血を夜な夜な啜り…みたいな話かと想像しちゃったけど、そういう耽美系のお話ではありませんでした。

    前半は、前任者よりずっと役人としてまともなゲスラーと、心優しい天使のようなエルザがやってきたことで、貧しい村人が少し救われ、使用人たちも彼らを慕い、有能なマチェクは仕事にやりがいを見出し、このまま順調にいけばと願ってしまう。しかし相次ぐ村人の不審死、迷信深い村人は、ウピールと呼ばれる吸血鬼の存在を信じており、無神論者のゲスラーといえども、彼らの信頼を得るために、前任者と同じ手段を講じざるを得ない。さらにエルザの妊娠、クワルスキの甥ヤンと医者バルトキエヴィッツが関わっている革命運動などにより事体は複雑化。

    先にも書いたように、ザ・吸血鬼、なものは登場せず、どちらかというとゲスラー自身が、現実主義者であるにも関わらず夢や幻覚に苦しめられることになるだけだ。ここで言われる吸血鬼は、どちらかというと農奴から搾取する封建領主の比喩的な意味が大きいのかもしれない。ゆえに作品全体に不穏な空気が漂っているけれど、これはホラーではなく人間が作り出す社会のイビツさの話だったのだと思う。読み応えがありました。

  • タイトルからゴシックホラー系かと思ったら、歴史小説だった。文章がわりと独特なので、そのリズムに慣れるのに少し時間がかかったが、終わってみれば登場人物たちの心情に同調できないギリギリの距離感を保って物語の行く末を見守るのに、ちょうどいい文体であった。閉鎖的でしがない土俗の中で交錯するそれぞれの思いが、地味ながら確かに息づく熾火のようで、またそれらを作り上げている登場人物たちにすごい人がいないというのがよい。しかし頭の中に映像として印象に残るのは、やはり晩禱の最中に棺を開けていくシーンだろう。

  • 2016年Twitter文学賞国内1位だったので、佐藤氏がどういう人かまったく知らないまま読み始めると、意外にも19世紀ポーランド、ゲスラー氏にクワルスキ氏だった。女性作家にしては、類型的な女性エルザがつまらない。
    ポーランドの寒村の方言が何を喋っているのかわからないほどなのが面白い。ガイブンの翻訳だったら翻訳者ずいぶん捻ったな、と思うところだ。世の東西を問わず、ということか日本の江戸時代の農民像のよう。
    「外国による不当な?支配」「支配層と非支配層」「多発する死と迷信」「ムラ社会の閉塞」「吸血鬼(肝心の)」という複雑な設定が、読者の(というか私の)の感動スイッチを押さないままぼやっと収束してしまったのですっきりしない。設定倒れでなければ私の読解力。

  • タイトルと土俗的な薄暗い世界に惑わされて、恐る恐る読んでいた。読み終わってようやく、そういうことか…と。着地点がわかった上で、もう一度読んだら、今度は何が読み取れるのだろう。

  • ホラーではなかった!!

    正しくは歴史小説になるんでしょうね。最後にタイトルの意味が分かるのだけど、確かにとものすっごく納得した。

    急進派気取りで何もしてくれない夢想家の領主よりも、自分たちの風習に理解を示してくれる支配者の方がましというのは理解できるな。

    最初のおどろおどろしいシーンに胸をときめかせていたんだけど、最後でよい意味でのどんでん返し。

    だから佐藤さんの作品が好きだわ。

  • 1/31入手。近隣の書店に無く注文。小説現代で連載していた事は記憶にあったので出版を待ちわびていた。考えてみたら佐藤亜紀さんのゴシックホラーは初ではないですか?

  • 19世紀ポーランドを舞台にした歴史小説。
    前半はホラー小説のようなタッチで進むが、後半は雰囲気ががらりと変わる。読み終えた後で見ると、『吸血鬼』というタイトルは非常に意味深。
    後半、『死体の首を切る』という因習と、ミサのシーンが交互に描写される辺りには圧倒された。

  • 佐藤亜紀小説研究ノートによると、「小説現代」(講談社)に連載がされていたそうです。
    http://minotauros.g.hatena.ne.jp/

    講談社
    未掲載

  • 19世紀ポーランドの話。美しい田舎町に新任役人として赴任してきたヘルマン・ゲスラーとその妻を取り巻く周囲の物語。美しい田舎風景、村人の悲惨な生活、田舎ならではの風変わりな風習、それらを良い方向へ導こうとするゲスラーと、かつて詩人であった領主との隔たり。独立蜂起に揺れる村、生活の格差から生まれる領主と農民の思想の違い、様々な人の思惑が混沌となり物語は進んでいく。「吸血鬼」と題されているがホラーではない。実際の吸血鬼も出てこない。人間の持つ闇を示唆しているのであろうか?佐藤亜紀氏の小説は物語の背景や登場人物の紹介などを敢えて書き込まないのに読み進めるうちに自然とその物語の全体像の中に連れ込まれる。この小説も面白かった。

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著者プロフィール

1962年、新潟県生まれ。91年『バルタザールの遍歴』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。2003年『天使』で芸術選奨新人賞を、08年『ミノタウロス』で吉川英治文学新人賞を受賞。17年に発表した『スウィングしなけりゃ意味がない』は戦時下のナチスドイツを舞台に、ジャズに熱中する少年たちの目を通して戦争の狂気と滑稽、人間の本質を描き、大きな反響を呼んだ。他の著書に『鏡の影』『戦争の法』『モンティニーの狼男爵』『1809』『雲雀』『醜聞の作法』『金の仔牛』『吸血鬼』『黄金列車』など多数がある。

「2020年 『天使・雲雀』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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