夜更けの川に落葉は流れて

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 74
レビュー : 7
  • Amazon.co.jp ・本 (186ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062208932

感想・レビュー・書評

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  • クリスマスイブの華やかな店内。見渡せばほとんどが若いカップル。その只中、四人掛けのテーブルに揃いの作業着姿の男が6人。女に一切縁がなくテーブルには一様にミックスグリルとライスの大盛り。皆一様に押し黙り、ただひらすらに箸やフォークをカチャカチャ動かしている。その座のそれぞれが虚しさと寂寥を漂わせている。短気さえ起こしていなければこんな場所にいなくてもよかった。加えて意想外な方向からワリカンと知らされる。自分で払うのなら吉野家で良かった。悔恨の波が次から次へと押し寄せる。
    普段はえらく大人しく小心者が、何かを契機にスイッチが入ってしまうと、人が変わり暴言が暴力に発展し破滅へとまっしぐらに落ちてゆく。水戸黄門ばりのワンパターンだが、物語は初から終わりまで引き締まっており一寸の隙もない。終始唸らされながら読まされた。二度読み三度読みしてよい傑作。凄すぎる。

  • 表題作はともかく、三作目はひどい。小説のネタにするにしても。

  • この人の小説を読むと非常に憂鬱な気分になる。読後の胸糞悪さは計り知れない。主人公貫多の病的な性格はまるでコント。あまりの不憫さに笑けてくるほど。まあいつものこと。
    でも何故か、不思議とこの作者の作品を読むのはこれで11作目。読後のあの胸糞悪さを求めて、作品にまた手を伸ばしている。そんな私はもはや西村賢太作品の中毒者なのかもしれない。

  •  表題作の中編と、短編2編を収めた最新作品集。

     ここ数冊、長編はともかく短編は低調だった西村賢太だが、本書は久々の本領発揮という趣。とくに表題作は素晴らしい。帯の惹句に言うとおり「新たな代表作」と言ってよいかも。

     賢太の分身・北町貫多が24歳のころの話。過去のいくつかの短編にもチラッと言及があった、貫多の4人目の彼女(「秋恵」の前の彼女に当たる)との出会いから別れまでの物語である。
     賢太の手持ちの材料のうち、「切り札」とまではいかずとも、ジャックかクイーン級のカードを出してきた感じ。

     内容はいつも通り。バイト先で知り合った2歳下の「佳穂」とつきあい、途中までは仲睦まじくつきあうものの、例によって貫多が「キレる」ことによって一気に破綻に至る。

     ワンパターンといえばワンパターンだが、そこに至るディテールが丹念に描きこまれていて、読ませる。微塵も華々しさがない、いわば〝地を這うような青春小説〟として秀逸だ。
     賢太がキレて佳穂を殴り、前歯を折ってしまうまでの、ジェットコースターが頂上に向けて上っていくようなドキドキの高まりもスゴイ。
     また、怒りに燃えた佳穂の両親(過去の短編で「廃業した力士のような」と表現されていた父親の描写がよい)に怒鳴り込まれ、卑屈の極みの姿をさらしてあやまり倒す場面では、笑いがこみ上げてくる。

     クズ男のクズな行動を描いているだけなのに、乾いた笑いと胸を衝く哀切が随所にある。「これぞ西村賢太!」という味わいの傑作中編である。

     ほか2編の短編のうち、冒頭の「寿司乞食」は凡作だが、もう1編の「青痰麺」がこれまた傑作。かつての名短編「腋臭風呂」(しかし、2つとも汚いタイトルだなァ)を彷彿とさせる歪んだ笑いが炸裂する。
     とくにラストシーン。北町貫多の行動は「クズオブクズ」であるにもかかわらず、爆笑せずにいられない。

     「西村賢太健在なり」を示す一冊。

  • いつもの北町貫多である。身勝手で怠け者、アルコールが入るまでは小心者なのに、酒の力を借りて、暴言を吐く。『夜更けの川に落葉は流れて』の貫多に至っては、一滴も飲んでいないのに、交際相手に罵詈雑言を浴びせ、暴力までふるってしまう。
    私小説は日本独特のものだ。古くは田山花袋、佐藤春夫、太宰治といった著名な作家に、主人公北町貫多が古本屋で出会って、傾倒していく田中英光、後に歿後弟子を名乗る藤澤清造もこのカテゴリーに入る。その私小説作家として芥川賞を受賞したのが作者西村賢太である。作家になっても、昔の因縁を忘れられず、夜な夜なラーメン屋にタクシーで乗りつけて狼藉をする『青痰麺』。いつも、つまらない凡庸な人間であると自覚している僕だが、もうこの歳で、破滅型の人生もきつい。己の人生の凡庸さと、ささやかではあるが納税者である自分に少し安堵しつつ、この本を読み終えた。

  • 西村賢太お得意の私小説、北町貫多シリーズ。3作品が収録されている。

    気が弱いくせに相変わらずの愚行を繰り返し、着実に破滅に向かう寛多の生き様は、寛多ファンにとっては清々しい。心の底では平穏を望んでいるのに、どうやっても破滅に向かってしまう寛多の運命を傍観するのが、ファン心理だ。悪代官が水戸黄門の印籠にひれ伏すのを待つようなものだ。

    そんな主人公の破滅への道は3作品それぞれ。新たな職場の初日の歓迎会で飲みつぶれ、翌日から無断欠勤。恋人を殴りつけて、その父親に土下座謝り。店主の態度が気に入らず、出されたラーメンにゴミを打ち込んで店から逃走。これぞ、北町貫多で、何者でもなかった若き著者。

    と、過去の何者でもない著者の話ばかりだと思っていたら、小説家として大成した著者は今でも変わることなく、破滅に向かう。そんな衝撃的なラストが展開される。

  • 15歳で家を出て自給自足の生活を始めた北町貫多。憬れだった築地市場での仕事を得るも、たった一日でそれを失うことになった顛末を描く「寿司乞食」

    齢23、24。すべてに無気力で受動的だった貫多を、やや向日的な世界へ引き戻したのは、梁木野佳穂という女性だった「夜更けの川に落葉は流れて」

    長いこと後ろ髪を引かれる思いでいた“あの店”。貫多と店主の20数年にも及ぶ蟠りは、ある深夜不穏な最高潮を迎える「青痰麺」

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著者プロフィール

1967(昭和42)年7月12日、東京都江戸川区生まれ。中卒。新潮文庫、及び角川文庫版『根津権現裏』『藤澤清造短篇集』、角川文庫版『田中英光傑作選 オリンポスの果実/さようなら他』、講談社文芸文庫版『狼の吐息/愛憎一念 藤澤清造 負の小説集』を編集、校訂、解題。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』『暗渠の宿』『二度はゆけぬ町の地図』『瘡瘢旅行』『小銭をかぞえる』『随筆集 一私小説書きの弁』『人もいない春』『苦役列車』『寒灯・腐泥の果実』『西村賢太対話集』『一私小説書きの日乗』(既刊六冊)『棺に跨がる』『形影相弔・歪んだ忌日』『けがれなき酒のへど 西村賢太自選短篇集』『薄明鬼語 西村賢太対談集』『随筆集 一私小説書きの独語』『*(やまいだれ)の歌』『下手に居丈高』『無銭横町』『夢魔去りぬ』『藤澤清造追影』『風来鬼語 西村賢太対談集3』『蠕動で渉れ、汚泥の川を』『芝公園六角堂跡』『夜更けの川に落葉は流れて』『羅針盤は壊れても』などがある。

「2019年 『瓦礫の死角』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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