つながる脳科学 「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線 (ブルーバックス)

制作 : 理化学研究所 脳科学総合研究センター 
  • 講談社
3.59
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感想 : 51
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  • Amazon.co.jp ・本 (324ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062579940

作品紹介・あらすじ

頭の中にある“人類最大の謎”に挑む

ものごとを考え、記憶し、日々の出来事に感情を揺さぶられる……
謎めいていた脳のはたらきが、明らかになりつつある。
グリア細胞とニューロン、進化と可塑性、場所細胞と空間記憶、情動と消去学習、海馬と扁桃体とエングラムセオリー――
頭の中には、さまざまな「つながり」があった!?
9つの最新研究から、心を生み出す脳に迫る!


―――――
第1章 記憶をつなげる脳  
理化学研究所脳科学総合研究センター センター長 利根川進

第2章 脳と時空間のつながり 
システム神経生理学研究チーム チームリーダー 藤澤茂義

第3章 ニューロンをつなぐ情報伝達
シナプス可塑性・回路制御研究チーム チームリーダー 合田裕紀子

第4章 外界とつながる脳
知覚神経回路機構研究チーム チームリーダー 風間北斗

第5章 数理モデルでつなげる脳の仕組み
神経適応理論研究チーム チームリーダー 豊泉太郎

第6章 脳と感情をつなげる神経回路
記憶神経回路研究チーム チームリーダー Joshua Johansen

第7章 脳研究をつなげる最新技術
細胞機能探索技術開発チーム チームリーダー 宮脇敦史

第8章 脳の病の治療につなげる
精神疾患動態研究チーム チームリーダー 加藤忠史

第9章 親子のつながりをつくる脳
親和性社会行動研究チーム チームリーダー 黒田公美

感想・レビュー・書評

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  • 「つながる」をキーワードに、九つの視点から脳の仕組みを知ったり考えたりする本です。難しいところはありますが、おもしろいです。エキサイティング。ディープラーニングがニューロンネットワークを元にした、脳をモチーフにしてそこから発展した仕組みであることも述べられています。でも、作っておきながらディープラーングがどうしてこれほど上手くいくのかという仕組みはよくわかってないそう。

    さて、シナプスやニューロンが情報を扱う仕組みからはじまり、空間や時間の認識がどう行われているか、嗅覚のメカニズムはどうなっているのかなどを、どのような仕組みの実験を用いてそれらを解き明かしていったか、その創意工夫の面から始めて述べられていくものが多いです。なかには理論先行の研究分野もあり、その分野での手法や姿勢も語られています。

    では、ざっとですが、二点ほどとくに惹きつけられた部分について、読みながら考えたことを書いていきます。まず一つ目は恐怖記憶です。怖い体験をしたのち、それと同じシチュエーションに出くわすと、脈拍が上がったり身体が強張ったりしてしまうものですが、その源の記憶です。

    恐怖記憶は扁桃体でつくられ、それを消去する作用を持つ消去記憶は前頭前皮質(前頭葉の前部分の領域)で作られる。しかし、消去記憶が作成されたからと言って恐怖記憶は無くならないのだけれど、消去記憶がそれをカバーしてくれる役割であるらしいのでした。恐怖記憶は不安障害やうつにつながる恐れがあるものだということです。そういう面でも、前頭前皮質が大事だなというところへと、読みながらの考えは繋がっていきます。

    前頭葉は、理性、認知、意欲などの分野を受け持ちます。認知力が弱まっているだとか理性的にふるまわず感情的になりやすくなっているだとか、そういうのは前頭葉の衰えなんだと考えられるところです。で、前頭葉が弱まると消去記憶も弱まるのではないかという推測が出てくる。前頭葉が弱くなると、恐怖記憶の効力ばかりになってしまうのではないでしょうか。

    恐怖記憶の効力ばかりになってしまえば、不安障害やうつになりやすくなるかもしれない。となれば、たとえば強迫症が酷くなるのも、前頭葉の衰えが理由のケースがあるんじゃないかなあと思うのです。強迫症で暴力が生じるなんていうのは、まるっきり前頭葉の衰えっていう感じがしてきます、あくまで素人の推論ですが。

    そうなると、前頭葉を活性化させるために、読書をして読解力をつける、っていう手段が思いつきます。読書が、恐怖記憶と対抗するひとつの防具になるんじゃないだろうか。あと、不安定じゃない環境も大事だと経験的に思いはします。

    次に強く惹かれたのは、脳の病の治療についての章です。これは精神疾患や神経疾患の章なのですが、それらの疾患は脳の器質的な病気だと捉えることができるという大意のもとで話が進んでいきます。今の技術では器質的な病的変化がわからない精神病も含めてです。そして、技術的に変化部分がわからない自閉症などは遺伝子異常をみていく、とあります。

    この考えはまさに「医学」の考えだろうと思うのですが、前提として現在の社会の仕組みをゆるぎない「是」としていて、無批判にそこから立ち上った考え方でもあるしょう。でも別の視座として、社会の在り方や仕組みが病気を生んでいる、すなわち社会病とでも表現するようなものが精神疾患であるとする考え方もあるわけです。

    もしかすると社会の在り方が精神疾患を生んでいるのではないか、という疑いから生まれる見方は「疫学」的見方でしょう。社会を主体として精神疾患を見てそれを直すのが「医学」で、人間を主体として精神疾患を生まないように考えて社会に働きかけていくのが「疫学」ではないでしょうか。

    社会は揺るぎない「是」であるとして、その社会の影響で変化した脳の部位を直されて社会に適合する形にされるだとか、遺伝子すらその社会に適合する形に直される、だとか、社会に合うように人間を矯正する「医学」って、ちょっと怖く感じられるものがあります。

    研究段階においては懸念材料として認識されはするのだろうけれど、倫理的議論は後回しにされがちなんだと思います。まずはそれでいいと僕は考える方なのだけれど、だからこそ、ある程度まとまった形の研究が本書のようにアウトリーチ活動として出てきたときに、受け止めた一般人があげた声がフィードバックになるのはありなのではないでしょうか。

    と、考えていたら、本書の末尾にこうありました。引用します。

    __________

    脳と行動の関係については、その轍(対策が後手に回ること)を踏まないよう、今のうちから議論を開始したほうがよいと思っています。科学の進歩によって、私たちの心と行動を作る脳のメカニズムが明らかになることはとても素晴らしいですし、エキサイティングなことです。だからこそ、脳科学の発展を社会にとって有意義なものとして生かしていくためには、さまざまな分野、立場の人々の対話が必要です。今こそ、脳科学と社会との密接なつながりと、広い視野が必要になってきているのです。(p313)

    __________

    まったくそうですね。

  • ブルーバックス「つながる脳科学」を読みました。

    一般向けに書かれている書籍ですが、かなり専門的な言葉も使われていて、難しいと感じる部分もあったのですが、脳科学の広い分野について、実際に研究をされている方たちから見た研究の話は、とても興味深いものでした。

    分野や方向性の違う研究の話を「つながる」というキーワードでまとめて1冊にしていて、9章分、それぞれ違う研究者の話。トータルとしての脳科学、ということではなく、脳科学のいろいろな研究話の詰め合わせ的な本でした。こういう、広い範囲のいろいろな詰め合わせ的な書籍も面白い。

    ニューロンの反応や、それを観察するための技術についての話や、空間・記憶・嗅覚・感情・子育てなど、どの部位でどんなことが起こっているのかという話や、脳の病気・心の病気の治療法を探す道筋についての話など。

    なんとなく表面から見た「脳の研究」で思い浮かべることができるレベルから、ふか〜〜〜い技術的なレベルまで、どの話も驚きの連続でした。

    2016年に出版された本とのこと。
    それからまた何年も経っているので、さらに進んでいる研究もあるのでしょう。

    また新しい本を探して読んでみようと思いました。


    どれも興味深い話だったのですが、いちばん興味深かったのは、精神疾患の研究の話。精神疾患に関しては、「メカニズムがわかったから創薬に繋げる」ではなく、「この薬が効くってことは、こういうメカニズムなのではないか?」というふうに研究が進んでいるのだと書かれていたこと。科学が進んでいる現代だけれど、本当に脳という機関は、まだわからない部分が多いのだな、ということがよくわかりました。


    メモ:章立てと著者
    第1章:記憶をつなげる脳/利根川進
    第2章:脳と時空間のつながり/藤澤茂義
    第3章:ニューロンをつなぐ情報伝達:合田裕紀子
    第4章:外界とつながる脳/風間北斗
    第5章:数理モデルでつなげる脳の仕組み/豊泉太郎
    第6章:脳と感情をつなげる神経回路/Joshua Johansen
    第7章:脳研究をつなげる最新技術/宮脇敦史
    第8章:脳の病の治療につなげる/加藤忠史
    第9章:親子のつながりを作る脳/黒田公美

  • 理化学研究所脳科学総合研究センターの研究者による最新の脳科学研究を分かりやすく解説したもの。
    難解な内容ではあるが、分かりやすく記載されており、読みやすい。

  • 本書は、理化学研究所脳科学総合研究センターの利根川進センター長をはじめとする、メンバー9名による共著。
    同センターは脳科学に関する学際的な研究の必要性の高まりを受けて1997年に設立され、本書は、センター設立20周年を機に、現在までの脳研究でどこまでのことが分かり、或いはまだ分かっていないことについて、「つながり」をキーワードに明らかにしたものである。
    1. 記憶と脳のつながり~記憶はどのように作られ、どのように脳に蓄えられ、どのように思い出されるかのメカニズムが、今や明らかになりつつある。
    2. 時間と空間のつながり~脳の中には、時計や地図のような役割を果たす神経細胞(ニューロン)があり、それによって時間と空間を認識している。
    3. ニューロンのつながり~脳には1000億のニューロンがあり、かつそれぞれのニューロンには数万のシナプス結合がある。そうした天文学的な数のシナプス結合により、情報がやり取りされている。
    4. 外界とのつながり~我々は五感(視角、聴覚、臭覚、味覚、触覚)を使ってどのように外界を認識しているのか。知覚が生み出される脳のメカニズムは、未だによくわかっていない。
    5. 理論と脳のつながり~脳の研究は、実験だけではなく、数理モデルなどの理論によっても行われている。脳の学習メカニズムは、AIのディープラーニングとは異なり、生命の進化と似たものなのではないか。
    6. 感情と記憶のつながり~不快な出来事がどのように記憶され、その不快な記憶が脳の中でどのように抑えられているのかを解明することにより、感情がどのように記憶されるのかの研究が進められている。
    7. 最新技術と脳研究のつながり~脳の構造と機能の解明のために、新しい測定法やイメージング技術の開発が進んでいる。
    8. 脳の病と治療のつながり~「心の病」と言われるうつ病や、認知症などの脳疾患は、現在の薬による治療では根治しないが、脳の仕組みを解明することで、その克服に一歩ずつ近づいている。
    9. 親子のつながり~子育てや愛着は本能的欲求に基づく行動ではあるが、脳のどのような機能が関わっているのかを解明することによって、親子関係の問題の解決につなげることができる。
    脳科学は、現代科学の中でも最も幅広い領域につながる究極のテーマと言えようが、それぞれの分野の専門家が最前線での取り組みを分かり易く語っており、脳科学の面白さを改めて感じることができる一冊である。
    (2016年11月了)

  • この当時でオプトジェネティクスについて記載しているものはなかったのではないか。
    実際活用していた身としてはうれしかった。

  • 基礎ではなく。色々な研究成果の詰め合わせ。

  • 最新の脳科学の状況が、ある程度理解できたと思う。
    このまま脳科学が進んで行った先にある、倫理的問題についても今から議論しておく事が大事だと思う。
    不妊治療のように、技術が先に進んでしまって、倫理規制が後追いになるようでは困る。
    それにしても、輸送反応は使えるかもしれない。

  • 所謂「頭が良い、悪い」はニューロン発火とシナプス強度次第という事になる。これが客観性を持って解明できるようになれば入学試験は不要になる。脳検査のデータのみで十分だろう。が、「頭のよくなる薬(または手術)」というのが開発されるのかもしれない。また「心の病」に関しては薬や外的刺激によって改善が見込めるようになっている。問題は犯罪者で脳異常として治療してしまえばいいのか?実際に性犯罪には効果があるようで複数の国で実施しているようだ。ピンポイントで各種欲望を抑制できるようになれば、かなり有効かもしれない。愛情の有無も脳の問題なら、両親の虐待脳の事前検査で出産を認めないという事も可能になる。または出産後に両親に愛情を植えつけるとか。いろんな可能性があってとても興味深い。
    その他、性格や感情を脳の操作でコントロールする事が射程距離に入っているのなら、法整備が急務になってくるだろう。操作されたくない人もいるだろし、性格を変えたいなら操作して欲しい人もいるだろう。心の問題がすべて脳科学で解明できてしまったら、世界は大きく変わるだろう。
    難点だが、脳のしくみだけの内容なので、脳は遺伝で決まるのか?環境や脳トレによって変化・向上するのか?また、加齢による劣化や維持・向上は可能なのか?という点が疑問として残った。

  • 脳について様々なことが明らかになっていて驚く。脳の本は何年も読んでなかったので、革新的な研究手法と緻密な研究成果には驚かされるし、この方面の研究の面白さも強く感じる。

    〇〇が分かりました、と同等以上の重さで、どのような方法により何を調べ、なぜその知見に至ったか、が書かれており、科学の本としてとてもまっとうな作り。

    それでも脳という未知の領域にちょっと踏み込んだぐらいのことしか明らかにされていないのだが、明らかになったことを応用することで世界がよりよくなりそうな希望も見える。

    心は脳の機能であるのは間違いないが、脳を解明することで心がこんなにも明らかになるのか、というのは今更ながら感じ入った。もちろん脳の全ても心の全ても人が理解することは不可能ではあろうけれど。

    ☆一つ減ったのは、科学の入門書に慣れてないと読みにくいかもしれないということと、電子書籍版が出るということを知らずに紙の本を買ってしまったことのため。

  • 複数の専門家によって書かれた脳科学の最先端を説明した本.漠然としか知らなかった内容を素人にもわかりやすく書いてある.広い範囲にわたるので,全部理解するのはたいへんだが,じっくり読むと示唆に富んだ事実が伝わってくる.
    AIの研究者としても興味深い内容であった.

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