やがて海へと届く

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062199254

作品紹介・あらすじ

地震の前日、すみれは遠野くんに「最近忙しかったから、ちょっと息抜きに出かけてくるね」と伝えたらしい。そして、そのまま行方がわからなくなった――(本文より)

すみれが消息を絶ったあの日から三年。
真奈の働くホテルのダイニングバーに現れた、親友のかつての恋人、遠野敦。彼はすみれと住んでいた部屋を引き払い、彼女の荷物を処分しようと思う、と言い出す。
親友を亡き人として扱う遠野を許せず反発する真奈は、どれだけ時が経っても自分だけは暗い死の淵を彷徨う彼女と繋がっていたいと、悼み悲しみ続けるが――。
【死者の不在を祈るように埋めていく、喪失と再生の物語】

感想・レビュー・書評

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  • 注射の止血がうまくいかず、図らずも出来てしまった内出血による”あざ”。
    体の表面に残る”あざ”は、いつの間にか時間と共に消え去り、そこに”あざ”があったことすら忘れてしまう。
    けれど心の中に出来てしまった”あざ”は時間が経ってもなかなか消え去ってはくれない。
    たとえ長い年月が経とうとも。

    人により心の”あざ”の持ちようはそれぞれ。
    ”あざ”を消し去ることがなかなか出来ずにずっと抱えている者もいれば、前に進むために”あざ”を思い切って消し去ろうとする者もいる。
    どちらも決して間違いではないのだと思う。

    あの震災から三年後の物語。
    大切な人を突然、行方不明という形で亡くし、自分だけ一人取り残された、と途方に暮れ、自身で創り上げた幻に惑わされる真奈。
    そこにあるのは当惑、未練、怒り、絶望。
    一向に前に進むことができず、その場にずっと留まったままひたすらもがく。
    そして固結びになった心をほどくことさえ嫌悪する。
    辛いままでいい、忘れたくない、楽になんてなりたくない。
    心の中で泣き叫ぶ彼女に、これだけは言いたい。
    忘れなくてもいいんだよ。でも自分で自分を痛めつけるのだけはやめて、と。
    時間が解決する訳ではないけれど、逝ってしまった人が遺してくれたものを、いつか笑って眺めることができますように。
    フカクフカク、ユックリと残りの人生を愛しいものにしてほしい。

    もがいている途中で真奈が出逢った女子高校生のセリフ
    「(震災を)忘れないって、なにを忘れなければいいんだろう。たくさんの人が死んだこと?地震や津波ってこわいねってこと?」
    に深く考えさせられた。
    私もこの質問にはなんと答えていいのか、分からない。
    あの震災から10年。答えはまだ出ない。

  • 大きな震災で行方不明になったすみれと、その幼なじみ・真奈の心情、すみれの母親や恋人だった遠野くんのその後の様子が描かれた作品。すみれの"死"を受け入れられず、まわりの人たちと折り合いをつけられない真奈の気持ちが、とても痛々しく感じられる。しかし現実では、12年経った今でも、真奈と同じのような気持ちを抱いている人がいると思うと、簡単には片付けられない出来事だったのだ、とあらためて感じた。

  • 「死」というものに直面したら
    本人も、その周囲にいる人々も、どんな場合でも
    その状況に納得しているなんてあり得ない。

    後悔だって、言いたいことだっていっぱいあり
    昨日までの連続した自分の場所に
    戻りたくてたまらなくなるんだろうと
    特に私のような成長しきれてない人間は
    その思いが人一倍強く出るんだろうと思っている。

    ある日突然、元の場所に永遠に帰れなくなったすみれと
    すみれの友人の真奈の物語。

    祈るように読み進める。

    自分の状況がよくのみこめず、歩き回るすみれ。

    少しずつ忘れてなかったものにならないよう
    痛みと一緒にすみれに寄り添うことをやめない真奈。

    死ぬとは。生きるとは。信じるとは。

    未熟な私がこの本から確実に小さな火を頂きました。
    その大切な火が消えないようにと、
    今感じたこと以上のものを発見するために
    再読必須の一冊です。

    これを読んだらますます、東日本大震災の時を
    書いたまるさんのノンフィクション。
    手に取ることが出来なくなりました。

    きっとそちらの本は
    まだ私が受け取れる時期ではないのでしょう。

    まるさんの見つめている先が遠すぎて、
    まだまだ私は辿りつけそうもありませんが
    後ろをついて行かなければいけない人だということは
    この作品ではっきりしましたね。

    忘れ、薄れゆくこと。
    そのことを罪悪と思って苦しんでいる人に
    この作品が届くといいなと思います。

  • どれだけ時がたっても、震災の「あの日」と向き合うのは鈍い痛みを伴う。だから、本書が刊行されたとき、大好きな彩瀬さん作品でもすぐに手に取ることができなかった。でも、ようやく向き合う時期が来たかと、恐る恐る読み始めた。
    3.11、親友のすみれを失った真奈。時を重ねても喪失感を埋められず、すみれとの思い出の品を処分しようとするすみれの恋人・遠野君に対して複雑な思いを抱く。
    行き場のないやるせなさが何とも苦く辛く、まるでぬかるみに足を取られたようなもどかしさが全体を覆う。当初怯えていたほど震災の描写は少ないものの、身近な人の突然の別れというテーマについては嫌と言うほど考えさせられる。物語中盤での、思いがけない衝撃的な出来事。そこからだんだんと、著者が伝えたいことがわかってくるような気がした。
    いくつもの思いがせめぎ合い、出口のない悲しみに為す術もない。読みながら、自身の被災体験を記した彩瀬さんのデビュー作であるノンフィクション「暗い夜、星を数えて」を思い出していた(私にとっても忘れられない一冊だ)。その後発表される作品に、うまくは言えないがまとわりつくような闇を感じていたのだ。特に本作では胸を抉られるようで、震災後彩瀬さんが抱え続けてきた様々な思いの深さが心にしみた。
    苦しみと対峙しながら、傷のかさぶたを剥がしながら、血を流しながらも痛みに泣きながらも歩き続けていく。気が遠くなりそうだけど、でも、目を凝らしていれば間違いなく見えてくるものがある。悩み、もがく真奈に静かに寄り添う、職場の先輩・国木田さんの接し方がとても好ましかった。
    そして、真奈が偶然知り合った女子高生のカエルちゃん、キノコちゃんの言葉も印象的だった。震災を忘れていまいたい、でも風化して欲しくない、と矛盾した思いで未だに葛藤のある自分にとって、客観的だけど誠実な言葉は、すごく腑に落ちるものだった。
    救いってなんだろう、簡単に言葉にはできないけど、ゆっくりでも静かに、でも確実に、再生へ向けて歩んで行けたらと思う。そう思えるほどに自分も少しは回復できたのかもしれない。彩瀬さん、ありがとう。

  • 私はこの物語を語る多くの言葉を持たない。けれどこの物語を誰かに手渡したいと言う熱い思いはある。
    家族とか友だちとか恋人とか、親しい誰かを亡くしたことのあるヒトなら誰もが感じたであろう
    「忘れる」という大きな罪悪感。
    その人が感じた痛み、苦しみ、そして絶望を自分も同じように感じることで、忘れられない自分を作り、正当化し、そして守ろうとする。
    忘れないでいること、は誰のため?
    病気など、ある程度の期限と心の準備ができる別れとは別の、ある日突然日常から引きはがすように訪れる事故による死。何も残してもらえなかった、何も伝えられなかった、そんな悔いを持て余し痛みを免罪符にして心の糧として生きていく日々。
    けれど、自分の中にしらないうちにあるんだと、知らない間に息づいている何かがきっとあるんだ。
    忘れるわけじゃない、自分の中にずっと遺されているものたちに気付くこと、そこから自分の人生を生きる勇気が出て来る。それが赦しであり弔いであり救いであり、そして希望である。そうこの物語は教えてくれる。

  • 知らないで読み始めたけれど、3.11の震災絡みの物語だった。
    親友のすみれが消息を絶ってから3年。主人公・真奈の働くダイニングバーに、かつてのすみれの恋人・遠野くんが現れた。
    彼はすみれと住んでいた部屋を引き払い、彼女の荷物を処分しようと思う、と言い出す。
    親友を亡き者として扱う遠野くんやすみれの母親を許せず反発を覚える真奈は、どれだけ時が経っても自分だけは暗い死の淵を彷徨うすみれと繋がっていたいと願うが…。

    突然、というかたちで大切な人をなくす。予兆も、覚悟もなく。
    そういう経験をしたことがある人ならば、真奈の気持ちが痛いほど解るのではないかと思う。
    私にもそういう経験があるけれど、だいぶ年月が過ぎた後だと「結局は時間が解決する」とざっくり言えるのだけど、やはりその間にはたくさんの葛藤があったり意識して気持ちを整理するよう心がけたり、色んな感情の行き来があってその結論に到達したのだと思う。
    同じかたちで同じ人をなくした真奈と遠野くんだけど、なくした側の性格や考え方が違うから、気持ちの整理の仕方や立ち直り方もやはり異なる。その人の持つ“死生観”も大きく関わってくる。
    すみれは恐らく震災で亡くなったのだけど、まだ遺体は見つかっていない。
    流れる風のように生きていた彼女だから、きっともう成仏しているだろう、という考え方も解るし、突然とても辛い死に方をしたのだからまだどこかで彷徨っているだろう、という考え方も解る。
    死んだ人がその後どうなるかは、誰にも分からない。だからその人なりのやり方で、乗り越えていくしかない。

    とても幻想的な構造で、真奈視点と(恐らく)すみれ視点の章が行き来する。
    はじめ、すみれはまだ旅を続けている。そして終わりに向けて、様子が変化していく。
    それと同時に真奈にも変化が訪れる。

    死んでしまった大切な人に関しては、忘れていくことと忘れないことのバランスがあって、忘れることも忘れないこともたぶん両方とも悪ではないし、それは理屈でもない。
    最初は悲しみしかなくても、いつかその人の思い出話を笑いながら出来る日が訪れる。
    「人の心の中で生き続ける」という表現はよくされるけれど、本当にその通りなのだと思う。
    泣くのとは別の場所で“じーん”とくるものがある物語だった。

  • 東日本大震災で友人を失った悲しみから立ち直れない、一人の女性の物語。未曾有の大震災で突然、親しい人の命を奪われた人は、この世の中にどれだけいるのだろう?失った命の数は報道されるけど、失った人の心の数は報道されない。そんな一人の女性が友人の死を受け入れながら、前に進んでいく。内容はそんなに複雑ではないけど、回想シーンと現実のシーンが上手く切り替わりが出来てなくて、少し読みにくかった。ラストも、もっと前向きな方が亡くなった友人も喜ぶのではないだろうか・・・

  • ホテルのダイニングバーで働く28歳の湖谷真奈。親友のすみれが一人旅へ出かけたまま消息を立ち3年が経った。大切な親友の死を受け入れられない真奈は、彼女を忘れることが罪であるかのように、痛みや苦しみを感じ続けることが親友を失わずに済む唯一の方法であるかのように、ひたすらもがき苦しんでいる…。

    現実を生きる真奈の生活と、すみれとの思い出の日々と、誰だか明かされないある女性の夢のような、浮遊感のある眩惑的なエピソードとが入り混じり描かれていきます。

    彩瀬さんの文章は繊細で静謐でとても美しいですね。装丁も素敵で物語のイメージともとても合っていると思います。この春、映画化もされましたね、そちらも気になります。

    彩瀬さん自身が一人旅の最中に東日本大震災に被災されたとのこと…その時の経験をノンフィクションで描いた『暗い夜、星を数えて 3・11被災鉄道からの脱出』という本も刊行されているそうです。こちらもぜひいつか、手に取りたいと思います。

  • この本の作者は5年前、東北地方を一人旅している途中で東日本大震災に遭われました(その体験は「暗い夜、星を数えて 3・11被災鉄道からの脱出」という本になっている)。本書はそんな作者の実体験から生まれた小説です。

    真奈の親友・すみれは旅先で震災に遭い、行方不明に。3年経っても遺体すら見つからず、未だに真奈は親友の死を受け入れられない。しかしある日、久々に再会したすみれの恋人・遠野くんから「遺品を整理するから立ち会って欲しい」と頼まれ・・・。

    正直言うと途中までは「期待していたよりも面白くない」と思っていました。話の構成も真奈が生きる現実と、誰のものだかよく分からない夢のようなものがごちゃ混ぜになっていて読みづらいし。印象が反転したのは7章から。普通の小説だと5章までで終わりそうな書き方で、「ここからまだ半分もどう話を展開するの?」と思いながら読んでいたら、まさかの展開が起こり。そこからよく分からないと思っていた夢の部分の意味もわかるようになり、「死を受け入れること」が二重の意味で本書のテーマになっていることに気付けました。深いです。ものすごく。なのでぜひ途中で挫折せずに最後まで読んで欲しいです。

    印象的なセリフ、表現が多いのが彩瀬作品の特徴ですが、今回は色彩感覚もすごく印象的だった。この作品は映像にしたら綺麗だろうなと思いました。

  • すみれが消息を絶ったあの日から三年。真奈の働くホテルのダイニングバーに現れた、親友のかつての恋人、遠野敦。彼はすみれと住んでいた部屋を引き払い、彼女の荷物を処分しようと思う、と言い出す。親友を亡き人として扱う遠野を許せず反発する真奈は、どれだけ時が経っても自分だけは暗い死の淵を彷徨う彼女と繋がっていたいと、悼み悲しみ続けるが――。【死者の不在を祈るように埋めていく、喪失と再生の物語】


    地震の前日、すみれは遠野くんに「最近忙しかったから、ちょっと息抜きに出かけてくるね」と伝えたらしい。そして、そのまま行方がわからなくなった――(本文より)

    すみれが消息を絶ったあの日から三年。
    真奈の働くホテルのダイニングバーに現れた、親友のかつての恋人、遠野敦。彼はすみれと住んでいた部屋を引き払い、彼女の荷物を処分しようと思う、と言い出す。
    親友を亡き人として扱う遠野を許せず反発する真奈は、どれだけ時が経っても自分だけは暗い死の淵を彷徨う彼女と繋がっていたいと、悼み悲しみ続けるが――。
    【死者の不在を祈るように埋めていく、喪失と再生の物語】

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。16年『やがて海へと届く』で野間文芸新人賞候補、17年『くちなし』で直木賞候補、19年『森があふれる』で織田作之助賞候補に。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『川のほとりで羽化するぼくら』『新しい星』『かんむり』など。

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