- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062582223
作品紹介・あらすじ
世界はひとつのシステムである。「ヘゲモニー」「周辺」「反システム運動」といったキーワードを用いて、近代の仕組みと成り立ちを明かすウォーラーステイン。資本主義とは何か、人種とは何か、学問とは何か-。彼の思想を基礎から平易に解説し、その可能性を読み尽くす格好の入門書。
感想・レビュー・書評
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現在起きている危機は何なのか、ということを長期の歴史的なパースペクティブのなかで考えたいと思い、まずブローデルの入門書を読み、ついでウォーラーステインの入門書を読んでみる。
ウォーラーステインの"modern world system"は、興味を持ったときには、翻訳は一巻目しかでていなかったので、原書で読もうと思い、3冊目まで原書でもっている。
が、パラパラ眺める以上に読んでいない。最近、調べてみれば、全部、翻訳されているではないか。
今、まさに読みたいと思うものの、今さら翻訳書を買うのも悔しいので、原書をあきらめて、入門書ですますことにして、手に取ってみたという次第。
基本的には、すごく分かりやすい。特に、最初の「人と思想」の紹介が実に分かりやすいというか、パーソナルな感じが出ていて、読んでて楽しい。ここがまず、この本の魅力だろう。
あと、面白いところは、ウォーラーステインを多面的に、かつ批判的に、その理論の射程を試すパーツ。ここは、単なる入門書を超えつつ、多面的な理解に導いてくれる。
一方、このパーツが半分くらいを占めているのは入門書としてはどうかなとも思う。もうすこし、ウォーラーステインを丁寧に紹介したうえで、最後の方で、その後の展開みたいな感じででてきても良かったのかなと思った。
著者達の思いは、この本を読んで、ウォーラーステインを実際に読者が読む事なんだろうけど、こういう評論的なものを読んでしまうと、なんか分かってしまって、「乗り越えちゃった」気になるんだよなー。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
アマゾンのレビューだと、ウォーラーステインの著書の主翻訳者である川北稔さんの書かれた部分に読む価値があると。
「銃・鉄・病原菌」では15世紀から、「10万年の世界経済史」では18世紀から、現代の世界が出来上がったと書かれていた。
ウォーラーステインへの言及がどの程度あったか忘れてしまったのでもう一度読み返そうと思うが、概ね、15世紀からの「世界経済システム」が、ヘゲモニー・半周辺・周辺という分業システムに地域を飲み込んでいく過程が、現代の世界らしい。
ウォーラーステインも、「史的システムとしての資本主義」では、松岡正剛さんにバッサリ斬られているように、「経済原理主義」的だったようだ。
http://1000ya.isis.ne.jp/1364.html
が、その後、ムガール帝国を擁したインドが、ヨーロッパ的世界としての資本主義システムに組み込まれず、その崩壊以後に組み込まれたことは、逆にインドや東アジアにあった経済システムにヨーロッパが組み込まれたのではないか、というA・G・フランクやM・N・ピアソンの指摘や、南アフリカのアパルトヘイト問題が現実的に解決していく過程で、文化的な問題も組み込んで、近代世界システム論をバージョンアップさせたようだ。
「近代世界システム」論では、「近代世界システム」を、これまで世界に存在した種々の世界システムの一つと捉えている。
「世界システム」は、中心を持つシステム、つまり「帝国」と、中心を持たないシステム、つまり「近代世界システム」とに別れる。
「近代世界システム」は16世紀ごろに確立したが、それ以前にも、それ以後も、この中心を持たないシステムを「帝国」化しようという試みがなされ、尽く失敗した。その理由は、「コストがかかりすぎた」からだ、という。
「近代世界システム」は、世界が大規模な分業体制に組み込まれ、その分業体制は、資源や農業、材料などのコモディティを供給する低賃金の「周辺」と、製造業などを担う「半周辺」、そして生産・流通・金融の全てにおいて優位を保っている「ヘゲモニー」とで成り立っている、と分析する。
「ヘゲモニー」国家の優位は生産・流通・金融の順に確立し、その順に崩壊する。
経済は16世紀から、上昇局面(A局面)と下降局面(B局面)を循環しており(コンドラチェフ波動)、ヘゲモニー国家はこれまで、オランダ・イギリス・アメリカと変わってきたが、アメリカがヘゲモニー国家としての衰退局面にあるのが現在だ、という。
気になったのは、先ほど松岡正剛さんの書評として取り上げられた「史的システムとしての資本主義」が本書でも解説されているが、ヘゲモニー国家が生まれず、「近代世界システム」が崩壊し死滅する、という事態になった場合、
「近代世界システムが死滅したあと、地球は、全体として、ローマ教皇の漠然とした権威がヨーロッパを覆っていた15世紀の状況にもどるはずで、いわば『新たな封建社会』の到来が見られるだろうというのである」(p.221)
これだけでも気の重くなる結論だけれど、もし「近代世界システム」が生き残った場合でも、
「もし、世界システムが生き残るとすれば、世界人口の五分の一にしかならない中核諸国の国民のあいだでだけは平等が貫かれながら、残りの八割の人間は抑圧されつづけることになる。いわば『民主ファシズム』とでもいうべき状況である。『民主ファシズム』というのは、一見、民主主義的な様相を示しながら、実際には極めて抑圧的ともいえる現代の世界システムの基本性格が維持されるということである」
ということらしい。
ここは、「民主主義のあとに残るものは」で、インドの「名ばかり民主主義」を描いたエッセイが思い浮かんだ。
しかし、ウォーラーステインは1968年を重要視したり、ネオマルクス主義に引用されたり(「ヘゲモニー」とか、ウォーラーステインじゃないけれど「パラダイム」とか、そういう言葉が極左の人たちの機関紙に踊っていたなぁ)、一定すでに世界的に受け入れられているがゆえに、逆説的にそういう「組織」とか「思想」に組み入れられている部分が当たり前だけれどあって、下手にモノ言いにくいなぁ、とは思った。
ウォーラーステインの著書そのものは分厚くて長そうなのと、この本自体2001年刊行なので、最近の解説書や研究書で薄めのものをあたってみようと思った。 -
◆世界史における一国中心史観と西欧中心史観を超克し、多面的な関係性と、多様な連関事項を踏まえたウォーラーステイン「世界システム論」の紹介本。世界史史観に関するパラダイム・チェンジの凄みの一端を垣間見れる◆
2001年刊行。
60年代後半から90年代にかけ、徐々に思索を温め、革新的国家関係論・世界史史観を展開したウォーラーステイン。
それは、一国史観を超え、500年以上にわたる近代資本主義を諸地域の連関性から捉えんとした「世界システム論」であるが、西欧中心史観の超克を意図した「世界システム論」は、高度成長と経済大国化した80年代日本に些か歪な形で、本旨を掴まえ損ねたまま流入した。
もっとも、本書刊行時には、「世界システム論」の本旨の誤読も相当修正され、それが齎す、社会科学・人文科学の各領域への巨大なインパクトを反映し、その分析解読、あるいは批判、さらに個別事象への適否如何の議論も進んでいる。
本書は、そのウォーラーステインの理論形成に影響を与えた先人研究、自身の研究内容、理論形成の歩みや人物像を平明に開陳するとともに、幾つかのキーワードの解説、さらにオランダ・ヘゲモニー論、レーニン的帝国主義論の超克の模様、交易史論やアパルトヘイト等の個別問題への「世界システム論」の導入を見ることで、「世界システム論」の概括的理解を進めんと試みる書である。
そして著者は、ウォーラーステインの愛弟子、あるいはウォーラーステインの主著の邦訳者らであることから、理論的な側面のみならず、ウォーラーステインの為人への言及や回顧譚も叙述されている。
さて、本書において第一に印象的なのは、近代史あるいは近代国家関係史における個別問題への影響を看取できる点だ。
本書の著者の一人である川北氏著書「砂糖の世界史」の如く、影響丸判りの書も存在する。さらには、砂糖以外の一次産物や、貴金属を基軸とした世界関係史など、これまで数多く刊行され、個人的にもそのうちの幾つかは読破してきた著作に対して、この「世界システム論」の影響をまざまざと感じさせる。
実際、本書の中にも、批判的部分も含まれるとはいえ、個別具体的な交易・外交関係史に筆が及んだ論考もある。
その上で、このシステム論が、➀社会学、➁マルクスの著作・理論、➂アナール学派の強い影響下と批判的な継承という面があったことも見逃せない。
殊に➂だ。実証性と非政治性という観点の継受と、非近代における世界帝国論によるアナール学派の超克という点が印象的である。
さらに言えば、ウォーラーステイン個人史、あるいは彼の思索の画期として、1968年の革命的世界動乱と1989年冷戦終結とがあるとの指摘は印象深い。
後者は兎も角、前者がそれほど影響していたとは…。
もとより、魅力的な発想。ダイナミックな指摘を見て、ウォーラーステイン「世界システム論」に感じ入る部分が多かったことは間違いない。それは個々具体的な批判部分の存在とは全く別である。
紹介本なのに撃たれたなぁと感じる上、いずれははやり、長大な主著「近代世界システム」に手を出すべきなんだろうなぁと感じた読後感であった。
◆著者川北稔(大阪大学大学院文学研究科教授/イギリス史・世界システム論)の担当は、
➀ キーワード解説で、ヘゲモニー概論、帝国と世界経済、中核と周辺の他、
➁ プロローグ
➂ エピローグ。
同山下範久(北海道大学大学院文学研究科助教授/歴史社会学・世界システム論)は、
➀ ウォーラーステインの生い立ちと思想
➁ キーワード解説で、反システム運動と長期波動
➂ 世界システム論の現代日本における受容
を担当した。
同玉木俊明(京都産業大学経済学部助教授/西洋経済史)は、オランダ・ヘゲモニー論を。
同平田雅博(青山学院大学文学部教授/英国近代史)は、帝国主義を。
同堀内隆行(京都大学大学院文学科博士後期課程)は、南アのアパルトヘイト論を。
同脇村孝平(大阪市立大学大学院経済学研究科教授/近代インド社会経済史)は、近代インド洋世界交易論
をそれぞれ担当した。
なお、ウォーラーステインの著作レビューとして、川北の他、
坂本優一郎(京都大学人文科学研究所助手/英国経済史)、
宮崎章(大阪大学大学院文学研究科博士後期課程)
が担当している。 -
「近代世界システム」「帝国」「世界=経済」「ヘゲモニー国家」「中核-周辺-半周辺」などの概念で近代世界史を分析したウォーラーステインを解説した本。読書会で『史的システムとしての資本主義』や『近代世界システム』を取り上げるというので、ウォーラーステインの翻訳者でもあり米コロンビア大学でのゼミにも出ていたという著者を中心としたこの解説書を読んでみた。2001年刊行の本であるため、日本に対する期待、特にアメリカ後のヘゲモニーの移行における日本の役割への過剰な評価が見られる。
ということで、「知的であることと政治的であることは不可分である」というウォーラーステインには現在の国際社会の行く末について語ってほしいところだと思うくらいにはなった。それから、彼のような重要な著作は早くkindle化をしてほしいものだ。
関係のない話になるが、筆頭著者の川北氏を始めとして、共同執筆者が軒並み博士課程中退や満期退学、単位取得退学、なのが、文学部の博士課程の状況を象徴しているようでどうなのかと思う。 -
(概略を掴むために読んだのだけど、自分にはあまり合わなかったので、ご本人が書いたものの訳本を直接読み始めた。そのほうがましではあったのだけれど、他に読みたい本が山積みなので、ちょっと後回し。)
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世界システム論の入門書ということで読んでみた。原典を読んだことは無いものの、恐らくは可也分かりやすく咀嚼して書かれているのだろうなという感じはする。
一国史観の限界、世界経済を一つのシステムとして見る考え方、中心・周辺の関係というコンセプト自体は何となく分かったが、あくまで「ウォーラーステインについての入門書」であり、世界システム論についてもうちょっと最新の研究を見てみたい。 -
構造主義に関する本の中で一番読みやすく、お気に入りの一冊。
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ウォーラーステインの「世界システム論」の概説書。たぶん日本語ででているものでは一番わかりやすいのではと思った。
内容は、ウォーラーステインの生い立ち、世界システム論のキーワードの解説、世界システム論を、イギリス、オランダなどの例への応用、ウォーラーステインの代表的な著作の紹介となっている。
世界システム論特有の言葉が多いので、まずはこの本から入ることがよいのではないかと思う。 -
(2012年4月23日読了 2016年8月30日再読)
一国史観の限界、という言葉は多くの段階であてはまる。全ての国や地域が「先進国」になることはできないし、多くの人々が「飽食」を追求すると他方で食糧難が発生する。A国の開発はB国の環境破壊に結びつく可能性がある。こうした諸問題を解決する「世界システム論」は万能となるか。著者は冷静にそれを否定する。世界システムという巨大な構造物が機能しなくなり、EUのような広域圏が意味を為すという。
馴染まないかと思うが、勝手に高等教育にあてはめてみる。
○まず全ての大学が先端研究や高度専門職に就ける素質のある高質の学生を収容することはできない。特定の大学に資源を注入すると、その他の福祉を削ることになる。
○高等教育全体が「世界システム」といえるまで統合しているとはいえないが、学位の定義は共通化の試みが各所である。エラスムス・ムンドゥスやキャンパスアジアといった域内交流が進捗している。 -
解り易い。