女の一生の「性」の教科書―女医が伝えたい「知っておくべきこと」 (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062577601

作品紹介・あらすじ

女性がいだく、自分の体に起きる変化への戸惑い。男性がいだく、女友達、妻、娘の解けない謎。思春期から妊娠や出産、やがて訪れる更年期。セックスのときの多彩な反応。さまざまに変化する女の性の精緻な仕組みと、それゆえの喜びや悩み。女の一生を支配する「性」のありようを学ぶ。

感想・レビュー・書評

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    河野美香
    高知県生まれ。月経が乱れやすい自分の体への関心から産婦人科医を志す。1974年、徳島大学医学部を卒業。同大学附属病院、徳島県小松島赤十字病院、徳島逓信病院などでの勤務を経て、現在は徳島市内で河野美香レディースクリニック院長


    それ以来、人間は直立歩行を始めました。さらにアネールの多くが、現在、ホモセクシュアルとよばれるタイプに、ギュネーのほとんどがレズビアンとよばれるタイプになりました。そしてアンドロギュノスからは、現在、人間の大部分を占める異性を好きになるタイプが生まれました。その人間たちは、ともにその片割れを求め惹かれあうようになったというのです。  しかしゼウスは、アンドロギュノスの体と心の性を、男性と女性にきれいに裂き分けることはできなかったようです。  自分の性の意識(ジェンダー・アイデンティティ)と体に備わる性に違和感をもつ人たちがいます。男性の体でありながら「自分は女性なのに」と思っていたり、またその逆だったりする「性同一性障害(GID:gender identity disorder)」の人たちです。  脳も女性脳が原形で、誕生前後のアンドロゲンシャワーを浴びることで男性脳に変わります。しかし女性でも副腎からの男性ホルモン分泌が盛んなら男性的になるし、男性でもアンドロゲン感受性が弱ければ女性的になります。

     ただし、食物やその他から入ってくる性ホルモン様物質の影響も考えられます。とくに乳製品の原料である牛乳には、多くの女性ホルモンが含まれています。  現在、乳牛は濃厚飼料で育てられており、妊娠期にも牛乳を出します。出産前の二ヵ月間を除いたすべての乳牛から搾乳されていて、妊娠牛からも多量に搾乳しています。妊娠牛の牛乳は、非妊娠の乳牛から搾乳された牛乳よりも、はるかに多くの女性ホルモンを含んでいます。その女性ホルモン様の作用で、女児の初経年齢が低下したとする報告もあります。

     性中枢が成熟し、性ホルモンの分泌が増える思春期には、外からの性的な刺激にも敏感になります。そうなれば性衝動が高まるのは当然のことでしょう。女子中学生の五〇%、女子高校生の八〇%近くが性的関心をもつという調査報告もあります。

     ところが大脳旧皮質にある性中枢が成熟しても、それをコントロールする大脳新皮質が不充分なうちは、まさにブレーキが甘い車で、時として暴走しかねないのも当然のことです。  思春期の性衝動を解消する、ある意味で「もっともよい解消法」は、マスターベーションです。自らの手でオーガズムか、それに近い状態になって、性衝動を解消する方法です。

     いずれの語源も否定的なニュアンスがあるのは、セックスは生殖(子作り)のために限るとしたキリスト教の影響です。また、一九七六年にアメリカのシェアー・ハイトが『ハイト・リポート』を発表する以前は、女性はマスターベーションをほとんどしないと信じられていました。

     日本性教育協会の調査でも、女子中学生の約八%、女子高校生の二〇%近くがマスターベーション(オナニー)をしています。一五~二五歳までの独身女性三二九人で調査(二〇〇七年)した結果では、八三%が「している」と答えています。そのうちでは週二~三回が約半数を占めています。また、ほとんどが指で外陰部を刺激する程度でした。

     たとえ月経が始まっても、処女膜が開口していないと月経血は腟外へ出ず、腟内にたまります。経血量が増えると腟からあふれ、子宮や卵管などにたまってしまいます。そのような状態でも、ホルモンが働いていれば定期的に月経があり、その時期に下腹部や肛門周囲が痛みます。

     この状態を放置していると、やがて下腹部に大きな 腫瘤 ができてしまいます。そうなると、卵管が癒着してふさがってしまい、将来、不妊症になりかねません。早くにみつけて処女膜を切開すれば、そのような問題をおこすことはありません。

     過度に体重を落とすと、視床下部からの性腺刺激ホルモンが分泌されなくなります。すると、当然、月経がおきなくなってしまいます。考えてみれば、自分自身に栄養分が足りなくては妊娠できるはずはありません。一種の生体防御反応として月経がなくなるのです。

    瘦せようと思ったきっかけは高校時代に、友人の「ぽっちゃりしている」という一言でした。今の体重になってからはあまり変動しないのですが、月経がもどらないというのです。  体重が標準のときには月経はあったのですから、薬で月経をおこすことはできます。でも彼女の栄養状態があまりよくないので、たびたび出血を誘うのは感心しません。食事は充分に摂っているというのですが、その内容は野菜だけとか、カロリーのあまりないものを好んで食べているので、貧血にもなっています。

     ときどき「経血は体にいらない血でしょう?」と聞かれることがありますが、けっしてそうではありません。赤ちゃんのために用意している栄養分で、もちろん本人にとっても大切な血液です。貧血があるのに、毎月、経血を出すと貧血がますますひどくなります。

     拒食症の人たちは非常に内気だったり、自己中心的な傾向があったり、極端に完璧を求める性格であったり、また家族関係がしっくりいっていなかったりすることが多いようです。

    自力で歩くのも困難で、おむつに垂れ流しという状態でした。普通の二〇代の女性なら、そんな状態でいることは耐えられないと思います。でも本人は栄養失調状態になっていて、正しい判断ができなくなっているのでしょう。体形に対しての美的イメージが正常ではなく、自分ではおかしいとは思っていないのです。

     一九三九年にペルーの病院で、リナ・メディナという女性が二七〇〇gの男の子を出産しました。最初は、お腹が大きくなってきたので腫瘍だと思われていたということです。それもそのはず、なんと彼女はまだ五歳八ヵ月の幼児だったのです。  そんなことがあるのかと思うでしょうが、まれに子どもの体で月経がきてしまうこともあります。思春期早発症(早発思春期)という病気です。そうなるとエストロゲンの影響で骨端線が閉じてしまい、身長の伸びが止まり、低身長になってしまいます。

     八歳未満に第二次性徴がみられたら性早熟症、一〇歳未満に月経がみられたら早発月経といいます。リナちゃんの例は極端ですが、日本では七歳未満での乳房の発育、九歳未満での恥毛の発生、一〇歳未満での初経の発来を認めた場合を診断基準にしています。

    ご高齢の女性が若いころは、月経を「メンス」ともいっていました。これは英語のメンストレーション(menstruation)からきていて、その語源もラテン語の「月」です。

     ケガをしたときに出る血は、さらさらしていて、やがて固まります。月経血(経血)はそれとは違い、暗赤色のどろっとした粘りけのある、固まらない血液です。酵素の働きで固まらないのです。月経のときに血液の塊がたくさん出る人がいますが、経血が多すぎて酵素が相対的に足りなくなっているからです。そのような場合は子宮筋腫や子宮腺筋症など、子宮内膜が多量にたまる病気の可能性が考えられます。また、経血には他にも腟液、頸管粘液、腟の細胞、細菌などが混じっており、血管を流れている血液とは違う性質のものです。

    そのためでしょうか、かつて月経中の女性は不浄視されて、仏間に入ることや神社への参拝が禁じられるなど、さまざまな制限が設けられていました。一部の地域では、月経中の女性は家族と離れて「月経小屋」で過ごす習慣が、明治半ばまで続いたそうです。現在でも国や宗教によっては、月経中の女性は「不浄なもの」と考えられて、同じような制限を受けています。

     また排卵によっておりものの状態が変わります。月経後四、五日すると、おりものが増えてきます。おりものは、おもに子宮や腟からの分泌物で、普通は白っぽいか少し黄色みがかった白色です。腟の中は酸性なので甘酸っぱい匂いがしますが、これには個人差があります。  おりものの量にも個人差がありますが、どちらにしても徐々に増えていきます。やがて粘りけのある透明なおりものがたくさん出るようになります。中にはおしっこがもれたのかと思うくらい出る人もいます。それを指につけて伸ばすと一〇㎝近くになることもあります。またふだんのおりものは水に溶けるのに、水に入れても塊のままで溶けなくなります。この状態のおりものが排卵のあった 徴 です。排卵日のおりものは子宮頸管から出ており、精子の侵入を助ける働きをしています。卵子が受精できる可能性をより高めているわけです。

    つまり、黄体期に基礎体温が上がれば、排卵しているということです。低温のままなら、いくら月経のような出血があっても排卵していないので、妊娠することはありません。

     反対に妊娠を避けたいなら、卵子の寿命(一日間)や精子の寿命(二~三日間)を考慮して、月経が終わってから高体温になって三日目ぐらいまでは避妊したほうがよいことになります。

    月経期間は平均五日間です。さらに月経の前の七~一〇日間に、体調不良やお腹の不快感があるとすれば、合計でざっと一四年間、あるいはもっと長い間、つらい思いをしていることになります。けっして無視できない年月です。

     月経の手当てには、昔から海綿や布類、紙類をつめたり当てたりしていました。紀元前三一〇〇年ごろの古代エジプトのミイラの腟から、パピルスでできたタンポンが発見されたそうです。現存する日本最古の医学書『医心方』(九八四年)には、月帯(けがれぬの)という月経帯が記載されています。

     欧米ではタンポン派とナプキン派が 拮抗 しているようです。これに対して日本では九四%がナプキン派で、タンポン派は多くはありません。その理由の一つは、ほとんどの日本女性が、腟に異物を入れることに抵抗があることです。また、日本のナプキンの品質がたいへんよく、しかもさまざまなタイプを選べるからでもありましょう。

    痛み止めは癖になるから」とがまんしている人もいますが、月にせいぜい二、三日間の使用で癖になることはありませんから、心配せずに使っています。

     また出産を経験していない女性では経血の通り道の子宮頸管が狭いので、そこを広げられる痛みもともないます。年配の人が「出産すると少し楽になるわよ」と言うのは、出産後は子宮頸管が広がるので、この痛みが軽くなるからです。

     また抑うつ気分、不安、感情不安定、いろいろな活動における興味の減退、怒りなどが非常に強い場合は月経前不快気分障害(PMDD:premenstrual dysphoric disorder)といって、PMSとは区別されます。

     残念ながらPMSやPMDDに対しては、まだ確立した治療法はありません。  上手にストレスを発散し、運動や食事の習慣を見直して、コーヒーやお酒を控える、禁煙するといった、基本的な生活習慣の改善で症状が軽くなることもあります。

     カルシウムやマグネシウムなどを含むサプリメントを服用したり、セイヨウニンジンボクなどのハーブを楽しんだりすることも、軽いPMSには効果があるようです。  薬物療法は対症療法としては利尿剤、頭痛薬などが用いられます。ホルモン療法としては経口避妊薬、排卵抑制剤などがあります。向精神薬、漢方薬なども使われています。  とくに精神症状に対しては、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI:selective serotonin reuptake inhibitors)に効果が期待できます。

     おりものがいつも多い、臭いがある、色がついている、陰部がかゆいなどは異常です。時には、彼氏が臭いと言うので受診したという女性が来ます。これはちょっと恥ずかしいですね。自分の体なのですから、自分できちんとチェックできるようにふだんから関心をもちましょう。

    ただし、すべての女性がそうだというわけではありません。三〇%弱の人は出血せず、一〇%近くの人が痛みを感じないようです。

    たとえばモルモットなどでは、ふだんは膜が発育して腟が閉ざされていますが、発情期には消滅しているということです。  この処女膜が何のためにあるのかについては、ずっと議論されてきました。  これまでに挙げられた主な説を並べてみましょう。 〈フリーデンタール説〉尿が腟に入らないようにするため。 〈クラーチ説〉どんな体位で性交しても、腟とペニスに隙間ができないようにするため。 〈タウシッヒ説〉陰毛が生えそろう前に、地べたにしゃがみ込んだとき、バイ菌が腟に入らないようにするため。 〈エリス説〉処女膜も破れないような弱いオスの精子を受け入れないため。 〈笠井説〉子宮が充分に発達するまで、ペニスの侵入を阻むのです。

     私のクリニックにも、二九歳のとてもきれいな女性が、「結婚相手は処女がいい」という男性を好きになったので、処女膜を再生してほしいと受診されたことがあります。私個人としては、処女膜再生手術で形だけを整えても……と思ってお断りしたのですが、そうした希望に応じる美容整形外科医は多いようです。

     先ほど述べたように、初交時の苦痛の多くは、初体験の不安や緊張のまま、態勢が整わないうちに男性を受け入れるために感じるものです。その原因の一つは、見知らぬペニスに対する恐怖心があります。柔らかくうなだれていたものが、むくむくと首をもたげ、硬く大きくなってくるのを初めて目の当たりにし、それを受け入れようというのですから、不安に思うのも当然です。

     初交年齢にも性差がなくなってきていて、全体的には、高校卒業前後から二〇歳までに初経験することが多いようです。

     初めてセックスをしたきっかけは、もちろん「(相手を)好きだったから」というのがほぼ七〇%「愛していたから」も二〇~四〇%ありますが、「好奇心から」とか「経験してみたいと思っていたから」というのも、三〇~五〇%とかなりの割合を占めています。

     ただし、心の奥底を見れば、やはりそれだけではありません。「寂しいから」という理由も少なくはないでしょう。私のクリニックに来た高校一年生もその一人でした。  彼女は先輩の子どもを宿していて、母親に連れられてクリニックに来たときは妊娠二ヵ月でした。彼女の両親はなんとしてでもあきらめさせようと、必死になって説得したようです。でも本人は 堕 ろすのは絶対に嫌だと言います。本人が納得しないのに中絶することはできません。結局、お腹はどんどん大きくなり、産むしかない時期に入ってしまいました。  私も彼女に「子どもを育てることはそんなに簡単じゃないよ」と諭すと、「わかっている。生まれたらどんなことがあっても愛情をもって育てる」と唇をかみながら答えます。彼女は愛情を注げる子どもが欲しいという理由で出産を望んだのです。しかし私には、本当は本人がいちばん愛情を欲しがっているような気がしました。  ご両親とも、しっかりした方で、子どもを厳しく育てておられるご様子です。でも父親が少し厳しすぎるようで、その威圧的なものの言い方に、母親も彼女も萎縮しているようでした。

    こうした社会になって、セックスすることを軽く受け止めている若者が多くなっていることは否めません。その結果の一つが、けっして無視できない数の若者の性感染症や望まない妊娠ではないでしょう。

     フランス人形のようなかわいい顔の女の子が、私にぜひ聞きたいことがあるというのです。ちょっと瘦せていたので「月経不順にでもなったのかな」と想像したのが大外れ。彼女の質問は「彼が避妊をしてくれないけど、どうすればいいですか?」ということだったのです。  彼女は続けます。「もし妊娠すれば、私は産んで育てる気持ちはあるのだけど、彼は一九歳のフリーターで、まだ若いので、しばらくは遊びたいだろうから、今、私が妊娠しても家庭には入ってくれないと思う」とのことです。  私は一瞬絶句してしまいました。中学生の女の子のどこからこんな考えが生まれてきたのでしょうか。

    この症状は男性でも女性でも同じです。もし妊婦が出産間近に性器ヘルペスにかかっていると、出産時に新生児が感染してしまいます。二〇~三〇%の死亡率(初感染では五〇%)があるので、帝王切開で出産することになりました。

    では、このような性感染症を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか?  まず、セックスする相手を一人に限ることです。病気をもっていないことが確認できている二人の間だけのセックスなら、当然、感染のおそれはありません。それに対して、セックスの相手が多くなればなるほど、感染するリスクが大きくなります。

    かぶせる前に、コンドーム先端の精液だまりをつまんで、空気を抜きます。ここに空気が入っていると、行為中に破れやすくなります。かぶせるとき、ペニスの皮を根本のほうに下げておきます。また陰毛は巻き込まないように整えておきましょう。コンドームをかぶせた部分を少し亀頭方向に引っ張り上げてから、コンドームの残りの部分を根本までおろします。こうするとコンドームがはずれにくくなります。  射精後は、しばらくそのまま抱き合って余韻を楽しみたいかもしれません。でもペニスが弛緩すると、隙間から精液がもれてしまいます。射精したら挿入したままにせず、すぐにコンドームの根本を押さえ、精液がもれないようにしてはずしています。

    ちなみに、コンドームをしていても避妊に失敗することは珍しくありません。コンドームを使っていても、一年間で一五%のカップルが妊娠するというデータもあります(第5章の図5‐9参照)。なんらかの理由で精液がもれたのです。これは感染予防についても、コンドームでは完全でないことを意味しています。

    最近では、アダルトビデオなどの影響で、若者たちも男性器を口で愛撫するフェラチオ、女性器を口で愛撫するクンニリングス、性器でなく肛門に挿入するアナルセックスなど、いろいろな形で性交しています。クンニリングスやフェラチオでは、直接、外性器に口をつけることになります。すると病原体は咽頭にも感染し、そこに潜んでしまいます。

    男性社会では、時として、女性のセックスは生殖のためのもの、男性に従属するものとされます。女性に性欲はあってはならないものと考えられます。  これはけっして過去の話ではありません。現代でもアフリカの二八の国で、クリトリスや小陰唇を切除したりする割礼の風習が残っています。軽いものではクリトリスの包皮に小さく切り込みを入れるだけですが、もっとも悲惨な割礼手術は、クリトリスと小陰唇を大きく切除し、肛門の手前に排尿用の小さな孔を残して大陰唇を縫合するというものです。

    男性は性的興奮と勃起と射精を通して九五%の人がオーガズムを感じることができています。しかし女性はオーガズムをそれほど得てはいません。日本女性の半数はオーガズムを感じていないというデータもあるほどです。  もともと、体の変化だけでなく感覚や感情まで含めた本当のオーガズムに達するには、経験が必要なのです。  また、女性のオーガズムは、前述のように緩やかな曲線の性反応の中で生まれます。短兵急な男性の性反応曲線とは、基本的にミスマッチなことも、女性がオーガズムを得にくくしています。つまり、女性がオーガズムを感じるためには、パートナーとの多くの時間と回数を重ねるとともに、女性の性反応に対する男性の理解も必要です。  結婚後の年数を重ねるほどオーガズムを感じる女性が増えていくという調査結果も(図5‐6)、これを裏付けています。

    女性の性感帯は全身に分布しています。

    性感帯の中でもとくに感じる場所の第一位はクリトリスで、オーガズムを感じる人の三人に一人が、クリトリスへの刺激によるようです。あとは後述するGスポット、子宮腟部(ポルチオ)、腟、肛門と続くそうです。また、性感帯には触れなくても、ペニスを収めた性器の筋肉を繰り返して締めたり緩めたりすることで、オーガズムを感じられる女性もいるようです。

    しかしここは、ある程度の性経験を経て開発される性感帯といえるでしょう。性経験の少ない、未産の女性の子宮腟部は小さく、後腟円蓋も奥まったところに位置します。一方で出産を経験した女性は、出産によって硬かった子宮頸部が大きくなり、さらに柔らかくなります。また、それまで奥にあった後腟円蓋が、少し近い位置に下がってくるので、ペニスや指が届きやすくなるからだと考えられます。

    不感症」は、「性欲はあるが、性交渉しても性的快感を感じないか、または不充分なもの」と定義しています。性感欠如、オーガズム欠如、性交痛、性無欲症などいろいろな症状が組み合わされ、さらに不定愁訴などの精神的なダメージなども混じった複雑な症状です。

    冷感症は「性欲が欠乏し、性交を欲しないばかりでなく、性交を忌み嫌うもの」をいいます。どんな性的刺激に対してもまったく性的快感を得られない真性冷感症と、性的快感が得られる可能性のある偽冷感症があります。

    セックスの回数が多いヨーロッパでは、前戯に時間をかけ、ポルノ映像やバイブレーター、ローションなど、セックスを楽しむアイテムを使用することが多いようです。アイスランド、ノルウェー、イギリスなどは、ほぼ半数の女性がバイブレーターをもっていました。日本とはずいぶん違いがあるようです。

    それによるとセックスに「関心がない」と「嫌悪している」人は三五・一%で、前回二〇〇八年の調査の一七・五%の二倍になっています。また結婚している人で、過去一ヵ月間に性交渉がなかった男女が、合わせて四〇・八%もいたということです。こんなにみんながセックスをしなくなっては、少子化が加速するのではと心配している人もいます。

    現代的な子宮内避妊器具としては、Gスポットの発見者であるグレーフェンベルクが、一九三〇年に銀のコイルをリング状にしたものを発明しました。同じ年に太田典礼博士が太田リングを考案しています。これらは「リング」ともよばれ、今でも子宮内避妊器具の代名詞です。

    赤ちゃんは、陣痛に合わせてリズミカルに回転しながら出てきます。その回り方が悪いと出産できません。  陣痛は赤ちゃんを産みだすのに必要な、周期的な子宮収縮による痛みと、赤ちゃんが出てくるとき子宮頸管を押し広げる痛み、そして下腹部や腰部、臀部の関連痛から来ています。

    日本では、出産して母子ともに元気に退院するのが当たり前と思われています。事実、厚生労働省人口動態統計(二〇〇〇~二〇〇九年)によると、毎年一〇〇万人余りが出産しますが、妊産婦死亡はわずかで、年間三五~八四人にとどまっています。妊産婦死亡とは、妊娠中または出産後四二日以内に亡くなった場合です。

    ただし「嫁して三年」というのは医学的には理にかなっています。とくに避妊していなければ結婚して一年間で八〇%、二年間ぐらいで九〇%の人は妊娠するからです。妊娠率を年齢でみれば、三一歳を過ぎると徐々に、三五歳を過ぎると急激に低下します。四〇歳以上はかなり厳しくなり、四五歳で自然妊娠する確率は、〇・四%ともいわれます。  なぜ三五歳を過ぎると妊娠率が急激に低下するのでしょうか? じつは、このころから卵子の質が急激に劣化(老化)するのです。そのため受精・着床能力が落ちるだけでなく、染色体異常などが蓄積されて、流産する率も高くなります。残念ながら卵子を若く保つ方法はありません。

    もちろん、このままでは妊娠することはできません。G子さんもそんな一人で、私のクリニックに相談に来ました。結婚後二年目ですが、夫とは一度も普通のセックスをしたことがないということです。おとなしくきまじめな彼女は、セックスの経験のないまま三四歳で結婚しました。  夫は理解があり、強い性交痛でセックスを嫌がる彼女を受け入れてくれています。しかし友達に次々に子どもができるのを見て、彼女も子どもだけは欲しいと思うようになったようです。  診察してみると処女膜は硬く、腟には私の人差し指がようやく入るぐらいでした。普通、成熟した女性の腟は中指と人差し指の二本がスムーズに入ります。恐怖心もかなり強いようで、内診にも体を硬くして嫌がります。

     しかし、思ったほど効果はなかったようです。そこで、自然なセックスによるのではない方法を試みてもらいました。蓋つきの清潔な容器を渡し、排卵日に夫の精液をそこに採ってもらい、それを清潔な注射器を使って自分で腟内に注入するように指示したのです。自分でする人工授精ということですね。  この方法を数回試しているうちに、幸い妊娠することができました。その後の経過も順調で、やがて出産の時期を迎えました。指一本を入れても痛がっていた腟から、ほぼ三〇〇〇gの大きな赤ちゃんが無事出てきてくれるでしょうか? 本人はもちろん彼女の夫もたいへん心配していました。ところが、とくに問題もなく普通に出産できたのです。

    また不妊原因の一つの子宮内膜症も、ストレスで悪化すると考えられています。

    まずコレステロールから男性ホルモンが作られ、その男性ホルモンから女性ホルモンへ変換されるのです。このホルモンを変換させる酵素の働きをアルコールが促進することから、女性ホルモンは長く血液の中にとどまっていることができます。つまり、適度なアルコールは、長寿ホルモンといわれる女性ホルモンを長く血中にとどめておくことができるのです。  ただし、たくさんお酒を飲むことはやはり体によくありません。アルコールの分解は肝臓の仕事ですが、体重が軽い女性はそれだけ肝臓が小さく、分解速度が遅くなります。また、体脂肪の占める割合が多く、相対的に水分が少ないことも(前掲の図9‐2参照)、アルコール分解には不利な条件です。さらに女性ホルモンがアルコール代謝を阻害します。  そうしたことから女性はアルコール依存症になりやすいのです。アルコール依存症は、一般に男性では一〇年ぐらいの飲酒歴の結果ですが、女性では六年ぐらいで依存症になるといわれています。アルコール依存症の患者さんは、男性では五〇代が三四%を占めるのに対して、女性は三〇代が三七%でもっとも多くなっています。

    女性の八〇%は、一生のうちに一回以上はHPVに感染すると考えられています。性交によって感染するので、セックスの相手が多い女性ほど、また妊娠・出産回数が多いほど、子宮頸がんになりやすいといわれています。マスターベーションによっても感染の可能性があるようです。

    子宮頸がんの主な症状はセックス時の出血ですが、じつは初期段階ではほとんど無症状で、症状が出た場合には、すでにがんが進行している場合も少なくありません。そのため定期的な子宮がん検診が必要です。東日本大震災のあと、自粛されたテレビCMの代替に公共広告機構のCMが流れました。その一つで、女優の仁科亜季子・仁美親子の乳がん・子宮頸がん検診の啓発キャンペーンが話題になりました。

    子宮頸がんが進行すると、やがて出血や水っぽいおりもの、臭いのあるおりものなどが出るようになります。さらに進行すると、がんが周辺の組織へ広がるために、頻尿や血尿、排尿困難、血便、便秘、腰から足にかけての神経痛、下肢の浮腫などが出てきます。

    他にも女性に多い病気には、たとえば第2章でお話しした摂食障害があります。これは女性が男性の一〇倍あるといわれます。思春期から青年期にかかりやすく、心理的な要因から食に異常をきたす病気です。中には拒食と過食を繰り返す人もみられます。本人は病気という意識(病識)がないだけに、治療が困難です。  また鉄欠乏性貧血は、成人女性にはおよそ一〇%はあるといわれます(成人男性では数%)。性成熟期では月経で血液が失われることが多いため、当然といえば当然です。

    女性にはうつ病も多く、男性の二倍の罹患率です。

    骨粗鬆症 も女性は男性の五~六倍も多く、女性の病気といえます。女性ホルモンのエストロゲンは、骨を破壊する破骨細胞を減らすように作用して、骨量を保つ働きがあります。そのためエストロゲンの庇護を失う更年期以降になると骨粗鬆症が増加するのです。

    たとえば青森県の 三内丸山遺跡(縄文時代早期~晩期)からは多くの人骨が出土しています。それを調べると、縄文時代の過酷な生活環境では、乳幼児の死亡率が五〇%以上あり、一五歳まで生き延びることができたのは三〇%にすぎないと考えられます。そして一五歳以上で死亡したと推定される男女合計二三五体について調査したところ、平均三一歳でした。  この傾向は近世まで変わりませんでした。スウェーデンが作成した世界初の寿命に関する統計によれば、一七七五~一七七六年でも平均寿命は男性三三・二歳、女性三五・七歳です。

    虚弱体質で疲れやすく、めまい、動悸、頭痛、手足の冷えなどがある女性には 当帰 芍薬 散 が処方されます。当帰(セリ科シシウド属の多年草)と芍薬の根を主薬に六種類の薬草が配合されています。漢時代(紀元前二〇六~紀元後二二〇年)の医学書にもある処方で、女性特有のさまざまな症状に広く用いられ、「女性の聖薬」といわれています。

    また疲労感はあるが体質的には中肉中背で、精神不安や不眠、いらいらなどが強い女性には 加味 逍遥 散 を勧めます。 柴胡(セリ科ミシマサイコ属の多年草の根)、当帰、芍薬など八種類の薬草を配合した「逍遥散」に、牡丹皮(ボタンの根皮)と山梔子(クチナシの実)を加えた処方です。

    がっちりした体格で、のぼせやホットフラッシュが主な女性には、 桂枝 茯苓 丸 を処方します。桂枝茯苓丸はクスノキ科のケイの樹皮を乾燥した桂枝、サルノコシカケ科のマツホドの外層を取り除いた菌核を乾燥した茯苓、桃の種子の桃仁、そして牡丹皮、芍薬が配合されています。

    誰しもいつまでも若いままでいるわけにはいきません。老化を受け入れ、その歳、その時の自分に合った生き方をしていくことです。そして、なによりも生き甲斐をもつことです。周りを楽しませる、家族を喜ばせる、自分が楽しむ。そうすれば気持ちもハッピーになれます。  そして、もしもつらくなったらがまんする必要はありません。病院で治療すればいいのです。病院は治療をするためにあるのです。

    たとえば萎縮性腟炎といって、やや濃い黄色のおりものが下着についたり、陰部に不快感や痛みが出たりする病気があります。ひどくなると赤みがかったり、水のようなおりものがたくさん出たりします。最初は「子宮がん!?」とびっくりするかもしれません。女性ホルモンの入った腟坐薬を入れることで改善します。

    また骨盤底筋肉がゆるくなって、膀胱や子宮、腸管など骨盤内の臓器が下がってくる性器脱も高齢の女性にみられます。最初は膀胱が腟から袋状にせり出してきます。膀胱脱とか膀胱瘤とよばれていて、女性だけにおこる病気です。

    もともと更年期は、生物学的には出産年齢が終わっているので、セックスの主要な目的である「生殖」はなくなっています。しかし私たちヒトの性行動は、男女間のコミュニケーション手段としても行われているので、閉経してもセックスがないということはありません。それどころか「閉経したら妊娠の心配がないから、安心してセックスを楽しめるじゃない」などと言う人もいるぐらいです。  夫婦がいつまでも仲よく暮らすには、セックスも有効だと思います。六〇~七〇代になってもパートナーとのセックスを続けている人もいます。もちろんセックスをする回数は年齢に反比例して少なくなっていますが、その人たちの七〇~八〇%が肉体的、精神的に満足しているというデータがあります。

     セックスレスの原因は、女性が更年期で体調が悪く、その気にならなくなったというのが半数を占めます。さらにセックスが若いころのようにスムーズではないことから、まず妻がしたくなくなって、それにともなって夫もしなくなったという構図になっているのでしょう。

    つまりパートナー同士が健康で仲がよければ、良好な性的関係がずっと続けられるということです。もちろんセックスの内容は年齢に合わせたやり方があって当然です。高齢の恋人同士や配偶者との触れ合いは、必ずしも性交だけではなく、手を握る、体に触る、語り合うなどのコミュニケーションも大きな意味でのセックスに含まれ、それだけで充分に満ち足りた気持ちになれるでしょう。

  • 「射精道」を読んで、その女性版も読んでみたいと探して出会った本。
    題名の通り「教科書」で真面目な内容。
    分かりやすかった。

  • 読んでみてよかった。
    男女ともに読んでおくと現実をしっかり知ることができて良いと思う。

  • 思春期から妊娠や出産、やがて訪れる更年期。さまざまに変化する女の性の精緻な仕組み。女の一生を支配する「性」のありようを学ぶ。

  • 三葛館 新書 495||KA

    女性どうしでも、話しにくい、聞きにくい自分の「性」の話。
    女性として誕生してから思春期、そして更年期以降まで、一生を通してその時その時変わっていく女性の体。女性ならば(男性も)ぜひ知っておくべき産婦人科医からの大切なお話です。
                                  (ゆず)

    和医大図書館ではココ → http://opac.wakayama-med.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=63227

  • 女性の一生を『性』から読み解く。
    日々の体の変化を知り、気にかけていくことは本当に大事なことなんだなぁ。

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著者プロフィール

高知県生まれ。月経が乱れやすい自分の体への関心から産婦人科医を志す。1974年、徳島大学医学部を卒業。同大学附属病院、徳島県小松島赤十字病院、徳島逓信病院などでの勤務を経て、河野美香レディースクリニック院長。著書に『男が知りたい女のからだ』『十七歳の性』『みんなのH』『女の一生の「性」の教科書』(すべて講談社)、『らくらく安産』『母娘で読む 女性のからだ&病気の本』(ともに保健同人社)、『学校で教えない性教育の本』(筑摩書房)、『更年期が、やってきた!』(婦人生活社)などがある。

「2018年 『まだ産める? もう産めない? 「卵子の老化」と「高齢妊娠」の真実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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