プリオン説はほんとうか?―タンパク質病原体説をめぐるミステリー (ブルーバックス)
- 講談社 (2005年11月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062575041
感想・レビュー・書評
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ウイルス or プリオンについて。ウイルス派(異端派?)による面白い本。こんどはプリオン派(主流派)にもブルーバックスで書いてほしい。
【書誌情報】
製品名 プリオン説はほんとうか?
著者:福岡伸一
発売日 2005年11月18日
価格 本体1,000円(税別)
ISBN 978-4-06-257504-1
通巻番号 1504
判型 新書
ページ数 248
シリーズ ブルーバックス
プリオン説は、科学的に不完全な仮説だった!
◆ノーベル賞評価への再審請求
遺伝子を持たないタンパク質が感染・増殖するという新しい発病機構を提唱し、ノーベル賞を受賞したプルシナー。彼の唱えるプリオン説は、狂牛病対策など公衆衛生にも、重大な影響を持ち、科学的真実として受け入れられている。しかし、プリオン説はいまだに不完全な仮説であり、説明できない不可解な実験データも数多い。はたして、プリオン説は、ほんとうに正しいのか?
“異常型プリオンタンパク質が検出できないからといってその臓器や組織の部位が安全だと考えることは、現段階では危険である。また、逆にいうと、異常型プリオンタンパク質の蓄積量の多寡をもって感染性の多寡を論じる考え方も危険である。内閣府食品安全委員会プリオン専門調査会の議論の中でも、異常型プリオンタンパク質の存在量から、リスクの定量や評価を行う試みがなされたが、異常型プリオンタンパク質量は、ここで見たように感染性(感染力)と必ずしも量的な対応関係にない。(中略)このデータに基づけば、いわゆる特定危険部位(脳、脊髄、扁桃腺、回腸)さえ除去すれば、あとの部分は食用にしても安全であるという考え方は論理的でない。”――本書より
第22回講談社科学出版賞受賞
〈https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000194465〉
【目次】
はじめに(二〇〇五年一一月 著者) [003-008]
目次 [010-014]
第1章 プリシナーのノーベル賞受賞と狂牛病 015
生物学の中心原理から逸脱したプリオン説
プルシナーと狂牛病
発火点
レンダリング
オイルショック
イギリス政府の不十分な対応
イギリスの犯罪
変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の発生
拡大する変異型ヤコブ病の感染患者
第2章 プリオン病とは何か 033
プリオン病の正式名称は、伝達性スポンジ状脳症
致死率は100%
スクレイピー病の研究史
感染症証明までの長い道のり
病原体はいずこに
ウイルソン、目の前にあるデータが信じられない
実験マウスで進むスクレイピー研究
キンバリンとディキンソン
スローウイルス
クロイツフェルト博士とヤコブ博士
クールー病の発見
クールーとスクレイピーの符合
食人儀式とクールー病
伝達性ミンク脳症と狂牛病
第3章 プリオン説の誕生 059
ティクバー・アルパーの大胆な仮説
グリフィスの思考実験 プリオン説の原型
プルシナー登場 ノーベル賞への道
プリオン説明
プルシナーへの反発力
ストックホルムへの道
プルシナーの野望
バイオアッセイ
越えられない壁
プリオンタンパク質
窮地から誕生したプリオン説
第4章 プリオン説を強力に支持する証拠 087
プリオン説は謎をどのように説明するのか
プリオン説を強力に支持する証拠
唯一の明確な生化学的診断基準
GPIアンカー型タンパク質
ノックアウト実験――決定的証拠
プリオン説によるノックアウト実験の解釈
家族性ヤコブ病の存在は、プリオン説を支持している
プリオン説は家族性ヤコブ病を次のように説明する
トランスジェニックマウスの実験器
プリオン説の勝利
第5章 プリオン説はほんとうか その弱点 113
コッホの三原則の検証
第一条項は満たされる
第二条項は満たされているのか
困難極まりない病原体の濃縮・精製の試み
プルシナーの方針転換
コッホの三原則第三条項も証明されていない
異常型プリオンタンパク質と感染性
プリオン説への疑義
根拠のない弥縫策
特定部位のみ除去するだけでほんとうに安全なのか
プリオンタンパク質変性の謎
間違っていたプルシナーモデル
エネルギーはどこからくるのか
再考、トランスジェニックマウスの実験
なぜ複雑な条件の実験をするのか
問題山積のプリオン説の最終証明
シンプルでないプルシナーのロジック
プルシナー研究室の実験環境への疑念
第6章 データ再検討でわかった意外な事実 153
カイネティックスは一致しない
電離放射線による不活性化実験の問題点
病原体粒子の推定データ
不活性化実験の再検討
スクレイピー病原体の不死身伝説への疑問
第7章 ウィルスの存在を支持するデータ 173
潜伏期の短縮現象
つじつまが合うウイルス説
スクレイピーには多数の「株」がある
種の壁
孤発性の伝達性スポンジ状脳症はどのように説明しうるか
プリオン病はほんとうに自然発生するのか
病原体はどのようにして移動しているのか
病原体の免疫系B細胞依存性
第8章 アンチ・プリオン説 レセプター仮説 191
レセプター仮説
家族性ヤコブ病はどのように説明しうるか
日本人はほんとうに狂牛病になりやすいのか
感染源はいずこに
アンチ・ブリオン説は、伝達性スポンジ状脳症の謎をどのように説明しうるか
免疫反応が起こらないのはなぜか
異常型プリオンタンパク質の生成
神経細胞が死滅する理由
分子量五〇万の粒子が感染性を示す
ウイルス説を裏付ける説が次々に
第9章 特異的ウィルス核酸を追って 219
ウイルス探索の試み
C型肝炎ウイルスはいかにして捉えられたか
先の見えない作業
伝達性スポンジ状脳症の特異的核酸を探す試み
シグナル - ノイズ比を上げる工夫
病原体を追い詰める
ディファレンシャル・ディスプレイ
おわりに [238-240]
さくいん [242-246]
コラム
アタキシアの謎 102
正常型プリオンタンパク質の機能 111
酵母プリオン 170
ウイリノ説 211詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
生物学系シントピ。フォトリーディング&高速リーディング。
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「なぜ牛は狂ったのか」を読んで以来ずっとプリオン説を信じていたので、未だ疑問があるとは驚きでした。
コッホの三原則
一、その病気にかかった患者の病巣から、その病原体が必ず検出できる
二、単離精製された病原体を健康な個体(動物実験)に接種すると、その病気を引き起こすことができる
三、病気になったその個体の病巣から再び同一の病原体が検出できる
という、病原体の特定を行ううえで科学的なクライテリア(基準)の、二、三ともに満たされていない状態で、プルシナーはノーベル賞を受賞した。プルシナーは結論を急ぎ過ぎていた、と共同研究していた人の証言もある。受賞してから、「プリオン説の最終証明」として、『試験管内で人工的に作成された変性プリオンタンパク質が感染性を示した』との論文を出したが、それも、正常型プリオンタンパク質から作り出された人工アミロイドは異常型プリオンタンパク質ではないのに、都合よく検出限界以下の異常型プリオンタンパク質が生成されていたと解釈する点や、人工アミロイドを直接普通のマウスに接種せずに、わざわざ特殊な高コピー型トランスジェニックマウスにまず接種したのか、疑問が残る。
潜伏期間の短縮現象、病原体の免疫系B細胞依存性、ヤコブ病病原サンプルは互いに「干渉」を起こし、重複感染が成立しない、などウイルス説を裏付ける結果も多々出てきた。
免疫反応が起らないことがただちに、病原体が異常型プリオンタンパク質であることは導き出せない。注目すべきは初期、病原体が増殖する部位が免疫系であること。
見えないウイルスについても、C型肝炎のウイルスは未だに目に見えないが、チンパンジーを使い、何年にもわたり、遺伝子ライブラリーの中からとうとう目的とするウイルス核酸の断片を見つけたのだ。
ちょっとうがちすぎじゃないかな、という見方をしているところもあるので、俄かにウイルス説に転換することはできないけれど、可能性としてはあるなと思いました。プリオン病と言ってしまうのは改めよう。
しかし伝達性スポンジ状脳症の潜伏期間は長すぎる。肉牛の検査体制や、海外渡航者の輸血禁止期間など、すごく不安になりました‥‥今更だけど、牛は食べて大丈夫なのかしら。あと、英米に行くことがあっても食事は一切とりたくないなと思いました。ていうかなるべくなら一生行きたくない土地になりました。 -
初めてプリオン説を目にしたときはトンデモだと思ったが、その後の多くの研究を見て、そういうこともあるのかと認識を改めた。
この書籍を読む限りではそれにもまだ疑義がある。なるほど、原因ではなく結果である、と。これだから科学は油断無く、面白い。
プルシナーの人品がこの本の通りだとしたら、死後に定説が覆るのかもしれないな。 -
私はバイオ研究者なのでプリオンという名前は知っているが、
本書を読んで改めて複雑な印象を受けた。
野心的な内容で、既存の説を実験的証拠を基にして議論しているが、
途中から内容の詳細さについていくことが出来なくなった。
何度も読み返すことにより理解が深まる可能性もあるが、
自分としては内容というより、著者の文体にもついていけなかった。
従って、恥ずかしいことではあるが、あまり良い点数をつけることが
出来なかった。 -
2008/11/01 購入
2008/11/07 読了 ★★★
2009/10/26 読了 -
一連の狂牛病〜プリオン説成立の経緯について興味深く読めた。まだどっちとも言えない、が本書の結論だ。ただ、確かにノーベル賞をあげるのは早すぎたんじゃないかという気はする。<br>
しかしこの本が出てからもう2年。なにか進展はあったのかな。
(2008/1/16) -
¥105
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2007/11/14
プリオン説を取り巻く研究に対する知識を得られるだけでなく,読み物として面白い。プリオン説,ウイルス説,果たしてどちらが優位なのか,今後の研究が待たれる。