- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062579858
作品紹介・あらすじ
現代社会を浮き彫りにする経済学。この経済学を表す経済数学は高度に発展してきました。なかでも、マクロ経済学の「動的マクロ均衡理論」と、金融工学の「ブラック・ショールズ理論」は「二大難解理論」として、その頂上をなしています。
この『経済数学の直観的方法』の2冊では、目標をこの「二大難解理論」にしぼっています。これらを直観的に理解してしまえば、そのツートップの頂上から経済数学全体を見渡す格好になり、今までのミクロ経済学などのたくさんの数学的メソッドを、余裕をもって見ることができるという狙いです。
本書では、「確率・統計編」として、現代の金融工学の礎となる「ブラック・ショールズ理論」を身につけます。70点に及ぶ図・グラフを中心に、「正規分布曲線が生まれるメカニズム」「標準偏差、分散の意味」「最小2乗法の基本思想」「中心極限理論の不思議」「確率過程とランダム・ウォーク」「ブラウン運動とブラック・ショールズ理論」「伊藤のレンマと確率微分方程式」「測度とルベーグ積分」など、重要テーマの本質的理解を試み、教養としてのブラック・ショールズ理論を身につけていきます。
感想・レビュー・書評
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近著「世界史の構造的理解」が面白かったので、既刊本を著者買いした。結論としては買って正解だった。
当方(文系)の能力不足により、上級編は「科学読み物」になってしまったが、確率・統計の基本を書名通り直観的に解説した初級編・中級編が非常に有益だった。
正規分布、標準偏差等の概念が真の意味で理解できるようになったし、トレンドとボラティリティの違いも使える知識として記憶に残った。文系でも「実用書」として読む価値あり。
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数学III・C → 20年前に履修
物理 → 未履修
経済学 → 完全にど素人
という自分が読んでも、大筋の内容が理解できた。
聞いたことのない難解な経済学上の考え方が次々と自分の理解に落ちていくのは結構爽快。
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学生の時は覚えるだけだった正規分布、分散・標準偏差、中心極限定理などのイメージづけから、
その時間経過、ブラックショールズ理論の直感的イメージ、経済モデルの展望までつながったのは、
確率統計の枠を超えて何か壮大な物語を見ているようだった。
同著者の他の本も読んでいるが、初学者から専門家への橋渡しをするために果敢にチャレンジする姿勢と、
あくまで直観的方法だと割り切りながらも橋の繋ぎ目への気配りが丁寧になされており心地よい。
まるで近所で親しくしてくれるお兄さん・おじさんのような、距離感を大事にした愛を感じたのだった。 -
最新の経済学が物理数学と密接につながっていることがよくわかった。まさか変数分離が出てくるとは予想もしなかった。前著よりもこちらの方が読みやすく、意味深い。トレンドとボラティリティを忘れずに。
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難しいな、コレ…
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トレンドとボラティリティについての考察が興味深い。
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安定の直感的方法シリーズ。全体を俯瞰して過去の経緯から追ってくれるのですごく分かりやすくて面白い
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文系挫折経済学科出身修士にはベストな難易度。
語り口が面白いし、ストーリーテリングに全振りしたが故に枝葉は捨てていることもちゃんと書かれている。 -
面白かった。頭でイメージを描きながら読むといいかもしれない。以下、要約。
❶初級編
①確率統計論が本格的に進化したのが19世紀である。ガウスの貢献が大きい。ニュートン力学が17世紀に始まったことを考えると発展は遅れている。
②ガウスの思考を辿ることが確率統計論を本質的に理解するのに必要と考える。ガウスは確率論を真正面から考えていたのではなく『誤差』を基準に考えていた。そして、この誤差を考えて導き出したのが『正規分布曲線』である。
③誤差というものは2つに分類できる。1つは『一定方向に出る誤差』、もうひとつは『+方向と-方向に同じだけ出る誤差』である。前者は逆方向に修正かければ良いので問題にならない。ガウスが扱ったのはランダムに動く後者である。
これを株価の考えに落とし込むと、前者が『トレンド』といわれるものである。後者が『ボラティリティ』である。
そして、ブラックショールズは『ボラティリティ』を中心に扱うオプション価格の算式であり、ボラティリティが時間と共に拡大することを利用して利益を上げることを考えるのである。
④標準偏差を考えるにあたり重要なのが2つ。1つは平均がどこか、もう1つがバラツキ具合(平均からの距離)である。
⑤正規分布において、σは中心線から変曲点までの長さで表現する。
⑥e*-x^2が正規分布を表す基本形であり、釣鐘型の曲線となる。
❷中級編
①確率論を学ぶのに重要な概念は3つ。1つめは最小2乗法、2つめは中心極限定理、3つめは確率過程とランダムウォークである。
②最小2乗法とは、得られたデータが誤差でばらついて本当の値がわからない時、その真の値を割り出して、誤差を最小にするための手法である。
ざっくりいうと、中心がどこにあるのか測るために使う。
ばらつきが正規分布に基づくのであればその中心(平均)からの距離の2乗は最小になる。2乗する理由は精度が上がるからである。感覚的にも、中心に近いデータは数が多いが誤差が小さくなる一方、中心から遠いデータは数が少なく誤差が大きい。そのため、中心からの差を2乗することでデータのばらつきを測る精度を上げるのである。
③様々な確率分布はたくさん集めて重ね合わせると、結局、正規分布に行きつく。ポアソン分布、ベキ分布、二項分布などは正規分布をベースに特殊化を行ったり、バイアスをかけた形で成り立っている。もっとも、二項分布は正規分布とはニワトリと卵のような関係で、試行回数が少ないと二項分布になるし、試行回数を無限回に近づけると正規分布になるからである。
④経済予測する立場としては中心極限定理は極めて有用である。マーケットなどは多種多様な要因が重なり合って数字が形成されていくが、この定理に基づけば様々な確率分布は結局、正規分布に集約していくと考えることができる。
例えると、様々な光が集約すると、白色になるように全てを合成すると正規分布になり、人間が扱いやすいものになるのである。
⑤金融市場では正規分布に基づくモデルは古く使い物にならないという話もよく聞く。ただ、プログラム売買の弱みは、なまじマーケットにフィットするプログラムを使っていると、皆が同じものを使い始めて結局一方向にマーケットが振れやすくなってしまうのである。他者を出し抜こうという動きが出れば出るほど、この呪縛からは逃れることができない。
あらゆる分布の始祖は正規分布であり、様々なプログラムを作っても、数多く集めれば結局は正規分布から外れることはないのである。
⑥時間的な拡散の幅は√t倍で拡散していく。これは2次元でも3次元でも同じである。標準偏差がσの確率分布をn個集めてそれらを足し合わせるとそれらを合計した確率分布は√n・σとなる。
この時間の平方根と標準偏差σを掛け合わせたものが確率過程を考える上でポイントとなる。
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⑦オプションを考えるにあたって時間的価値は非常に重要な概念だが、それは確率過程を考えるにあたって利益は時間tに比例する形で拡大すると考えているからである。
⑧経済全体を『トレンド』と『ボラティリティ』に基づいて考えてみる。例えば、名目成長3%程度の経済成長を世界経済は『トレンド』として想定している。これは指数関数的な動きを想定しているので、物質的な動きが連動するとは現実的には考えにくい。そのギャップをインフレという形が埋めるしかない。そもそも、現代金融が金利の計算を複利計算を前提としており、経済全体の前提を指数関数的に捉えざるを得ない状況になっている。
『ボラティリティ』で大きな役割を果たすのが金融だろう。特に、リーマンショック以降は先進国は量的緩和を行い、資産高にすることで資産効果が成長率底上げにつながった部分はあると思われる。
❸上級編
①確率微分方程式の中核をなす理論は伊藤のレンマである。
②今までやってきたことはdx=Adt+Bdwで表すことができる。つまり、Adtは『トレンド』にあたる部分、Bdwは『ボラティリティ』にあたる部分である。
ここで欲しい答えはxという独立変数があって、その影響で動くy、つまりy=F(x)があって、これが時間tの影響でどう動くかが知りたいのである。つまり
dy=○dtのようなものが欲しい。
③天体力学を扱う視点からは上記のAdtの部分の答えが欲しいのである。Bdwはノイズであり、何とかこれを除きたい。それを可能にしたのが伊藤のレンマである。
④これを解くのに必要なツールが『テーラー展開』である。いわゆる、近似値をとるためにF(x)を微分していくものである。例えばdx=0.1の場合、dx^2=0.01、dx^3=0.001であり、使うのは最初の2つか3つであり、あとは無視できるのである。
上記のAdtの『トレンド』だけ抽出するツールとしてはうってつけである。
⑤ケインズ経済学では最も役に立つツールが等比級数の和とテーラー展開の2つといわれている。
⑥テイラー展開をしていく中で極小の値は切り捨て、拡散半径が時間的にどれだけ拡大するかの式、dw=√dtを使って書き換えを行うことにより、dtとdwに分かれた式の抽出を行うことができる。
Bdwは『ボラティリティ』を表す式で、この中には+と-が混在しているはずである。そこでBtw^2の2乗というものがポイントになり、絶対値として評価すると正規分布を表す式として活用できるのである。
⑦この伊藤のレンマはx→y→zのように多段式になっている場合も活用できる。通常は先に進むと式が汚くなって前進不能になるが、伊藤のレンマで単純化することにより、前に進めるようになるのである。
⑧最終的なブラックショールズの式に至るのに、重要なツールとしてフーリエ級数というものがある。これは、いろいろな三角関数の動きを使って目的となる関数を描こうとする試みである。
❹測度とルベーグ積分
①経済などは本質的にはデジタル(=買う、買わないの2択)などで表現されるものであり、いわば不連続なものである。
この不連続なデジタルをアナログに変換するためのツールが測度とルベーグ積分である。