偽書の精神史 (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062582421

作品紹介・あらすじ

天狗・魔王が跳梁し、神仏の声響く"魔仏一如"の世界=中世。膨大な偽書はなぜ書かれたのか。新仏教を生みだした精神風土はなにか。混沌と豊穣の世界に分け入り、多彩な思想を生みだす力の根源に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 偽書の成立、受容を通して、中世という「信仰の時代」を切り取る。

    あれも偽書、これも偽書と明かされると、合理的な現代人は、信仰を軽蔑する。しかし、偽書の成立には、本源的な存在への信仰と一体感があったことを見失ってはなるまい。また、偽書成立と鎌倉新仏教、本覚思想、中世神話創造とは共通の精神的な基盤があったことも指摘している。

    世俗化が始まった近世から、浄化されきった現代がいかに「信仰の時代」「実感の時代」から隔たっているかも最後に触れている。

    ・女性は地獄の使い論は平安時代に偽作された
    ・織田信長は第六天の魔王を自称した
    ・無作三身は本覚思想の真髄
    ・法然・日蓮と伝統仏教の相承観の根本的相違

  • 2006年09月04日に読み終えています。
    ときどき、書棚から取り出しては、
    ぱらぱらと見ています。
    文句なしの名著です。

    34ページの誤り(3刷段階)【四】天王寺区
    は、修正されているでしょうか。
    (2015年02月28日)

  • 「聖徳太子未来記」をはじめとする数多くの偽書が作られたメカニズムの考察を通じて、中世のコスモロジーに迫った本。

    古代国家の解体によって保護の下から投げ出された官寺・官社は、それまでの貴族層だけでなく庶民層をも信仰世界に取り込むことを余儀なくされた。気まぐれな古代の祟り神ではなく、遠い世界にある仏が衆生を救うために垂迹し、祈りに応えて利益を施し、死後には浄土へと送り届けてくれる存在が必要とされるようになった。こうして、国家が神仏との通路を独占していた時代が終わり、国家による託宣の管理と解釈の統制は不可能となった。そうして、人は誰でも一定の作法を踏むことによって宗教世界との交流を果たしうるという考えが、広く受け入れられるようになった。これが、中世という時代に偽書が生まれる背景となったと著者は主張する。

    さらに著者は、日蓮や親鸞といった鎌倉新仏教の提唱者たちが、数多くの仏典を渉猟しつつも、そこにしばしば強引な解釈を施していたことに触れ、そこにあった精神史的背景は、本覚思想や神道理論を生み出したものと同じではなかったかと述べる。伝統仏教を乗り越え、この世界を成り立たせている根源的存在への探求は、彼岸と此土とを仲立ちし、一般の人間が知りえない未来の出来事や物事の深い意味を察知して私たちに伝達する存在として、神や仏像、そして聖徳太子に代表される聖人たちへの信仰を生み出した。他方、こうした情熱がよりラディカルな仕方で燃え上がり、直接神仏との接触を志向するとき、念仏や唱題、座禅といった特定の一行を選び取り、他のいっさいの神仏と教行を否定する新仏教への道が開かれたとしている。

  • 偽書とはインチキな本のことではない。むしろ神官・僧侶以外にも篤い宗教心が拡大する中で、「人はだれでも一定の作法を踏むことによって冥界と交流でき」るという「この観念こそが、中世の偽書を生み出す根源だった」偽書を偽物として退けるだけでは、それを生み出すに至った社会的状況、あるいは欲望について何一つ理解は進まない。偽書を通じて浮かび上がる歴史が確としてあることを実感できる。

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著者プロフィール

東北大学大学院教授

「2009年 『日本文化論キーワード』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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