「国境なき医師団」を見に行く

  • 講談社
3.75
  • (29)
  • (54)
  • (34)
  • (9)
  • (3)
本棚登録 : 540
感想 : 75
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (394ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062208413

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 2021年2冊目。実は実態を知らないこの組織について渾身のレポで語られている。小説のような言い回しが読みやすいので情景を思い描きやすく、要所要所の喩えもうまい。筆者の体験を本の中で追体験することで、自分が同じ立場ならどうしていられるだろうかとふと考えさせられてしまう文章力に頭が下がる。私があなたで、あなたが私。世界に別角度から光を当てた良書だ。他二冊くらい関連本があるようなので、機会があればぜひ読みたい。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    生きることは難しい。けれど人間には仲間がいる。大地震後のハイチで、ギリシャの難民キャンプで、マニラのスラムで、ウガンダの国境地帯で―。日本の小説家がとらえた、世界の“リアル”と人間の“希望”。

    いとうせいこう氏の敗北からの記録だと、誤解を恐れずに言いたいです。50才オーバーで様々な事に触れ見識も豊かで、社会的な地位も非常に高い。そんな男が「国境なき医師団」を見に行った記録ですが、冒頭のハイチ篇のなんと自信無く心縮こまる卑屈な文章で有る事か。貧困や戦争に立ち向かう光り輝く彼らや、それでもどんどん増え続ける不条理に対し、自分の卑小さでおろおろするいとうせいこう氏。その姿が次第に回を重ねるごとに力溢れ、指先に足先にジンジンと血潮が通い、その表情も(文章なので見えませんが)目も輝きを増していくのが見てとれるようでした。
    支援される彼らも、支援する彼らも、そしてそれを「見ている」俺も、誰も彼もが、入れ替わっていたかもしれない。そう繰り返す氏の文章は、次第に彼らの存在に対して胸を張って、最終的にウガンダでの取材で爆発するような熱さを放ちます。
    そこには取材する意味を見つけた訳では無く、ありのままの自分では何も出来ない事を卑屈になるのではなく、皆の仲間になって共感の輪に入りたいという終わりの無い旅を始めたように見えました。

  • 222-178

  • 「いとうせいこう」 さん
    「国境なき医師団」
    どちらも
    興味深く思う人と単語なので
    迷わず 手に取ってみた

    MEDECINS SANS FRONTIERES
    略してMSF、邦訳は「国境なき医師団」
    当たり前のことですが
    様々な国の方が
    このMSFに所属しておられる

    いとうせいこうさんが
    訪れた国は
    「ハイチ」「ギリシャ」「フイリピン」「ウガンダ」
    の国々

    そこで
    出逢った 難民の人たち スラムの人たち
    そしていうまでもなくMSFの人たち

    さまざまな事情が語られ
    さまざまな人たちのこれまでが語られ
    さまざまな人たちの思いが語られ
    さまざまな人たちの理由が語られ
    さまざまな人たちのこれからが語られる

    MSFのお一人
    アメリカ人のレベッカさんの言葉
    「わたしの地図は
     どうしてもアメリカ中心なの。
     あなたなら日本中心ね。
     わたしはクリスマスイブにラオスで
     そんな話をしてみんなで笑ったわ。 
     六か国の人間が集まっていてね。
     フランスからしか見ていなかった人間、
     ラオスからしか見ていなかった人間と、
     それぞれにこりかたまった視点で
     生きてきたとわかったんです」

    これに対する
    「では地図はどこから見られるべきか」
    (いとうせいこう さんの)その答えの一行が
    興味深い。

    それは、ぜひ本書にて。

  • 「彼らの存在のありようをわずかなりとも書き残さなければたまたま自分が生きていることの意味がない」いとう氏はそう語る。小説家として取材に臨んだ覚悟が、全体を通じて強く感じる。「俺はやはり代弁者であることの誇りととまどいと偽善への疑いを持ち続けながら、このあとも他人の話を聞き続けるのだ」

  • 今ある医療の技術ってすごいと思う。普段自分たちが当たり前のように使ってる薬や機械も、なかったとしたら今だったら救える命も救えないかもしれない。ありがたい。

  • 最近国境なき医師団に寄付をし始めたため、活動内容が知りたいと思い読んでみした。
    恥ずかしながら、国境なき医師団の活動内容については漠然としか知らず、何となく色々な国でお医者さんが活躍しているんだろうなぁと思っていました。この本では、現地のお医者さんの活動についてはもちろん、物資供給や管理などを担当するロジスティシャン、スタッフを安全に送迎する運転手、活動を多くの人に知ってもらうために活動する広報などなど、非常に多くのスタッフに取材を行い、それぞれの方の思いなどをまとめて頂いてありました。
    個人的にはもう少し医師のことに触れていただけると良かったかなと言う感じもします。センセーショナルなテーマに挑んでいるため、治療やケアのシーンはあまり載せられなかったのだと思いますが、、

    とはいえ、全体的には非常に満足な1冊でした。今後も微力ながら月々のサポートを行っていこうと思います。

  • ^_^ 有り 329.3/イ/17 棚:7

  • ハイチ、ギリシャ、フィリピン、ウガンダでの国境なき医師団(MSF)の活動を取材したルポである。この狭い日本にいる私は知らない事ばかりだ。特に難民の問題は、想像を超える。こうした問題は、確かに知っていた。ソファでだらしなく横になって見ていたテレビを通して。私には対岸の火事だった。でもこれからも対岸の火事で済むのだろうか。我々が難民となるかもしれないし、多くの難民を受け入れることになるかもしれない。

  • いとうせいこうの国境なき医師団取材記。
    ハイチ、ギリシャ、フィリピン、ウガンダへの取材記が章別に載っている。
    簡単なMSFの仕組みや、現地での行動(点呼をとる、誰がどこにいるかを随時確認するなど)、各国で出会ったMSFメンバーの話など、全く知らない人目線で書かれているので、NGOの活動を全く知らない人が読んでもわかりやすいと思う。

    ハイチは主に大地震後のスラム地区で活動。
    ギリシャには、シリアなどからの難民が集まってきているが、トルコーEU協定に基づきEUに到着した難民はトルコに移送され、その後第三国定住できるというルールができたが、必ずしもそうなるわけではなく、動かずにギリシャにとどまる難民を支援している。
    ギリシャは先進国なので、医薬品が先進国値段になってしまい予算が足りずに思うように活動できないということに驚いた。
    よく考えたらそうだよね。大抵は途上国での活動だから考えたことなかったけど、こういうレアケースにも対応しているんだよね。
    フィリピンのマニラのスラム地区での活動は、本来の緊急活動ではなく、長期的に進めていくMSFでは珍しい活動。
    主に避妊や妊娠の仕組みについて知らない貧困層が、知識がないまま妊娠してしまい、中絶も許されず(教会や地域の人の「雰囲気」で中絶できない。日本の周りの目を気にすると同じ)産んでしまい、さらに貧困に陥るという現状に対し、性教育や家族計画について教えている。
    フィリピンはもう途上国ではないので、その中にスラムがあっても周りからは気づかれずに、支援が後になったり、緊急ではないので、成果が出るのに時間がかかったりするようだ。
    ウガンダには、南スーダンでの紛争で発生した難民たちが大量に押し寄せ、すでに受け入れ上限人数を超えている。
    キャンプは巨大なものとなり、一つの町として国連やほかのNGOと連携を取り運営されている。
    目の前で家族を殺されても埋葬すらできずそのままにして逃げてくるしかなかったり、逃げる途中でも家族と離れ離れになり暴力を受け、なんとか命からがら逃れてきたり、壮絶な体験をして、キャンプの病院で知り合った人たち同士が寄り添って生きている。
    「家族ではないけど、家族のように寄り添っているんです」と言った3人の10代〜20代の少女たちの言葉を訳したMSFの広報の人が泣いてしまい、即座に謝っていたが、この場面に私もいたらきっと泣いてしまっていただろう。
    しかし、MSFメンバーは難民たちにも敬意を持って接している。
    難民だから可愛そうとか、下に見たりすることは一切ない。誰でも難民になりえるし、自分もそうなる可能性もある。「難民」と言っても、その前日までは各国でそれぞれの人生を歩んでいた一人の人間なのだし。

    日本では特に支援の仕事は未だに金持ちの道楽ボランティアだと思われ、そういう活動をして帰国しても仕事がない。
    せめて、支援の仕事についてもっと当たり前にみんなに知ってもらい、それに対する理解だけでも広まるといいと思う。

著者プロフィール

1961年生まれ。編集者を経て、作家、クリエイターとして、活字・映像・音楽・テレビ・舞台など、様々な分野で活躍。1988年、小説『ノーライフキング』(河出文庫)で作家デビュー。『ボタニカル・ライフ―植物生活―』(新潮文庫)で第15回講談社エッセイ賞受賞。『想像ラジオ』(河出文庫)で第35回野間文芸新人賞を受賞。近著に『「国境なき医師団」になろう!』(講談社現代新書)など。

「2020年 『ど忘れ書道』 で使われていた紹介文から引用しています。」

いとうせいこうの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×