研究者としてうまくやっていくには 組織の力を研究に活かす (ブルーバックス)
- 講談社 (2015年12月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062579513
作品紹介・あらすじ
学界と企業研究所を渡り歩き、東大教授に登り詰めた著者が語る、研究者人生成功の極意!
【研究室のボスは、あなたの何を評価しているのか?】
理系の若者にとって「研究者」は憧れの職業。先輩や教授といった他人とうまく付き合い、研究室という組織の力を活かすのが、この職業で成功するコツだ。本書は、「学生」「院生」「ポスドク」「グループリーダー」と段階を追いながら、それぞれのポジションでどう判断し、行動すべきか、実例を交えて案内する。研究に行き詰まっている人も、読めばきっとヤル気が出る!
【駆け出し研究者の悩みを解消するヒントが満載!】
・先行研究に縛られず、とりあえず研究してみよう
・研究手法は教授よりも先輩から教わろう
・研究テーマが小さくても気にしない
・博士号持ちは企業でも意外と求められている
・学会発表では未来の雇い主に自分を売り込もう
などなど……
感想・レビュー・書評
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相談相手が少ない「研究者」という独特な職業のこなし方を客観的にわかりやすく書いた本として、とても愛読している。
たまに「PIは飲み会で学生にビールを注げ」のような「?」のアドバイスはあるが、「研究の独創性は自分で作る」「二番煎じでもいい」「レビューに備えて幅広い文献を引用する」など、申請書ではみられない、研究者の本音の部分が聞ける感じがとても良い。学生目線から教授目線まで網羅的に書かれている。基本的には「日本国内の」話に限っている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
■学会発表
・学会発表までに原著論文の原稿を書いておくとよい。
論文原稿をほぼ完成させるが、投稿はしない状態で学会発表に臨む。
原稿を書くことが学会発表の事前準備にもなる、自分が見落としていた観点
の質問と議論を原稿に取り入れてブラッシュアップできるというメリットが
ある。
・プレゼンの際は「胸が開く」位置に立つ。聴衆を受け入れているという暗黙
のサインになる。反対に、スクリーンのほうを見る体勢は、聴衆に対して疎
外感や拒絶感を与えてしまう。
※面と向かって顔を見ながら話されると、興味のない内容でも聴衆は思わず
聞き入ってしまう。
★PCの制御機能が付いたレーザーポインターを持っておけば、演台の位置に
左右されず、自分のやりやすい「立ち位置」でプレゼンできる。
・自分にとって初めてのテーマで発表するときはポスター発表を選ぶとよい。
その分野の研究者からのアドバイスを期待できる。
・研究発表を聞くとき、それぞれの発表の良い点と悪い点を評価して、はっき
りメモする。下手なプレゼンこそ勉強になり、自分のプレゼンの改善に役立
つ。基調講演や一般講演で内容的に興味がない場合は、その講演をプレゼン
の研究として利用するのもよい。
■研究活動
・重要で大きな研究テーマに取り組む場合は、「小ネタ」の研究も並行すると
よい。コンスタントにアウトプットが見込まれる小ネタ、従来の研究の延長
線上の研究、共同研究などで「日々の糧」を稼ぐ。この副次的な効果として、
自分の研究の幅が広がって研究者としての「引き出し」を増やすことができ
ること、大きなテーマが失敗した場合の保険になること、「小ネタ」が思い
がけず大きなテーマに成長していく可能性があることが挙げられる。
・中心となるテーマに自分の軸足をしっかりと置いて、研究にある程度「筋」
を通しつつ、もう一方の足を様々な方向に踏み出して研究を拡げていく。
・前倒し型自転車操業:研究費の申請書を書くときは、自分ですでにかなり進
めてある研究内容で申請する。その成果の一部を予備実験の結果として紹介
することで、審査員に対する実現可能性の説得力が増す。
■論文執筆
・執筆順序
「研究結果と考察」から書き始める。得られたデータから論文用の図を作る。
いくつかの図を並べてみて、それぞれの図から何が結論できるのかを書き出
してつなげていく(たとえば、主張点に直結するグラフ→主張を補強するた
めのグラフ→主張点の原因を探って議論を一段深めるためのグラフの順)。
「結果と考察」を書いてしまえば、「研究方法」および「結論」のセクショ
ンは自然に書ける。「イントロダクション」は最後に書く。メイン部分が確
定してから書けば、一般的な背景から本研究までのつながりを我田引水のよ
うに効率よく書くことができる。
・査読対応
査読コメントに反論するときは、低姿勢かつholisticを心掛ける。査読者よ
り一段高い視点から、問題の全容を見渡して見解を述べることによって、コ
メントが的を射ていないことを間接的に示す。
・「英作文はするな。良いジャーナルに載っている論文の言い回しをまねろ」
効率が良いだけではなく、まねしながら学ぶことができる。文の構造はその
ままで、言葉だけを入れ替えればいい。
・英語論文を読む中で、良い例文を集めた英語例文集を作るとよい。その際、
イントロダクションで使う例文、方法の説明で使う例文、結果の説明で使う
例文、考察で使う例文、結論で使う例文といったように、セクションごとに
分けて集めるとよい。いずれ、適切な表現がすらすらと出てくるようになる。 -
大学生から教授まで、各ステップごとの心構え、そのポジションに何が求められているのか。一度民間企業を経験しているとのことで、大学に残ってエスカレーター式にただ登っていく解説ではなく、色々選択肢を例示している。研究者ってこんな感じなんだ~と気軽に読める。
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本のタイトル通り、研究者(特に大学の先生)として生き残る方法について大学院生、ポスドク・助教、准教授、教授と各段階での研究者の位置付けを具体的に書いた本。
著者は当たり前的なことを書いたと前書きに書いてあったがきちんと文書化したことに価値がある。
特にポスドク・助教から准教授へ至るプロセスは非常に示唆のある内容で若手研究者にとって必読の一冊である。 -
現在の自分の立ち位置を含めて非常に参考になった本であった。社会人で大学院に進学する方にもぜひ読んで頂きたいと感じた。
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初心に返るために。
理系研究者に向けた内容だが,自分の境遇に応じて適宜読み替えれば,文系研究者にも役立つだろう。 -
↓利用状況はこちらから↓
https://mlib3.nit.ac.jp/webopac/BB00534861
研究を進めていくとさまざまな問題にあたると思います。実験、論文、発表、etc...。そんな困った時、検討に検討を重ね検討をさらに加速させた結果、結局何もやらないのではなく、この本を読んでみてはいかがでしょうか。新たな発見があるかもしれません。
(機械工学科卒業 院生) -
1100
長谷川 修司
1960年栃木県に生まれる。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士課程修了。理学博士。日立製作所基礎研究所研究員、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻助手、同助教授、同准教授を経て、現在、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。専門は表面物理学、とくに固体表面およびナノスケール構造の物性。著書に『見えないものをみる ナノワールドと量子力学』(東京大学出版会)、『振動・波動』(講談社)などがある。
研究も同じで、教授がある程度のアタリをつけて、この方向に研究を進めれば意味のある成果が出そうだと期待して研究を進めますが、必ずしもその通りになるとは限りませんし、むしろ、予想しなかった別の成果につながることが多いものです(それをセレンディピティといいます。)
ここで言えることは、自分の研究に関連する分野の知識を全部勉強したあとでないと新発見するための研究ができないのかというと、そうではないということです。よく大学生で、 「現状でどこまでわかっているのか、当該分野の最前線までを全部勉強しないと、その先の未知なことは研究できないのではないか?」 と心配する人がいますが、そんなことはありません。今までに得られた知識を最前線まで全部勉強していたら、それだけで人の一生は終わってしまいます。最前線を勉強するにしてもほんの狭い範囲で構いません。指導者や先輩はある程度広い範囲の知識を持っていますので、指導者のアドバイスに従い、 とりあえずはあまり大きな心配をせずに、自分の研究に関係する狭い範囲の勉強だけして、研究をどんどん進める ことを学生には勧めます。そして、必要なら、まさに「走りながら」もっと勉強すればいいのです。
「なーんだ、研究って結構いい加減なんだな」 「勉強では、立派に体系化された学問を順序よく学ぶけれど、それに比べて研究って結構行き当たりばったりなんだな」 と感じる読者もいるかもしれません。ある意味、その通りだと思います。
よく、科学行政や大学改革の新聞記事などの中で「研究の効率化」という言葉を見聞きしますが、ありえない自己矛盾した考え方だと思います。天才学者が一生かけてコツコツ 研究 して構築した学問体系を、わずか半年間の 90 分講義 15 回程度で 勉強 できてしまうのを考えると、「勉強と研究の違い」がわかるでしょう。天才物理学者アインシュタインが 10 年以上もかかって研究して作り上げた相対性理論を、わずか半年間の講義で勉強できてしまうのは、学生たちがアインシュタイン以上の天才だからではありません。
酒井 邦 嘉 著『科学者という仕事』には、 「研究もまた自分らしい個性の表現なのである。このように考えれば、研究者のめざすものは芸術家がめざす自己表現と何ら変わらない」 と書いてあります。芸術とはおよそ縁遠いと思われる自然科学やテクノロジーの研究で、それによって「自分らしい個性を表現する」とか「自己表現する」とか、突然言われても研究者でない人にはほとんど理解できないでしょう。しかし、ここまで本書を読んできた皆さんには、もう、この言葉に同意いただけるはずです。なんの研究をどんな方法でするのか、どこまで研究するのか、課題設定と課題解決のためのアプローチや求める答えは、研究者個人によって違います。基本的には、研究者の心の中から湧き上がってくる好奇心や探究心が原動力になります。他の研究者から見ると価値のない研究テーマであっても、自分にはとても重要なテーマだったりします。そこに、その人の個性や価値観が反映され、自己表現の手段となるのです。
研究者の大きな魅力の一つは、 毎日コツコツ研究室で続けている自分の研究がひょっとして世の中を変えるかもしれないという夢 を抱けることでしょう。人間が今まで持っていたものの見方や考え方を根本から覆したり、空想だにしなかった技術が実現したりするかもしれないと考えると、夢が広がります。研究者は、 自分こそがそれを成し遂げるんだという大志 を持っているので、毎日、困難にぶつかってもへこたれずに研究を続けられるのです。
私は、数学と理科が大好きで、図画工作や技術家庭科も大の得意でした。ですので、なんのためらいもなく理科系に進み、「将来は科学者か技術者になるしかない」とはっきり意識するようになりました。ロゲルギストという物理学者集団が書いていたエッセイ集の『物理の散歩道』というシリーズ本などを、高校2年生のときから背伸びして読み始めたものでした。湯川秀樹や 朝永振一郎というノーベル賞学者の名前が出てくる本に出会うのもまったく自然の成り行きで、次第に物理学への憧れを感じ始めました。自然界の仕組みを奥深いところから考えている学者が、私の目にはとても格好良く映ったのです。
教養とは自分の専門や考え方を相対化できる能力 のことです。
しかも図画工作や技術家庭科が好きだったこともあり、迷わず理論ではなく実験研究を志望しました。でも本当の理由は、素粒子・原子核物理学のような難しい分野は、前述した超優秀な同級生たちがこぞって目指している人気の分野なので、自分は彼らと競争してやっていく自信がとても持てなかったというのが本音です。
私が学部4年生のときに原子核物理学という講義を担当していた有馬 朗 人 教授(後に東大総長、文部大臣、科学技術庁長官になった先生) が授業中に言った一言がいまだに忘れられません。 「俳句を勉強するといいよ。研究での不連続的なジャンプを生み出す直感力がつくよ。君たちは式を変形して論理的に考えていると新しい発見にたどり着けると思っているだろうが、実際はそうじゃない。不連続的な発想の飛躍が必要なんだよ」 という趣旨の言葉です。有馬教授は理論原子核物理学者としてだけでなく、俳人としても有名な先生です。講義でその言葉を聞いたときには、試験問題のように、与えられた問題に対して式を立てて、それを変形して解けば新発見につながると思っていましたので、この言葉に対して非常に違和感を覚えた記憶があります。
論理的に一歩一歩考えて研究を進めるだけでは限界があります。そこでブレイクスルーを生み出すには、論理では説明できない何かが必要なのです。しかし、その不連続的な飛躍は、あとになって振り返ると論理的に説明できるものだったりします。なぜこのような論理で考えなかったのか、とあとから思うことが多いものです。 誰でも知っている芭蕉の俳句「古池や蛙飛び込む水の音」。春の草に覆われた古池の周りの静寂を表現するために、一匹のカエルが池に飛び込んだ時の「ポチャン」という音を持ち出すことによって、かえって静寂を際立たせるという発想の飛躍が、物理学の研究での飛躍にも通じるという有馬教授の言葉は、今になってみるととてもよくわかります。
別のタイプの学生の例。高校や大学での勉強をするように、毎朝決まった時間から夕方決まった時間まできっちり実験したり論文を読んだりして研究に励んでいるのはいいのですが、研究室のコンパやスポーツ大会、あるいは午後のお茶の時間などで研究時間が削られてしまうと、それだけで、何か自分は怠けてしまったと、いたく落ち込んだり不機嫌になったりする学生もいます。研究は、言ってみれば100m競走ではなくマラソンのような長丁場の戦いなので、几帳面すぎたり生真面目すぎたりすると途中でへたばってしまいます。よく研究には「強い心」が必要だといいますが、そうではなく、心に余裕を持って、適当に息抜きしながら続ければ、「強い心」で頑張らなくてもそれなりの成果を残すことができると思います。
私は修士課程のあと博士課程進学をあきらめ、電機メーカーの㈱日立製作所に就職する道を選びました。
私が学校推薦書を書いた学生の一人に、素粒子物理学の理論で博士号をとる予定だが、ある電機メーカーから内定がとれそうだ、その会社では新しい電子デバイスの開発研究をやりたい、と言ってきた博士課程の学生がいました。理論素粒子物理学から電子デバイスというかけ離れた分野にチャレンジするというので最初は驚きましたが、じっくり話をしてみると、非常に頭の柔軟な学生だとすぐにわかる話しぶりで、感心させられました。会社の人事課での面接でもきっと高く評価され、専門がまったく違うけれど彼の大きな可能性を高く買われたのだろうな、と感じさせる学生でした。最後はやはり人間としてのトータルな可能性が勝負なのでしょう。研究で身につけた専門知識やスキルは二の次で、 研究で身につけた総合的な「人間力」が買われる のです。
博士課程に進学して、一つのテーマで徹底的に研究を突き詰めてみるという体験が非常に貴重だという感想を、 40、 50 歳代になってから、同窓会やいろいろな機会で聞きます(私は上述のように博士課程を経験していないので、ただ相槌を打つだけです。
逆に言うと、日常的にたくさんの論文を見て読んでいる研究者こそ、よく読まれる論文の特徴を知っていることになります。ですので、よく読まれる論文を書ける人は、たくさんの論文を「見て」読んでいる人だと言えます。人気の小説家は驚異的な読書家であることが多いと言われるように、多くの論文を読むことが良い論文を書く出発点でもあります。毎日、論文を、熟読しないまでもたくさん見ましょう。
ですので、古い論文を図書室で探し出しては読みあさるという時期もありました。そのテーマは、表面物理学の研究の流行が別の方向になってしまって、いつの間にか忘れ去られてしまったものでした。図らずも、それを私が現代的なスタイルや良質の試料を使ってリバイバルさせたのです。
研究テーマは大学院生たちにとって最も重要なことですが、それに関してときどき起こる問題は、「テーマの重なり」です。同じ研究室で同じ研究設備を使って、しかも似たような関心を持っている大学院生たちが研究していると、最初は離れたテーマで研究していた2人の大学院生の研究内容が、時間が経つとだんだん近づいてきて、テーマの重なりが出てきてしまうことがときどきあります。そのときの世の中の研究の流行や傾向にどうしても影響されますので、そのような事態になってしまうことがあるのです。
目立った成果が上げられなかったとはいえ、その過程で学んだ論理的・分析的思考、情報収集と 咀嚼 力、プレゼンなどのコミュニケーション力、状況に応じて戦術を変えられる戦略性などなどを研究体験から学んでくれて、それらを就職後の仕事に活かしていると信じたいものです。 目標に達しなかった、失敗した、という経験ができるのは大学だけの特権 であって、社会に出てからは失敗は許されません。ですので、もし、研究がうまくいかなかった場合にも、その失敗からたくさんのことを学んで卒業してほしいと願っています(が、これは開き直りに聞こえるでしょう。
2014年あたりから、プロテニスプレーヤーの 錦 織 圭選手が活躍して、テレビでもよく見かけるようになりました。彼は、松岡修造やマイケル・チャンとの出会いによって大きく成長したと言われています。 研究者の世界でも同じように、恩師との出会いが決定的に重要だと思います。私の場合、まさに指導教員であった井野教授であり、日立にいたときの研究グループのボスであった外村さんです。 -
博士課程の先輩がおすすめしてくれた本。
研究者、大学教員を志したいと思った今に読んでよかった本。
印象に残った言葉
「研究」では、研究者自身の個性や価値観が色濃く反映され、大げさに言えば「自己表現」に繋がる。
自己表現をする方法が欲しいと思っていた自分にとって、とても響いた。
それと同時に、どれほどアカデミアに残ることが大変なのかがわかった。アカデミアに残って何をしたいのか?これを考えない軸を持たない限りは、きっと耐えられないのだろう。それでも、読んでて「この地位に行ってみたい、行ってこうしたい」ってことが思い浮かぶからもう少し頑張ってみようと思えた。