- Amazon.co.jp ・本 (418ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062207508
感想・レビュー・書評
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多少の解釈違いはあったけれど、概ね満足。
宮沢賢治は世間の誤解や思い込みの多い作家なので、この本が直木賞受賞してくれたことはとても嬉しいです。
賢治のダメっぷりについて。
同じく生前無名だったゴッホにテオ夫妻がいたように、賢治にとっては政次郎とトシがパトロンかつ理解者のテオで、清六が死後作品を広めた(後々神格化してしまうことも含めて)ヨーだったのでしょう。どちらも実家から見たらとんでもない放蕩嫡子。でも実際の生活に悩み、そこに神経をすり減らすような暮らしでは、ゴッホも賢治も芸術家たり得なかったと思います。
賢治の作品が苦手な人は、童話も詩も一枚の抽象絵画としてみると読み方が変わると思います。
父との不仲説にも首を傾げてました。「貝の火」や「やまなし」や「虔十公園林」なんかに出てくる父親像は、まさしく本作の政次郎のような、慈愛溢れる絶対的な庇護者です。父の不在が指摘される近現代文学の中ではなかなか現れないほどの献身的父親ぶり。同じく童話作家と新美南吉ですらほとんどが母と子です。なんとなく、父さん好きな賢治が見えてきます。思春期はそれなりに反発やケンカはしただろうけれど。
トシとの関係や「永訣の朝」の制作過程は私の解釈と違うところがありましたが、なるほどそういう捉え方もあるのね、ぐらいなものです。丁寧に書かれた小説だと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
父・政次郎の語りで始まり、賢治視点の語りも交えながらも大部分父親目線で賢治を語っている
賢治の幼く未熟な心や経済的に自立できない葛藤を、賢治自身が壁にぶつかる前に父親がよく見て気がついている
政次郎に心が寄って胸にきた
いよいよ賢治が文筆に触れると『銀河鉄道の父』のもう一つの意味が
〈子供(わらす)のかわりに、童話を生む〉
『銀河鉄道の父』とは政次郎のことであり賢治のことであり
〈あめゆじゅとてちてけんじゃ)には感極まりました
『永訣の朝』も『雨ニモマケズ』もこんなに泣きそうになりながら読んだの初めて。
そしてオキシフルは実話なんですね…
また、同郷の石川啄木『一握の砂』を賢治が賞賛してる文章が素敵でした -
宮沢賢治くらい、一般人にも認識されている文筆家ってそうそういないのではないでしょうか。そもそも教科書でも出てくるし、子供の頃銀河鉄道の夜のアニメが定期的に放映されていたりしたし。
僕は剣道漫画「六四三の剣」で主人公の夏木六三四が、小学生の時に賢治の「春と修羅」と「永訣の朝」に感銘を受けるシーンが強烈に刷り込まれていて、同じく小学生だった僕にも間接的に多大な影響を与えられました。
当然の事ながら本人の書いた文章にしか触れる事は出来ないので、どんな背景で創作していたのか知らずに読んでいるのが当たり前の話であります。宮沢賢治の父という視点で書かれた小説は当然無かったので興味深く読み進めましたが、家の存亡と子供への愛情に板挟みにされた父の姿に胸が痛みました。
この本読むまでは聖人君子然としていた賢治が、ボンボンのすねかじりだったと分かって衝撃でもありましたが、等身大の彼に触れて今まで読んだ詩歌の印象が変わりました。また彼の作品に触れたいと思いました。
当然この本も創作なので、何割かの真実にふんだんに肉付けした作り物ではあるのですが、目の前で繰り広げられるような臨場感のある書きっぷりは感嘆しました。直木賞受賞作って何割かはしょうもない物がありますが(その人の代表作ではないという意味で)、これは直木賞という名前にふさわしいと思います。歴史もの苦手なんで避けていましたが、過去の作品も読んでみようと思いました。 -
詩人、童話作家として有名な宮沢賢治の生涯を、父親の視点からつづった作品。直木賞受賞作。
小学生の頃『よだかの星』の悲しすぎる結末に衝撃を受け、『注文の多い料理店』や『風の又三郎』『銀河鉄道の夜』で読書感想文を書くほど、宮沢賢治は好きな作家だった。子どもには解釈が難しいところも魅力的だったし、「クラムボンがかぷかぷ笑ったよ」などという言葉の幻想的な響きも好きだった。
で、本作品、花巻で議員も務め地元の名士である父親の目を通して描かれた賢治の姿は、じつに情けない。商才にたけ質屋を営む父親と対照的に、非現実的な夢を追い親の脛をかじり続ける。
今まで漠然と抱いていた宮沢賢治像が、がらがらと音をたてて崩れ落ちる思いだった。
でも、厳しくしようと思いながらも父性愛が勝る父親の、こっけいなまでの甘やかしぶりが温かくもあり、しまいにはもう仕方ないかという気分になってくる。
ストイックで慈悲深い賢治も、見方を変えればこうなるのかと興味深い一冊だった。 -
直木賞! この人の本としては「家康、江戸を建てる」を読んだ~花巻の質商・古着商の跡取りに生まれた賢治は最初大きな犬が通学路にいるため学校に行くのを嫌ったが、石集めをしながらも成績は全甲。祖父の喜助は質屋に学問は要らないというが、家長である父の政次郎は盛岡の中学への進学を認めた。賢治が生まれたときは古着の仕入れのために滞在していた京都で大喜びし、小学校入学前に赤痢・チフスで賢治が入院したときも周囲に反対されながら付き添い、腸カタルになって看護を全うできないことを悔やんだ。祖父は父に父でありすぎると苦言を呈したものだ。中学卒業後、家に帰っても店番をやらせると貧しい農婦の差し出す釜を種に大きな金を貸してしまい、肥厚性鼻炎の手術をしたのちは、壮絶な受験勉強をして、翌年三月には盛岡高等農林学校に合格した。研究生として学校に残り、岩手の地質を調査しながら…(あとはWikipediaで)~面白かった「家康…」では候補になりながら受賞せず、この本で漸く受賞。芥川賞でも良いくらいだけど、長いからだめなんでしょう(内容でなく)。「家康…」はエンターテイメントの要素が強かった。これは父子、母子、兄妹、兄弟の関係をよく描いていた。結核と言われても、今は薬で治る病気になっちゃったから死を連想させるものではなくなったけど(義兄の隔離病棟入院でも特に感慨は抱かなかった)、戦争後でも多くの人が死んだんだよね。会ったこともない祖父母と叔父。生前注目されることのなかった賢治を今知らない人間がいないのも、結核で早く亡くなったことも一因だよね。Wikiには出ていた恋愛話がこの本では取り上げられなかったのは何か意図があるのだろう。朧であった宮沢賢治の生涯が浮かび上がってきました
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宮沢賢治の側面が描かれていた。父を筆頭に愛情あふれる一家、故の涙も有りのユーモア有りの厳しく温かいお話しでした。
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宮沢賢治のお父上である必要性を感じない。父と息子にある気恥ずかしさという距離が、微笑ましい。東北の自然の厳しさが心の動きの表現をより豊かにしているように思う。素敵な本です。
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題名からわかると思いますが、
宮沢賢治のお父さんが主人公のお話です
この時代のお父さんにしたら優しい子煩悩なお父さんだな〰️と
質屋を営んでいてお金があるからかもしれませんが
いやもう子供の頃の賢治が出来すぎてた分、その後がダメすぎてお父さんが不憫の一言につきる,,,
賢治も思うこともあっただろうし葛藤もあったとは思う
宮沢賢治のお話は好きで色々読んでいたぶん、
こんなに実家にお金の無心をしていたとは
びっくりです
すんなりはいかないもんです
後半、お話を書き始め、学校の先生になり、人のために話を聞き
そしてまた病に倒れてしまう
妹のトシ子に続き、賢治も
親にとって子供を2人も先に亡くしてしまうなんて、正直耐え難い悲しみだったと思う
最後、孫にお話を読んであげるシーンがとても印象的でした