ビビビ・ビ・バップ

著者 :
  • 講談社
3.68
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感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (666ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062200622

作品紹介・あらすじ

「僕の葬式でピアノを弾いて頂きたいんです」
それがすべての始まりだった。
電脳内で生き続ける命、アンドロイドとの白熱のジャズセッション。大山康晴十五世名人アンドロイドの謎、天才工学少女、迫り来る電脳ウィルス大感染…。平成の新宿から近未来の南アフリカまで、AI社会を活写し、時空を超えて軽やかに奏でられるエンタテインメント近未来小説!

感想・レビュー・書評

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  • 『鳥類学者のファンタジア』の続編…なのだけど、時代は一気に未来。2029年に「大感染(パンデミック)」というものが起こってから70年とあったから、2099年、21世紀ももうすぐ終わりという頃。主人公は34歳ジャズピアニスト(だけでは食べていけないので音響設計士も)の木藤桐(きとう・きり)彼女の母方の曾祖母は初代フォギーこと『鳥類~』の主人公だった池永霧子で、木藤桐は二代目フォギーを名乗っている。語り手は彼女の猫のドルフィー。

    さて、先に書いた「大感染」とは、コロナ禍の現在聞くとドキッとするけど、実は人間ではなくコンピューターウイルスによる機械へのパンデミック。それによって文明の進歩はかなり遅れたとされる。引き起こした29virusというウイルスの謎はいまだ解明されていない。

    まあとにかくそれでもめちゃ色々進歩した未来、世界有数のロボット工学者にしてIT企業モリキテックの重役である山萩貴矢の依頼で、フォギーは彼の架空墓(ヴァーチャルトゥーム)の音響設計を請け負っている。科学の進歩により人間の寿命はどんどん伸び(※ただし富裕層のみ)山萩は130年以上生きている。そして彼はなんと、初代フォギーの大ファンだったため、二代目フォギーにも色々と親切にしてくれている。(鳥類~にちらっと出てきたような記憶はあるけどあの分厚い本をもう一度めくって確認する気にはならない…)

    この架空墓というのは、ヴァーチャルリアリティの進化した時代、死後に死者の生前の姿に会いに行けるというもので、大金持ちの山萩は、墓どころか仮想空間に1969年の新宿を再現しようとしている。そのために20世紀文化の専門家(つまり20世紀オタク)も雇われており、それが芯城銀太郎という男。本業(?)は将棋の棋士らしい。ジャズピアニストという職業柄やはりアナログな二代目フォギーは彼と意気投合している。

    このヴァーチャル新宿が大変面白い。ヴァーチャル空間でのフォギーのアバターはもちろん初代フォギー池永霧子、芯城のアバターはなぜか横尾忠則。花園神社では劇団状況劇場が『由比正雪』を上演中(ポスターデザインはもちろん横尾忠則)だし、歌舞伎町のバーに行けば伊丹十三や寺山修司が飲んでいて、そこへ野坂昭如や唐十郎、中上健次(フォークナーの『八月の光』を読んでいる)までやってくる。新宿ピットインでは山下洋輔トリオが演奏してるし、末廣亭では古今亭志ん生の落語が聞ける。

    そんなヴァーチャルなお墓で、山萩は自分が死んだときは二代目フォギーに、初代フォギーが愛猫の死を悲しんで作曲した「さよならパパゲーノ」を演奏してほしいと言う。山萩はすでに死期が近づいているのだけれど、実は以前、全脳送信(TBU)の実験を行ったことがある。全脳送信とは人間の脳をデータ化して保存する仕組みだけれどまだ技術的には未完成。完成すればヴァーチャル空間で永遠に生きられるわけだが、山萩はそれを望まず、以前お試ししたものは破棄していた。ところが、これのコピー「Met02」が保存されていたことから、なんと山萩が死んでからもこいつが電脳空間で好き勝手しはじめてしまう。

    さらに、モリキテック社製のアンドロイド大山康晴名人と、芯城の将棋対決のあったホテルで、ロボ棋士大山が謎の死を遂げ、しかしその前に彼は山萩からのメッセージをフォギーに届ける。山萩はフォギーに早くピアノを弾いてほしい、ピアノの鍵は「赤き死の仮面」にあると謎の伝言を寄越す。山萩の書斎でポーの「赤き死の仮面」を探し出したフォギーは、そこに猫の形のペンダントを発見、黒い石(そうあの、ロンギヌス物質!)のついたそのペンダントを、しかし猫のドルフィー(死去したためそっくりのロボを山萩がプレゼント)が飲みこんでしまい…。

    『鳥類~』のフォギーには、佐知子ちゃんという有能な弟子がいてフォギーをフォローしてくれましたが、今作には王花淋というモリキテックの社員で二十歳の天才工学少女がフォギーをその頭脳と機転で助けてくれます。彼女もまたフォギーを「師匠」と呼ぶ。

    展開としてはものすごく雑にまとめると、電脳VS人間。電脳Met02は、人類を壊滅させるウイルスを撒こうとしており、それに対抗しMet02を停止させるため、フォギーと仲間たちはコンピューターウイルスを撒こうとする。どちらのウイルスが先に完成するか…というのが終盤の展開。Met02は立川談志や志ん生のアンドロイドを使ってフォギーを殺そうとしたりもするが、もともとフォギーに好意を抱いている山萩のコピーなため、フォギーの機嫌を取ろうと錚々たるジャズミュージシャンのアンドロイドを作ったりもしてくれる。

    ラストはもちろん、このジャズミュージシャンたち(チャーリー・パーカーやマイルス・デイビス、コルトレーン、そしてドルフィーの名前の由来になっているエリック・ドルフィーら)とフォギーが、初代フォギーの作曲した「フォギーズ・ムード」(オルフェウスの音階が使われている例のあれ)を演奏することで、コンピューターに勝利する。

    さらに終盤で、実は二代目フォギーは初代フォギーの曾孫ではなくクローンであり、父親は山萩であったことがわかる。二代目フォギーも、初代フォギー同様、ひょうひょうとしていてどんな場面でも緊迫感がなくユーモラス。いつもトイレの場所を気にしてるところも一緒(笑)さらになぜか山田風太郎を愛読しており、やたらと「吸血くの一」にこだわるくだりは爆笑。忍法帖に登場する「夜叉丸」と「風待将監」のアンドロイドもなぜか登場。私は忍法帖シリーズ読んでないので、いつか読みたい。

  • 近未来の東京を舞台に、ジャズ、落語、将棋、新宿ゴールデン街などの要素をふんだんに盛り込んだ世界観に圧倒された。

    独特のリズムを持った文体が面白くて、単行本で600頁超というボリュームでも飽きずに読み進めることができた。

    登場するミュージシャンや文化人について調べたりするのも楽しかった。

  • これは楽しい!この分厚さだし、ジャズはよく知らないし、というのでためらっていたのが嘘のように、ずんずん読んで大満足。「鳥類学者のファンタジア」よりメチャクチャ度が高くて笑える。

    一応「近未来SF」ってことになるのかな。AI、アンドロイド、仮想現実、人間のデジタル化といったガジェットが詰め込まれている。二十一世紀末のえげつなく格差が拡大した世界が舞台で、その描写もおもしろいのだが、そこへさらに、ジャズやら落語やら70年代の新宿ゴールデン街やら、これは作者の趣味なのね、という要素がこれでもかのてんこ盛り。終盤は一大活劇となり、全篇狂騒的なグルーブ感にあふれている。ここまでするかと呆れるけれど、ワタシこういうの好きなんです。

    一番笑ったのは、志ん生と談志のアンドロイドが会話する場面。これがほんとに「志ん生」と「談志」。パソコンに向かう志ん生が可笑しくて可笑しくて。ゴールデン街の酒場で野坂昭如が酔いつぶれてて、そこに中上健次や伊丹十三や唐十郎、寺山修司、大島渚などなど次々やってくる所も笑った。若い人にはわからないだろうなあ。年くってて良かった。

    門外漢でも名前くらい知ってるジャズの大御所がわんさか出てくる。こちらもアンドロイドだけど。二代目フォギー(初代のひ孫)と彼らが演奏する場面は、ジャズに詳しかったらもっと楽しかろうと、それだけが残念。

    ヒロイン(という言葉が似合わんなあ)フォギーが、すっとぼけたキャラであるのは「鳥類学者の~」と同じ。そんなこと考えてる場合じゃないでしょ!というツッコミを作者とともに繰り出しつつ、なんとも愛すべきジャズ者だと思いました。

    • niwatokoさん
      「鳥類学者の~」がものすごくおもしろかった記憶があったけど(ここのレビューにもそう書いているのに、詳しいことはまるで覚えていないという情けな...
      「鳥類学者の~」がものすごくおもしろかった記憶があったけど(ここのレビューにもそう書いているのに、詳しいことはまるで覚えていないという情けなさ。なんでこんなに忘れるんでしょう)、長さに恐れをなして読んでいなかったのですが、やっぱり読んでみたくなりました。フォギーが出てるんですね! フォギー大好きでした(とレビューに書いてある)。落語もジャズも詳しくないけど、野坂~は知ってます!
      2016/12/03
    • たまもひさん
      私も「鳥類学者の~」の詳しい中味は思い出せないんですが、こっちの方がもっとふざけてるのは確かだと思います。
      フォギーっていいですよね!自分...
      私も「鳥類学者の~」の詳しい中味は思い出せないんですが、こっちの方がもっとふざけてるのは確かだと思います。
      フォギーっていいですよね!自分がそうなれないせいか、飄々としててとぼけた雰囲気の人にどうもひかれるのではないかと。
      この分厚さにはたじろぎましたが、だれずに楽しく読めました。
      2016/12/03
  • はまった。おもしろかった。

  • 分厚いので、読後に達成感はある。
    内容だけを拾うならば近未来ハードSFといってもいい。
    ただし、いつもの奥泉節だ。
    いつもの悪ふざけ大魔王だ。
    だからつまり、近未来ハードSFという印象は残らない。
    昭和かれススキSFと言ってもいいし、新宿騒乱SFと言ってもいいし、ジャズセッションSFといってもいい。
    登場するキャラクターはみな魅力的で、会話も物語の語り口も面白い。今回は舞台設定も素晴らしい。
    なのにどうして奥泉さんの小説はいつもこうなってしまうのだろうか。理屈が無理やりになってしまうのだろうか。物語が破たんしてしまうのだろうか。
    ただただそれが残念だ。

  • 2016.9 自分の趣味に合わず、途中で断念。

  • 初読。図書館。分厚かった。。。中身は軽やかだった。奥泉さんが好きなもの満載でつくりこんで詰め込んだSF世界。特にジャズの大御所大集合のセッション・シーンは、書いてて楽しかったんだろうなあというのがガンガンに伝わってきた。細かいところから大きなところまで、20世紀カルチャー、サブカルをちりばめて遊び心満載。頭の中で映像化するだけで、楽しめる。凝りに凝ったエンタメです。

  •  吾輩は猫であるから始まる軽快なSF。
     SFとジャズと近代文学と古典落語に詳しければ間違いなく面白いんじゃなかろうか。
     何とも言えぬ軽妙な語り口を読むだけで楽しい。安定しない、軽やかな語り口で語られる不安定な落ち着かぬ物語はどこに行くかわからない。
     面白い読書体験だった。
     でも、再読するならば、文庫で上中下くらいで読みたい。さすがに重い。

  • 個人的に読むのに労力のいるSFものの中では、非常に読みやすい。
    語りが軽やかで、フォギーもいつでも飄々としてるので、危機感は全くなく、楽しく読めたのはいいのか悪いのか、ですが。
    出てくるアンドロイドも人間も魅力的。
    前作があるとは知らずに読んだけど、問題なし。前作も面白そうなので読んでみたい。

  • 2000年代半ばにコンピューターウィルスによるパンデミックが起こり、甚大な被害が出たのち復興を遂げた日本を舞台に、アンドロイドの猫が語り手となって話は進む。

    『鳥類学者のファンタジア』の続編で、前作が過去にタイムスリップしたのに対し、こちらは22世紀も間近という未来の話。本作の主人公の曾祖母が、前作の主人公フォギ-に当たるという設定だ。
    しばしば登場する仮想空間では、寺山修司やら伊丹十三やら演劇界のホープが新宿のバーにいたり、往年のジャズプレイヤーが主人公とセッションするなど、作者ならではの遊び心も満載で楽しめるのだが…。

    10年ほど前に読んだ前作は、軽妙な語り口と宇宙オルガンを始めとする壮大で摩訶不思議な物語に、これぞ小説の醍醐味と酔いしれ、お気に入りの1冊となっていた。そして今回、その続編ということで、個人的には期待が恐ろしく膨らみすぎた感もあるのだろう。
    事細かに書き込まれた未来の状況や、ジャズの蘊蓄に徐々に集中力は削がれ、ひいては好きだったはずの文章のリズムまで鼻についてしまい、体言止めの多用や、常体、敬体の混用など作者ならではの持ち味がむしろ邪魔に感じた。

    『虫樹音楽集』あたりから違和感が加速してきたのは、おそらく私の好みや感覚、受け止め方が変わったためだろう。ただ、『東京自叙伝』もそうだが、作品を通して昭和、平成の日本を書き残し、未来への危惧を示すという思いは伝わってくる。そして無類の音楽好きであることも。
    個人的には『鳥類学者~』をもう一度読み返して、今はどう受け止めるかを再確認したいと思った。

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著者プロフィール

作家、近畿大学教授

「2011年 『私と世界、世界の私』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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