地球にちりばめられて

著者 :
  • 講談社
4.08
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本棚登録 : 341
レビュー : 28
  • Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062210225

作品紹介・あらすじ

留学中に自分の国が消えて帰れなくなってしまった女性Hirukoは、独自の言語を作り出し、ヨーロッパ大陸で何とか生活しようと奮闘していた。Hirukoはテレビ番組に出演したことがきっかけで、言語学を研究する青年クヌートと出会い、自分と同じ母語を話す者を探す旅に出る――。

感想・レビュー・書評

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  • 普段海外文学しか読まない自分に誰かオススメの日本人作家いない?と友人に聞いたところ、多和田葉子さんの名前があがった。

    読んでみて、なるほど確かに海外文学好きな人に勧めるにはぴったりの日本人作家だと納得する一方で、まぎれもなくこれは日本文学だ、とも感じた。何をもって“日本文学”とするのか、特に自分の中で基準があるわけではない。ただなんとなく、BADHOP言うところの『内なるJ』というやつを文章の端々に感じるのかもしれない。とはいえ、それは全く悪い意味ではなく、むしろ自分にとって新鮮な感覚として味わえて嬉しかった。

    こうの史代さんの漫画「ぼおるぺん古事記」には、イザナミ・イザナキの最初の子、水蛭子(ひるこ)が葦舟で流される際に釣竿を持たされる描写がある。これは、巡り巡って蛭子→ゑびす様として祀られることの示唆なのだと思う。この本のHirukoにおける唯一の武器は釣竿ではなく、パンスカという独自の言語だ。海の向こうからやってきた客人神は、様々な人間を巻き込みながら自分と同じ母語を話す者を探し続ける。。。貴種流離譚というか、あらすじ自体は神話めいている。けれど実際は異人種の若者たちによる青春群像劇で、読み味はとても爽やか。

    全編にわたりパンチラインに満ちているので、最初のうちは感心していちいちメモをとっていたが、そのたび読書が止まるので途中からメモやめて読み進めるのに集中することにした。それくらいハッとするような文章が多い。

    続編もある?といくつかの感想に書かれていたので、楽しみに待つことにします!

    • Kamoshidhaさん
      多和田葉子さんは、ドイツ在住でドイツ語でも書いている方と記憶してます。書店の洋書売り場で働いていた頃に、なぜか日本人作家の中で、特にドイツ語...
      多和田葉子さんは、ドイツ在住でドイツ語でも書いている方と記憶してます。書店の洋書売り場で働いていた頃に、なぜか日本人作家の中で、特にドイツ語訳がたくさん出ていたので、気になって調べてみたことがありました。この記事を読み、この小説を読んでみようと思った。
      2019/05/18
  • 多和田さん2作品目。
    やっぱり多和田さんの文章好きだな、としみじみ思い、夢中になって読み進める。
    多和田さんの言葉遊びに何度もクスッとなる。

    ヨーロッパ留学中に故郷の島国(日本)が消滅してしまった女性Hirukoの物語。
    永遠にあるはずの祖国が無くなるなんて…考えたこともなかった設定にただただ驚く。
    地球規模で見た「日本」を改めて見ると、なんと不思議でちっぽけな島国だったのか、と複雑な心境になった。
    (そんな風貌の人達が暮らしていたことを歴史地理の授業で習った…のインド人の発言にはショック)

    自分の祖国も母語も無くなったHirukoは大陸で生き抜くために新しい独自の言語を作る。
    その逞しさと自由さが清々しい。
    そして世界の何処かにいるはずの同郷人を探す旅に出る。
    移民として大陸を渡り歩き、自分の求めるものを探し続けるHirukoの強さに感動した。
    旅の途中で出逢った、国も言語も異なる仲間達との交流もまた素晴らしい。
    仲間の一人のセリフ「僕らはみんな、一つのボールの上で暮らしている。遠い場所なんてないさ。いつでも会える。何度でも会える」がとても印象的。
    これからも何処へでも並んでボールの上を歩く仲間のいることが羨ましい。
    他の多和田作品も読みたくなる一冊だった。

  •  多和田葉子という日本人作家の名前がノーベル文学賞候補に挙がっているということをインターネットのニュースで知り、ミーハーの私は図書館で本を借りて読みました(残念ながら受賞は逃しましたが...)。

     この小説を読む前に最初に読んだ「エクソフォニー 母語の外へ出る旅」というエッセイは、ちょっと理屈っぽかったり同じことが繰り返し書かれたりしていましたが、多和田さんの経歴や現在の様子、どんなことに関心があってどんな考えを持っているのかといったことなどを詳しく知ることができました。それを踏まえて次に読んだこの小説は、新鮮で興味深いものでした。

     中国大陸とポリネシアの間にある島の出身だというHirukoという女性は、多和田さん御自身がモデルでしょうか? Hirukoの故郷は失われ、彼女は故郷の言葉を話す人を探してデンマークからドイツのトリアー、フランスのアルルを訪れるのですが、このことは彼女にとって故郷を失った喪失感や悲しみとは無縁であるようです。むしろ彼女は言葉とそれを話す人の出自は無関係であるとドライに考えています。これは、人間とは地球にちりばめられた存在であり、出自や同族意識といった狭量な考えに囚われることなく個々の人間として互いに接しあうべきであるという作者の考えが反映されているのでしょう。Hirukoの言葉探しの旅に様々な登場人物がかかわって、互いに繋がっていき、そして大団円を迎えます。でも、その後も旅は続くようですよ。

     まさに世界を舞台に活躍している作者が書いた、前向きに生きる人たちの物語でした。こういう生き方、実はきっととても大変なのだと思いますが、作者はあくまで楽しんでおられるような... 文章は洗練されて読みやすく、その中に言葉に関する鋭い感覚と遊び心を感じました。

  • 元々全く別の人生を送っていた登場人物たちがいつのまにかひとつの同じ旅路に誘われて、点と点が線で結ばれていく感じが面白い。
    相変わらず多和田さんの言語感覚、言葉遊びは、日本のみに住んでいるひとにはない感覚で楽しい。
    多和田さんの作品は総じて好みながら、センスのない私には難しく冗長に感じることもあるが、今回の作品はテンポも良いし、一章ごとに語り手が変わったり、SF的な設定も面白く、飽きない。
    多和田さんがインタビューで語っているように、「越えていく」ことの面白さが爽快な作品。わたしも柔軟性を持って、言語や世代をときには超えることを恐れずに楽しみたい。

  • hirukoは産み落とされ捨てられた
    最初の神の子蛭児の比喩で、
    susanooは蛭児の兄弟または蛭児でもありうる
    須佐之男命の比喩なのだろう。
    自国が消滅した主人公と
    主人公を取り巻く人々の
    アイデンティティを探す旅は、
    大円団、各々が好きなだけ話し、
    理解し合い、また、旅を続ける。
    前回読んだ「献灯使」と同じように、
    言葉遊びに溢れていて、愉快な言葉の中にも
    なんだか寂しさを感じてしまう。
    それでも、なんとか互いを認め合う事は
    案外、簡単なのではと思わせる。
    地球にちりばめられて。
    読了して、すんなりと心に沁みるタイトルです。

  • 面白くてスルスル読めてしまった。
    いつまでもずっと読んでいたかった。
    「帰る国がなくなってしまった」留学生が主人公ということで、とても恐ろしい話かと思っていたが(「献灯使」がどうしても意識される)、今のところは大丈夫。
    続編があるということなので、とても楽しみだ(怖くもあるけど)。
    登場人物たちと旅を続けたい。

  • カタカナの名前が続出するので,メモを取りながら読んだが,未来小説なのか,異次元の世界を現したのか,言葉自体が国に縛られない自由な世界を描いていると感じた.自作の言語パンスカをしゃべるHirukoはメルヘン・センターに勤めているが,自分の国(日本?)が消滅したと聞いている.ひょんなことからテレビ出演し,デンマーク大学の言語学科の院生クヌートと知り合う.その後,アカッシュ,ノラ,ナヌークらが登場し,話が混乱してくる.Hirukoは自国人との会話をしたい願望があり,Susanooがその可能性があると踏んで,探し回る.最後の鮨屋で全員が集まる場面は楽しめた.ドイツ語,スウェーデン語,デンマーク語,それにパンスカ...著者の言語的な多様さが示された作品だと感じた.

  • 祖国がなくなるということ,真剣に考えたことがなかったけれど,それは母国の言葉を失うと言うことだと気付かされた.神話めいた名前を持つHirukoの言葉の遍歴,あるいは巡礼は,クヌートを始めとして出会った人を巻き込んで北欧,ドイツを彷徨う.世界中で失われていく言語があると言う中で,この物語は架空でありながら現実味を帯びたものとして心にしみてきた.そして,Hirokoの作る手作り言語が興味深く,また紙芝居も楽しかった.

  • スカンジナビアで通ずる自作言語パンスカをはじめ、いろんな言語が飛び交うお話だった。

    世界各地の多色な出自のひとたちが、糸を引き合って出会い、国際研究チームになる。

    いろんな経歴・言語・文化のひとと会って話がしたくなった。

    *****

    家に帰ってからも語学の教科書に出て来る文章を必死で口に入れ、夜まで何度も噛み続けた。米をずっと噛んでいると甘くなって酒になると聞いたことがあるが、言葉も同じだ。消化不良で腹痛を起こすこともなく、オレはむしろ陶酔状態で最初の一年を過ごした。名前を訊かれると、スサノオと答えた。

    Hirukoと出逢って、春のうたたね人生にも終止符が打たれることになった。終止符の後にはこれまで見たこともない文章が続くはずで、それは文章とは呼べない何かかもしれない。なぜなら、どこまで歩いても終止符が来ないのだから。終止符の存在しない言語だってあるに違いない。終わりのない旅。遠い国。形容詞に過去形があって、前置詞が後置されるような、遠い国へでかけてみたい。

    「人間はある瞬間、悲しくて、次の瞬間は嬉しくて、気分がどんどん変わっていく。この町の空みたい。空が変わると、それを映している水の色も変わる。」


    ある「職業」を持つ人になる、というのは幻想に過ぎず、実際のところ人間はある「場所」に置かれるのだ、と思った。


    パンスカは、実験室でつくったのでもコンピューターでつくったのでもなく、何となくしゃべっているうちに何となくできてしまった通じる言葉だ。大切なのは、通じるかどうかを基準に毎日できるだけたくさんしゃべること。…まわりの人間たちの声に耳をすまして、音を拾い、音を反復し、規則性をリズムとして体感しながら声を発しているうちにそれが一つの新しい言語になっていくのだ。

    *****

  • ストーリーは「はぁ?」と言いたくなるようなものなのだけれど、本書を読みやめられないのは、作者が書きながら思考しているその痕跡が伝わってくるから。ストーリー展開は口実で、書きながら哲学している。

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著者プロフィール

多和田葉子(たわだ ようこ)
1960年、東京都生まれの小説家、詩人。早稲田大学第一文学部ロシア文学科卒業後、西ドイツ・ハンブルクの書籍取次会社に入社。ハンブルク大学大学院修士課程修了。長年ドイツに暮らし日本語・ドイツ語で執筆する。著作は各国で翻訳されており、世界的に評価が高い。
’91年「かかとを失くして」で第’34回群像新人文学賞。’93年「犬婿入り」で芥川賞受賞。’96年、ドイツ語での文学活動に対しシャミッソー文学賞を授与される。’11年、『雪の練習生』で野間文芸賞、’13年、『雲をつかむ話』で読売文学賞と、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。
世界的な賞も数々獲得している。2016年ドイツの文学賞「クライスト賞」を日本人として初めて受賞。そして2018年『献灯使』がアメリカで最も権威のある文学賞「全米図書賞」翻訳文学部門を受賞している。

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