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本 ・本 (392ページ) / ISBN・EAN: 9784062205191
作品紹介・あらすじ
「息子がどのような最期を遂げたのか、教えてくれる人はいませんでした」――日本が初めて本格的に参加したPKO(国連平和維持活動)の地・カンボジアで一人の隊員が亡くなった。だが、その死の真相は23年間封印され、遺族にも知らされていなかった。文化庁芸術祭賞優秀賞など数々の賞を受賞したNHKスペシャル待望の書籍化。隊員たちの日記と、50時間ものビデオ映像が明らかにした「国連平和維持活動の真実」。
第40回講談社ノンフィクション賞を選考委員の圧倒的な支持により受賞!
「息子がどのような最期を遂げたのか、教えてくれる人はいませんでした」――日本が初めて本格的に参加したPKO(国連平和維持活動)の地・カンボジアで一人の隊員が亡くなった。だが、その死の真相は23年間封印され、遺族にも知らされていなかった。文化庁芸術祭賞優秀賞など数々の賞を受賞したNHKスペシャル待望の書籍化。隊員たちの日記と、50時間ものビデオ映像が明らかにした「国連平和維持活動の真実」。
感想・レビュー・書評
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1993年5月4日、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)に派遣され、現地で「文民警察官」としてPKO(国連平和維持活動)に従事していた岡山県警の高田晴行警部補らの一行は、任地のカンボジア北西部で何者かに襲撃され、高田警部補は残念ながら亡くなられた。それから、23年。2016年8月にNHKが、NHKスペシャル「ある文民警察官の死~カンボジアPKO 23年目の告白~」、更に同年の11月にBS1スペシャル「PKO 23年目の告白 前編・そして75人は海を渡った/後編・そこは"戦場"だった」を放送した。この番組は大きな反響を呼ぶと同時に、多くの賞を受けた。本書は、その番組を書籍化したもので、2018年に発行されたものだ。
悲惨な内戦を経たカンボジアは、まがりなりにも各派で停戦合意が成立し、カンボジアでは、民主選挙が行われることになった。上記のUNTACは、その選挙を成功させるために暫定的に統治するための組織であり、各国からPKOに参加するための要員を求めた。UNTACへの参加は、日本が参加する初めてのPKO活動であり、当時、大きな議論を呼んだことを記憶している。派遣されるのは、自衛隊と「文民警察」。自衛隊を含む、各国の軍隊が治安活動を行うと同時に、「文民警察」が選挙民の登録を現地警察を指導しながら行うことになっていた。
当時、自衛隊を海外に派遣するために国会では大きな議論が起こった。議論の結果、成立したPKO協力法に、「PKO参加5原則」というものが制定された。それは、下記のようなものだった。
1)紛争当事者間の停戦合意の成立
2)紛争当事者の受け入れ同意
3)中立性の厳守
4)上記の原則が満たされない場合の撤収
5)武器の使用は必要最小限
当時の議論は、「自衛隊の派遣の是非」に集中しており、「文民警察」の派遣についての議論は行われず、きちんとした準備を欠いたまま、各都道府県からの警察官、計75名がカンボジアに「文民警察」として派遣され、UNTACの指揮命令下でPKO活動に従事することとなった。「準備を欠いたまま」ということの具体的な中身は、例えば、以下のようなことだ。
■現地では、実際には紛争が起こっていて、派遣された警察官たちは身の危険を感じていた
■そのような状況の中、「文民」である警察官たちには武器の携行が許されないまま、「丸腰」で派遣された
■自分たちの安全を自分たちで守らなければならない状態に加えて、食糧や水、日用品の確保まで、基本的に派遣された警察官が自分たちでやらなければならない状態になっていた
■現地派遣者たちは、UNTAC組織、日本政府に対して、現状を訴え、改善を求めるが、基本的には何の援助も得られなかった
■こういった状況にあることを、警察官たちは知らされないままに、カンボジアに派遣された。現地の生活や、安全等についての教育も何も受けないまま、「丸投げ」された状態であった
高田警部補の死は、このような中で起こった事件であった。
当然に、現地に派遣されていた警察官たちは憤慨、憤懣やるかたなしの状態に陥れられるが、「PKO参加5原則」に抵触した状態であることが明らかになることは許されず、襲撃者は「紛争当事者」ではなく、「正体不明の強盗」とされ、それに対して、現地の警察官はコメントすることが許されなかった。それを、取材によって、当事者たちの口を開かせ、「告白」を促し、「23年目の真実」を明らかにしようと試みたのが、この番組であり、本書であった。
一読、素晴らしいノンフィクションだと感じた。
テーマの選定、取材の徹底度、番組・書籍としての構成、書籍化された内容(文章の巧拙なども含めて)など、素晴らしいものだ。
当時の現場の事情、現場で奮闘する警察官たちの怒りと我慢。本書の中に、PKOに実際に参加された元警察官の方のコメントがあり、それが、本PKO活動を一言で言い表していると思う。
「PKOの活動は、極秘ということですよね。だからこれまでほとんど語ってきていない。安全だと言われていたのに、実際は現地では戦闘していたわけですから。
PKO(中略)、平和をキープするのはたいへんなんですよ。みなさん、PKOとおっしゃる。平和がキープできないから、助けてくれって言うんですよ。そこに助けに、渦中に入るんですから、危険に決まっているんですよ。
でも20年以上経っても、政治家の方がおやりになるパフォーマンスは、まあ今も昔も変わらないのでありまして、政府側も耳当たりのいい話をやはりしたいわけで、政治というものはそういうものなのでしょうけどね。
私たち現場の人間は、その命令を受けたら粛々と完遂するのが任務ですから。やるしかないんです。しかし、あやふやな状態で行かされると、現場はそれだけたいへんなんですよ」
現場を知らない国連や日本の政治家たちが、理念をもとにオペレーションの中身まで(例えば、現場への武器の携行は出来ない等)を決めてしまい、それに合わない事実が(例えば、PKO参加5原則に合わないことが)出て来たとしても、柔軟に対応せずに、現実を無視したオペレーションを継続する。それは、第二次大戦の大本営と、現場の軍隊、一般市民との関係と全く同じではないかと感じた。
当時、PKOには多くの国が参加した。参加した多くの国で反省が起こり、実体はどういうことになっていたのか、どうすべきであったのかの「検証」が行われ、レポートが作成された。PKOではないが、イギリスではイラク戦争への参加に関しての、6000ページにわたるレポートが作成され公表されている。日本では、そのようなレポートは作成されていない。どこの国も、現場と遊離した意思決定とオペレーションが行われることはあり得るが、その結果がどのようなものであったのかを「検証」し、「次に生かす」ことが大事であるはずだが、日本ではそれが起きない。何か欠陥があるのではないだろうか、と思う。本書籍自体は「検証」ではあるが、民間機関によるものであり、政策・行政には反映されない。だからといって、番組や書籍の価値を減じるものではなく、素晴らしいノンフィクションだと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
職場の人に勧められて読んでみました。
恥ずかしながら、PKOは自衛隊だけだと思っていて、文民警察の存在を知りませんでした。
政治の背景と隠蔽、正しいことを伝えない報道に対し、どこで真実を知ることができるのか憤りを感じました。 -
全国民が読むべき。戦争の脅威を身近に感じる昨今だが、日本の平和を維持していく上でもこうした事実があったことを知った上で進めていかなければいけない。何も知らなかった事を恥じる。平和な生活の裏には様々な立場の決断や尊い犠牲があることを思い知らされた。そして公表するかどうか、できるかどうかは別として、何事も記録し、歴史を紡いでいくことがとても大事なのだと教えてくれた。
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日本が初めて参加したPKO、UNTAC、明石代表。
断片は覚えていたが、文民警察官の死については
完全に忘れていた。
カンボジア復興を旗印に、海を渡った文民警察官を題材にしたNHK 特集の書籍化。
日本特有の臭い物にはフタ。現場とトップとの意識の乖離。その中で頑張っていた警察官たち。
トップにはトップの行動、考え方があるのは理解するものの、現場の警察官たちのことを考えると涙が出てくる。
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政府の国際社会への面子及び国内政治への詭弁、そして国際機関トップが日本人である事への配慮。
決してカンボジアの人々の為ではなく、そうした「政治関係者」の為の現地の状況とは無関係の派遣で高田さんは殺された。悲しくて仕方がない。もっと早くに実情は公にされるべきだった。情報を公開することで正しい議論が進む。 -
どうにも救いのない話… 国内政治や外交において、語られれ国際貢献と現場の落差。完璧に安全であることはあり得ないにしても、あまりにも体制が整っていない中に大した装備もなく投入されてしまう。官僚組織同士の妥協の中で一番犠牲になってしまったのは、未経験ゆえなのだろうか。日本政府の手には負えないものではなかろうかとも思ったりする。
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読み始めたら止められない、カンボジアに派遣された文民警察官の苦闘の記録だった。10月初旬に出発予定だったのに、霞が関官僚のつまらない意地の張り合いで20日以上も遅れてしまったことが、これほどの困難を隊員たちに味わわせた最大の原因のようだ。明石氏は当時華々しい国際舞台での活躍を称賛にされていた人だ。国際情勢と日本の国際社会における存在価値を鑑みて、当然の言動をしたにすぎないのかもしれないが、キリングゾーンで身心の限界ギリギリの毎日を送る隊員たちの必死の訴えに対して、あまりに冷淡すぎないか。自衛隊の海外派遣のみに神経をとがらす政治家や官僚の目に、文民警察官の存在は無きが如く、地雷原や交戦地帯に放置されてしまう。政府が平気で嘘をつく最悪の事例をここに見ることができる。
それに対し、熱帯のジャングルでひとつひとつ生活を築き、命の危険をともにくぐり抜ける隊員たちの結束と共感の強さ、山崎や川野邊ら上官たちの部下を思う気持ちには心を打たれる。それだけに一層、失われた命への強い想いに、読了後しばらく経っても胸が痛む。襲撃のあと任務半ばで日本に送り返された隊員たちが帰宅も許されず隔離されて口を封じられ、初のPKO派遣の検証すら行われず、文書もビデオもジャーナルも23年間闇に葬られ続けたことに、心底怒りを感じる。
このテーマを選び、世界中を巡って関係者に取材して、これだけの本を書き上げた著者に敬意を表したい。 -
カンボジアPKOにおける、警察官の死。
ニュースになったのかも、記憶定かでない。
これは、あまりに酷い。
日本が、世界貢献出来るきっかけかどうかは関係ない。いや関係なくはないか。
それは大事だが、だからと言って、現地の危険の「現状」を検証もせず、その覚悟も確認せず、いや、戦地じゃありませんから、突発事故ですからで押し通したPKO上層部の判断はもっと、徹底的に追求されていいんじゃないのか。
自衛隊だけじゃないのか。
つか、お前らには、自衛隊だけだったのか。
そう思ってしまう。
あまりに辛く、それでも責任と責務から逃げようとしなかった日本人。
その現場。
一旦決定すると、方向転換が出来ない上層部。
全く、大戦時の日本軍と同じじゃないか。
NHKよく頑張った。
が、最後の方の構成が今ひとつ。
「最後の言葉」が知りたいからって、全然関係ない、あなたが好きな歌を載せられて、どうしろって言うの。 -
あまりにも政府が杜撰で酷くて、メディアの意識不足も甚だしく、読み続けるのが辛かった。しかもちゃんと検証する形が整えられている他国、特にスウェーデンに比べいかに日本の幼稚な事か。上昇時ですら改善出来なかったのに、未だその頃の脳内お花畑しか見えていないとしか思えない現時点のその職の人々を考えると暗澹となる。が、時間がかかったとはいえこのような本を書け、協力の結果出来上がり、出版できているという事は救い。読めて、知れて、良かった。
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この事件のことは知らなかった。
当時の文民警察の方の苦労、日本の国際貢献の組織的問題、国連の問題点がわかり、非常に興味深い内容であった。
一方で、ストーリーとしては演出がかった内容が鼻につき、好みではなかった。調査内容が素晴らしいだけに残念。 -
【297冊目】読んで良かった。国際社会において名誉ある地位を占めたいと願う日本国憲法を持つ我ら国民は、本書の内容を吟味すべき。
UNTACの機能不全と現場軽視の官僚文化、日本政府の非紛争地域であるとの建前維持のための現実無視など、本書から学ぶべき教訓はとてもとても多い。そして、2017年の南スーダンPKOにおける自衛隊日報問題にみられるように、その教訓は過去の話とはなっていない。
240ページからの数ページは、紛争地で活躍することを志す日本人や、それを他者に望んだり指示したりする人たち全員が必ず読むべき。「国際貢献」の美名の背後にある現実は本来筆舌に尽くしがたいはずで、この記載ですら現実の悲惨さの一端しかとらえていないのだろうけれど、これぐらいの地獄の描写を読んで自分がどう感じるか、その気持ちをよく覚えておかないといけない。
本書に登場する明石UNTAC代表や柳井俊二PKO事務局長などの発言からは、外交官にこういった現場を担当する能力はないのではないかと感じてしまう。外交上の建前や日本の国際社会における立ち位置ばかりを気にして、執行現場で勤務する職員の健康や生命をそれらに劣後させる発想しかみてとれない。インタビューに答えている人の中で、河野洋平官房長官(当時)だけは、当時は自衛隊派遣のことばかり気にしていたと反省の弁を口にする真摯な姿勢をみせているように思える。
髙田警視殉職後も、現地での勤務継続を願った同じ班の警察官の思いや、そのうちの何人かは後に在外公館勤務を務めた経緯から察するに、日本史上初の重大ミッションに派遣された警察官たちは士気高く、また、能力も高かったのだろうと思われる。それだけに大変に惜しい出来事。
本書の副題は「23年目の真実」だが、当事者たちが辛い思いを抱えていたこと、政府から喋らないように圧力がかけられていたこと、そして、マスメディアも一時ニュースに取り上げたもののその後の調査報道につなげられなかったことから、真実がこのように具体的に明らかになるタイミングがここまで遅くなってしまったよう。本書の内容を放送したNHKの番組が数々の賞を受賞したのは納得の出来。 -
329-H
閲覧 -
この本を読んで初めて知ったことがたくさんあった
ただこれ以上書くと硬直した縦割りな仕組みへの罵詈雑言だらけになるのでやめることにする
知れて良かったと心から思う -
良いノンフィクション。
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PKOで邦人に死人が出ていたこと自体知らなかった。カンボジアPKOだけでボランティア1名、文民警察官1名。
建設業者でなく各国軍隊の工兵部隊、自衛隊の施設科部隊を送っているあたり、派遣先が安全なわけがなかろうとは常々予想していた。
PKO法制や安保法制は、先進各国のやり方が現代社会の「多数派」とみなされているのだから、やるべきと思うならそりゃやれば良いんだけど、そもそも前提データ、知識が無いとか、あっても隠すとか、そんな状態で法整備をして最後は現場に責任丸投げ、というのは勘弁してやれやと思う。
そのあたり、文民警察官も似たような状態だったようだ。護身の品はたとえ防具であっても武器に該当するので日本から派遣先に輸送不可、そもそもPKO法制整備時は自衛隊の話ばかりで文民警察官の話は殆どしなかった、とある。 -
とにかく、こんなにカンボジアの為に尽くしてくれた日本の警察の方がいたこと、知らなかったことがはずかしかった
そもそも、警察官がカンボジアに派遣されていたなんてニュースになっていたのだろうか
何ごとも初めに関わる人間は大変な思いをするが、これは、日本の官僚の能天気さによる苦労がほとんどだった
語ることすら許されなかった方々の証言が生々しく苦しかった
23年も胸に抱えてきたなんて、どんな日々だったのか
読むのが苦しかった
でも、日本人として知るべきことだと思った
現在も活動中のPKOは、本当に必要なのだろうか
意識もバラバラで、寄せ集めのチームが、本当に平和を促すことができるのだろうか
私なら、自国の争いに外国人がやってきたら、恐怖を覚える -
Yahoo!ニュース|本屋大賞 2018 ノンフィクション本大賞ノミネート作品。
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中田厚仁さんがカンボジアで襲撃されて亡くなったのは知っていた。でも、文民警察として派遣されていた男性がなくなったことは知らなかった。その無知を、いや無関心を恥じた。
この本を読んで憤りを感じるのは私だけではないと思う。「国益のため」「平和に貢献するため」と言いながら、自分は安全地帯から一歩も出ず、丸腰の警察官を派遣する。しかし、まともな情報収集も事前準備もせず、まともな防弾チョッキも支給しない。「ここは戦闘区域」という現地の声に耳を貸さず、「平和条約は守られている」と平和ボケした議員に官僚。人の命をなんと思っているのか。
国益、国際貢献、人、命、国ということについて考えさせられた一冊。