石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 41
  • Amazon.co.jp ・本 (370ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062206877

作品紹介・あらすじ

『しんがり 山一證券 最後の12人』『プライベートバンカー』などで知られる著者の最新書き下ろし。今回の舞台は警視庁捜査二課。2001年に発覚した外務省機密費流用事件、政官界を揺るがせたこの事件を掘り起こしたのは無名のノンキャリ刑事たちだった。
容疑者は、着服したカネで次々と愛人を作り、競走馬を何頭も所有する外務省の「ノンキャリの星」。地道な裏付け捜査と職人技を駆使した取り調べ、そして容疑者と刑事の間に生まれる不思議な人間関係。
機密費という「国家のタブー」に触れてしまった二課刑事(ニカデカ)たちを待っていたのは――。

感想・レビュー・書評

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  • 主人公の捜査2課刑事たちの仕事のように、こういう万人受けしない素晴らしいノンフィクションは本当に貴重です。なかなか証言を取るのも困難な取材対象を相手によくぞここまで調べ上げたと思います。少し冗長かなあと思う箇所もありましたが真実の威力は小説を凌駕します。これからも労多く報われないが力のある良質のノンフィクションを期待しております。

  •  恐らく、ドラマ化の話題かなにかを昨秋(2017年)に新聞で見かけて図書館に予約を入れたか、11月の予約がようやく3月末に回ってきた。人気図書なのだろう。

     本書は、2000年前後のいわゆる「機密費横領事件」を扱っている。外務省職員が、首相等政府要人の諸外国訪問時の諸経費を水増し請求し、機密費から数億円を詐取。官邸が支出の内容からフリーパスで当該職員に機密費を支出していたことを端緒に、官邸・外務省の闇の一部が露呈した一件だ。”言えないからこそ機密費”とか、”聖域”と言った言葉が躍った頃だったなと懐かしく読んだ。

     しかし本書は、機密費という不透明な費用の存在そのものを暴こうとしてのものではない。副題にある「警視庁 二課刑事」たちの事件解決にむけての仕事っぷり、あるいはその人物像など、彼らの群像劇にある。”サンズイ(汚職)”の立件に血道を上げる二課の地道な活動に光を当てたことが肝だろう。ニュースとして表に出る、証人喚問、犯人逮捕、役人の更迭云々よりも、その陰で彼ら二課刑事たちが命を削って真相解明に当たった苦悶や、仲間、同僚、ときには容疑者にも及ぶ思いやりなどの機微が詳細に描かれてる。

     刑事たちが罪を犯した容疑者に情を滲ませるように、本書もこのノンキャリ官僚を単なる守銭奴、詐欺師、不羈奔放極まりない男でしかないとは描いていない。罪は罪として、横領した金で愛人を何人も囲い、馬主となり贅を尽くす様を描くが、人としての背景、背負わされた責務の重さ、組織の理不尽さ杜撰さも描くことで、読む側も当人のことを赦すとまではいかないが、理解できるようになる。これは、ひとえに著者の緻密な取材と真摯な筆致によるものだろうと思う。

     事件の背景には、不正のトライアングル(動機・機会・正当化)の存在があったことがよく分かる。この官僚は、機密費を扱える立場にあった。また、その機密費は性格上、いわゆる領収証などのエビデンスを必要としない、あるいは組織内で偽造書類による精算が半ば公に認められている状態にあった。諸外国での出費だ、まともなエビデンスが入手できないという事態は、我々一般人の立場でも容易に想像がつく。

    「双方の慣習・制度の間に挟まれる庶務課は堪ったものではない。」

     という問題解決の為、例えばホテル等のレターヘッドを使って領収書作成が公然と認められていた。当初は当然、実際の必要経費を正しく精算するための方便だったに違いない。そこに、たまたま当該官僚が管理の隙をついて悪用してしまった。できてしまうだけの”機会”に恵まれていたということだ。
     また、まっとうには処理できない様々な経費を、こうした手法で巧く処理しているんだという自負、臭い仕事させられているのだから何らかのフェイバーがあってもよかろうという心理も働いただろう。”正当化”できるだけの事情も揃っていた。
     そこに本人のモチベーション(愛人、競走馬 etc.)があれば、容易に不正は起こり得たという寸法だ。

     表沙汰になった機密費というセンセーショナルな裏金と、額の多寡で語られそうな事件ではあるけども、その根っこは、どんな組織の中でも起こり得るお話で、事件が解明されたところで、特に驚きのあるものではなかった。故に事件の真相解明について本書は実に淡々とした展開なのだった。特に、後半、

    「ホシが落ちるということと、事件をまとめあげるということは別物なのである。」

     と、容疑者として確保してからは、立件のための、いわば事務処理を綴ったものになり、前半ほどの面白味は減る(勿論、立件しようとする刑事と容疑者のやりとりは迫真ではあるのだけど)。
     そして本書の最後の方は、汚職の摘発が減ってきている、警察組織内の管理が厳しくなり情報の一元化が、摘発数減に少なからずの影響ありという論調で結ばれていく。あとがきには、こうある。

    ”「警察組織で管理化が進み、情報を一元化しようというあたりから、汚職捜査もおかしくなった」という元刑事の証言は示唆に富んでいる。時代が、取り調べの可視化や管理強化へと進み、型破りの刑事たちの存在を許さなくなっている。”

     通して読んでいると、アナログで組織の規範で括れない二課刑事たちの重要性を説きつつ、その向こうにある政治の闇にすら必要悪としての存在を認めているような気がしないでもない。
     機密費的な不透明な資金、それを正規の手順を通さずす処理する組織、官僚の存在すらも必要悪であり、勿論その金を業務上横領した犯人は罰せられるべきではあるが、何もかも公明正大、透明化、可視化することによる閉塞感といおうか、面白みのある世界というものがなくなっていってしまうのではという一抹の寂しさを感じさせるものだった。

     そんな読後感、自分の業務上の立場からは持っちゃいけないことなんだろうなとは思いつつ・・・。

  • TVで紹介され注目!
    機密費という「国家のタブー」に触れてしまった二課刑事(ニカデカ)たちを待っていたのは――。

  • ふむ

  • 捜査二課とかでも役人や官僚を捜査するには、かなり気を使うところがあるのだなというのと、執念のある警察がいることに頭の下がる思い。取り上げる人とポイントや話の流れなどは凄くよく、読んでいて引き込まれる。

  • 外務省の機密費詐欺事件を暴く警視庁刑事のドキュメント
    ノンキャリアの現場への執念が難事件を解決してきた
    それは国家の浄化にも繋がる健全を担保する有効な仕組み
    他省庁の事件を暴くのは難しい
    それも外務省のように国家機密を扱うところは尚更
    そこに切り込んだ警視庁の物語は歴史を飾るべきもの

    翻って今日、こうした組織の健全な自浄能力は堅持されているのか?
    ノンキャリアのエネルギーを「国家の仕組み」として新たに作り出せていない気がする

  •  今求められているのは、古くさい「はみ出し」よりも、静かであっても「反骨」では。

  • 外務省のノンキャリの使い込み
    二人の刑事は左遷
    WOWOWでドラマ化

  • 外務省公金横領事件を題材にした警視庁捜査2課の刑事たちのノンフィクション。
    森政権の頃に調査をして小泉政権の時に火を噴いた案件。
    そういや田中マキコが外相なんかしてたっけなあ。懐かしい。

    捜査のやり方や推移なんか実に面白かった。
    それだけじゃなく、色々考えさせられた。
    2000年頃は政界や官界の変化した頃で、小選挙区制度の定着や派閥衰退のスタートと団塊世代が幅を利かせた最後の時代。
    活躍した刑事、逮捕された外務省職員も団塊世代の人達で2000年当時は働き盛りで隣の係と鎬を削って仲も悪い。

    最近は汚職事件の摘発も華々しくなく、政治家や官僚が身綺麗になったとか摘発する側がサラリーマン化して職人刑事が居なくなったとか言われている。

    それも有るかもしれないけど団塊世代の灰汁の強さと言うか競争の激しさとか上昇気質とか、そういうのが流行らなくなった所為だと思うんだよね。
    今でも汚職とかしている奴はしているんだろうけど、さすがに組織ぐるみって言うのは少なくなったんじゃないかと思うが、どうなんだろ?

  • 2019年10月26日読了

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著者プロフィール

1950年宮崎県生まれ。立命館大学経済学部卒業後、75年に読売新聞社入社。青森支局を振り出しに、社会部記者として、警視庁、国税庁などを担当。中部本社(現中部支社)社会部長、東京本社編集委員、運動部長を経て、2004年8月より読売巨人軍球団代表兼編成本部長。11年11月、専務取締役球団代表兼GM・編成本部長・オーナー代行を解任され、係争に。現在はノンフィクション作家として活動。著書『しんがり 山一證券 最後の12人』(現在は講談社+α文庫所収)で14年度講談社ノンフィクション賞、『石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの』(講談社)で18年度大宅壮一ノンフィクション賞読者賞を受賞。主な著書に『奪われざるもの SONY「リストラ部屋」で見た夢』(講談社+α文庫)、『空あかり 山一證券”しんがり”百人の言葉』(講談社)、『トッカイ不良債権特別回収部 バブルの怪人を追いつめた男たち』(講談社)など。

「2019年 『しんがり 山一證券最後の12人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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