BB/PP

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 56
レビュー : 10
  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062200318

作品紹介・あらすじ

この女ならおれは愛せるかもしれない──人工知能搭載の最上級の“ヒト型擬體“を余生の伴侶として手にいれた、現代の青髭公を描く衝撃の表題作他、またいとこの姉妹と過ごした12歳の夏の夜のひとときを回想する『石蹴り』、病に倒れた旧友を見舞い「記憶」の意味について語り合う『手摺りを伝って』 など、魅惑の9篇を収録する芥川賞作家の傑作小説集。


目次
BB/ PP
石蹴り
手摺りを伝って
四人目の男
ミステリオオ-ソ
水杙
ツユクサと射手座
薄ぼんやりと、ゆらりと二つ
T字路の時間

感想・レビュー・書評

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  • 著者によると、いつか読んだ本によれば、文学とは物質と記憶に集約されるそうだ。
    この短編集はまさに記憶についての本だといってもいい。中年の男が記憶に分け入っていくうち、赤の他人のような自身、いやほとんど自分のような他者に出会って呆然とする。

    ところで、松浦寿輝の小説の持つオリジナリティは、中年の男の目の前に、少年の世界あるいは欲望が、ただれて歪んだ形であやしく現出するその凄みにあると思う。
    ところが本書にはそうしたところがあまり見られず(あるにはあるけれど)、ただただ教養の深さと趣向の面白さに目を見張らされるだけで読み終えてしまった。

  • 好き嫌いがはっきりわかれるだろう、この短編集は。スノッブって言ってしまったらみもふたもないかもしれない。
    でも、年を重ねて過去の記憶と向き合うことって、たとえばあの頃は良かったって思うのはやっぱり、人生は綺麗なだけじゃないし、本当のことは誰にも見えないんだよなっていうことをすごく考えることにつながっているような気がする。意味がよくわからない文章になってしまった。
    とにかく、松浦寿輝先生が好きなのは自分もここにいるような文章と、あとワタシが知っているところを先に先生が歩いている感じがするからかもしれない。

  • 『人間って、結局、自分の身の丈相応でしか他人を判断できないんだよね』―『ミステリオーソ』

    例えば村上春樹の小説によく登場する暗い穴。作家はその底をよくよく覗き込んで人の奥底に潜む凶暴な人格を暴き出そうとする。しかし村上春樹の小説で描かれるそれは、所詮(と言ってよければ)カエルくんによって元の暗い地中へ押し戻されるそれであり、散々広げた風呂敷をあっさりアトレーユに託して知らぬふりを決め込んでしまえるそれであるに過ぎない。誰もが持っている知られたくない後ろ暗い思い、あるいは隠された人格のようなものとは、そんな生易しいものではないだろう。それは羞恥心と表裏一体の感情であるからこそ隠しておきたいという力が掛かり、その圧によって増す凶暴で陰湿な裏側の、実在する顔でもある。無かったことには決して出来ない。そこを松浦寿輝は臆するところなく直截に敢えて書く。

    「そこでゆっくりと死んでいきたい気持をそそる場所」という小説に惹かれて以来、松浦寿輝という作家名を時折書棚に求めている自分に気付くことがある。その行為の根本にあるものは、エログロ、あるいは自暴自棄なものと紙一重という感覚はある。しかし口唇期の子供が無性に興奮するように、触れてはいけないものへの興味のようなものを松浦寿輝にはいたく刺激されるのだ。自分の中にもそんな人格が潜んでいることを意識してのことか、あるいは暴力的なまでの非常理に蹂躙されたいという気持ちがあるのか。簡単にその答えには行き当たらない。

    あるいは、単にこの作家が社会から脱落した中年男性を好んで描くことが、その理由なのかも知れない。自分の年齢を意識して残りの時間を計算せさるをえないことが知らぬ間に誘導する思い、これまでにしたことの無いような何かを希求してのことなのかも知れないと、妙にこじつけて考えてみる。所詮、最後は自分一人なのだと開き直ることが松浦寿輝の小説には求められているような気がして、ただそれだけが聞きたくて惹かれているだけなのかも知れない。とは言え松浦寿輝の書くものを何でも好んで読むわけではない。

    この本は同じ趣きのものをまとめたようには見えないが、言いたいことは全て共通している様にも読める。それを敢えて言葉にするなら、飽き、ということなのか。その先に何かが待っているような結末はなく、置き去りにされた思いが常に
    残る。極端に言ってしまえば、描かれるのは訳が解る範囲での訳の判らなさ。人の業の深さを720度スクリューの着地点的に噛みしめる。

  • 短編集。とりあえず表題作のインパクトがすごい。人間そっくりなアンドロイドの美女がご主人様と暮らすうちに人間以上に人間的な感情に目覚める・・・というのはAIものにありがちなドリームだけれど、育てた主人が近未来日本の青髭だったりすると、AIのほうもこういう方向に学習しちゃうわけですね。怖すぎる。

    この調子で他の短編もSF調なのかと思ったら、表題作以外は普通の純文学、いつもの松浦寿輝でした。少年時代のノスタルジックな回想ものや、グルジア、チェコ、パリ、イタリア等、私小説的なとりとめのない旅行先での思い出ものなど、共通するのはどれもラストで、その記憶自体が「本当にあったことなのか」記憶の中の人々についても「本当に存在した人なのか」と不安になる点。実際年齢を重ねると、本当にこういうシュールな感覚に陥ることはままあるのでよくわかる。

    「東京人」に掲載されたという、著者の少年時代暮らした下町の思い出もの「薄ぼんやりと、ゆらりと二つ」「T字路の時間」がなかなか好きでした。とくに長馴染みの中年男性二人が商店街めぐりをする「T字路の時間」が良かった。

    ※収録作品
    BB/PP/石蹴り/手摺りを伝って/四人目の男/ミステリオーソ/水杙/ツユクサと射手座/薄ぼんやりと、ゆらりと二つ/T字路の時間

  • 途中まで。
    なんというか、難しいというか理屈ぽいというか……。
    「手摺りを伝って」が何気におもしろかった。過去の出来事の想起を夢の中で行うっていうのは、SFちっくだけど、脳科学の視点からすれば割とよくある話で。ただ、作中にもあったけど、都合のいいように出来事が曲げられてることもあるんだよね。

  • 不思議な雰囲気を持つ短編集。
    個人的には、「ミステリオーソ」と「水杙」がおもしろかった。

  • ・表題作を前に青髭公とピグマリオンの伝統から事をはじめるのが正統なのかもしれない。
    ・だが、PPがアップデートされ「人格」を獲得し、つまり「再帰性」を得ることにより、超越論的=経験論的二重体となり、“PP”はズレつつ重なり“BB”となる。
    ・そうしたポストモダン的な解釈も誘発する。
    ・しかしながら、この表題作以外は、さながら著者の美しきエセー『青天有月』を想起させる、幼年期の記憶の揺蕩いを誘うものであったり、他方ぬめりつつも、決して織として沈殿することのない、奇妙な粘度をもったエクリチュールに酔える作品であったり、と様々。

  • ★2016年8月28日読了『BB/PP』松浦寿輝著 評価B
    川の光などの子供が読める作品から大人向けのサスペンスタッチのものまで、さまざまな作品をつづる松浦氏。今回は、サスペンス調からエッセイ風までいくつかの短編作品集である。

     一番インパクトのあったのは、表題にもなっている『BB/PP』である。
    星新一的な近未来のSFタッチかつおどろおどろしい結末は、想定外。自らの志向が、AIによって作られたアンドロイドにフィードバックされ、学習されて復讐されてしまうというちょっと近未来に起こりそうな恐ろしい話ではある。
     
     次に面白かったのは、『T字路の時間』だ。 彼の故郷である東京・台東区の竹町商店街をはじめとする世界でも珍しいと筆者が考えている日本の商店街論。そして、私たち昭和30年代生まれにはなつかしい当時の街と世の中の雰囲気を思い起こさせてくれる作品である。

    <良い文章があったので、備忘のために拾っておきたい。>
    「気が置けない仲」という言葉がある。遠慮したり気をつかったりする必要がなく、心から打ち解けることができる間柄という意味だろう。だが、細かな気づかいをする必要などないのは、むしろ自分にとってどうでもよい赤の他人の関係の方ではないか。どうでもよくない大事な友達に対してこそ、とことん気をつかい、デリケートな配慮のかぎりを尽くすべきなのだ。

  • 表題作だけ、少しホラーチックで風合いが違うように思えた。この作家さんには表題作以外の方が合う。50過ぎた主人公が、今までの人生を思い返す作品が多く、人生や自分の存在といったものがテーマなんだと思う。僕にとっては、「老い」というテーマは向き合うにあまりにも恐ろしく、また、「恋」というテーマも振り返るには手が届かなさ過ぎた。それでもまだ、共感と別のところで読みたいという興味を抱かせる作風だと思う。

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著者プロフィール

松浦寿輝(まつうら・ひさき)
一九五四年東京都生まれ。二〇〇〇年『花腐し』で芥川賞、二〇〇五年『半島』で読売文学賞、『あやめ 鰈 ひかがみ』で木山捷平文学賞、二〇一七年『名誉と恍惚』で谷崎潤一郎賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞、二〇一九年日本芸術院賞を受賞。ほか詩、評論でも受賞多数。二〇一二年紫綬褒章受章。

「2019年 『掌篇歳時記 秋冬』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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