新装版 マックスウェルの悪魔―確率から物理学へ (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
3.57
  • (33)
  • (55)
  • (82)
  • (14)
  • (1)
本棚登録 : 678
感想 : 60
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062573849

作品紹介・あらすじ

マックスウェルの悪魔なら火にかけたヤカンの水を凍らせる。タイムマシンを実現させて過去をよみがえらせ、永久機関を動かして、世間をアッといわせてみせる。人類が滅び、宇宙に終焉が訪れるとすれば、マックスウェルの悪魔こそ、救世主か? ※この商品は紙の書籍のページを画像にした電子書籍です。文字だけを拡大することはできませんので、タブレットサイズの端末での閲読を推奨します。(ブルーバックス・2002年9月刊)


※この商品は紙の書籍のページを画像にした電子書籍です。文字だけを拡大することはできませんので、タブレットサイズの端末での閲読を推奨します。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 夕もやにかすむ街はずれの空地、くさりかかった丸太や、土管が乱雑に並び、掘り返しの穴には水がたまって、垣根の竹が汚水の中に落ち込んでいる。
    ……
    と、ある傾きかけた家の台所で、坊やが泣いていた。
    ……
    あかりもない台所はすでに薄暗い。まもなく坊やの父親も、一日の仕事から帰ってくるだろう。
    ……
    さきほどまで物干し竿の洗濯ものを動かしていた風も凪いで、あたりは気味の悪いほど静まりかえっている。
    ……

    このような文章が出だしから数ページ続く。物理学の本だというのに!
    そうだった。久しぶりの感覚だ。これが、都築卓司さんの BLUE BACKS だ。
    今回は、どんな世界に連れて行ってくれるのか、とワクワクして読んでいた昔の自分に戻ったような気分になった。

    熱は熱いものから冷たい方向へとしか流れない。
    この熱の一方通行性という確固たる真理を打ち破るべく、マックスウェルの悪魔は登場する。

    分離から混合の方向へ移行するのを、エントロピーの法則とよぶ。
    100℃と0℃の水を混ぜると50℃で安定化する。50℃の水が100℃と0℃の水に分離することはない。
    エントロピーは時々刻々に増大していく。

    熱の一方通行性、つまり現象の進行があるうちは時間が存在する。
    今は太陽や地球が分離した状態にあるが、やがて混合する。
    宇宙の全てが混合し均一化すると何も起こらなくなり、時間の存在や向きという概念も怪しくなり、エントロピーに変化がなくなる。

    エントロピーとは、でたらめさかげん、複雑化、多様性、平均的なものへの推移。

    生物の遺伝のからくりや人間が作り出す様々な物は、混沌から秩序を生み出しており、エントロピー増大の法則に反している。
    マックスウェルの悪魔は人間の中に宿っているように思える。

    地球温暖化は山火事や巨大台風などを起こし、人間を含む生物が作り出した秩序あるものをぶち壊している。
    エントロピー増大の法則に反していると考えられる人間は、地球という単位で考えるとエントロピー増大の速度を速めることに貢献している。

    池谷裕二さんの「生きているのはなぜだろう。 (ほぼにちの絵本)」を読んだ時と同じような気持ちになった。

  • 初版は中学生の頃に読んだ記憶があります。図書館にブルーバックスのコーナーがあり、同じく都築卓司さん著者の「タイムマシンの話」と並んで置かれていました。どちらも導入部は面白かったと記憶していますが、途中から専門的な話となり、投げ出してしまいました。

    40年以上経ち、今回再読してみましたが、面白かったです。
    本書は熱力学の第2法則を豊富な寓話を使ってわかりやすく説明します。数あるブルーバックスの中でも、巻末にあるブルーバックス発刊の趣旨に最も近い本と思います。
    感覚的に理解するのが面倒な第2法則を「分離の状態は、やがて混合という結果に追い込まれることを述べたもの」と「追い込まれる」という言葉を使って説明するなど、職人的教授という気がしました。

    面白かったのは、空気が積もらない話。

    「①空気分子はできるだけ位置エネルギーを小さくしたい。そのために地上につもってしまうのが最上の策である。
    ②たくさんの粒子からできている体系は、実現の確率の最も大きな状態になろうとしている。このためには、空気分子は非常に薄く、同じような密度で遥か上空にまで広がるのが得策である」
    そして著者は「両法則の顔をたて」、空気は下に濃く、上に薄く分布すると説明します。

    本書のすごいのは、「マックスウェルの悪魔」という分子を自由に操ることのできる悪魔を登場させ、分子移動の不可逆性を寓話として理解させようとすること。また、これまた理解が難しいエントロピーを金属とゴムの収縮の違いを例にとって説明し、読者に何となく理解した気にさせてしまうこと。40年前、完読しなかったのが悔やまれます。

    なお、エントロピーを理解しても、日常生活に役に立たつことはないと思います。それでも、読書の楽しさを十分に味わえるおすすめの★★★★★。

  • 非常に面白かった。本書の初版が出版されてから、今日に至るまで人類全体のエントロピーは増大し続けている現状を鑑みると、本書の結びにある人類自身がマックスウェルの悪魔となり、自らの救世主となる未来は遠い。

  • 2年前に読んで途中でギブアップしたものをリベンジ。新装版のせいか、今回はまず最後までいけました← まずエントロピーについて理解せねば・・・^^;まだ物理も習いたての自分にとって、難しかったですが内容的には面白かったです。なぜ落ちた物体は上へ行かないのかとか、人間など生物が自分の体を自分の意思で動かせるのには理由がある・・・など、なるほど(?)と思える身近な現象満載でした。またリベンジしたいですw

  • 良くも悪くも、全く考えずにスラスラ読めるといった感じの本。高校生にも、一通り統計力学の計算問題ができるようになった大学生が読んでもそれなりに面白く感じると思う。

  • 物性研の所内者、柏地区共通事務センター職員の方のみ借りることができます。
    東大OPACには登録されていません。

    貸出:物性研図書室にある借用証へ記入してください
    返却:物性研図書室へ返却してください

  • ものを考えるとき参考になる枠組みの一つ

  • 上手くたとえ話を交えながら書かれているのでわかりやすい。自由エネルギーとエントロピーの関係のイメージを掴むのに良い。(ただ平和鳥の原理は結局よくわからなかった。)

    最終章は物理だけの話ではなく人間社会へと話が及ぶ。情報の爆発により人間が滅亡する話は2021年に読んでも説得力があり、本当にそうなりそうに感じる。把握・判断すべきことに溢れすぎている現状を打開するにはやはり判断を機会に委ねるしか無いのか。

    久保亮五先生の人類滅亡時期の予言に関するエピソードはボルツマンを彷彿とさせた。

  • こちらからあちらに下がっていくことはできるが、あちらからこちらに上がってくることはできない。

    これが現実だ。


    できることとできないことを認識すること。現実を捉えるとするならば、このことを自覚できている、その状態こそが最も必要な手段になることを、それこそ、自覚できるようになる。

    統計から物理学を構築するという方法が、全体として、構成する原理を指し示すことができる。それは、部分としての現実と必ずしも繋がることなく、現実を引き寄せることができるという事実を形に為した。

    もっと身近な話をしようか。

    ぼくたちはいつも間違える。すぐに間違える。必ず間違える。間違えることが常態であって、間違えないことが正しいことではないからだ。だから、間違えたことを掴まえることが真っ先に大事になることは、それこそが間違えてはならないことだとだれもが理解しているつもりだ。だが、間違えたときにこそ、間違えない振る舞いをすることが、ほんとうに難しい。ほとんどがそうはなることができない。つまり、エントロピーが増大するしかないことがここでも表れている。エントロピーは増大する。エントロピーを物理学の、統計力学の、情報学の小難しい理論だとしてしか捉えないことが、物事が一方向にしか立ち表れることができない力を示している。

    間違えるものとして、間違えることを前提に、自らを、社会を捉える。それは全体を掴まえることができる、という力になる。エントロピーという概念が生まれてきたことは、そのことにおいてこそ、理由があるんじゃないかと映ってくるんだ。

    間違えたときにこそ、立ち止まればいい。振り返ればいい。もう一度考えてみればいい。たったそれだけを振る舞うことができれば、下っていくことしかできない、落ちていくことしかできない、自分を立ち直らせることができる。踏み止まらせることができる。同じところに戻ることは決してできないけれど、為らざるをえない自分なんてものに為らなくていい可能性が目の前に表れてくることになる。このことは、まるで物理則のように、とても簡単な「当たり前」の法則のように、ぼくには思える。

    でも、その法則が通用しない。法則は分かっているのに、それが自らのことにならないのが、この社会、この世界なんだと気づく。それはそれで、一つの逃れられない、物理法則なんだと証明されてしまっている。いまに、日常に、繰り広げられている状態に、それしか表れてこないことが、まさに「エントロピーは増大するしかない」ことと置き換えてしまっていいことなのかもしれない。


    自覚していたい。
    マックスウェルの悪魔なんていないとしても、自分は留まり続けよう。
    その意志だけはなくならない。

    乱雑に、膨大して、ちりぢりになっていく世界と、反対的に、可能性を固定化していく、ひとつに、部分に集合していくしかない人間の行き先に、いつまでもどこまでも、動かず動かされず、同じ場所に留まり続ける自分という悪魔で、居続けたい。

    ぼくの意思は、きっとそれができるものだ。

全60件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1928年浜松市生まれ。海軍兵学校、旧制一高から東京文理科大学物理学科へとすすみ、同大学院では統計力学を専攻。物理学の全分野にわたって幅広い知識をもつ。横浜市立大学で教鞭をとり、同大学名誉教授。研究者ではあるが、専門分野以外でも多芸多才。国内の写真なら、一目見て何県何市かがわかるという。ブルーバックスの著作は『四次元の世界』『10歳からの相対性理論』『マックスウェルの悪魔』など17冊(うち共著1冊)。累計300万部を超える。2002年7月惜しくも逝去された。

「2019年 『トポロジー入門 奇妙な図形のからくり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

都筑卓司の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
フランツ・カフカ
マーク・ピーター...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×