楽しい夜

著者 :
制作 : 岸本 佐知子 
  • 講談社
3.84
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本棚登録 : 415
レビュー : 33
  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062199513

作品紹介・あらすじ

メキシコの空港での姉妹の再会を異様な迫力で描いた、没後十余年を経て再注目の作家による「火事」(ルシア・ベルリン)、一家に起きた不気味な出来事を描く「家族」(ブレット・ロット)。アリの巣を体内に持つ女という思い切り変な設定でありつつはかなげな余韻が美しい「アリの巣」(アリッサ・ナッティング)、30代女子会の話と思いきや、意外な展開が胸をつく表題作「楽しい夜」(ジェームズ・ソルター)。飛行機で大スターの隣に乗り合わせてもらった電話番号の紙切れ…チャーミングでせつない「ロイ・スパイヴィ」(ミランダ・ジュライ)など、選りすぐりの11編です。

【収録作品】
「ノース・オブ」マリー=ヘレン・ベルティーノ
「火事」ルシア・ベルリン
「ロイ・スパイヴィ」ミランダ・ジュライ
「赤いリボン」ジョージ・ソーンダーズ
「アリの巣」アリッサ・ナッティング
「亡骸スモーカー」アリッサ・ナッティング
「家族」ブレット・ロット
「楽しい夜」ジェームズ・ソルター
「テオ」デイヴ・エガーズ
「三角形」エレン・クレイジャズ
「安全航海」ラモーナ・オースベル

感想・レビュー・書評

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  • 『アメリカの国旗が、学校の窓に、車に、家々のポーチのスイングチェアにある。その年の感謝祭、わたしは実家にボブ・ディランを連れて帰る』ー『ノース・オブ』マリー=ヘレン・ベルティーノ

    岸本佐知子信仰の命ずるがままに詞華集を読む。大団円ではない物語が並ぶ。大団円など現実の世界では滅多に起こらないので、平均的な人生によくありそうな程度に不幸な話が並んでいる、とも言えるのかも知れない。しかし、それが繰り返されるうちに不幸は徐々に幽体離脱しその辺りを漂う。平均的であるが故にどことなく身につまされたような物語は、徐々に自分とは関係の無いところで起こるものと信じ込んでいた不幸が直ぐ隣にまで来ていることを教える。

    作家も異なるし翻訳も作品ごとに味わいを変えて提供されているが、どこかでお互いに響き合う。岸本佐知子の行商の行李に集められた品は質が高いことはもちろんだが、同じ行李の中に入れられていると似たような味わいになるのかも知れない。それは受け止める読者である自分が同じ手捌きで異なる魚を同じような料理にしてしまうからなのかも知れないけれども。

    『外から見れば、そのときのわたしは何もしていないように見えたかもしれないけれど、じっさいは物理学者か政治家なみに目まぐるしく働いていた。次なる動きをどうするか、戦略を練っていたのだ。次なる動きはいつも“動かない”だったから、よけいに事はむずかしかった』ー『ロイ・スパイヴィ』ミランダ・ジュライ

    ああ、やはりミランダ・ジュライは特別だな。映像作品を造ることと即興パフォーマンスをすることと小説を書くことには差を余り感じないとどこかで作家が言っていたように記憶しているけれど、こんな作品を読むとそれも納得する。この私小説風の作品からは、彼女が監督を務める映画の主人公が彼女自身であることと同じような効果を強く感じる。もちろん虚構であるとは思いながら読むのだけれど、例えば、腕の長さが強調されるシーンの立ち振舞いなど、映像としてはすっかりミランダ・ジュライが動いているところが見えてしまう。

    この才能豊かでコケティッシュな魅力の持ち主である作家の嘘には、どこかで拾った錆びた釘から拡がる話とでも言えばよいような趣があって、拾った錆びた釘という現実がどこまでも嘘の中で意味を主張し続けるところが魅力の一つだと思う。もちろんスパイヴィもその隣に座り遇わせた女性も虚構でありはするだろうけど、話の芯にある筈のミランダ・ジュライがどこかで経験した出来事のことまでいつの間にか想像してしまう。それは、川上弘美を読む感覚ととても似ていることなのだけれど、そう言えば二人とも背が高いね。ああ、そろそろ真面目にThe First Bad Manに取り組もう。

  • 独特な狂気性の高い作品が多く楽しめた。アリの巣。亡骸スモーカーが特に良かった。

  • 初読

    ボブ・ディランを実家の感謝祭に連れて帰る
    「ノース・オブ(マリー=ヘレン・ベルティーノ)」
    癌の妹サリーに会うために着いたメキシコ・シティの空港での火事
    「火事(ルシア・ベルリン)」
    有名俳優と飛行機で隣り合う
    「ロイ・スパイヴィ(ミランダ・ジュライ)」
    犬達の厄災の犠牲となった女の子の
    「赤いリボン(ジョージ・ソーンダーズ)」
    骨の中に蟻を寄生させる美しい女の
    「アリの巣(アリッサ・ナッティング)」
    死者の髪を吸って記憶を味わう男の
    「亡骸スモーカー(アリッサ・ナッティング)」
    夫婦喧嘩をしていたら成長した子供達がクーラーボックスで生活している
    「家族(ブレット・ロット)」
    NYの夜、3人の女達のお喋り
    「楽しい夜(ジェームズ・ソルター)」
    神話のような、山が人間だった
    「テオ(デイヴ・エガーズ)」
    気まずくなった恋人へのナチスのワッペンのお土産
    「三角形(エレン・クレイジャズ)」
    祖母たちの彼方の世界への船旅
    「安全航海(ラモーナ・オースベル)」

    優れた小説は普遍的であるのか、
    現在のコロナ禍など想像出来ようもないのに、
    今の心境に沿うような作品がいくつもあった。

    ロイ・スパイヴィ、家族、楽しい夜、三角形
    が小説として特に好きだな、と思ったけど
    ラスト(である事が重要なのかもしれない)の
    安全航海の余韻、残り香のような儚さの。も、印象的だ。

    訳者あとがきで改めて思うのは、どの作者もたいして和訳されていない事!
    改めて岸本佐知子という目利きの行商人が選んだ魚たちを味わえる
    事に感謝な群像紙の素晴らしい企画。

    「家族」のブレッド・ロットはボールドウィンに師事、
    名もない市井の人々の生活の細部を丁寧にすくい上げるようなリアリズムで書く作家で、この作品は変化球。
    とあり、俄然他の作品も読みたい。
    「楽しい夜」のジェームス・ソルターは50年キャリアにして
    長編短編合わせて10作足らずの寡作、ぎりぎりまで削ぎ落としたストイックな文体と鋭い人間描写でこちらは
    ソルターのエキスが凝縮された一編との事。

  • どの話もちょっとズレていて、そのズレが狂気や絶望や希望やなにやらを手に取って見せてくれるようなところがある。小さな物語のいろどりと多様さを愉しんだ。

    ルシア・ベルリンの「火事」を目当てに手に取ったのだが(あの姉妹の小説は永久に読んでいたい気持ちになる)、ほかにも『変愛小説集』で読んだジェームズ・ソルター(表題作)が心に残った。みんな大好きミランダ・ジュライは上手だなと思う、だけどああいうオチのつけ方は好きじゃない... ああいうことを考えるのは自分の人生に対して不誠実だと思う。

  • 文学

  • 収められている短編の内容・印象うんぬんより、岸本佐知子さんがいてくれて有難う、なアンソロジーでした。岸本佐知子さん、凄いッス。

  • ルシア・ベルリンやミランダ・ジュライの短編が読めるということで手に取ったけど、いちばん最初に収録されているマリー=ヘレン・ベルティーノ「ノース・オブ」が圧倒的に好き。イラクへ出征する兄に思いとどまってほしくて兄の好きなボブ・ディランを連れて帰省するという、不思議系ストーリーなのに不覚にもジーンときてしまった(しかもディランはセリフがないっていうのがまた良い)

  • 翻訳者の方のアンソロジー本は面白いことが多いけれど、今回も当たりだった。切れ味が鋭かったり、幻想的な雰囲気の小説でまとめられていて読みやすかった。特にテオの物語には不思議と涙がでる思いだった。幻想小説は、日常生活の澱や疲れがない分、純粋な状態が描きやすいからだろうか。変愛小説集も読む予定。

  • 2018年1月14日に紹介されました!

  • テーマを決めずそのときどきで網にかかったものからこれぞという作品を集めた”行商のお婆さん”方式、すばらしいではないか。「岸本佐知子訳」はいつだっていままでにない喜びや驚きや当惑と出会わせてくれると、絶大な信頼を寄せている。
    「アリの巣」「安全航路」が特に好き。

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著者プロフィール

岸本佐知子 翻訳家。おもな訳書に、S・タン『遠い町から来た話』、L・ベルリン『掃除婦のための手引き書』、N・ベイカー『中二階』、編訳書に『変愛小説集』『居心地の悪い部屋』『コドモノセカイ』など、著書に『ねにもつタイプ』(講談社エッセイ賞受賞)『死ぬまでに行きたい海』などがある。

「2021年 『おばけと友だちになる方法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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