雪子さんの足音

著者 :
  • 講談社
3.13
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本棚登録 : 232
感想 : 40
  • Amazon.co.jp ・本 (130ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062209830

作品紹介・あらすじ

東京に出張した薫は、新聞記事で、大学時代を過ごしたアパートの大家・雪子さんが、熱中症でひとり亡くなったことを知った。
20年ぶりにアパートに向かう道で、彼は、当時の日々を思い出していく。

人間関係の襞を繊細に描く、著者新境地の傑作!

第158回芥川賞候補作。

感想・レビュー・書評

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  • 木村紅美さん好きになってしまい追跡中です。
    黄色い可愛らしい表紙なので、ふんわりしている感じかなー…と勝手に想像していたけど、そんなこと全然ありませんでした。考えてみたら芥川賞候補作なので普通のはずがないんだよね……。岩手絡みのせいか『影裏』を思い出した。

    何気なく雪子さんの奥底には戦争の翳が今でも息づいている。自分の祖母たちが戦時下、戦後をいかにして耐え忍んだか、祖父に聞こえないように、静かに話していたのを思い出した。

    最初はブツブツとした切れ気味の文章で読みにくい感が強かったけど、後半は異様すぎてグイグイと引きこまれてしまいました。『イギリス海岸』は、チョイ毒だったけど、この作品は…毒々しかった。

    雪子も薫も小野田も社会から孤立しているように思う。普通じゃない違和感がどんどん大きくなっていく。馴れ合いとか、なあなあな関係って、何かが崩れた時には怖さに変わると思う。度を越えてしまい、ある一線を越えてしまうとこうなってしまうよね…。

    寂しさと甘えやエゴ、ズルさが混じり合って、独特の距離感が何とも言えず怖くて面白かった。雪子さんも薫も小野田のことも嫌いになれない自分がいたりする。

    素直に考えるとそのまんまだけど、ひねくれて考えると『雪子さんの足音』というタイトルも(ホラーではないけど)ホラーっぽく思えてしまう。

    主人公と自分に少し似ている部分があったので、心や人間模様について考えてしまい、展開が気になり一気読みでした。

    • vilureefさん
      「肉弾」・・・。そうなんですよ、予想の斜め上を行く展開!おっしゃる通り!
      今までマタギものとか熊が出てくる作品読んできたはずなのに、今回は...
      「肉弾」・・・。そうなんですよ、予想の斜め上を行く展開!おっしゃる通り!
      今までマタギものとか熊が出てくる作品読んできたはずなのに、今回は途中でやめたくなるというか。
      平松さんのレビュー素敵ですね。
      深いなぁ。これを読んだらなんだかキミヤのその後は見たくなってきました。
      続編希望!(笑)

      まっき~♪さんと同じキーワードで検索してみました(笑)
      なるほどねー。こんな現実があっての小説なんですね・・・。
      河崎さんて何者?ってwikiで調べてみたら、なんと、羊飼いって。
      やはり只者ではありませんね。
      これからも北海道の自然を舞台にした骨太な作品を期待します。
      グロテスクでも追いかけます(笑)

      本屋大賞、今年度も発表されましたね!
      が、昨年度の『蜜蜂と遠雷』、素晴らしい作品でしたよね。
      納得の作品でした。
      たしか、本屋大賞って映画化されたりしません??可能なのだろうか・・・。
      楽しみ半分、不安半分(笑)

      またお邪魔しますね(@^^)/~~~
      2018/04/11
    • vilureefさん
      まっき〜♪さん、余計な気を遣わせちゃいましたね、ごめんなさい(>人<;)

      全く気に病むこともドキドキすることもありません(笑)
      逆に...
      まっき〜♪さん、余計な気を遣わせちゃいましたね、ごめんなさい(>人<;)

      全く気に病むこともドキドキすることもありません(笑)
      逆に感謝、感謝。

      でも会社のPCでも我が家のPCでも反応したことがないので(ウイルスバスター)、セキュリティレベルかなぁ?
      よくわかんないけど、まあいいか(笑)

      まっき〜♪さん、優しすぎますよ。
      私、懲りずに絡んじゃいましから、うふふ。
      よろしくね( ◠‿◠ )
      2018/04/11
    • まっきーさん
      vilureefさん、よかったー。

      いやぁ…どうやって話をきり出したらいいのだろう…と悩んでしまいました。
      ドキドキしてしまって…(...
      vilureefさん、よかったー。

      いやぁ…どうやって話をきり出したらいいのだろう…と悩んでしまいました。
      ドキドキしてしまって…(´`)=3ホッとしました。

      うちはノートンなんですよ。セキュリティソフトやパソコンの設定の違いとか、あるんでしょうね。きっと。

      ほっ。こちらこそ、今後ともよろしくお願いします(^^♪



      2018/04/11
  • 第158回芥川賞候補作。薫が大学時代過ごしたアパートには雪子さんという大家さんがいた。雪子さんが亡くなったと知り、過去のことを思い出す。大学時代の仲間と雪子さん、住人の女性とのこと。雪子さんは下宿人に食事の世話やお小遣いまであげるほど、世話を焼きたがったのだった。
    どうも『大家さんと僕』が終始頭から離れず。全然違う内容だし、トーンも違うんだけれどね。
    雪子さんにも薫にも他住人もあんまりいい感情は抱かなかったけれど(雪子さんの寂しさ等はわからないでもないですが、みんな都合が良すぎではないですかと)、ページの続きが読みたくなる内容だし、雰囲気はうまくまとまっていた印象をです、薫の苛立ち等の心情、さらりと書いてしまうのはうまいんではないかい。

  • ちょこちょこと読んでいた木村紅美作品、今回は芥川賞候補作ということで、期待して読んでみた。
    あらすじ等何も知らずに読んだので、展開がちょっとドロドロになりかかってからの正直な感想は「思ってたんと違う」…だったのだが、軽い不快感を感じながらも一気読みしてしまった。
    学生時代お世話になっていたアパートの大家さん・雪子さんが熱中症で亡くなったことを知り、薫は20年前に交流を持っていた雪子さんのことを思い出して、当時住んでいた高円寺のアパートを訪ねようとする。
    甲斐甲斐しく世話を焼く雪子さんの親切がどんどん重みを増していき、負担だと感じつつも中途半端に利用する薫の狡さ。もう一人の住人の女性・小野田も絡み、歪な三人のバランス…何だろうこのじっとりとした湿っぽさ。立ち回りがイマイチ下手くそな薫に苛立ちを感じるのだけれど…不快と言いながらも三人の関係から目が離せないのである。つい薫も依存してしまうのも少しわかる、フード描写のうまさ。木村さんの他の作品もそうなのだけれど、登場する食事がどれもおいしそうで、読んでいる自分も絡めとられている。
    読み終えてからもう一度冒頭に戻り、ストーリーには描かれていない空白の時間に思いを馳せ、ちょっと切なくなる。好みの分かれる作品だろうなという気はするが、自分に置き換えて考えると、ここまで濃くはなくても少し似たような思いは感じたことはあったなぁ…と。ヘタレな薫を突き放しきれないなと思ったのであった。舞台が高円寺というのもよかったな。あの雑多な場所に、本当に月光荘のようなアパートがありそうで。

  • 読んでいて戸惑った。タイトル、装丁からはとうてい想像できないストーリーだったのだ。
    とある大家さんの訃報から話ははじまっている。それを耳にした主人公は中年の男性だが、かつてはその大家である雪子さんのアパート・月光荘に下宿していた大学生だった。
    高円寺にあるそのアパートは今どうなっているのかと足を運びつつ過去を思い出していく、という回想部分がメインになっています。
    踏み込みすぎた親切。お節介。過干渉。絶望的に雲行きがあやしくてゾッとさせられるのだが、罪悪感と申し訳なさもごっちゃになる。なぜって、雪子さんのそれはどこまでも純粋な善意だからだ。悪意は一切ない。多少の下心はあれど、でも善意なのだ。
    見返りを求めない優しさは素晴らしいものであるはずなのに、人はどうしてかそれに怯えてしまう。得体の知れないものに対する恐怖だろうか?
    雪子さんに対するそんな恐怖と、行き場のない怒りや憤り、煩わしさや鬱陶しさを薫とまったくシームレスに私も感じていた。
    小野田さんという女性住民の存在もまたこの不協和音をいっそう響かせている。
    彼女らとどう付き合うべきだったんだろうか?正解はみつからず、やるせなさだけが残る。

    ホラー小説と紙一重。
    綿で首を絞められているような、どんどん空気が薄くなっていくような物語のはこびがとてもよかった。
    8月の埃っぽい風。後味は悪い。が、あたたかみもあるのだ。なんともいえないこの感じ好きです。

  • 公務員の遊佐薫は、20年前に住んでいたアパートの大家さんが熱中症で孤独死したことを、出張先のホテルの朝刊で知る。
    川島雪子(90)
    眠るように死んで、まだきれいなままで下宿人に発見されたい、というのが彼女の夢だったが…
    (たぶん、眠れる森の美女みたいな自分を妄想していたのだろう)
    死後一週間は発見されなかったらしい。
    下宿人ではなく、連絡がつかなくなったことを不審に思った親戚によって発見されたのだった。
    薫は、自分がアパートを飛び出すきっかけになった、大家の過干渉に思いをはせる。

    他人がプライベートに踏み込むことをどこまで許せるかによって、この本の感想…雪子さんや主人公の薫に対する印象も変わるのではないかと思う。
    私にとっては、ホラー。牡丹灯篭レベルの。
    (この本のジャンルはホラーではありません、念のため)
    しかし、怪異に取り憑かれるのは、やはり隙があるからなのだ。
    しおらしくされ、「断ったら可哀想だから」
    利益になること、手っ取り早くならばお金を惜しげもなくくれることに「都合のいいところだけ利用すればいい」
    そんな気持ちの裏側にするりと滑り込まれる。
    毎日食事に誘われたり、美術館に行くと言ったら付いてきたり、足音で帰りの時間をチェックされたり、恋人はいるのかとしつこく詮索されたり。
    留守の間に部屋が掃除され、ゴミ箱の中のものを保管される。
    私だったらすぐに出る。
    ごはんもお小遣いもいらない。
    子供が引きこもりの暴力息子になってしまったのも、世話しすぎのせいだったんじゃないかと思ってしまう。

    江戸時代の大家さんは、親代わりのように店子の面倒を見たというけれど、雪子さんの場合はそういうものではない。
    恋愛の方は小野田さんを使って代用しているみたいだが、金持ちの老婆が若者に恋して、金をつぎ込むことで歓心を得ようとしているのと似ている。
    雪子さんは全くそのつもりはないのだが、見ようによってはそう見えてしまう。
    つまり、女二人がかりで取り憑かれていたようなもの。
    小野田さんも非常に不気味だ。

    しかし、食事の誘いも最初から断って、ドライな関係を維持している住人もいる。
    雪子さんも薫も、お互いに距離の取り方に失敗したのだ。

    20年たって振り返れば、色あせた写真の中のような思い出だ。
    “今思い出してもぞっとする”という印象ではない、過去として薄れた感がちょうどいい。
    しかし、近づいてくる女性をどこかで警戒してしまうようになったのは、月光荘であったことが薫に全く影を落としていないわけではない、ということだろう。
    いまや40代で独身。
    チラッと遠い未来の自分のことが頭をかすめたりもするのだ。
    …やはり、そこはかとなく怖いのかな?

  • 「(松本)竣介が盛岡中学で、彫刻家の舟越保武と同学年で親友だったというのは、すごいつながりですよね」(p. 19)ーーなるほど、そこはつながるのか。それはたしかにすごいな。

  • 第158回芥川賞候補作。「おらおらでひとりいぐも」もそうだったけど、芥川賞候補にしては読みやすく、分かりやすい。私は、こちらの方が好きだけどね。
    すんなり読めるけど、時々心にクッと引っ掛かりを残す文章とかがあって、手を止めて「あ~そうだよね」と考えたりしながら読んだ。
    最後もあっさり終わるのだけど、読後感が不思議と良く、なんだかうっすら希望のようなものまで見えて、いい感じで本を閉じられた。

    薫が出て行ってからの月光荘の後日談を是非読んでみたいものです。

  • 大家と店子の関係,親切がお節介に,さらにはストーカー的な行為に感じるほど主人公は心理的な圧迫を覚える.しかし主人公にも打算的な甘えがあり,不気味な関係ながらどちらもどちらという感じがして,むしろ雪子さんがかわいそうだった.嫌だ嫌だと思いながら毎日ご飯を出前してもらう神経の方が,つまりは主人公の厚かましさの方が理解不能だった.

  • 初めての作家さん。
    私自身も他人の、ましてや気遣いには無下に断る事はなかなか出来ないと思う。お世話になっていたり、同情すべき事があるとなおさら。。人との距離感って大事だなあ。
    それでも大学生の薫にとっては嫌な思い出ばかりではなく、ほろ苦く、悔いがありながらも時には温かく。そんな思い出だからこそ、大家さんのニュースを聞いてアパートに足を向けたのだと思う。

  • 木村紅美さんの『雪子さんの足音』を読みました。

    主人公「薫」はモラトリアムの時代を表現(文学)に逃げていますが、作品を書くことはできていません。彼は人の親切を無批判に受け入れ、時折、他人を傷つけます。彼は真面目ですが客観的にはダメな人間といえます。彼のパーソナリティについて、人として共感できる点は少ないですが、作品に欠かせない主人公としてとても面白く読みました。社会的にも学業にもひた向きではなく、他者との距離感も失敗した普通の学生が描かれています。これも得難い若さといえると思います。

    > 東京に出張した薫は、新聞記事で、大学時代を過ごしたアパートの大家・雪子さんが、熱中症でひとり亡くなったことを知った。 20年ぶりにアパートに向かう道で、彼は、当時の日々を思い出していく。

    主人公 薫 は大学時代に住んだ「月光莊」の大家さん雪子がなくなったことを新聞記事で知ります。この作品は彼の邂逅の物語です。

    > こちらへ降りて詰め寄ってきた。つぼでも押すように手首に触れられ、背中を冷や汗が伝う。年寄りの大家を邪慳に振り払えるわけもない。 「うちですませるほうが栄養のバランスが取れるし、お代も浮くでしょうに。病気にならないか心配」 「病気? まさか」 「偏った食事は、将来、糖尿や何やを誘発しやすくなるのよ。もちろん、無理強いするつもりはありませんけど」  冷静に考えると、仕送りを節約できるのは魅力だった。向こうは若い人に接するのが生き甲斐と化していて、互いに純粋に得するだけだと言い聞かせた。 「じゃあ、お言葉に甘えて」

    「大家さんの雪子さん」と同じく月光莊に住んでいる「小野田さん」は、何かと彼に世話を焼きます。薫はそのような始めのころは辟易しますが、食事代が浮くという打算的な理由でその申し出を拒むことはありませんでした。彼は悪い人間ではありませんが、このような好意を受け入れることに対して遠慮がありません。

    若いころにはあまり他人への思慮や遠慮がないものですよね。彼のこのような態度は「小野田さん」の思慕を引き寄せます。彼女「小野田さん」も人との距離の取り方に難があるようで一方的に性的な関係を求めてきますが主人公はそれを断ります。結果として彼女の間には溝が生まれます。「小野田さん」が段階的に発展を図るかたちの愛情表現ができないことに哀しさを覚えます。彼女も苦しんでいると考えます。

    > 「小野田さんが帰国次第、手紙のやりとりに戻す、と約束しましたよね? もう、つきあってられないです。頼んでもないのに洗濯機カバーを換えたり、掃除とか、今後は一切止めてください」  雪子さんは疲れのあらわなよどんだ眼を、てんで文句が通じていなさそうにしばたたかせた。演技に感じさせない。 「洗濯機……、掃除? なんのことなの」 「わかっているくせに」  口の端がほころび、いたずらっぽく微笑まれた。 「もし、知らないうちにお部屋が片づいていたのだとしたら、執筆を助けたい妖精のしわざではないかしら」  ふざけている。いよいよ、電車がホームへすべりこんだ。

    彼は彼女たちの行為を一方的なかたちで打ち切ります。「雪子さん」のおせっかいは純粋に彼を思ってのことだったのですが彼を追い詰めることになります。

    いい加減、重箱の底まで行き当たるころだろうと期待し箸のさきで探ると、そこにはまだ焦げ目のついた脂の固まってきた鰻が埋もれ、その下には、たれの染みたごはん粒が敷き詰められている。勿体なくて投げ出すわけにはいかない。 「わたしがあなたと同じ齢のころは、東京はなにも食べるものがなくなって飢えた経験があるから。つい、あなたにも小野田さんにも、栄養失調だった自分や、ほんとに不憫なことに飢えて亡くなった同世代の人たちの代わりとして、たらふく食べてもらいたくなるの。……飢え、というのは、それはそれはつらいから」

    人は若かりし頃、未熟で人との距離感に悩み、間接的に人を傷つけてしまうという当たり前の人物が描かれています。おそらくは大正生まれの親切な雪子さんと平成の若者(薫・小野田さん)の断絶や距離感、雪子さんが感じたであろう時代(哀しさ)がよく表現されていると思います。とても面白い作品でした。

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著者プロフィール

1976年兵庫県生まれ。小学校6年生から高校卒業まで宮城県仙台市で過ごし、現在の実家は岩手県盛岡市。明治学院大学文学部芸術学科卒。2006年に「風化する女」で文學界新人賞を受賞。08年「月食の日」で第139回芥川賞候補、13年『夜の隅のアトリエ』で第35回野間文芸新人賞候補となる。その他の著書に『イギリス海岸 イーハトーヴ短篇集』『見知らぬ人へ、おめでとう』『春待ち海岸カルナヴァル』『まっぷたつの先生』などがある。

「2018年 『雪子さんの足音』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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