巨大ウイルスと第4のドメイン 生命進化論のパラダイムシフト (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062579025

作品紹介・あらすじ

2013年7月、「超巨大ウイルス」に関する第1報が、科学誌『サイエンス』に掲載された。発見当初は「新しい生命の形」というニックネームが与えられていたというこの巨大ウイルスは、論文では「パンドラウイルス」という名が付けられていた。むろん、その名の由来はギリシア神話の「パンドラ」である。
 当初、このウイルスが「新しい生命の形」と名付けられたのには理由があった。その姿が、それまでのウイルスとは大きく異なっていたからだ。かといって、これを生物とみなすにはあまりにもウイルス的であった。ウイルスでもない。生物でもない。だとしたら、これまでに全く知られていない新たな生命の形なのではないか。そもそも、「生物」とはいったい何なのだろうか?
 現在、生物の世界は3つのグループ(ドメイン)に分けられることになっているが、ウイルスはそれにあてはまらない。しかしもしかしたら、新たな「第4のドメイン」が付け加わることになるかもしれない。そんな議論が巻き起ころうとしている。
 巨大ウイルスには、パンドラウイルスのほか、ミミウイルス、ママウイルス、メガウイルス、ピトウイルスなどが発見されている。本書は、そんなウイルスたちと、彼らにまつわる生物たちの話である。

感想・レビュー・書評

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  • 「生命の最小単位は細胞である」とする細胞説は、義務教育でも教わるように現在の生物学における支配的なパラダイムです。
    著者はこの細胞説に真っ向から挑戦します。
    その鍵となるのが、2013年以降に発見された巨大DNAウイルス達です。

    彼らの大きさは光学顕微鏡下で観察できるほどであり、また保持する遺伝情報量も細菌と同等以上のものでした。
    この「全くウイルスらしくなく、かといって、これを生物とみなすにはあまりにもウイルス的」な存在の発見は、科学界に大きな議論を巻き起こします。
    著者は、細胞を持たない存在である巨大DNAウイルス達を、新たな生物のグループとみなすことを提案します。つまり、細胞説を否定するのです。

    これだけでも十分に面白い話題ですが、著者の論は細胞説棄却に留まらず、初期生命進化論における新たな学説の提案にまで及びます。
    ミトコンドリアや葉緑体が原核生物に由来することは共生説として知られています。
    実は、どうやら細胞核と巨大DNAウイルスの間にも同じようなことが言えそうなのです。
    巨大DNAウイルスとの共生が、真核生物の細胞核をもたらしたことを示唆する研究結果が得られたのです。
    即ち巨大DNAウイルスは、単に学問的に真新しい存在であるというだけでなく、我々真核生物の進化へ大きな影響を与えた可能性がある、と著者は言うのです。

    以上のようにこの本で紹介される学説は、生命の定義への挑戦から始まり、分類学、進化論の常識をも揺るがす大きなパラダイムシフトをもたらす可能性を秘めています。

    学校で学んできた知識や考え方が今まさに大きく塗り替えられようとしている、そこに立ち会えるかもしれない、と考えるのはとてもわくわくするものです。
    そんな科学的探求の最先端を垣間見ることができると同時に、生命とは何か、というある種哲学的な問いに想いを馳せるきっかけにもなるかもしれません。


    本書は、ウイルスの定義や性質、細胞性生物とウイルスとの違いなどから丁寧に説明されており、普段生物学等にあまり馴染みのない人でも楽しく読み進められるような配慮がなされています。

    非常に読みやすく、また進化や生命の探求といったロマンのある分野のホットな話題に触れることのできる良書です。

  • 1992年よりみつかり始めた巨大ウイルス。その特徴、生物進化論にどのように一石を投じ、どのような議論が起こっているのかなどを概説した本。巨大ウイルスは耳にしたことがあるけれどもみんなそれについて何を話しているか気になる人にはよい。図が多く気軽に読める。

  • 生命とは何かあるいは、生きているとはどいうことかにかかわる、根本的な課題に意欲的にアプローチし、同時に地球生命の根源のLUCAに迫ろうという意欲的な本書、もちろん、2015年に出版されているので、新型コロナ禍の現代にあって、もっと、解決すべき課題に研究課題が向かっていこうとするやもしれないが、それでも、生命とは何かについて、ウィルスは該当するのか否か、について、今だから考察するに値すると言えるだろう。

    本書の言う第4のドメインというのは、サイズにおいても、遺伝子量においても従来のウィルスの定義とは桁違いな巨大ウィルスが発見されたことに啓発されて生命の再定義が要請されていることによっている。著者は、この巨大ウィルスをはじめとするウィルスを生物の第4のドメインとしてはどうかと提案している。ウィルスは、現時点での生物学的な定義においても生命であるかどうか、境界線にあるといえる。現時点では、生物は、真核生物、アーキア、バクテリアの3つのドメインにおいて、定義されている。しかし、ウィルスは他生物の細胞への吸着(感染)、侵入、放出とういう過程で、次世代の再生産に他生物の存在を前提とする自立しない存在という理解と言える(それゆえに、生物ではない、という定義となる)。しかし、生命の情報資源とも言うべきDNAもしくは、RNAを有しており、他生物の細胞の資源、リボソームの利用を必要しているとはいえ、自己の次世代再生産能力は有している。

    人間中心主義的に見ると、微細なウィルスは目に入らないかに見えるが、しかし、人間のみならず、すべての生命体は様々な共生のネットワークの中にあるといえる。コロナ禍の現在、まさに、そうした点について再考すべき重要なタイミングにあると思えるのだが。

  • 巨大DNAウイルスの発見により、「生きている」とは何かという生命の本質的な問いに対して、ウイルスの観点から考察した本でした。

    巨大DNAウイルスは、最小の「生物」よりゲノムサイズが大きく、翻訳用の遺伝子を有する点から、生物として扱い、第4のドメインとして定義することを筆者は主張しています。

    ヴァイロセルの考え方は興味深く納得させられるものでしたが、DNAレプリコンからの生命進化の学説は、自己複製を行うDNAレプリコンが現在の地球で絶滅している理由など、曖昧な部分が多く、あまり納得出来ませんでした。

  • 新 書 KBS||465.8||Tak

  • ひととおりメモもとって読んではみたし、言いたいこともわかったが、それがどうした・・となるのはだめだ。

  • 生物学は苦手な分野。巨大ウイルスが発見されて今までの「ウイルスは生物ではない」という定義がぐらつきだしたという。最後まで読んだけど、???なことが多かった。

  • 思い出した。伝える一方で久しく遠ざかっていた知的興奮。たかだか20年で生物の常識も変わった。ドメイン(超界)の話題から、さらには仮定混じりの(SFチックな?)話まで。中学・高校時代にこの本を読んだなら、その方面の研究に進みたいと心底思っただろう。

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著者プロフィール

武村政春(たけむら・まさはる)
東京理科大学教授。
巨大ウイルスの生態と進化にオタク的興味をもつ。
真核生物の起源にも多大なる興味。
現在は筋肉(筋トレは趣味ではなく、そのための単なる方法に過ぎない)にも大いなる興味をもっている。
もともとの専門は生化学とか分子生物学とか。
2001年細胞核ウイルス起源説を提唱。
2019年メドゥーサウイルスを発見。
出身は三重県津市。
1998年名古屋大学大学院医学研究科修了。
博士(医学)。

「2022年 『ウイルスの進化史を考える ~「巨大ウイルス」研究者がエヴィデンスを基に妄想ばなしを語ってみた~』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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