巨大ウイルスと第4のドメイン 生命進化論のパラダイムシフト (ブルーバックス)
- 講談社 (2015年2月20日発売)


- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062579025
作品紹介・あらすじ
最近発見された「パンドラウイルス」という巨大ウイルスは、これまでのウイルスと姿が大きく異なっている。ひょっとしたら、これまでに全く知られていない新たな生命の形なのではないか。現在、生物の世界は3つのグループ(ドメイン)に分けられることになっているが、ウイルスはそれにあてはまらない。しかし、今後、新たな「第4のドメイン」が付け加わることになるかもしれない。生物とは何かを問いなおすミステリー。
2013年7月、「超巨大ウイルス」に関する第1報が、科学誌『サイエンス』に掲載された。発見当初は「新しい生命の形」というニックネームが与えられていたというこの巨大ウイルスは、論文では「パンドラウイルス」という名が付けられていた。むろん、その名の由来はギリシア神話の「パンドラ」である。
当初、このウイルスが「新しい生命の形」と名付けられたのには理由があった。その姿が、それまでのウイルスとは大きく異なっていたからだ。かといって、これを生物とみなすにはあまりにもウイルス的であった。ウイルスでもない。生物でもない。だとしたら、これまでに全く知られていない新たな生命の形なのではないか。そもそも、「生物」とはいったい何なのだろうか?
現在、生物の世界は3つのグループ(ドメイン)に分けられることになっているが、ウイルスはそれにあてはまらない。しかしもしかしたら、新たな「第4のドメイン」が付け加わることになるかもしれない。そんな議論が巻き起ころうとしている。
巨大ウイルスには、パンドラウイルスのほか、ミミウイルス、ママウイルス、メガウイルス、ピトウイルスなどが発見されている。本書は、そんなウイルスたちと、彼らにまつわる生物たちの話である。
感想・レビュー・書評
-
「生命の最小単位は細胞である」とする細胞説は、義務教育でも教わるように現在の生物学における支配的なパラダイムです。
著者はこの細胞説に真っ向から挑戦します。
その鍵となるのが、2013年以降に発見された巨大DNAウイルス達です。
彼らの大きさは光学顕微鏡下で観察できるほどであり、また保持する遺伝情報量も細菌と同等以上のものでした。
この「全くウイルスらしくなく、かといって、これを生物とみなすにはあまりにもウイルス的」な存在の発見は、科学界に大きな議論を巻き起こします。
著者は、細胞を持たない存在である巨大DNAウイルス達を、新たな生物のグループとみなすことを提案します。つまり、細胞説を否定するのです。
これだけでも十分に面白い話題ですが、著者の論は細胞説棄却に留まらず、初期生命進化論における新たな学説の提案にまで及びます。
ミトコンドリアや葉緑体が原核生物に由来することは共生説として知られています。
実は、どうやら細胞核と巨大DNAウイルスの間にも同じようなことが言えそうなのです。
巨大DNAウイルスとの共生が、真核生物の細胞核をもたらしたことを示唆する研究結果が得られたのです。
即ち巨大DNAウイルスは、単に学問的に真新しい存在であるというだけでなく、我々真核生物の進化へ大きな影響を与えた可能性がある、と著者は言うのです。
以上のようにこの本で紹介される学説は、生命の定義への挑戦から始まり、分類学、進化論の常識をも揺るがす大きなパラダイムシフトをもたらす可能性を秘めています。
学校で学んできた知識や考え方が今まさに大きく塗り替えられようとしている、そこに立ち会えるかもしれない、と考えるのはとてもわくわくするものです。
そんな科学的探求の最先端を垣間見ることができると同時に、生命とは何か、というある種哲学的な問いに想いを馳せるきっかけにもなるかもしれません。
本書は、ウイルスの定義や性質、細胞性生物とウイルスとの違いなどから丁寧に説明されており、普段生物学等にあまり馴染みのない人でも楽しく読み進められるような配慮がなされています。
非常に読みやすく、また進化や生命の探求といったロマンのある分野のホットな話題に触れることのできる良書です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1992年よりみつかり始めた巨大ウイルス。その特徴、生物進化論にどのように一石を投じ、どのような議論が起こっているのかなどを概説した本。巨大ウイルスは耳にしたことがあるけれどもみんなそれについて何を話しているか気になる人にはよい。図が多く気軽に読める。
-
巨大DNAウイルスの発見により、「生きている」とは何かという生命の本質的な問いに対して、ウイルスの観点から考察した本でした。
巨大DNAウイルスは、最小の「生物」よりゲノムサイズが大きく、翻訳用の遺伝子を有する点から、生物として扱い、第4のドメインとして定義することを筆者は主張しています。
ヴァイロセルの考え方は興味深く納得させられるものでしたが、DNAレプリコンからの生命進化の学説は、自己複製を行うDNAレプリコンが現在の地球で絶滅している理由など、曖昧な部分が多く、あまり納得出来ませんでした。 -
新 書 KBS||465.8||Tak
-
ひととおりメモもとって読んではみたし、言いたいこともわかったが、それがどうした・・となるのはだめだ。
-
生物学は苦手な分野。巨大ウイルスが発見されて今までの「ウイルスは生物ではない」という定義がぐらつきだしたという。最後まで読んだけど、???なことが多かった。
-
思い出した。伝える一方で久しく遠ざかっていた知的興奮。たかだか20年で生物の常識も変わった。ドメイン(超界)の話題から、さらには仮定混じりの(SFチックな?)話まで。中学・高校時代にこの本を読んだなら、その方面の研究に進みたいと心底思っただろう。
-
巨大ウイルスの発見は何を意味するのか?次々と発見される巨大ウイルスは、サイズが大きいだけでなく、多彩な遺伝子を持ち、細胞性生物に近い機能を備えているものもいる。これらの新発見により、「ウイルスは生物ではない」という定義が揺らぎ、巨大ウイルスは未知の生物グループ(ドメイン)ではないかという議論が湧き上がってきた。最先端のウイルス研究が「生物とは何か」をあらためて問い直す。
著者プロフィール
武村政春の作品





