モンテーニュの書斎 『エセー』を読む

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 53
レビュー : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (418ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062206280

作品紹介・あらすじ

名文家として知られる著者が、モンテーニュの生涯と名著『エセー』のエッセンスを14のテーマから語る芳醇なエッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • いきなり結論から言いますと、この本は素晴らしい(^^♪
    モンテーニュの『エセー』自体が面白いのは言うまでもありませんが、半可通の私がこんなことをいうのも気おくれしちゃうけど、この本は『エセー』の醍醐味を最大限に引き出していると思います。著者保苅さんのモンテーニュに寄せる思慕の念がそこかしこに溢れていて、読みながらわくわくしたり心温まる想いがしたり、明快で流れるような保苅さんの文章にも惚れぼれします。

    ミシェル・ド・モンテーニュ(1533~1592年)の『エセー』はルネサンス期のフランスで書かれた随想・思想書で、ギリシャ古典をわかりやすく紹介しながら、モンテーニュの内面や思索を自由奔放に綴った本です。真摯で透徹した筆致のなかに、ユーモラスで楽しい比ゆもあって、あまりの面白さに読み始めると止まらなくなってしまう。

    もっとも『エセー』はモンテーニュの半生30年近くかけた心象や思索の移ろいを記していて、時の経過とともに柔軟に変化していくところが醍醐味のひとつでもあると感じるものの、そのあたりまで汲みとるのは至難の業です。多数存在している原典を読みこなすことができるだけではなく、なんといってもモンテーニュの心の機微をその文章や行間からとらえることのできる繊細な感受性をそなえた人でなければ……そういう難行を保苅さんが鮮やかにされている、すごい!!

    この本は、『エセー』が執筆された時代背景――キリスト教の新・旧派が相争う苛烈な宗教戦争の真っ只中――を指摘しながら、『エセー』の中に散りばめられたギリシャ時代から連綿と続く大きな時間の流れもとらえ、さらにモンテーニュを襲ったさまざまな個人的出来事の束をわかりやすく紹介しつつ、大小の時間の流れを違和感なく融合させています。

    それにしても37歳という若さで現役を引退し、家督をついで引きこもったモンテーニュが、いったいぜんたい何を思っていたのだろう……? いまいちわからなかった私でしたが、この本を読んでみると、若くして最愛の友ラ・ボエシーを失ったモンテーニュの喪失感がこれほど彼のアイディンティティを危うくしていたということがわかって驚いてしまいました。

    さらに終わりの見えない国民同志の宗教戦争で死をまじかに見ながら悲嘆の沼に投げ込まれたモンテーニュが、苦悩の末に「死」というものを正面からとらえ、切実に哲学したその結晶が『エセー』であり、こんなにも奥深くて味わいのある作品になっていることを知ることができて感極まってしまいます。
    エセーの中の「私」とはモンテーニュ自身でありながら、もはやモンテーニュではない一人の人間でもあり、人間とはなにか? というギリシャ時代からの永遠の命題を彼なりに昇華させたからこそ、今読んでもひときわ光彩を放っているのでしょう。

    また保苅さんはモンテーニュに関連する古今東西の文人たちを適所で紹介していてわくわくします。モンテーニュの書斎は「無限に向かって開かれている」と言ったプルースト、こりゃいいね~と思わず膝を打ってしまいますし、ナチスの虐殺から逃げまどうツヴァイクは『エセー』を心のよりどころにしてその苦難を生き延び、デカルトや兼好も登場してびっくり。

    「よろづにいみじくとも、色好まざらん男(おのこ)はいとさうざうしく、玉のさかづきのそこなき心地ぞすべき」(徒然草)
    (男はすべてに秀でていても、色の道に疎ければひどく索漠として味わいのない男だ…)
    うふふ~兼好も大胆なことをのたまいます。

    この本はモンテーニュが愛したギリシャの教えからはじまって近代にいたるまで、時間と空間をつなげたダイナミックな本になっています。笑ったり、うなずいたり、ときにはうるうるしてみたり、モンテーニュと保苅さんの怜悧な文章と人となりが二倍楽しめるのも嬉しい。

    それにしても『エセー』ほど「文は人だ!」と言わしめる書物もそうないのではないかしら? いやぁ~イタロ・カルヴィーノではないですが、ほんと古典はいつでも、なんどでも、読む人に楽しみと驚きを与えてくれますね。

    『エセー』が好きな方はもとより、いきなりそれを読むのは……と躊躇してしまう方にもこの本はお薦めしたいです(そして気に入ったら、ぜひぜひ原典を読まれてみてください。モンテーニュが肩を叩いてねぎらいに来てくれるかも……笑)。

  • キーン、ツーン、グサッ。言葉、思想が様々な形で沁み、突き刺さる。エセー自体だけではなく作者の解釈も素晴らしい。良書。

  •  東大教授などを務めた高名なフランス文学者が、モンテーニュの名著『エセー』を改めてじっくりと読み解く書である。

     モンテーニュの人物像・生涯を、『エセー』の内容に即して、14のテーマに分けて考察している。
     たとえば、第8章「最後の抱擁」ではモンテーニュの恋愛観・性愛観に的が絞られ、第10章「本との付き合いについて」では読書遍歴と読書観がくわしく論じられる、という具合。
     ただし、堅い論文調ではなく、本書自体が薫り高いエッセイ集になっている。

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著者プロフィール

1937年、東京生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。東京大学名誉教授、獨協大学名誉教授。専門はフランス文学。主な著書に『プルースト・印象と隠喩』、『プルースト・夢の方法』、『モンテーニュ よく生き、よく死ぬために』、『ヴォルテールの世紀 精神の自由への軌跡』、『プルースト 読書の喜び』、『恋文 パリの名花レスピナス嬢悲話』、主な訳書・編著に『プルースト全集』、『プルースト評論選』、ロラン・バルト『批評と真実』など。監修にフィリップ・ミシェル=チリエ『事典 プルースト博物館』。

「2017年 『モンテーニュの書斎 『エセー』を読む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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