単純な脳、複雑な「私」 (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 119
  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062578301

作品紹介・あらすじ

「心」はいかにして生み出されるのか? 最先端の脳科学を読み解くスリリングな講義。脳科学の深海へ一気にダイブ!

ベストセラー『進化しすぎた脳』の著者が、母校で行った連続講義。私たちがふだん抱く「心」のイメージが、最新の研究によって次々と覆されていく──。「一番思い入れがあって、一番好きな本」と著者自らが語る知的興奮に満ちた一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 本書の終わりに、著者は、アウトリーチ活動について述べていた。アウトリーチ活動とは、研究者が、専門家ではない一般の人たちとの対話の場を持ったり、一般書を著したり、易しい講演を行ったりと、その労力をいわゆる社会活動についやすことである。

    本書は、著者の出身高校の現役学生に対し、全校講演を行った内容と、その内容に特に興味を示した9名に対し、その後行われた3日間に渡る特別講義の内容を収めたものである。すなわち、後輩学生たちへのアウトリーチ活動の記録である。

    アウトリーチ活動については、賛否あり、「一般向けにかみ砕く行為は真実の歪曲」などという否定意見もあるそうだが、本書を読む限り、科学的なテーマについて、実際に検証を行いながら真実を確認するやり方で行う講演であり歪曲に値するとは感じなかったし、さらに未来の科学者に対し、科学的課題究明のプロセスを体験してもらえるという教育的側面でもとても有効な取り組みであると感じた。

    「ロウソクの科学」でファラデー氏が、子どもたち相手に実験を交えながら講演した光景とダブルものがあった。

    本講義は、脳科学に関する講演であると思う。第一章では、「脳は本当はバカなのだ」というような話が、実例とともにたくさん紹介されていた。「ゲシュタルト群化原理」という脳の早とちりの話、能動的に視線を動かせば好きでないものも好きになるという「錯誤帰属」の話、長く接することで好きになってしまうという「単純接触現象」の話、というように専門的な内容を卑近な事例で紹介してくれる。

    本書の中では、脳の不思議を体験できるような実験がふんだんに盛り込まれている。サブリミナル効果が無意識に働きかけているという事実が、データから証明される。まるで手品でも見ているかのように不思議でかつ、興味深い。

    手首を動かす実験では、「手首を動かそう」と意識する前に、すでに脳が準備しているということが分かった。脳が「動かせ」という指令を発する前に、すでに実際に「動いている」という実験データであった。意識する前から脳が準備しているとはどういうことか?脳が指令を出す前にすでにアクションが起きているということはどういうことか?意識は、何者かに支配されているのか?

    この実験結果は、受講した高校生にも非常に印象が強かった。自分としては、意識の前に無意識が脳をスタンバイさせたり、意識の司令前に無意識の指令があったのではと考えてみたくなった。

    そのほか、講義の内容は多岐にわたり、初めて知ったことが満載である。例えば次のようなこと。

    ・「遺伝多型」というものが個性を生み出している事実(血液型の違いや、赤色を感じる受容体の違い、うまみを感じる受容体の違い、嗅覚の違いなど)

    ・生物進化の過程には、機能の「使い回し」があるという事実(今まで別の機能として役立っていたものを、全く異なる方向に転用し、新しい使い方を発見して、能力を開発していくこと)

    ・脳の働きには「ゆらぎ」があること。ゴルフクラブを握る握力は、脳のゆらぎによって異なり、それによってショットの成否が決まる。この「ゆらぎ」の仕組みの把握により、コントロールできる可能性があるということ。

    ・脳の可塑性について。これがあるから、遺伝子で決定されたデフォルトの状態から、さらに変化できる。学習や訓練によって能力を固めていけるのは、脳にこの可塑性というものがあるからだそうだ。

    ・脳のゆらぎ(ノイズともいわれる)には、3つの役割(①最適解への接近、②確率共振、③創発のためのエネルギー源)があるということ

    ・その③創発とは、数少ない単純なルールに従って、同じプロセスを何度も繰り返すことで、本来は想定していなかったような新しい性質を獲得すること。

    本書のタイトル通り、脳はシナプスとニューロンの単純な働きによって機能している。ニューロンがやっていることは、シナプスを経由の入力を足し算し、その結果を次のニューロンへ出力するという単純なものだそうである。しかし、そのシナプス入力に「ゆらぎ」が発生し、創発が起こる。

    最後にリカージョン(入れ子構造)ということについての講義があった。これが我々が心の不思議を感じる要素のようである。「複雑な私」とは、ここから来ているようだ。

    脳の構造や働きについて、高校生と共に学んだが、まだまだなんとなく消化不良感がある。高校生たちの事後の感想にもまだ完全に理解しきれていない様子は感じられたものの、彼らの視点は鋭く、著者にドキッとさせる質問が飛び交い、科学の世界へののめり込みかたは、将来への頼もしさが感じられた。。

    それと同時に、自らが脳の保有者であり、使い手でありながら、その機能について知らないこと(知らなかったこと)が多いということ、またその機能の不思議さに対する驚きがあったということも事実である。

  • 池谷裕二さんってニュータイプだよなぁ。著者一番のお気に入りであり遂にブルーバックス入りした本書を読んで改めてそう思う。日本最高峰の脳科学者が母校の高校生に行った講義で明らかになる、最先端の実験から導き出される脳に関する衝撃の事実の数々。きちんと科学的に根拠のある最新の内容をこれだけポップに語れること自体が凄いのだけど、時に己の常識や価値観すら崩れかねない実験結果の中でも職業倫理を見失なうことなく、あるべき道を提示しようとする池谷さんの姿勢には感服するばかり。これを読む前の自分には帰れない、とんでもない本だ

  • 武田さんからのおすすめ本でのメモ/
    アガサクリスティの小説
    生涯に長編小説は何冊でしょう?

    正解は..

    脳は思いでを都合の良いように記憶を置き換えてしまう。

    脳の不思議。幽体離脱を脳科学で説明。
    例えば、
    一流のサッカー選手は俯瞰で自分を見下ろす能力がある。

    脳死は人間の死ではない/

    脳(認知)と身体の行動はズレている。

  • 進化しすぎた脳の続き
    これもまた意外な事実が詰まっている
    特に印象的だったのは
    ・意識するより前に脳は行動の準備をしている
    ・脳は常に予測している
    ということ
    これもまた読みやすく入門者向けだ

  •  最新の脳科学を高校生に語る形式で作られた本なので、一見わかりやすい。でも、普通に持つ脳の常識が揺らいでしまうような実験結果に戸惑うところも。研究の積み重ねで、人間の無意識がどんどん明らかにされてゆくのだろうか。それはどんな姿を見せるのか。私たちの現状の人間観は「作話」されたものだということに、読後、何とか納得しました。私は、どちらかというと、無意識に親近感をいだいているのです。

  • 高校生に対する授業を文字起こしした内容は非常にわかりやすいし、身近に感じることが多い。
    人間は顔の左側で男女の判断をしている…とか。
    握力検査で検査前にサブリミナルで励ましの言葉を見せることで、握力自体に加え、検査器を握るスピードも早くなっている、ということに驚いた。サブリミナルは、恐ろしいほど脳に影響を及ぼしている。

  • 脳に関する知識ってニューロンとか前頭葉とか脳神経とかそれくらいしか知らない素人の私でも、とっても面白く読めた。

    面白かったのはわかるんだけど、説明するのは難しくて、理解しきれてない部分が沢山ある。
    何回も読んで、そのたびに、おおおって新しい発見に湧きそう。 

    脳科学がその性質上、「解けない謎」に挑んでいるっていうことに、宇宙や深海に通じる神秘性を感じるよね。

    とても機械的な仕組みで動いている脳をどんだけ調べても、
    答えは出ないかもしれないっていう深遠さ、
    自分探しの旅に出るくらいなら、この本を読んだほうが
    よっぽど安上がりでいいと思うよ。

    タイトル通り、「私」ってめちゃくちゃ難しいよ。

  • 池谷氏が高校生相手に行った特別講義をまとめたもの。「脳とは何か」を説明しながら、認識論などさまざまな論点について触れていきます。
    やはり何度読んでも衝撃的なのは、「体を動かそう」と思って動かす、のではなく、実際に体を動かす数秒前に脳から指令が出ている、というくだり。ゴルフのパッティングなど、その時点でうまくいくか失敗するかまでわかる、と。脳のニューロンがどのように情報を伝えるかというメカニズムもすごい。単純な法則にのっとって情報が伝達されますがそれを俯瞰できるようしゅみゅレーションすると整然とした反応が現れる。ここがタイトルの由来で、「脳がやっていることそのものは単純だが反応は複雑に見える」。知的な興奮を呼ぶ一書。

  • 後半難しくて一部読み飛ばしてしまったけど、面白かったです。

    「自分を使い回しながら進化した脳」とは、それまでにある用途で存在した機能を別の用途に使い回すことで進化してきた、ということ。

    「脳は世界をただ写しとって見るのではなくて、思い込みで解釈する」
    このことは文学や哲学や心理学などのあらゆる分野で言われてきましたが、正にそういう風にできていた。
    「人は見たいものしか見ない」という解釈でしたが、「脳が解釈したようにしか人は物を見られない」ということで、自分に不都合なものを排除してしまう可能性を鑑みると結局「人は見たいものしか見ない」に落ち着くわけですね。
    しかしながら、逆に見てしまったものに対してのストレスから逃れる為に、心の方が変化してしまう場合もあり、これもまた、それまでに経験したことを踏まえての変化になるのでしょう。

    手続き記憶に関しては全ての分野の学習や習得にとって、「コツコツ努力すること」の正しさを科学的に証明しています。

    恋愛感情に関しては「思い込み」であるとの身も蓋もない話でありましたが、ふられたり浮気されたりした方には何よりの薬でしょう。
    より広めることで楽になれる人は増えますが、少子化には拍車がかかるかもしれません。

  • 信じられないような話が続出。
    本書を読んだ最大の収穫は、心が出来上がったプロセスは案外単純だということ。脳の副産物にすぎないということ。
    まったくその通り!

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著者プロフィール

脳研究者。薬学博士。東京大学大学院薬学系研究科薬学専攻医療薬学講座教授。
専門分野は大脳生理学で、海馬の研究を通じて、脳の健康や老化について探求している。

「2021年 『心のコリがスーッとほぐれる大人のぬり絵 季節の花』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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