- Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062207591
作品紹介・あらすじ
思い出すことで、見出され、つながっていくもの。
注目の芥川賞作家、初めての長篇小説。
風呂トイレつき、駅から徒歩5分で家賃3万円。古アパート「かたばみ荘」では、出るときに次の入居者を自分で探してくることになっていた。部屋を引き継いだ住人がある日失踪して……。人々の記憶と語りで綴られていく16年間の物語。
感想・レビュー・書評
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築40年以上は経つアパート・かたばみ荘。
家賃3万円というから驚きで。
だが、ここは出るときに次の入居者を探してくるという具合で、敷金、礼金なるものも要らずおまけに前入居者の置いていったものも使えるというお得なところだった。
新井田千一がそこに住み始めて思い出を語っていく。
そして、また次の入居者へとつながる。
なんということもなく、淡々とした日常なんだがその人その人なりの人生をちょっとずつ覗かせてもらっている感じである。
部屋を引き継いだ住人の失踪…ということも間にあったが、事件性があるものでもなく、また次々と動いていく。
あぁ、こうやってあっという間に16年って過ぎてゆくんだな。
人々の記憶と語りで綴られていく年数に懐かしさを感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
かたばみ荘の住人とその周りのひとたちのそれぞれの目線から語られるお話。
最近の話のはずなのに空気感なのかな?なぜだか昭和の懐かしい雰囲気をすごく感じた。落合長崎の町の雰囲気(行ったことないけど)が実感を持って伝わってくる。誰かの個人的な風景の捉え方をじっくり見せられているかのよう。
昔から、高架の列車に乗ってどこかを通り過ぎていく時に、ふと、『この家のひとつひとつに、誰かの暮らしがあるんだなぁ』という切ないような、上手く表現できない感覚に陥ることがあって、この本を読んでいる時に抱いたのは同じような印象だった。 -
日常的なこと+ちょっと珍しいことを普通の語り口でつらつら読ませてしまう。「茄子の輝き」を読んで、特別なことはないのだけど何となく心に残った。本作品も似たようなテイスト。また他の作品も読むと思う。
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ひたすら他人の自分語りを聞いているだけなのに、なぜ先が気になってしまうのか…。登場した歴代の住人たちが、たぶん荘の名前の由来に気付いていない、ということを示すささいな描写が印象に残ったし気に入った。
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高架線沿いにあるオンボロアパートかたばみ荘は、大家さんとの約束で、転居する際には、次の住人を連れてくることになっている昔ながらの賃貸契約を取っている。
かたばみ荘に住んでいた人、その人たちの関係者、近所の人達の話。
特に際立つ個性を持つ人達がいる訳ではないが、人には人の暮らしがあって、かたばみ荘を中心に話を聞くと、それはそれは面白い話が展開される。
和室のユニットバスは、表紙にもなっていて興味深い。
その秘密は最後に明かされるが、何とも驚きの内容。
サラサラと書かれた、印象に残りにくい話ではあるが、私にとっては好みの作品でした。 -
例のごとく、鉤括弧が一つもなく直接話法が地の文の中に溶けていたり(正確に言えば、約物の調整や改行、モダリティ等々によって書き分けられているのだが)、物語描写と読み手への語りかけがシームレスに入れ替わったりと、全体的に、本来あって然るべき語りの位相の奥行きが捨象されている。書割のような表紙の「かたばみ荘」のイラストはまさにこのようなのっぺりとした感触を適切に描出している。
そうしたあくまで語りの水準での境界の希薄さは、物語の進行に伴って、次第に別の水準での境界(現在/過去やここにいること/いないことの境界、形式上独立しているはずのそれぞれの語り手たちの境界、「かたばみ荘」の壁)の希薄さへと接続されていく。およそ聞こえるはずのない音がどこからともなく響いてくるという、滝口作品特有の「音響効果」はここにその淵源を持っているのだろう。 -
西武池袋線東長崎駅近くの踏切近くに建つかたばみ荘という古いアパートをめぐるあれこれでした。
最初、話者があまり慣れてない感じで、しかも誰かに、というか、音声吹き込んでるみたいなそんな感じで、ひとり語りっぽい。かたばみ荘は家賃が激安(で古いボロい)代わり、住人は部屋を出るときは代わりに住む人を見つけないとならない紹介制を取っており、どの程度のものかはまちまちだけれど、信用で繋いでいってるというわけだ。この話はその現在の住人が行方不明になったことから始まり、5年も前の住人に「なんとかしてくれ」と家主が泣きついてきたことから始まるのだ。もちろんかたばみ荘の話も出てくるけれども、人と人との繋がりで代々続いていった彼らと彼らの身近にいる人たちとのオーラルヒストリーとなっている。「高架線」というタイトルは、この繋がれているところと、実際に高架線である西武池袋線の高架を掛けているのかなと思うけれども、こういう、街と電車と人との関わりを描くというのは滝口作品ならではだなあと思った。
話者は交代していき、最初はかつて住人だった会社員新井田千一、彼の婚約者の成瀬文香、新井田の友人の七海歩、歩の婚約者でその後結婚した七海奈緒子、行方不明になった三郎の次の住人峠茶太郎(仮名)、茶太郎行きつけの喫茶店の店長木下目見(まみ)、そこへふらりと訪れた一見の客、日暮純一。こうやって話者がリレーすることで、様々な目線や時間で様々な事象が語られ、一方でははっきりしなかったことが浮き彫りになっていく。登場人物たちも様々で意外性に富んだ反応があって「お、こう来るか!」と驚いたり。こちらにも発見がある。
家主の万田夫妻も面白かったなあ。弱々しいのに一歩も引かない(笑)。だからこそこんなアパートを維持してられたんだなあ。
あ、三郎は作中無事に発見されます。意外なところにいたけど、ああ、これも電車ならでは。滝口作品は街を描くというか、移動するよな、主に、徒歩とか、時折電車とか。稀に地を這って(笑)。そこに、土地にまつわる歴史が入り込んだりも。
これは滝口さんが芥川賞を受賞してから初めて書いた長編小説。もうすっかり現代を代表する作家となった彼の比較的早い時期の作品と言える。滝口さんは比較的長編小説にも向いている作風だと思うけれども、この作品はそのとっかかりでもあるのかな。もちろん、一個の作品として成立していて練習台というわけではないけど、そういうところに立ち会えているのかもな、とか思えるのは同時代に生きる作家の作品を(比較的)リアルタイムに読めるかもなあと感じた。と言っても出版されたのは2017年なんですけどね(笑)。全然リアルタイムじゃない。 -
三万円という破格の家賃のアパート、かたばみ荘。不動産の仲介を省くため、家賃が安いのだが、代わりにアパートを出るときに、次に住む住人を探してこないといけないという不思議なルールがある。こうしてかたばみ荘に住む様々な人物が入れ替わりながら描かれる。いろんな人が生きているという当たり前のことをなんだか再認識した…
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…ジャンルはなんだろう?この小説。不思議というか、よく内容が入ってこない物語だった。けれども読んでしまう。誠に不思議なお話でした
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読み始め、ダラダラしてる気がして読みづらかったが、だんだん味わえるようになった。