脳を活性化する性ホルモン 記憶・学習と性ホルモンの意外な関係 (ブルーバックス)

  • 講談社 (2003年4月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784042777021

感想・レビュー・書評

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    鬼頭昭三
    東京大学医学部卒業。医学博士。フルブライト一期生としてイリノイ大学神経精神研究所に留学。東京大学第三内科助手、東京女子医科大学講師、広島大学第三内科教授、放送大学教授、昭和女子大学教授を経て、現在兵庫大学教授・健康科学部長。広島大学名誉教授。専門は内科学、神経内科学、神経科学、内分泌学、健康科学。脳内神経伝達物質とその受容体の研究に力を注ぎ、多くの国際シンポジウムを主催する。エストロゲンやニコチンの脳、とくに海馬の細胞への作用についての研究に現在取り組んでいる


    これから、女性ホルモンが健康な生活を維持するためにいかに重要なものなのかを、順を追ってお話ししましょう。

    母親の子供に対する盲目的愛情というのも、「利己的な遺伝子」の生き残り策と考えることもできます。

    ①闘争心に駆り立てられて行動を起こすことのないようにする。男性にとって闘争本能を満足させることはしばしば生物学的に必要ですが、生命にとってリスクの少ない方法を選ぶのが最善です。勝利を目指して競技スポーツに励むことは、過剰の活性酸素の発生という点で健康的なこととはいえない行動ですが、テストステロンによる闘争本能を発散させることを考えると、戦争防止などに役立っています。

     女性ホルモンの量の低下は、皮膚のコラーゲンや、弾力線維の減少につながり、しわ、皮膚のたるみ、乾燥などの変化が進行し、外見的な老化が目立つようになります。一般的には、老化は不可逆現象で、元に戻らないのが特徴ですが、老齢女性での上皮再形成率はエストロゲンを投与することによって、かなり回復します。閉経後、歳とともに皮膚のコラーゲン含有量は低下しますが、この低下をエストロゲンが抑えることが知られています。この意味では、更年期以降の最善の美容法は、女性ホルモンを摂ることといえます。  卵巣機能の低下は、泌尿生殖器に対しても大きな変化を引き起こします。老化に伴って、二〇歳以降、女性の尿失禁率は急に上昇します。三〇歳代では四二パーセント、四〇歳代では四九パーセントというデータがあります。残尿もみられるようになります。また、尿失禁が、更年期に起こりやすい精神的なうつ状態に拍車をかけます。  エストロゲンの分泌の低下は、外陰部皮膚や、膣粘膜に萎縮を起こし、性交痛、性交時出血、膣炎、膣の乾燥、外陰部のかゆみなどの現象を起こします。また、骨盤内臓器を支えている筋肉の萎縮によって直腸脱、膀胱脱、子宮脱などの骨盤内臓器の脱出を起こしたりもします。  当然、エストロゲン分泌量の低下と並行して、性欲も低下します。異性に対する関心の低下は、同時にやはりエストロゲンレベルの低下によって起こる感情の変化、脳の老化、それに引き続く大脳高次レベルでの理性的コントロールの低下などと相まって、羞恥心の欠如など、個人の行動パターンの変化となって現れることがあります。俗に、「おばさん化」といわれる現象です。性機能の障害については、ホルモン補充療法によって、通常二~三週間の間に解消します。

     ヒトでは、胎生五~七ヵ月が臨界期です。この時期、遺伝子的に女性の脳でも男性ホルモンに曝される、いわゆるアンドロゲンシャワーを浴びると、男性の脳になってしまいます。すると生殖器の性と脳の性が逆転することになります。現実にそのようなケースがときに見られます。  また、脳の性分化は内分泌攪乱物質、いわゆる環境ホルモンの問題とも深いかかわりがあります。ただし、最近男っぽい男性が少なくなり、女々しい男性の数が増えたといわれることと、環境内の内分泌攪乱物質とが関係があるか否かは定かではありません。臨界期を過ぎると脳の性は非可逆的となり、変更のきかないものとなります。

     現在では、同性愛は社会心理学的なものや環境的因子に支配されたものではなく、生物学的構造に基づくものと考えられています。自分と同じ性の対象に惹かれるように、脳の神経細胞構築の上でプログラムされた人は、全人口の一~五パーセントほどいるとされています。実際に視床下部前野の第三脳室周囲の第三間質核が、同性愛の男性では正常の異性愛者に比べて小さく、神経細胞の数が減っていることが確認されています(図4‐9)。遺伝的には、一卵性双生児の男性の一方がゲイであれば他方は五七パーセントがゲイであり、二卵性双生児ではゲイの兄弟の二四パーセントがゲイ、普通の兄弟の場合は一三パーセントがゲイであるという数字があります。レズビアンの場合には一致率は一卵性双生児では五〇パーセント、二卵性双生児で一六パーセント、普通の姉妹で一三パーセントとなっています。

     でき上がった男性の脳と女性の脳では、当然明らかな差があります。脳の男女差は一見して、あるいは手に取ってみると、女性の脳は男性の脳よりも、やや小さくて軽いことです。成人の男性の脳の重量は女性のそれよりも一五パーセントほど大きくできています。

    しばしば他人からもわかる物忘れの症状を現すようになります。これが老人ボケです。ことに女性は、閉経に伴ってエストロゲンを失うため、しばしば急激にボケが進行します。

    統合失調症は女性よりも男性に多いとされています。女性は罹患した場合でも発病年齢が遅く、症状が軽いだけでなく、治療に対する反応がよいことがわかっています。男性の場合、発病年齢は一八歳と二五歳の間に多いのに対して、女性では二五歳と三五歳の間にピークがあり、さらに四五歳以上に第二のピークがあります。一方、男性では四五歳以上での統合失調症の発病はあるとしても、きわめて稀なことです。

     職業との関係も深いものがあります。乳がんが修道院の尼僧に多いことが、一八世紀から指摘されたことは有名です(図7‐2)。これは非婚、不出産の結果であろうと考えられます。日本でもアメリカでも社会階層の高いいわゆるキャリアウーマンで、死亡率は高くなっています。これは晩婚、不出産、食生活などの結果であろうと思われますが、未婚女性、非経産婦の乳がんのリスクは高くなっています。経産婦であっても、初産年齢が二五歳以上の人については、初産年齢が高くなるほど、乳がんによる死亡率が高くなります。

  • 本のタイトルを見ると性欲を高めると脳が活性化するのかなと勝手に誤解してこの本を手に取ったのだが、女性ホルモンであるエストロゲンが男性であれ女性であれ、脳に作用し活性化させるという主旨の本だった。男性の場合はテストステロンという男性ホルモンをエストロゲンに変換して取り込むという。女性は閉経すると、女性ホルモンであるはずのエストロゲンが男性よりも減少する話はためになった。あと出産していない女性は乳がんのリスクが高く、18世紀からそも関係性が指摘されていたという。統計的というか経験的にわかっていたのだろう。

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