エピゲノムと生命 (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062578295

作品紹介・あらすじ

生命のしなやかさと多元性を生み出す「DNAの偽装」
エピゲノムは同じDNAの配列を用いて柔軟で多様な表現型を生み出すしくみだ。生物はエピゲノムを獲得することで環境にしなやかに適応する力、複雑な体をつくる能力、記憶や認知能力を得た。
エピゲノムの世代を超えた影響や、病気との関係も明らかになってきた。
遺伝の概念を覆す生命科学の最前線。

感想・レビュー・書評

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  • 分子生物学・遺伝学の専門家が、「エピジェネティクス」の世界を解説したものである。
    従来、遺伝形質の発現は、「DNA→RNA→タンパク質」という全ての生物に成り立つ遺伝情報の流れにより、DNAに記録されている遺伝情報が実現した結果とされる、「セントラルドグマ」と呼ばれる原理で説明され、その形質の変化とは、遺伝情報の変化であり、それはDNAの塩基配列の変化が原因とされてきた。
    しかし一方で、DNAが全く同じ一卵性双生児に後天的要因を超えた差異が現れたり、一卵性の三毛猫の模様が全く異なっていたり、ロバとウマを掛け合わせてできるラバ(雄ロバと雌ウマ)とケッティ(雄ウマと雌ロバ)が外見も性格も全く異なっていることなどが観察されている。
    また、人間には60兆個の細胞があり、その一つ一つの細胞は、基本的に1個の受精卵と全く同じ、一人の体全体を作るのに必要なDNAを全て持っているが、細胞の分化に伴い、それぞれの細胞は一定の機能(脳だったり、心臓だったり、骨だったり)のみを発揮する。
    そして、こうした、同じ塩基配列のDNAを持つ細胞が異なった性質を表すのは、それぞれの細胞の中ではごく一部の遺伝子のみが使われていることによるもので、それは、「染色体クロマチンを構成するDNAのメチル化」や「ヒストンの化学的修飾」といわれる現象で遺伝子の活性が抑制されることにより生じ、そうしたDNAメチル化や ヒストンの修飾が規定する遺伝情報(エピゲノム)を介して、環境によって獲得された形質の一部が次世代に引き継がれることもわかってきたのだという。
    まさに、エピゲノムとは同じDNAを使って柔軟で多様な表現型を生み出す仕組みであり、生物はエピゲノムによって、環境にしなやかに適応する能力や複雑な体を作る能力を得たと言えるのだろう。
    更には、iPS細胞について、山中教授が発見した方法(山中因子と言われる遺伝子を細胞に加える)とは異なる、DNAメチル化やヒストンの修飾状態を変えることで作り出すことができるといい、臨床面からも更なる研究が期待される分野でもある。
    専門外の私には、中ほどで説明される「DNAのメチル化」や「ヒストンの修飾」についての細かい説明には正直ついていけなかったが、エピジェネティクスの世界のイメージを掴むことはできたように思う。
    (2015年7月了)

  • 博士課程にいる大学の先輩からもらったから読んだ。
    もらったときはエピジェネティクスに興味があったが、読んでいくうちに私はエピジェネティクスが好きではないことに気づいた。
    確かに興味深い現象ではあるが、自分では研究しようとは思わなかった。

    大学では、エピジェネティクスが色々な可能性を秘める素晴らしい現象として紹介された記憶がある。
    しかし、エピジェネティクスによって病気を発症してしまうこともある。
    要するに、エピジェネティクスによって自分にとって悪いことも遺伝子に記憶されてしまうため、病気などを発症しやすくするのだ。
    エピジェネティクスに悪い一面があることを知れただけでもこの本を読む価値があった。

  • 小難しい話もありますが、より好奇心を刺激されました。

  • エピジェネティクスについて学ぼうと思い読みました。

    全く同じ遺伝情報を持っていたとしても、環境が違えば表現型が異なることがある。この現象は、ヒストン修飾やDNAのメチル化などによって引き起こされるエピジェネティクな遺伝子の制御によって説明できる事が具体例を交えながら分かりやすく解説されていて、勉強になりました。

    エピジェネティクな変化により獲得形質が遺伝することもあることから、進化は単純な理論だけでは説明出来ないことを改めて実感しました。

  • エピジェネティックスとは、DNAによらない遺伝の仕組みを指す。本書では、DNAのメチル化、ヒストン修飾をはじめ、ゲノムの刷り込み、トランスポゾンなど幅広い項目に関する丁寧な解説にとても興味が湧いた。また、セントラルドグマの機構だけでない生物の奥深さに関心した。

  • 信州大学の所蔵はこちらです☆
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB13228567

  • 生物の細胞内のDNAがコピーされてその設計図を元にタンパク質が作られる事で生命活動が維持されるという知識は一般に普及しているが、この本ではDNAに備わる別の機能である「エピジェネティクス」に関して丁寧に解説している。エピジェネティクスに関してはまだ教科書的な知識として普及してはいないが、現代の分子生物学に関するさまざまな知見の前提知識として大変重要なもので、この本を読むことで他の生物学関連の本を読んだ時の理解がずっと深まった。エピジェネティクスは生命現象に興味がある人にとっては必読の知識だと思う。

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著者プロフィール

1962年東京生まれ。東京大学理学部卒業、同大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程修了。理学博士。理化学研究所研究員を経て、現在、東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は分子生物学、遺伝学、構成生物学。Invitrogen‐Nature Biotechnology賞(ベンチャー部門、2006年)、文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門、2007年)をそれぞれ受賞。書著に『エピゲノムと生命』(ブルーバックス)、『自己変革するDNA』(みすず書房)など。

「2018年 『「生命多元性原理」入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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