母性社会日本の病理 (講談社+α文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062562195

作品紹介・あらすじ

心理療法をしていて、最近とみに心理的な少年、心理的な老人がふえてきた、と著者はいう。本書は、対人恐怖症や登校拒否症がなぜ急増しているのか、中年クライシスに直面したときどうすればいいのか等、日本人に起こりがちな心の問題を説きながら、これからの日本人の生き方を探る格好の一冊。「大人の精神」に成熟できない日本人の精神病理がくっきり映しだされる。

感想・レビュー・書評

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  • 父性社会の物事を「切断する」ことと違い、母性社会は全てを「包含する」。西洋は父性社会であり、日本は母性社会である。それで日本の社会現象を説明できる。もちろんどの社会にも父性と母性の両方は存在するが、どちらが優位を持った社会であるかで違いがでる。「個」の倫理と「場」の倫理。「場」から疎外される孤独か。なるほどな〜と思える。またフロイトと違ったユングの夢分析の話も、興味深い。

  • ユング心理学に基づいた母性原理と父性原理の説明と対人恐怖について書かれているところが面白い

    母性→
    グレートマザーと同じように慈しみ育てる肯定的な面と、全てを包み呑み込む否定的な面がある。どちらにおいても「我が子であれば全て良い子」といったような、ある「場」において何物も区別しない平等性を持つ。母性原理に基づく倫理観は「場」の中に存在するものの絶対的平等に価値を置き、場の平衡状態の維持に最も高い倫理性を与えるもの。これが「場の倫理」。あるがままで救われる→浄土真宗

    父性→
    切断するという機能にその特性が示される
    主体・客体、善と悪などに分類し、人をその能力や個性に応じて類別する
    規範によって人を鍛えようとし(守るか守らないかで分ける)、強いものを作り上げていく肯定的な面とその切断の力により破壊に至る否定的な面を持つ。これは母性と比較して「良い子だけが我が子」ということができる。父性原理に基づく倫理観は個人の欲求の充足、個人の成長に高い価値を与えるもの。これが「個の倫理」。選民の救済→キリスト教

    対人恐怖
    ①日本においては場の倫理に基づく対人関係が主となるため、個を確立(自我の確立)の要求が無意識内で高まると、その傾向が場を破るものとして作用する。
    ②そもそも何らかの対立矛盾する二面性の存在が指摘されることもある。
    ・「自惚れたいが自惚れられない」ジレンマ
    ・没我的方向性と我執的方向性(これは前に書かれていることと合致する部分があって納得、それぞれが自他不在と自他分離の方向であるって考えれば①と同じようなこと言ってる)

    最近では、母性的な場の倫理を重んじ、完璧な平等の場を求め、それが達成できないといなやそれを放棄するという人がちょくちょくいるのかなと思う。悪く言えば、自らが意識していることを外にも強要し、それが通じないと絶望して場に存在することを放棄するというような…
    でも何となくこれはユングでいう自己実現の方向性に向かう補償作用な気もしていて、西洋的な自我の確立のために孤独へ向かうのは当たり前なのかなって思います(場を離れるというのは父性的っぽいし)。その後にどうなるのかって感じだけど…

  • 全ての子どもを愛する絶対平等観の母性原理。
    切り離す、序列をつける父性原理。

    母性原理的な社会の代表例はインド。階級が始めから「与えられたもの」として存在する社会。たとえ、下層のカーストにある人でも「与えられた」ところに一生留まるものとして、競争に破れたという惨めさを味わうことはない。これに対して、父性原理に基づくのは欧米社会。上昇は許すが、能力差、個人差を前提としており、各人は自分の能力の程度を知り、自らの責任においてその地位を獲得していかなければならない厳しい社会。

    では日本社会は...?
    読めば、なるほどと膝を打つはずです。

  • 表題どおりの「母性社会日本」をめぐる第一章は現在でも通用する議論でなかなかおもしろくあったのだが、その後がいかんせん。方々に書いたエッセイを集めたというから繰り返しも多く統一性に欠ける。文字数の制限を理由に論が深まらぬところもあって、「ココんとこもっと」とおねだりしたい箇所も多く痒いところに手が届かない。

    父性原理の特徴は「切断」にある。極端ではあるが良い子は我が子で悪い子はよその子という風に。キリスト教というのはまさにこういう考え。
    母性原理としてユングは三つあげている。すなわち「慈しみ育てる」「狂宴的な情動性」「暗黒の深さ」。

    日本では母性の「慈しみ育てる」面だけを称揚し、「暗黒の深さ」という一面にフォーカスをあてることが少なかったのではないか筆者は考える。「暗黒の深さ」というのは「呑みこみ、しがみつきして、死に到らしめる」という言葉で表されている。

    母性原理が顕著にあらわれているのが日本の学校だ。
    誰もが平等に扱われるため、欧米のような飛び級や留年は存在しない。
    この本が書かれた90年代から、さらにその傾向は増しているようにも思える。(学芸会の演劇で女の子はみんなお姫様役とか)

    ただし留年したからといってそれが即コンプレックスになるわけではないという。むしろ欧米のような個人主義では、勉強ができないなら諦めて他の道を探すというように、「人それぞれ能力の差異があるのは当たり前」を前提に考える国々では能力が劣ることも個性のひとつとして考えることができる。

    しかし平等という考えを前提にすると、「平等であるはずなのに自分は何故皆と同じようにできないのか」と考え悩むという。

    ――ひとつの文化がひとつの原理のみで成立するはずがなく、何らかの方法で対立原理をそのなかに取り入れ補償をはかっている。わが国の場合は、母性原理に基づく文化を、父権の確立という社会的構造によって補償し、その平衡性を保ってきたと思われる。

    父権制度や総理大臣が今もって男であるのは、女性の代理としての機能を果たすのであって実際に権力を握っているのは女性であった。GHQはそれを男尊女卑と見てこの解体を急いだことで今の家庭の混乱がある、と。

    ――西洋における個の倫理が言語による契約によって行われるのに対して、場の倫理は非言語的な羞恥の感情機能に支えられているのである。われわれ日本人は子供のときから、この羞恥の感情に基づく自己規制の方法を学習させられている。

    欧米は「個の倫理」、日本は「場の倫理」と言われる。
    「場の倫理」ではとにかく何を置いても場の内側にいることが求められる。内側にいさえすれば、その人の人柄や人格など多少の問題は看過され、場を共有する人間は彼の人に対して責任を負う。
    しかし場の外にいる人間に対しては何ら責任を負わなくていい、極端にいえば何をしたってかまわない……そういった酷薄な面を持つ。

    しかし……読めば読むほど、自分は本当に日本人なのかと考えざるを得ないのであった。

  • 母性原理と父性原理の違い。
    能力主義と平等主義。
    日本人の自我構造。
    夜の意識とイメージ、、等々興味深かった。

    個人的には、相手の母性原理から来ることで、
    あたしを責めているようなことがあっても、
    気にしなくていいってことがわかった。

  • 日本人にとっての自我の確立には、西洋的合理性だけでは事足りないことの認識。強いグレートマザー、場を重んじる、そういう傾向に自覚的であること。

  • 河合さんの講演集。
    中年の危機の話だけでは本にならないので、他の話を付け足して本を厚くした感じ。
    初本の中央公論社のを読みました。
    この本で働き盛りの中年の男性に「中年の危機」という概念を知ってほしいです。

  • 1970年代に書かれた本らしく、文体が硬め。参考文献が多数引用された論文だった。
    日本が西洋に比べ、父性原理が弱くイニシエーションを経て大人にならない、といった論説は現代に対してもとても説得力があった。それに対して、だから日本はけしからんとか、日本は素晴らしいんだ、みたいな、両極端に振れることなく、西洋は西洋で母性原理が弱い問題もある、日本も西洋も第三の道を探る必要があると繋げていたのが良かった。

  • 河合隼雄を初めて読む人には向かない。他の著書を読んでいると理解が易しくなる。
    日本の母性原理に基づく社会の問題点はよく理解できた。
    「場の倫理」が重視される日本において、場から排除されることが死を意味する。
    4月から新社会人となる私は、場の倫理の平衡を保つために上司の顔を伺い、これから数十年に渡って働く他ないのかと思うと、少し憂鬱な気持ちになった。
    しかし、こうした構造を理解しているだけでもこの先確実に起こるであろう理不尽を一旦腹の中に収めることの助けとなる気がした。

    第4章の物語についての後半は良く分からなかった。

  • 駄作

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