脳を支配する前頭葉―人間らしさをもたらす脳の中枢 (ブルーバックス)

制作 : 沼尻 由起子 
  • 講談社 (2007年12月21日発売)
3.28
  • (1)
  • (3)
  • (14)
  • (0)
  • (0)
  • 52人登録
  • 5レビュー
  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062575805

作品紹介

前頭葉は人を人たらしめている脳の中枢である。目標を定めて計画を立て、優先順位を決めたり、計画を実行に移し、結果を評価したり、私たちに個性があるのも前頭葉が機能しているからだ。様々な症例を通して人間らしさと前頭葉との関係を見ていく。

脳を支配する前頭葉―人間らしさをもたらす脳の中枢 (ブルーバックス)の感想・レビュー・書評

並び替え:

表示形式:

表示件数:

  • 第7章 社会的成熟と前頭葉

    p.192 知識と行動の乖離
    「前頭葉機能障害と非社会的行動の関連性は、とくに法律面で重要になってくる。……
    前頭葉損傷は、善悪の知識を社会的に容認できる行動に結びつけるという能力を障害してしまうのである。言葉のうえでは正しいことと悪いことの違いはわかっているかもしれないが、その知識を実際の行動の抑制につなげることができない。
    ……眼窩前頭葉患者も善悪がわかるだろうが、この知識を利用して自分の行動を規制することはできない。前帯状皮質が損傷した前頭葉内側部障害の患者も、行動のルールは心得ていてもそれに従うことはできない。患者のこの状態を考えると、法律的にいろいろな問題が派生してくる。知識と行動の一致しない可能性を認識すれば、法律の新たな領域が生まれてくるかもしれない。」

    p.194 前頭葉の抗弁
    「法曹界が脳の働きに詳しくなるにつれて、「精神障害の抗弁」と同等の「前頭葉の抗弁」という法律的戦略が浮かび上がってくるかもしれない。
    ……計画したり、時間の経過順に行動を組織化する能力は残っているが、わずかに前頭葉機能障害がある場合、その人の道徳意識を失わせることになるだろうか。また、読字障害が側頭葉の発達障害によって引き起こされることがあるように、道徳的に無分別な社会病質人格者の行動は前頭葉の発達障害が原因となっている可能性はあるだろうか。
    この問いは、たんに「生物学的根拠」を指摘しているといえるだろうか。それとも、道徳の価値をおとしめ、個人の責任んという考えを弱めることになるだろうか。あるいは、最終的にこう認めるだろうか。道徳的規範や刑法典は頭蓋外のことだが、道徳と犯罪の認知と行動は脳に関係がある、と。」

    p.202 前頭葉損傷と一般人の盲点
    「……問題になるのが、一般の人は認知障害をどう認識しているかだ。ある程度の教育を受けた人なら、言葉のうえでは認知は脳の一つの機能だと理解しているかもしれない。しかし、これは抽象的な概念であり、認知が障害されるということは具体的には実生活でどんな状況にあるのかわかっている人は少ないようだ。……
    たとえば、視覚や聴覚に問題があったり、片足を引きずって歩くなど身体の片側が麻痺している場合は間違いなく身体的なものと考え、同情して、すぐにでも手伝おうとするだろう。このような身体状の徴候はただちにわかるのだが、それが脳に原因があるということになかなか気づかない。
    一方、もっと高次の認知障害を患っている患者は、身体的疾患の人と違って同情されることはなく、「定職にもつかないで万引きしたり、麻薬をやったりしている。あんなふうに自堕落な生活を送るんじゃないですよ」と悪い行いの見本のようにいわれる。……
    もっとも、十分に機能を果たさない記憶や知覚や言語能力の原因が脳にあることは、納得しやすいかもしれない。それに比べ、前頭葉損傷が原因の「実行機能障害」は非常にわかりづらい。患者の衝動性、気紛れ、無関心、自発性の欠如を指摘しても、こういう反応が返ってくる。「それは彼の脳のせいじゃありませんよ。性格なんです!」
    350年前のデカルトの心身二元論に逆戻りだ。……
    「性格」も「人格」もこれに関連する心の表出、脳の中で起こっていることだということを読者が理解するのに本書が役立てば幸いだ。一般の人たちの知識が深まれば、脳損傷の中でもいちばん人を荒廃させるもの、すなわち前頭葉損傷に対して人々が抱く、ときに残酷な無神経さを是正することもできるに違いない。」


    第8章 致命的な断絶
    注意欠陥多動性障害を克服する:トービーはどう立ち直ったか
    p.227 ADHDと思われる多彩な人物、トービーの記録映画『エイリアス(別名の意)』は1998年度のボンダイ映画祭やシドニー短編映画祭などで絶賛。


    第9章 薬剤と認知トレーニング

    記憶力増強薬
    p.249 アルツハイマー病薬や記憶力増強剤の名で知られる薬の主成分は「抗コリンエステラーゼ剤」。シナプス中の神経伝達物質であるアセチルコリンを壊す酵素の働きを抑制するので、シナプス間隙に放出された後のアセチルコリンの働きを持続させることができる。アセチルコリンは、記憶やその他の認知機能に重要な役割を果たしている神経伝達物質。

    p.250 神経伝達物質のドーパミンの先駆物質であるLドーパは、左前頭葉の後部領域と関係のある機能ーー系列運動抑制、発語の開始、表出言語を改善している。Lドーパは力学的失語、超皮質運動失語、ブローカ失語の症状を改善する。だが、頭頂葉に関連する機能ーー空間見当識と空間的構築を低下させてしまうという報告がある。

    p.251 神経伝達物質グルタミン酸塩の類似化合物であるLグルタミン酸は洞察力、ユーモア感覚、時間評価、時間的順序など、前頭葉のその他の機能と頭頂葉関連機能を改善。
    神経伝達物質セロトニンの先駆物質であるLトリプトファンは、頭頂葉の機能を改善するが、特に左前頭葉の機能を低下させてしまう。
    抗コリンエステラーゼ剤のアメリジンは、ことに左頭頂葉の機能を改善しているよう。たとえば、文法の理解力を向上させ、意味失語症の症状を改善。

    p.252 ドーパミンは前頭葉がきちんと機能するのに特に重要。ドーパミン系には様々な受容体がある。効果を発揮させるにはドーパミン系の薬剤が受容体特異的に作用しなければならない。アメリカで市販されているアーゴセットやパーロデルの主成分であるブロモクリプチンはドーパミンD2受容体に作用し、健常な成人では前頭葉と密接に結びついている機能、作業記憶を改善。


    第10章 前頭葉とリーダーシップのパラドックス
    p.277 前頭葉は制御する道具
    脳の組織化の原理が視床の原理(モジュール)から大脳皮質の原理(勾配型原理)に移行したことで、脳の様々な領域、ニューロン群、ここのニューロン間の相互作用のパターンが飛躍的に増加。そうなると、ある状況にいちばん効果的な相互作用のパターンを選べる能力が重要になってくる。しかも、脳が進化して脳の構造に自由度が増えれば、これをうまく抑えるメカニズムが働いてバランスをとらなければならない。さもなければ神経系は大混乱に陥るだろう。
    この事態に対処すべく、大脳皮質の進化の最後の段階になって前頭葉が発達した。前頭葉の制御はおそらくそれほど強くなく、他の脳領域の高度な自律性に重畳してくる程度のものだろう。だが、前頭葉の制御は広い領域に及び、広大な脳領域の活動を調整したり、抑制したりしている。前頭葉は、特別な知識も技術も持たない。しかし、その知識を所有している脳の領野を「見つけ出し」、必要に応じて知識を結びつけることができる。前頭葉は中枢神経系(脳と脊髄)を制御する道具であると同時に、その道具を使う者でもある。


    p.288 訳者あとがき
    著者が立ち上げたオンラインの脳のフィットネスセンター「シャープブレインズ」で認知機能のトレーニング法を公開している。
    http://www.sharpbrains.com/

  • 専門的な話がベースとなっているが、事例もあるので分かり易い。読んだ目的は前頭葉を刺激する方法を探るためだったので、結構飛ばし読みをした。その方法のいくつかは、新しい取り組み、記憶想起訓練、優先順位の付け方、意欲を出す、目標を達成する、最後までやり抜く、自分の中に指揮者を作る、我慢する等が挙げられる。

  • 新しい知見がなく、まとまってはいるがいまいちの読後感であった。

  • [ 内容 ]
    前頭葉は人を人たらしめている脳の中枢である。
    目標を定めて計画を立て、優先順位を決めたり、計画を実行に移し、結果を評価したり、私たちに個性があるのも前頭葉が機能しているからだ。
    様々な症例を通して人間らしさと前頭葉との関係を見ていく。

    [ 目次 ]
    プロローグ―亡命
    第1章 脳の最高経営責任者:前頭葉の働き
    第2章 脳の構造:入門編
    第3章 オーケストラの最前線:大脳皮質
    第4章 指揮者:前頭葉の詳細
    第5章 人によって異なる前頭葉:意思決定
    第6章 指揮官が負傷したとき
    第7章 社会的成熟と前頭葉
    第8章 致命的な断絶
    第9章 薬剤と認知トレーニング
    第10章 前頭葉とリーダーシップのパラドックス

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 人を人たらしめている脳の中枢、前頭葉。この前頭葉の複雑な機能を明快に説明するほか、健常な人々の前頭葉のさまざまな働きと脳損傷による痛ましい出来事や前頭葉機能の検査法、前頭葉機能の強化法も詳述する。<0512185299>

全5件中 1 - 5件を表示

エルコノン・ゴールドバーグの作品

脳を支配する前頭葉―人間らしさをもたらす脳の中枢 (ブルーバックス)はこんな本です

ツイートする