母性社会日本の病理 (講談社+α文庫)

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 17
  • Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062562195

作品紹介・あらすじ

心理療法をしていて、最近とみに心理的な少年、心理的な老人がふえてきた、と著者はいう。本書は、対人恐怖症や登校拒否症がなぜ急増しているのか、中年クライシスに直面したときどうすればいいのか等、日本人に起こりがちな心の問題を説きながら、これからの日本人の生き方を探る格好の一冊。「大人の精神」に成熟できない日本人の精神病理がくっきり映しだされる。

感想・レビュー・書評

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  • 表題どおりの「母性社会日本」をめぐる第一章は現在でも通用する議論でなかなかおもしろくあったのだが、その後がいかんせん。方々に書いたエッセイを集めたというから繰り返しも多く統一性に欠ける。文字数の制限を理由に論が深まらぬところもあって、「ココんとこもっと」とおねだりしたい箇所も多く痒いところに手が届かない。

    父性原理の特徴は「切断」にある。極端ではあるが良い子は我が子で悪い子はよその子という風に。キリスト教というのはまさにこういう考え。
    母性原理としてユングは三つあげている。すなわち「慈しみ育てる」「狂宴的な情動性」「暗黒の深さ」。

    日本では母性の「慈しみ育てる」面だけを称揚し、「暗黒の深さ」という一面にフォーカスをあてることが少なかったのではないか筆者は考える。「暗黒の深さ」というのは「呑みこみ、しがみつきして、死に到らしめる」という言葉で表されている。

    母性原理が顕著にあらわれているのが日本の学校だ。
    誰もが平等に扱われるため、欧米のような飛び級や留年は存在しない。
    この本が書かれた90年代から、さらにその傾向は増しているようにも思える。(学芸会の演劇で女の子はみんなお姫様役とか)

    ただし留年したからといってそれが即コンプレックスになるわけではないという。むしろ欧米のような個人主義では、勉強ができないなら諦めて他の道を探すというように、「人それぞれ能力の差異があるのは当たり前」を前提に考える国々では能力が劣ることも個性のひとつとして考えることができる。

    しかし平等という考えを前提にすると、「平等であるはずなのに自分は何故皆と同じようにできないのか」と考え悩むという。

    ――ひとつの文化がひとつの原理のみで成立するはずがなく、何らかの方法で対立原理をそのなかに取り入れ補償をはかっている。わが国の場合は、母性原理に基づく文化を、父権の確立という社会的構造によって補償し、その平衡性を保ってきたと思われる。

    父権制度や総理大臣が今もって男であるのは、女性の代理としての機能を果たすのであって実際に権力を握っているのは女性であった。GHQはそれを男尊女卑と見てこの解体を急いだことで今の家庭の混乱がある、と。

    ――西洋における個の倫理が言語による契約によって行われるのに対して、場の倫理は非言語的な羞恥の感情機能に支えられているのである。われわれ日本人は子供のときから、この羞恥の感情に基づく自己規制の方法を学習させられている。

    欧米は「個の倫理」、日本は「場の倫理」と言われる。
    「場の倫理」ではとにかく何を置いても場の内側にいることが求められる。内側にいさえすれば、その人の人柄や人格など多少の問題は看過され、場を共有する人間は彼の人に対して責任を負う。
    しかし場の外にいる人間に対しては何ら責任を負わなくていい、極端にいえば何をしたってかまわない……そういった酷薄な面を持つ。

    しかし……読めば読むほど、自分は本当に日本人なのかと考えざるを得ないのであった。

  • 母性原理と父性原理の違い。
    能力主義と平等主義。
    日本人の自我構造。
    夜の意識とイメージ、、等々興味深かった。

    個人的には、相手の母性原理から来ることで、
    あたしを責めているようなことがあっても、
    気にしなくていいってことがわかった。

  • 今は全集が出てるので、そちらの方がまとまりが良い

  • 心理療法をしていて、最近とみに心理的な少年、心理的な老人がふえてきた、と著者はいう。本書は、対人恐怖症や登校拒否症がなぜ急増しているのか、中年クライシスに直面したときどうすればいいのか等、日本人に起こりがちな心の問題を説きながら、これからの日本人の生き方を探る格好の一冊。「大人の精神」に成熟できない日本人の精神病理がくっきり映しだされる。

  • 「こころの処方箋」の著者である河合隼雄さんのユング心理学をベースとした評論本.連載モノを文庫化したもの.
    注意として,本書は新書ではよくあるような「どうすべき」ということを明確に示すようなものではない.しかし "対人恐怖" でなくとも,日本人が日本社会で少なからず感じていそうなことを指摘し,どのようなことが心のなかで起こっているかについて分析しているという意味で意義深いと考える.

    第一章「日本人の精神病理」では,日本社会の母性原理について主に述べられており,日本独特の「場の倫理」という観点が興味深い.また,ユング心理学で重要な「グレートマザー」が守るだけでなく飲み込んでしまうような母性を反映したある種無意識下の普遍的な存在として紹介されている.
    第二章ではユング心理学や夢分析について紹介されており,夢における自身の「無意識」との関連性について述べられている.
    確かに日本人の自我が西洋におけるそれとは異質,ないしは西洋から見ると"無い"ように見えるのだが,必ずしも欧米と同じような自我の獲得が良いということを表明しているのではない.第三章ではこのような日本的(東洋的)な"意識"とはどのようなものかを説明しており,心の中心としての"自己"の概念について述べていた.
    全体にわたって様々な症例における"相関性"や"グレートマザーの存在",またはグレートマザーから抜け出し自我を獲得するといった内容が様々な形で述べられているので,若干食傷の感はあるが,日本および西洋における意識・無意識,父性・母性,自我・自己などについて統一的な見解を得られる点は「こころの処方箋」を読んだ感じとやはり似通っていると感じた.

  •  
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4062562197
    ── 河合 隼雄《母性社会日本の病理 197601‥中公叢書 19970919 講談社プラスアルファ文庫》
     

  • 意外とリーダブル。河合隼雄さんが日本に帰って来てから10年後に出版された40年前の本。

  • 日本が母性社会というのはすごい納得感。母性もいいことばかりじゃないぞ。

  • 「第一章 日本人の精神病理」が分かりやすく勉強になりました。

    第二章以降の「ユングと出会う」、「日本人の深層心理」、「物語は何を語りかけるのか」は、いずれも深層心理を扱ったもので面白いし言っていることはわかるのですが、私にとっては書いてあることをそのまま受け取るしかなくという状況でした。河合隼雄をさらに何冊か読んでいけば「そういうことだったのか」と得心していくような気がしています。

    ★★★

    それで、私にも分かった(ような気がした)第一章にどんなことが書かれているかというと、

     母性の原理は「包含する」機能によって示される。そこにはすべてのものを良きにつけ悪しきにつけ包み込んでしまい、そこではすべてのものが絶対的な平等性をもつ。「わが子であるかぎり」すべて平等に可愛いのであり、それは子どもの個性や能力とは関係のないことである。
     しかしながら、母親は子どもが勝手に母の膝下を離れることを許さない。それは子どもの危険を守るためでもあるし、母-子一体という根本原理の破壊を許さぬためといってもよい。このようなとき、時に動物の母親が実際にすることがあるが、母は子どもを呑みこんでしまうのである。
     かくて、母性原理はその工程的な面においては、生み育てるものであり、否定的には、呑みこみ、しがみつきして、死に至らしめる面をもっている。

    です。そしてタイトルどおり日本の病理はこの母性で全て説明が付くというわけです。
    例えば日本には「場」というものがあるのですが、

     わが国においては、場に属するか否かがすべてについて決定的な要因となるのである。場の中に「いれてもらっている」かぎり、善悪の判断を越えてまで救済の手が差しのべられるが、場の外にいるものは「赤の他人」であり、それに対しては何をしても構わないのである。

    というドキッとすることにつながるというのです。
    場については、もう一つ面白いことが書かれています。それは、

     このためまことに奇妙なことであるが、日本では全員が被害者意識に苦しむことになる。下位のものは上位のものの権力による被害を嘆き、上位のものは、下位の若者たちの自己中心性を嘆き、ともに被害者意識を強くするが、実のところでは、日本ではすべてのものが場の力の被害者なのである。
     この非個性的な場が加害者であることに気がつかず、お互いが誰かを加害者に見たてようと押しつけあいを演じているのが現代であるといえよう。

    そして続けて、

     場の構造を権力構造としてとらえた人は、それに反逆するために、その集団を抜けだして新しい集団をつくる。彼らの主観に従えば、それは反権力、あるいは自由を求める集団である。ところが既述のような認識に立っていないため、彼らの集団もまた日本的な場をつくることになる。そして、既存の集団に対抗する必要上、その集団の凝集性を高めねばならなくなるので、その「場」の圧力は既存の集団より協力にならざるを得ない。

    母性原理を理解すると色々なことが腑に落ちますね。

    ★★★

    日本の母性に対して西洋は父性というわけですが、父性とはどういうことでしょうか。筆者はこんなふうに書いています。

     母なるものの力は「包含する」力であり、すべてのものを良きにつけ悪しきにつけ包みこむ。これに対して、父なるものは「切る」力をもっている。これは、ものごとを上と下に、善と悪に、物質と精神に、などと分けて考える。

     ……略

     キリスト教は父性の宗教である。仏教や道教などが母性の宗教であるのに対して、キリスト教やユダヤ教は父性の宗教であるといわれる。

     ……略

     これに対して父なるものの宗教は、父なる神の規範に従うか従わないかが決定的なこととなる。父との契約を守る選民のみが救済の対象となるのである。そこでは、神と人、善と悪などが判然と区別される。

    日本的なものの見方と、西洋的なものの見方の違いについて理解が深まったように思いました。

    そして、このような自我の違いについて理解しておかないと国際社会では、攻撃に対して憤りを感じたり、逆に無視されたように誤解したりするのでしょう。 これから国際社会で活躍する人は読んでおいた方が良いと思います。

  • 単行本化された、雑誌等に寄稿した作品の集まり。

    ユング心理学研究所や、日本が母性社会として父性がなくなっていることなどを述べている。日本や人間関係を読み解くにはよいかもしれない。

    いわゆる日本人論ブームの1つに数えられる本である。

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プロフィール

河合 隼雄(かわい はやお)
1928年6月23日 - 2007年7月19日
兵庫県多紀郡篠山町(現・篠山市)出身。京都大学名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授。文化功労者。元文化庁長官。1952年京都大学理学部数学科卒業後、京都大学大学院で心理学を学びつつ、数学の高校教諭を兼業した。
天理大学で助教授時代にユング研究所に滞在し、ユング派分析家の資格を取得。日本における分析心理学の普及と実践に邁進。箱庭療法導入者としても知られる。欧米の心理療法を日本文化に根ざす仕方で導入を試みており、日本論・日本文化論の著作も多い。
主な受賞歴に、1982年『昔話と日本人の心』で大佛次郎賞、1988年『明恵 夢を生きる』で新潮学芸賞、1992年日本心理臨床学会賞受賞、1996年NHK放送文化賞をそれぞれ受賞。1995年紫綬褒章、1998年朝日賞、2000年文化功労者顕彰。
なお2012年に一般財団法人河合隼雄財団が設立されており、そこで本人の名を冠した「河合隼雄物語賞・学芸賞」が設けられている。

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