やがて海へと届く

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 116
  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062199254

作品紹介・あらすじ

地震の前日、すみれは遠野くんに「最近忙しかったから、ちょっと息抜きに出かけてくるね」と伝えたらしい。そして、そのまま行方がわからなくなった――(本文より)

すみれが消息を絶ったあの日から三年。
真奈の働くホテルのダイニングバーに現れた、親友のかつての恋人、遠野敦。彼はすみれと住んでいた部屋を引き払い、彼女の荷物を処分しようと思う、と言い出す。
親友を亡き人として扱う遠野を許せず反発する真奈は、どれだけ時が経っても自分だけは暗い死の淵を彷徨う彼女と繋がっていたいと、悼み悲しみ続けるが――。
【死者の不在を祈るように埋めていく、喪失と再生の物語】

感想・レビュー・書評

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  • 「死」というものに直面したら
    本人も、その周囲にいる人々も、どんな場合でも
    その状況に納得しているなんてあり得ない。

    後悔だって、言いたいことだっていっぱいあり
    昨日までの連続した自分の場所に
    戻りたくてたまらなくなるんだろうと
    特に私のような成長しきれてない人間は
    その思いが人一倍強く出るんだろうと思っている。

    ある日突然、元の場所に永遠に帰れなくなったすみれと
    すみれの友人の真奈の物語。

    祈るように読み進める。

    自分の状況がよくのみこめず、歩き回るすみれ。

    少しずつ忘れてなかったものにならないよう
    痛みと一緒にすみれに寄り添うことをやめない真奈。

    死ぬとは。生きるとは。信じるとは。

    未熟な私がこの本から確実に小さな火を頂きました。
    その大切な火が消えないようにと、
    今感じたこと以上のものを発見するために
    再読必須の一冊です。

    これを読んだらますます、東日本大震災の時を
    書いたまるさんのノンフィクション。
    手に取ることが出来なくなりました。

    きっとそちらの本は
    まだ私が受け取れる時期ではないのでしょう。

    まるさんの見つめている先が遠すぎて、
    まだまだ私は辿りつけそうもありませんが
    後ろをついて行かなければいけない人だということは
    この作品ではっきりしましたね。

    忘れ、薄れゆくこと。
    そのことを罪悪と思って苦しんでいる人に
    この作品が届くといいなと思います。

  • 私はこの物語を語る多くの言葉を持たない。けれどこの物語を誰かに手渡したいと言う熱い思いはある。
    家族とか友だちとか恋人とか、親しい誰かを亡くしたことのあるヒトなら誰もが感じたであろう
    「忘れる」という大きな罪悪感。
    その人が感じた痛み、苦しみ、そして絶望を自分も同じように感じることで、忘れられない自分を作り、正当化し、そして守ろうとする。
    忘れないでいること、は誰のため?
    病気など、ある程度の期限と心の準備ができる別れとは別の、ある日突然日常から引きはがすように訪れる事故による死。何も残してもらえなかった、何も伝えられなかった、そんな悔いを持て余し痛みを免罪符にして心の糧として生きていく日々。
    けれど、自分の中にしらないうちにあるんだと、知らない間に息づいている何かがきっとあるんだ。
    忘れるわけじゃない、自分の中にずっと遺されているものたちに気付くこと、そこから自分の人生を生きる勇気が出て来る。それが赦しであり弔いであり救いであり、そして希望である。そうこの物語は教えてくれる。

  • 知らないで読み始めたけれど、3.11の震災絡みの物語だった。
    親友のすみれが消息を絶ってから3年。主人公・真奈の働くダイニングバーに、かつてのすみれの恋人・遠野くんが現れた。
    彼はすみれと住んでいた部屋を引き払い、彼女の荷物を処分しようと思う、と言い出す。
    親友を亡き者として扱う遠野くんやすみれの母親を許せず反発を覚える真奈は、どれだけ時が経っても自分だけは暗い死の淵を彷徨うすみれと繋がっていたいと願うが…。

    突然、というかたちで大切な人をなくす。予兆も、覚悟もなく。
    そういう経験をしたことがある人ならば、真奈の気持ちが痛いほど解るのではないかと思う。
    私にもそういう経験があるけれど、だいぶ年月が過ぎた後だと「結局は時間が解決する」とざっくり言えるのだけど、やはりその間にはたくさんの葛藤があったり意識して気持ちを整理するよう心がけたり、色んな感情の行き来があってその結論に到達したのだと思う。
    同じかたちで同じ人をなくした真奈と遠野くんだけど、なくした側の性格や考え方が違うから、気持ちの整理の仕方や立ち直り方もやはり異なる。その人の持つ“死生観”も大きく関わってくる。
    すみれは恐らく震災で亡くなったのだけど、まだ遺体は見つかっていない。
    流れる風のように生きていた彼女だから、きっともう成仏しているだろう、という考え方も解るし、突然とても辛い死に方をしたのだからまだどこかで彷徨っているだろう、という考え方も解る。
    死んだ人がその後どうなるかは、誰にも分からない。だからその人なりのやり方で、乗り越えていくしかない。

    とても幻想的な構造で、真奈視点と(恐らく)すみれ視点の章が行き来する。
    はじめ、すみれはまだ旅を続けている。そして終わりに向けて、様子が変化していく。
    それと同時に真奈にも変化が訪れる。

    死んでしまった大切な人に関しては、忘れていくことと忘れないことのバランスがあって、忘れることも忘れないこともたぶん両方とも悪ではないし、それは理屈でもない。
    最初は悲しみしかなくても、いつかその人の思い出話を笑いながら出来る日が訪れる。
    「人の心の中で生き続ける」という表現はよくされるけれど、本当にその通りなのだと思う。
    泣くのとは別の場所で“じーん”とくるものがある物語だった。

  • どれだけ時がたっても、震災の「あの日」と向き合うのは鈍い痛みを伴う。だから、本書が刊行されたとき、大好きな彩瀬さん作品でもすぐに手に取ることができなかった。でも、ようやく向き合う時期が来たかと、恐る恐る読み始めた。
    3.11、親友のすみれを失った真奈。時を重ねても喪失感を埋められず、すみれとの思い出の品を処分しようとするすみれの恋人・遠野君に対して複雑な思いを抱く。
    行き場のないやるせなさが何とも苦く辛く、まるでぬかるみに足を取られたようなもどかしさが全体を覆う。当初怯えていたほど震災の描写は少ないものの、身近な人の突然の別れというテーマについては嫌と言うほど考えさせられる。物語中盤での、思いがけない衝撃的な出来事。そこからだんだんと、著者が伝えたいことがわかってくるような気がした。
    いくつもの思いがせめぎ合い、出口のない悲しみに為す術もない。読みながら、自身の被災体験を記した彩瀬さんのデビュー作であるノンフィクション「暗い夜、星を数えて」を思い出していた(私にとっても忘れられない一冊だ)。その後発表される作品に、うまくは言えないがまとわりつくような闇を感じていたのだ。特に本作では胸を抉られるようで、震災後彩瀬さんが抱え続けてきた様々な思いの深さが心にしみた。
    苦しみと対峙しながら、傷のかさぶたを剥がしながら、血を流しながらも痛みに泣きながらも歩き続けていく。気が遠くなりそうだけど、でも、目を凝らしていれば間違いなく見えてくるものがある。悩み、もがく真奈に静かに寄り添う、職場の先輩・国木田さんの接し方がとても好ましかった。
    そして、真奈が偶然知り合った女子高生のカエルちゃん、キノコちゃんの言葉も印象的だった。震災を忘れていまいたい、でも風化して欲しくない、と矛盾した思いで未だに葛藤のある自分にとって、客観的だけど誠実な言葉は、すごく腑に落ちるものだった。
    救いってなんだろう、簡単に言葉にはできないけど、ゆっくりでも静かに、でも確実に、再生へ向けて歩んで行けたらと思う。そう思えるほどに自分も少しは回復できたのかもしれない。彩瀬さん、ありがとう。

  • アンソロジーは読んでいたけど、こうして一冊丸ごと彩瀬さんを読むのは初めて。文章がきれいだな…と思った。いつかきっと大きな賞をもらえる力を持った人だな…と感じた。


    湖谷真奈。すみれ。遠野くん。楢原さん。国木田さん。震災から3年経った物語。遺された人々の苦悩と葛藤。


    感想書くの難しい作品でした。気持ち的にうまく言葉で言い表せない。「喪失も再生」も生きているからこそ感じられるわけで、亡くなった側はどうなっているのか分からない。生きてる側はそこがつらいと感じるんだと思う。10代で実父が、とある登場人物と同じようになったので、いまの自分に何ができるのか、このままでいいのか…など考えさせられることが多かった。私の人生、節目の「ふりかえり」のような作品でした。


    近い人を失って穴が開いた心はそうそう回復しない。後悔ばかりが波のように押し寄せてくる。だけど一歩進んで三歩下がりから、三歩進んで二歩下がるになったり、徐々に変化していく。進んだり後退したりの繰り返し。でもゆっくりと進んでいると信じたい。


    高校生のキノコちゃんとカエルちゃんの
    「うん。それだけ言っとけばいいだろう的な。考えるのをやめてる感じ」=144ページ=
    が、衝撃的で雷に打たれたみたいになった。ここが一番深く印象に残った場面でした。


    あとは靴を脱ぐシーンから最後にかけては、かなり泣いてしまった。タイトルもすごいな…と最初から最後まで圧倒されっ放しでした。時間を置いてから(定期的に)読みたい作品。この時期、このタイミングで読めてよかったと思った。


    彩瀬まるさん自身が自分が前に進むために書いた作品。
    講談社のページに飛びます⇒http://kodansha-novels.jp/1602/ayasemaru/


    ↓ここのシーン衝撃で震えるくらい胸を打たれた。

    ●惨死を越える力をください。どうかどうか、それで人の魂は砕けないのだと信じさせてくれるものをください。93ページ

    ●ある、と自信を持てるほど確かなものは、自分の中に見つけられない。58ページ

    ●こんなにさみしいことを、遠野くんに一人でやらせないでよかった。私もやらせてもらってよかった、と心から思う。98ページ

    ●目に映る人が死んでも死んでも朝は来る。123ページ

    ●「俺は、この世界を作っているのは生きている人間より、圧倒的に死んだ人間の方だと思う。」151ページ

  • この本の作者は5年前、東北地方を一人旅している途中で東日本大震災に遭われました(その体験は「暗い夜、星を数えて 3・11被災鉄道からの脱出」という本になっている)。本書はそんな作者の実体験から生まれた小説です。

    真奈の親友・すみれは旅先で震災に遭い、行方不明に。3年経っても遺体すら見つからず、未だに真奈は親友の死を受け入れられない。しかしある日、久々に再会したすみれの恋人・遠野くんから「遺品を整理するから立ち会って欲しい」と頼まれ・・・。

    正直言うと途中までは「期待していたよりも面白くない」と思っていました。話の構成も真奈が生きる現実と、誰のものだかよく分からない夢のようなものがごちゃ混ぜになっていて読みづらいし。印象が反転したのは7章から。普通の小説だと5章までで終わりそうな書き方で、「ここからまだ半分もどう話を展開するの?」と思いながら読んでいたら、まさかの展開が起こり。そこからよく分からないと思っていた夢の部分の意味もわかるようになり、「死を受け入れること」が二重の意味で本書のテーマになっていることに気付けました。深いです。ものすごく。なのでぜひ途中で挫折せずに最後まで読んで欲しいです。

    印象的なセリフ、表現が多いのが彩瀬作品の特徴ですが、今回は色彩感覚もすごく印象的だった。この作品は映像にしたら綺麗だろうなと思いました。

  • 部嗚咽で読めなくなるくらい揺さぶられました。近しい人との死別を想い出して辛くなりましたが、生者にも死者にも希望のあるラストに救われました。大切な人を喪っても自分の中に欠片となって残っていると気づけたら幸せです。自分が誰かにとって良い欠片になれたら幸せです。死という最悪の別れの悔しさ悲しさが慰められるような温かい小説でした。東日本大震災を経験し、生々しくたくさんの死と向き合った作者なればこその作品だと思います。この死生観は嫌いではありません。感動しました。

  • 2018.2.1-

    美しい文章が、より悲しさを際立たせる。
    感想は持てない。
    ただ、この事実を受け止める。
    こういうことがあり、こういうことに直面した人達の話を受け止める。

    忘れてはいけないって、何を?という女子高生の言葉が、リアルに響いた。

    あの揺れは少し離れたこの場所ですら、とてつもない恐怖を置いていった。臨月の妊婦だった私は、祈るように固まっていた。

    私はこの本を祈るように読んだ。

  • 彩瀬さん初読み!ご自身が旅行中に遭遇した大震災をモチーフに描いたというこの作品を彼女の始めにしたかった。
    1万5千もの命が一瞬にして失われたショッキングな出来事のあとに死を扱うことは戸惑いもあったと思う、それでも「伝えなければ!」との強い気持ちは純粋で描き切ったことに敬意を表したい。突然にして消え去ったひとりの女性、そしてその親友、恋人、両親からの彼女の死への捉え方が様々な角度から語られて彼岸此岸を超えた対話へと発展してゆくストーリーは哀しいながらも美しい。
    それぞれのふたつの魂が心通わせ共に歩むことで再生を図る試みは感動的ですらあった…とてもとてもいい物語

  • 大切な人の不在を埋めてくれるのは、大切な人の言葉の中にある。
    フカクフカク繋がっていたと思っても、信じていたものは簡単に奪われる。
    誰かの特別な誰かになれると信じていたし、そうなれば孤独に死ぬことは無いと信じていた。
    だけどそんな夢も簡単に打ち砕かれる。
    すみれは自分の名前を思い出して大切な人たちへの思いをじんわりと思い出す。
    死ぬ瞬間に神様ではなく真奈と遠野くんに縋ったのは、自分に大切な人がいるという証明になっているのが切ない。
    そんな大切な人がいたからこそ、すみれは歩き出した。
    すみれが歩き出したことで夢で会えて、真奈も遠野くんも歩き出せた。
    生きている人のエゴだとしても、すみれと共有したいのは死ぬ瞬間の辛さや痛みでは無く優しく心地よいかの時間であって欲しい。
    だから、真奈は国木田さんの強くて優しいある種の冷酷な言葉でつながりを感じることができたんだと思う。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で第9回女による女のためのR‐18文学賞読者賞を受賞し、デビュー。16年『やがて海へと届く』(講談社)で、第38回野間文芸新人賞候補。17年『くちなし』(文藝春秋)で第158回直木賞候補、18年同作で第5回高校生直木賞受賞。

「2020年 『まだ温かい鍋を抱いておやすみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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