進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線 (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062575386

作品紹介・あらすじ

『記憶力を強くする』で鮮烈デビューした著者が大脳生理学の最先端の知識を駆使して、記憶のメカニズムから、意識の問題まで中高生を相手に縦横無尽に語り尽くす。「私自身が高校生の頃にこんな講義を受けていたら、きっと人生が変わっていたのではないか?」と、著者自らが語る珠玉の名講義。

感想・レビュー・書評

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  • 【まとめ】
    1 進化しすぎた脳
    人間の臓器の中で、場所によって働きが分かれているのは脳以外にはない。聴覚野では個々の場所によって聞き取れるヘルツ数が代わり、体性感覚野にいたっては、脳場所に応じて指、舌、足など対応する体の部分が細かく決まっている。

    視覚野に届いた情報は、側頭葉に向かう「何」を見ているか=「whatの回路」と、頭頂葉に向かう「どんな」状態か=「howの回路」とに分かれ、処理される。そのため、この部位を損傷すると、ペンやボールが目の前にあってもそれが何かわからないが、触ると(触覚を使うと)わかるようになる、といった現象が起こる。

    これを利用したのがネズミを電気でコントロールする実験だ。
    ネズミの脳に3つの電極を刺し、うちふたつはヒゲを感じる脳部位に、もうひとつは報酬系に刺す。ネズミは「右側のヒゲが触られたな」と思ったとき、右側に動く。そこで、右に動くと報酬系が刺激されるようなリモコン装置を作っておく。また、「左側のひげに何かが触ったな」とネズミが感じて左側に動くと、これまた報酬系が刺激されて報酬が得られるようにしておく。そうすると、ネズミはどんなに美味しいごちそうが目の前にあっても、右左、右左と、リモコン装置の操る人のとおり、報酬を求めて死ぬまで移動しつづけるのだ。

    生まれながら指がつながったままの人の脳を調べてみると、5本目に対応する場所が無い。これは、人間の体には指が5本備わっていることを脳があらかじめ知っているわけではなく、生まれてみて指が5本あったから5本に対応する脳地図ができたのだと考えられる。また、4本の人が手術をして後天的に5本にしたとする。そうすると、わずか一週間後には5本目の指に対応する場所ができ、動かすことができるようになった。
    つまり、脳と言うのは入って来る情報に応じて、臨機応変でダイナミックに進化しうるのだ。
    生まれ持った身体や環境に応じて、脳は自己を生成していく。人間にもし手が10本あれば、それに対応する形で脳が適応できていたかもしれない。

    人が成長していくときには、脳そのものよりも、脳が乗る体の構造とその周囲の環境が大切なのだ。逆にとらえれば、脳と言うのは身体に比べて過剰に進化してしまった、と言えるだろう。人間の全能力がフルで使いこなされていないのは身体に制約があるからだ。


    2 感情は脳の解釈にすぎないのか?
    脳は、目で見えていない部分や気づかない部分についても、まるで穴を埋めるかのように自動補完する機能がある。
    例えば、眼の網膜。網膜は中心に近づくにつて、色を感じる細胞の密度が高くなっていくが、周辺にいくと密度が下がるどころか、ほぼゼロになってしまう。そのため、人間の見ている世界は、視野の中心部のごく狭い範囲しか色が見えておらず、周辺部は白黒に映る。にもかかわらず隅々まで色が見える理由は、脳が色を勝手に埋め込んでいるからだ。

    人の活動の大部分を占める「見る」という行為でさえ、脳が無意識のうちに補完をかけている。そう考えると、人間が意識的に行っていることはいったいなんなのか?

    ●筆者の考える「意識」の最低条件
    ①表現の選択
    ②ワーキングメモリ(短期記憶)
    ③可塑性(過去の記憶)

    もっとも原始的な人間の感情は「恐怖」であり、恐怖という感情を生み出すのは「偏桃体」という脳の場所である。重要なのは、偏桃体が活動していれば危険を回避できるが、偏桃体の活動には「こわい」という感情はどこにも入っていないこと。偏桃体が活動してその情報が大脳新皮質に送られると、そこではじめて「こわい」という感情が生まれる。動物は「こわいから避ける(感情→行動)」ではなく、こわいかどうかという感情とは無関係に避けているだけだ。「こわい」「かなしい」といったクオリア(我々が意識的に主観的に感じたり経験したりする「質」のこと)は、神経の活動の副産物、つまり幻想でしかない。

    見るとは、物を歪める行為であり、一種の偏見である。その理由は、世の中は三次元なのに網膜が二次元だからだ。二次元の網膜に映ったことを脳は強引に三次元に再解釈しなければならない。これは脳が背負った宿命である。
    見るという行為は、おそらく人間の意識ではコントロールできなくなってしまった。僕たちは脳の解釈から逃げることができない。見えるというクオリアは、脳の不自由な活動の結果なのだ。


    3 あいまいな記憶
    人がなぜ抽象的な思考をするのかというと、おそらく生きるための知恵として、目の前にある多くの事象の中から隠れたルールを抽出する必要があるからだ。

    人間の記憶は他の動物に例を見ないほどあいまいでいい加減だが、それこそが人間の臨機応変な適応力の源になっている。そのあいまい性を確保するために、脳はものごとをゆっくり学習する。色んなものを見て、それらに共通している特徴を抜き出すために、脳の判断は遅くなっている。

    では、あいまいさが発生する原因はなにかというと、シナプスが情報を伝達したりしなかったりするからである。
    脳は、電気信号を発して情報をやりとりする神経細胞のネットワークによって成り立つ。そのネットワークをつくる神経細胞の接続部をシナプスと呼ぶ。シナプスに向かって活動電位(スパイク)が来たら、次の細胞に向かってその情報を伝えるために物質を放出しなければならない。しかし、必ず放出されるわけではなく、シナプスによって確率が違う。例えば筋肉をつかさどっている運動系のシナプスはほぼ100%の確率で放出されるが、大脳の細胞などは確率がとても低く、場合によっては20%の確率でしか起こらない。これが理由で、脳の正確性はあいまいなのだ。


    4 人間は進化のプロセスを加速させる
    アルツハイマー病が自然淘汰されなかったのは、ほとんどが歳をとってからの病気だからだ。人間という動物は長生きをしすぎため、本来だったら発症しなくて済んだ病気にもかかるようになっている。
    今人間のしていることは自然淘汰の原理に反している。いわば逆進化だ。現代の医療技術がなければ排除されてしまっていた遺伝子を人間が保存している。その代わりに人類が何をやっているかというと、自分自身の体ではなく環境を進化させている。環境に合わせて身体を作り変えるのではなく、逆に環境を支配してきたのだ。

    現代では「進化のプロセス」自体が進化し、新しい進化法が生まれようとしている。

  • テンポのよさ、潔さ、自信と勢いをもとに脳科学講義を行った本。
    記憶が曖昧だから別々の記憶がポンと繋がったりする。
    【関連書籍】
    シンプルで合理的な人生設計、科学は人格を変えられるか、失敗の科学

  • 「進化しすぎた脳」池谷裕二著、ブルーバックス、2007.01.20
    397p ¥1,050 C0245 (2019.11.13読了)(2019.11.03借入)(2007.02.07/3刷)
    副題「中高生と語る「大脳生理学」の最前線」
    何かで紹介されていたので、いつか読もうと思っていました。図書館にあったので借りてきました。新書にしてはちょっと分厚いですが、興味深く読めました。

    視覚については、目から入った情報を脳があらかじめ人間が生きてゆくのに役立つように加工して意識に渡しているので、現実のものと違うことがある、というのは興味深く読めました。本当は目に映っていないのに、勝手に補正してしまう。等

    【目次】
    はじめに
    第一章 人間は脳の力を使いこなせていない
    講義をはじめる前に
    みんなの脳に対するイメージを知りたい
    心と脳の関係を人間はどう考えてきたんだろう
     ほか
    第二章 人間は脳の解釈から逃れられない
    「心」とは何だろう?
    意識と無意識の境目にあるのは?
    前頭葉はどうやって心を生んでいるのか
     ほか
    第三章 人間はあいまいな記憶しかもてない
    「あいまい」な記憶が役に立つ!?
    なかなか覚えられない脳
    言葉によって生み出された幽霊
     ほか
    第四章 人間は進化のプロセスを進化させる
    神経細胞の結びつきを決めるプログラム
    ウサギのように歩くネズミ
    情報のループを描く脳―反回性回路
     ほか
    第五章 僕たちはなぜ脳科学を研究するのか
    なぜ脳科学を研究しようと思ったのか?
    手作り感覚こそが科学の醍醐味
    脳は常に活動している
     ほか
    付論 行列を使った記憶のシミュレーション
    ブルーバックス版刊行に寄せて
    参考文献
    さくいん

    ●脳の大きさ(38頁)
    脳が大きければ大きいほど、それから脳のシワの数が多ければ多いほど賢い、という通説は正しくないんだ。
    ●会話(60頁)
    会話には聴覚だけでなく、視覚も多いに関わっていることがわかってくる
    ●脳の地図(80頁)
    指が4本。そういう人の脳を調べてみると、5本目に対応する場所がないんだ。
    脳の地図は脳が決めているのではなく体が決めている
    ●脳の機能(101頁)
    脳の機能は局在化していて、脳の場所ごとに専門化している
    ●前頭葉(102頁)
    人間の個性や性格、心や意識、そういったものを生んでいるのは前頭葉なんじゃないかと言われてきている
    ●立体視(107頁)
    人間の目はね、一方だけでもちゃんと立体感を感じるんだよ。

    ☆関連図書(既読)
    「頭脳」林髞著、カッパブックス、1958.09.25
    「脳の話」時実利彦著、岩波新書、1962.08.28
    「100億の脳の細胞」塚田裕三著、日本放送出版協会、1966.10.25
    「脳と言葉」荒井良著、社会思想社、1982.09.15
    「幼児期と脳の発達」荒井良著、主婦の友社、1983.07.01
    「唯脳論」養老猛司著、青土社、1989.09.25
    「私の脳科学講義」利根川進著、岩波新書、2001.10.19
    「痴呆を生きるということ」小澤勲著、岩波新書、2003.07.18
    「認知症とは何か」小澤勲著、岩波新書、2005.03.18
    (2019年11月19日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    『記憶力を強くする』で鮮烈デビューした著者が大脳生理学の最先端の知識を駆使して、記憶のメカニズムから、意識の問題まで中高生を相手に縦横無尽に語り尽くす。「私自身が高校生の頃にこんな講義を受けていたら、きっと人生が変わっていたのではないか?」と、著者自らが語る珠玉の名講義。

  • 『進化しすぎた脳』(池谷裕二)
    やはり期待を裏切らない。
    この人の本は脳科学という分野から覗くことができる世の中の事象を脳科学を学ぶ教室で語ってくれるところが好き。
    この本は、出版された池谷裕二氏の本のなかではもう古い方に入るのかもしれない。私は、彼が出した最近の本から徐々に遡って読むようになってきた。
    でも、色褪せた感じはしなかった。
    時代の最先端の研究分野だから、次々に新しい研究結果がでて新しい事実に塗り替えられている部分も多いことだと思うけど、私たち一般peopleが生きていくなかで、既成概念が覆されることが起きていないのだから、私としては読み物として向き合うことに専念できた。
    「分かり易い」や「面白い」といった表現を突き抜けて、「ワクワクさせてくれる」テーマ選定とそこへの切り込み方が良いのです。「哲学を科学で語る」みたいな感じで、
    哲学書では難解な言い回しになるのに、池谷裕二氏は脳科学の研究成果をアナロジーに、哲学の世界に投影させる。
    『やっぱり、学問は楽しい』とぶるっとさせてくれる。

  • 著者が留学中に、慶應義塾ニューヨーク学院高等部で2003年?に行った四回の講義と、日本帰国後に大学院の学生との座談会式の講義を纏めたもの。分かりやすい語り口で、脳科学の研究成果を解説している。2007年発行。

    内容的には、あまり新しい発見はなかったが、全編を通じて、著者の情熱的な語り口が印象的だった。

    下等な動物ほど記憶が正確で、凡化できず応用が利かないっていう話のところでは、自閉症の人の中に写真のようにものすごく正確な記憶力を持っている人がいることを併せて考えてしまった。

    人間は、記憶があいまいであるがゆえに、あいまいな記憶同士がふと結びついて新しいアイデアを創造することができるが、記憶が正確無比で完璧に整理整頓されているコンピュータはこのような創造性を持つことができない、という話は、人間とコンピュータの本質的な違いをうまく言い表していると思った。

  • わかりやすい
    かといって内容が薄いわけではなく先へ誘うような
    入門にちょうど良い

  • 仕事の関係で池谷先生の講演を聴いた際に、あぁこんなに楽しく聴いていられたのは初めてだな、本もきっとおもしろいんだろうと思い、手に取った。
    この本自体も中高生向けの4回の講義+出版後の大学院生向けの1回の講義をまとめているものであり、まるで出席しているかのような臨場感があった。
    化学に弱いのでイオンの話はきつかったのはさておき、脳という壮大な営みのテーマを楽しく学ぶことができたと思う。

  • 意識も脳という物理的モジュールが生み出す現象に過ぎないと思ったので、私の悲しみや苦しみもいずれ解体して単純な反応の関数と化することに希望が持てた

  • 「脳はもっともっとポテンシャルを秘めている」
    脳は身体というハードに合わせて進化するとのことです
    4本指で(2本くっついて)生まれても後天的に手術で切り離せば5本目の指を動かす脳の部位が生まれます。
    端的にスポーツや音楽でもそうですがタイピングも脳が鍛えられるからスピードが上がるんでしょうね。
    もしかしたら義指や義手を脳で直接動かせるようになる時代も近いのかもしれません。

    「脳が乗る体の構造とその周囲の環境が大事」
    「能力のリミッターは脳ではなく体」
    脳のポテンシャルは恐ろしく高くて人間のハードの状況が追いつけば例えばテレパシーとかも可能なのかもしれません。
    脳の思考が超音波で出せるならそれを受容する脳機能が鍛えられたらそれはまさにテレパシーなんやと思います。
    誰もやったことない、やり方がわからないだけでそれが解明されればできるようになるんやと思います。

    「正しい知識をいかに持っているかどうかでアイディアを思いつくかどうかもまた決まってくる」
    「やっぱり日頃の勉強や努力のたまもの」
    これは最先端の脳科学だけでなく理系文系問わず真理やと思います。
    知識があることである程度道筋は絞られるわけで
    あとはいかに思考の中で展開していって最適解を見つけるかだけなんで。
    この真理は知ってるか知らないかで努力の方向性を正しく導けると思います。

    「いまの人間の脳は宝の持ち腐れ」
    ニュータイプの時代はそこまできてるのかもしれません。
    結局この本を読んで一番驚いたのはここかもしれません。
    人間の脳にはめっちゃ可能性があるんやなあと。
    ただ今すぐテレパシーとか背中に羽を生やすとか無理なんで今できることで脳力を高めていきたいと思います。
    早く本を読むのもそうです。
    自分の限界を超える。
    そのために脳の仕組みを知る。
    これは僕だけじゃなく全ての人の役に立つことなんかなあと思います。

    本書は子供達に読んでほしいです。

  • 脳のイメージが変わる。
    脳と聞くと、「コンピュータ」のような正確性と、「心」のような精神性を、漠然とイメージしていた。(双方相入れないものなのに。)

    本書を読むと、正確性よりもいわば漠然性・曖昧さが脳を特徴づけていて、それは決して欠陥ではなくそれこそが人間を高尚たらしめていることがわかる。
    また、心を持った人間として日々数々の判断・選択を自由意志の下で行っていると思いきや、実はそうではなく条件反射的に行なっている部分が大きいことも。意外。

    そして本書を読んでなお、いや読後だからこそ残る疑問。心って結局何だろう…

    そういった意味でも、「これが真実!」的な語り口ではなく、まだまだ解明できていないことだらけであることを真摯に受け止めた訥々とした運びにとても好感がもてた。
    知的好奇心をくすぐられる良書。

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著者プロフィール

監修:池谷裕二
脳研究者。東京大学大学院薬学系研究科薬学専攻医療薬学講座教授。薬学博士。一般向け書籍の累計発売部数100万部超え。

「2023年 『3ステップ ジグソー知育パズル どうぶつ だいずかん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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